120 わたくしのダンスのお相手は(2)
「賑やかだな」
そこへやってきたのはバルドだった。
刈り入れが始まってから、どうやら粉屋の息子としてかなり忙しいようで、まともに顔を見るのも久々だった。
今も、手に大きな籠を持っている。
「兄ちゃん!」
「バルドの兄ちゃん、その籠何ー!?」
相変わらずの人気者。
何人かいる若者の中でも、一際目立っているのがバルドだった。子供たちのリーダーとして、村の中を走り回っていることも多い。
「これは、リーフ対策の道具。そろそろ来ると思うんだ。あいつらニンジン好きなんだよ」
「あたしもニンジンすきー!」
「ソフテは偉いよ」
言いながらバルドは、ドサッとアセリアの隣に座り込んだ。
籠の中でカラカラと音を立てていた棒を取り出す。
「棒で立てて、中に餌を入れておくんだ。そうすると、棒が倒れた時に捕まえられる」
「おー」
「すごーい」
「そろそろみんなでリーフ鍋食べたいよなぁ」
「食べたーい」
「そんなもので捕まえられるんですのね」
アセリアが感心しながら言うと、バルドは「ふっ」とおかしそうに笑う。
「これがさ、倒れてても中に入ってないことも多いんだ。けどまぁ、銃使わずに捕まえられたら安上がりだからね」
確かに、弾もそう安いものではありませんものね。大切な肉料理ではあるのでしょうけど。
アセリアは、そんなことを考えながら、子供たちの世話をバルドに受け渡すつもりで立ち上がった。
「それでは、わたくしは畑に戻りますわ」
「あ、」
バルドが慌てて立ち上がる。
「俺も戻るよ」
「あら、そうですの」
この村の習慣は、王都とは違う。
男女が共に歩くだけで問題になる場所ではないことは、アセリアももう気付いていた。
だからといって。
だからといって、隣を歩いて気分のいいものではなかった。
「アセリアちゃんはさ、」
それは突然だった。
村外れに緩やかな夏の風が吹いて、畑が見えてきたところだった。
「なんですの?」
「ダンスはもう、相手居るの?」
ふっと、気が遠くなる。
そう。
この人は、わたくしを誘おうとしているのですわね。
「いませんわ」
「あのさ……、今度、大事な話があるんだけど」
「なんですの?」
「まだ、内緒」
そう言って、バルドが笑う。
「困りますわ。近付かないようにと言ったじゃありませんの」
「けどそれはさ、貴族のルールを信じてたからだろ?」
「それはそうですけれど」
確かに今は、男性と二人で歩くのはそれほどおかしなことじゃないと知っている。
「それに、ハルムとは夫婦じゃない」
「……確かに、そうですけれど」
「だったら、俺にもチャンスをくれないか?」
バルドが、真っ直ぐにアセリアを見た。
……この村で交流がある男性はこの方だけですし、他に誰かが入る予定もありませんし、ここで承諾するのが、正しいのかもしれませんわね。
アセリアは、じっとバルドの顔を眺めた。
「わかりましたわ。では一度だけ、お話を聞きますわ」
さて、アセリアは何を選ぶのか。




