117 夏は収穫の時期ですね
刈る。刈る。刈る。
時々、アセリアを見る。
子供たちに囲まれながら、ふぅふぅと刈り入れを行っている。
俺はいい。
もともと雑用には慣れていたし、野外仕事も多かった。
けれど、アセリアはそうではない。
そうではないから、心配なのだ。
まったく。
無理はしなくていいのに。
あのお嬢様が、突然、畑仕事に慣れている村人たちと同じ仕事量をこなせるわけはないのだ。
刈る。刈る。刈る。
その時だった。
「アセリアちゃん!」
アセリアの名を聞きつけ、ハルムは、ガバっと立ち上がった。
薄茶色の波の中に、アセリアが被っていた帽子のてっぺんが見える。
あそこか!
鎌は投げ出した。
麦をかき分けながら、まっすぐにアセリアの方へ突っ走って行く。
アセリアは、ぐにゃりとしゃがみ込んでいるようだった。
倒れそうなアセリアを急いで抱き止める。
ああ、暑さにやられたのか。
そのまま、アセリアを持ち上げる。
……軽いな。
「水を頼みます!」
そう、子供たちに言い置いて、ハルムはそのまま木陰へと向かった。
「お嬢様?大丈夫ですか?」
ふいっと開いた目が、まっすぐにこちらを見た。
どうやら意識はハッキリとしているらしかった。
「…………ハルム?」
その声に、ホッとする。
少年たちが用意してくれた水を、少しずつ飲ませる。
「薬師のばあちゃんがお茶作っておくから連れてこいって!」
「ありがとうございます!」
濡れた布で少し首筋を拭いてやると、ハルムはアセリアを抱き上げ、薬師の家まで連れて行った。
ベッドの上で、アセリアが、一つ息を吐く。
ハルムが、濡らした布を額にあてがう。
ひんやりとした空気が、窓の外から入ってくる。
アセリアは、薬師が準備した冷やしたハーブティーを一口、口に入れた。
「顔色も戻ってきたみたいね」
薬師がほっとした声を出した。
ハルムが、薬師に向き合う。
「本当に、ありがとうございました」
「いいえ〜。私は何も。元気になってよかったわ」
薬師はそれだけ言うと、アセリアにやさしい瞳を向け、そのまま静かに部屋を出て行った。
パタン、と扉を閉める音が、小さく部屋の中に響いた。
薬師の家の部屋の中。
気付けば二人きりになっていた。
ハルムは、ベッド脇の丸椅子に腰を下ろし、じっと、アセリアを眺める。
「だから無理しないでいいですって言ったじゃないですか」
言うと、アセリアは眉を寄せた。
「わたくしだって、この村の一員なんですのよ?」
ほうっとハルムは息を吐く。
「適材適所っていうんですよ。お嬢様はもう、香袋作ったり豆を買ったりしてるじゃないですか」
アセリアが、窓の外を眺めた。
「そうですかしら」
「ええ、そうですよ」
まあ、こういうときもあるね。




