116 夏は収穫の時期ですわね!(1)
夏の朝日が、麦の穂を照らした。
薄茶色の穂が揺れる。
アセリアは、麦わら帽を水平に直すと、畑の端に立ち、その薄茶色のざわめきを眺めた。
後ろから近付いて来た誰かが、アセリアに声をかける。
とはいえ、ここで来る人など、とうにわかりきっている。
「いよいよですね」
ハルムだ。
「ですわね」
夏真っ盛りの今日、とうとう麦の刈り入れが行われるのだ。
村の中は朝早くからざわつき、みんなが手に鎌を持っている。
この村は、それほど働ける人間が多くない。
畑仕事のような力仕事になると余計。
けれど、刈り入れをするこの日ばかりは、村人総出で行われるのだ。
子供たちも例外なく、麦を運ぶことになる。
「けれど……、黄金色に例えられるほどのものでは、ないのではないですかしら?」
アセリアにはそう見えた。
正直、あまり視察などには行ったことがない。
けれど、絵や話に聞く、黄金色の穂というには、目の前の景色は色褪せて見えている気がした。
「ええ。確かにそうですね」
ハルムが麦畑を見渡す。
「輪作が、上手くいくといいですね」
「ええ、本当に」
アセリアも、俄然気合いを入れて、畑へと向かった。
所々にすでに人がいる。
朝日に照らされ、いくつかの影が伸びている。
オタルさんが、一人仁王立ちで、畑を眺めているのが見えた。
「いよいよですわね」
声をかけると、オタルさんは前を向いたまま。
「ああ」
と短く答えた。
そして、
「ああ、ハルム」
と、そこにハルムが居るのが当たり前のように、振り返った。
「はい」
そこへ当たり前のようにハルムが返事をする。
なんですの?言葉にせずとも気配を感じ取るような仲なんですの?
二人の間に絆でも芽生えたのか勘ぐりつつ、ハルムがオタルさんから鎌を受け取るのを眺める。
それは、なかなか大きな鎌だった。
それはそうですわね。これほど広い畑なのですもの。
ハルムから受け取ろうとするけれど、ハルムの手が止まった。
「お嬢様」
それは、真剣な声だった。
「無理はしなくていいですよ」
ハルムを見上げる。
「あら、わたくしだって村の一員ですのよ?」
周りを見渡しても、女性たちが同じような鎌を普通に使っている。
「できますわ」
そう自信を持って言ったわけだったけれど。
ハルムから受け取った鎌は、思いの外ずっしりと重かった。
お、重いですわね。
とはいえここで怯むわけにもいかない。
「……いきますわよ!」
そうハルムに合図を送ると、畑の端から麦に刃を立てる。
ザクッ。
重くて大変だ。
ザクッ。
少なければ、なんとか仕事として成り立ちそうではある。
ふと見ると、ハルムは倍の速さで鎌を振っていた。
むーん……。
けれどもまあ、頑張るしかありませんわね。
さて、収穫がいよいよ始まります!




