115 それはわたくしのイチゴです!
アセリアとハルムの二人は、カゴを持ち森へと歩く。
「いよいよ最後ですわね」
森の恩恵とも言える、イチゴの取れる時期が終わろうとしていた。
「そうですね」
アセリアは、「フンッ」と気合いを入れる。
「来年こそは、新鮮なイチゴをファエンに売りつけてみせますわ」
そんなアセリアを見て、ハルムがクスリと笑う。
アセリアはそんなハルムを横目で見るけれど、文句は言わずに前へ歩を進めた。
ハルムになど構っている場合ではない。
ここのイチゴは本当に美味しいですわ。
甘くて。
すっぱくて。
ふんわりしていて。
けれどもう本格的に夏ですものね。
ブルーベリーが取れるようになるとはいえ、ここのイチゴは捨てがたい……。
アセリアが、そこではた、と止まった。
目の前には、イチゴが広がっている。
もうほとんどなかったイチゴだ。
アセリアが、いよいよ終わりなのだと大事に大事に採ってきたイチゴだ。
けれどそのイチゴが、どこにも見当たらない。
緑の葉。緑の葉。緑の葉。
そしてその代わりにイチゴが広がっている空き地の真ん中に立つのが、一匹のリーフだったのである。
「お、お前が食べましたの?」
リーフには言葉は通じないだろう。
けれどアセリアにはわかってしまった。
このリーフはすでにたくさんのベリーを食べている。
目の前のリーフは、ベリーの赤い汁を口いっぱいにつけていたのだから、一目瞭然というものだ。
「ああ、リーフですね」
ハルムの言葉もそっけない。
ハルムは、なんだかんだで村の少年たちと仲がいい。
リーフが何を食べ、どう生きているのかある程度聞いているのだ。
「リーフは群れで行動するのものでもありませんし、人間を食べたりもしません。大丈夫ですよ」
まったく大丈夫ではないけれど!?
だって、実際大事にしていたイチゴが、もうすっかりリーフのお腹の中なのだから。
「しかたありませんわね」
アセリアは、決意の瞳を見せる。
そして、スカートを掴み上げると、
「わー!」
言いながらリーフに向かって走っていく。
「あっ、お嬢様!」
ハルムにとってもアセリアが走り出すのは予想外のことだったらしい。
「イチゴが食べられてますのよ!?リーフを追いやらないといけませんわ!」
アセリアが強目に言えば、
「しかたありませんね。気をつけてください!転ばないように」
ハルムが大きな声を出すものだから。
「ハルムはあっちを追ってくださいませ!」
「はい!……あ、いえ、流石に捕まえるのは無理ですよ!?」
結局なんだかそんな風に、森の奥で二人でワタワタすることになってしまって。
やっとリーフがどこかへ行ってしまった時には、二人はそこそこ走り回ったあとだった。
「はあ……!はあ……!」
アセリアはハルムと顔を見合わせる。
見ればハルムの方も、息を上げて立ち尽くしたところだった。
広い森の中で二人、走り回って疲れてしまっている……。
「ふふっ」
その状況の面白さに、アセリアはつい吹き出してしまった。
気が抜けたのか、ゆるゆるとアセリアのところまで歩いてきたハルムが、
「笑い事じゃありませんよ、お嬢様」
と呆れた声を出す。
そんなハルムを見て、アセリアはよけいに笑顔を見せた。
「だって、残念だったんですもの!」
「そうですね。来年はきっと売りましょう」
「ええ、イチゴを売ってみせますわ!」
リーフくんの再登場。甘いものが好きです。




