114 笑えだなんておっしゃられても!
家に帰ってからアセリアは、テーブルで台本作りに取り掛かった。
配役を一覧にしたところで、またおかしく思う。
『火の精霊、力の精霊、かわいいの精霊、猫の精霊、ドラゴン』
これだけいるのですもの、ただ元のお話をやっても楽しくありませんわね。大事なセリフだけ書き出しておきましょう。
そこで、アセリアの手元の配役表をハルムが覗いてきた。
「…………」
沈黙。
それはそうですわよね。四大精霊とはかけ離れていますものね。
「これ、なんですか?話、変わりました?」
そこでまたアセリアは、少しだけまたおかしく思ってしまった。
「いいえ。変わりなく、『ユニコーンと乙女』ですの」
「けどこれは。力の精霊どころか、かわいいの精霊がいるとは知りませんでした」
ハルムがそんなことを真面目な顔で言うから、アセリアはつい、また吹き出してしまった。
「ふふっ」
ハルムが、まじまじとアセリアの顔を見る。
それはそうだ。
アセリアがこうして思い出し笑いすることなど、今までなかったのだから。
少し恥ずかしく思い、目を逸らし、アセリアは今日あった出来事を話し出した。
子供たちと配役決めをしてきたこと。
その際、人数が多く、どうしても役を増やしたかったこと。
けれどどうしても、途中で笑いが込み上げてきてしまう。
「……それで、ソフテがすかさず、『かわいいの精霊!』なんて言うものだから」
そこでハルムも、
「ふっ」
と笑う。
「ハルムだって笑ってるじゃありませんの」
「私だって、面白かったら笑いますよ」
「そうですわよね」
そう少し不満げに言うと、ハルムがまたじっとこちらを見た。
「なんですの」
「いえ、私はあまりお嬢様が笑っているところは見たことがありませんので」
……そうだっただろうか。
笑顔ぐらい、と思う。
けど、確かにこれほど笑った記憶はどこにもない。
確かに、ハルムが笑うところも、ここに来るまでは見たことはなかった。
「わたくしだって、笑うことくらいありますわ」
「そうですか?」
「ええ」
「じゃあ、今笑ってみてもらえますか」
今度は、アセリアがハルムをまじまじと見る番だった。
そうしているうちに、ハルムが自分の椅子をずりずりとアセリアの隣へ持ってきた。
「突然言われても、笑えませんわよ?」
ツンとして言うけれど、ハルムは少し面白いものでも見るみたいにこちらを眺めていた。
手を伸ばせば、その顔に触れられる距離。
近くありませんこと?
ちょっと恥ずかしいのだけれど……。
「大丈夫ですよ。このまま続きを話してくれて」
ハルムは近さなどお構いなしらしい。
「そうですわね。そしたらすぐ隣の女の子が『じゃあ私は、猫の精霊!』なんて言うんですもの!」
そこでまたアセリアが、
「ふふっ」
と笑う。
アセリアが笑うとハルムまで面白そうにニッコリとするものだから。
あおれも、この距離で。
つい、ぽわっと赤くなってしまう。
ハルムったら。
ハルムったら!
なんで笑うのを見るためにこの距離なんですの!?
アセリアの、心の叫びは止まらない。
そりゃあ、ハルムだって見たかったよな。




