106 そろそろ夏のようですわね!
「今日は暑いね」
と言ったのはウィンリーだ。
確かにその日は暑かった。
サンドイッチをハルムと仲良く食べた後、アセリアたちはまだ川辺にいた。
その日も、棟梁の演説があった。
棟梁がみんなに話をするのはもうすっかり定番になり、今日は若い頃、見習いでどんなことをしてどんなことを思ったかという話だった。
棟梁の声は思いの外よく通り、少し説教じみてはいるものの、娯楽のないこの村では、その朗々と響く声を、みんななかなかに楽しんでいた。
パチパチと拍手が響くと、女性たちが棟梁の話の感想をワイワイと話し出す。
確かに今日は、暑いですわね。
ふと、家のことを思い出す。
国の北方なだけあって、夏は短い。
窓を開けていればそれほど苦労はないだろう。
けれど、家の窓は一つしかない。あれで風は通るだろうか。
ぼんやりとそんなことを考える。
水面はキラキラと光を反射して、ここが涼しいのだとアピールしているみたいだ。
「暑いから〜」
「暑いから〜?」
ミラとウィンリーが立ち上がる。
「ちょっと水浴びしていっちゃおうか!」
ミラとウィンリーがわっと駆け出した。
アセリアは「ふふっ」と笑う。
子供っぽい方たちですわね。
その時だった。
ベラが、
「ほら」
とアセリアの両手を取ったのだ。
「え、ちょっと、困りますわっ」
笑いながら手を引き、ブーツのままベラはアセリアを川へと誘った。
「きゃっ!冷たっ」
洗濯の時にザブザブと川へ入ることはある。
けれど、これほど心の準備もなしに水に入ると、さすがにびっくりする。
「冷たいね〜!」
と、ザバザバと水を蹴るように歩いて、ウィンリーがそばまで近付いてくる。
「女子!うるせーぞー」
と、遠くからバルドが声を張り上げる。
作業場から、ハルムがこちらを笑いながら眺めているのが見えた。
「一緒に遊ぼうよー!」
ウィンリーが叫ぶ。
バルドが、周りで雑用していた少年たちと笑う。
「ワッハッハ!仕事中だー!」
けれど棟梁が、相変わらず明瞭な声で叫んだ。
「いいぞ!少し休憩してこい!倒れられた方が厄介だからな」
その瞬間、弾かれたように少年たちが川へ走り出した。
飛び込めるほど深いわけでもない川だというのに、ザブン、ザブン、と大きな音がした。
水滴が女性たちの方へかかり、
「きゃー!」
と声が上がる。
一際大きな音を立てているのがバルドだ。
困ったように苦笑して、ハルムが遠くからその様子を眺めていた。
アセリアは、ザバザバと水からあがり、ハルムの手を取った。
「涼しいですわよ」
「え、あ、お嬢様」
少し動揺したハルムは、それでもアセリアに大人しく手を引かれついてきた。
「私は入れませんよ?」
「ええ。水辺にいるだけでも涼しいと思いますわ」
ハルムが川の端へ立つ。
草に滑れば、水の中へ落ちてしまいそうな場所だ。
アセリアはそんなハルムの手を離さず、ザブザブともう一度水の中へ入った。
「ちょっとお嬢様……!」
アセリアが「ふふっ」と笑った瞬間、
ザブン!
ハルムは水の中へと落ちてしまった。
ハルムが、困ったような顔で笑う。
「冷たいですね」
「でしょう?とても冷たいですわね!」
夏っぽい感じですね!




