105 サンドイッチはまだありますわよ!
なんてことありませんわ。
アセリアは、今日何度目かのその言葉を、心の中で唱える。
左手にはバスケット。右手にはサンドイッチ。
中身は昨日と同じものだ。
けど、今日のサンドイッチは昨日とはひと味違う。
何と言っても、今日のサンドイッチはチーズがはみ出していないのだから。
残念ながらニンジンははみ出しているけれど、そこはご愛嬌というものだろう。
アセリアは、ハルムの前でサンドイッチを構える。
なんてことありませんわ。
だって、昨日と同じことをするだけですもの。
昨日と同じように、ハルムの口目掛けて、サンドイッチを入れるだけ。
ただのそれだけのことに、アセリアは少しだけ冷や汗を垂らす。
動揺してはいけませんわ。
考えれば考えるほど、昨日の帰り道で聞いてしまったことが、頭の中を駆け巡っていくけれど。
ウィンリーは確かに言ったのだ。
『仲がいい恋人とか夫婦がすることだから』
と。
そんな風に意識していることなど、ハルムに知られたら恥ずかしいですもの。
だからそんな内容をハルムに聞かせるわけにはいかない。
そんなことがハルムの耳に入らないように、すんなりと口に突っ込んでしまえばいい。
昨日と同じように。
周りを見渡すと、みんな昨日と同じように、それぞれサンドイッチを男性の口へ運んでいる。
むしろ、やらない方が不自然というものですわ。
「はい、どうぞ」
アセリアは、ハルムの口元へサンドイッチを運んだ。
ハルムは、頬を染め、苦渋の表情を浮かべていたけれど、やがて諦めたように口を開いた。
目の前で、ハルムがサンドイッチにかぶりつく。
つい、じっと見てしまう。
口が動く。
喉が動く。
あら、こうなってましたのね。
目が、合う。
ドキリと心臓が飛び跳ねる。
わたくしがサンドイッチを運んでいるといいますのに……。
ハルムの瞳は、アセリアを支配するような目だ。
まるで、そのままアセリアまで食べられてしまいそうな。
攻められているのに、なんだか目が、離せなくなる。
サンドイッチは少しずつ減り、最後の一口で、やはりハルムはアセリアの指先に触れないように慎重にサンドイッチを平らげた。
触れませんでしたわね……。
何ですかしら。なんだか息が、止まりそう。
なんとかサンドイッチを食べさせ終え、アセリアは自分の分のサンドイッチにかぶりつく。
サンドイッチは、爽やかな初夏の味がした。
もう少しで食べ終えるというその時、さっきのハルムの口元と、そのすぐそばまで近付いた自分の指先を思い出す。
触れなかった。
触れなかったけれど……。
そこでふと、すぐそばの視線に気付いた。
ハルムが、こちらをじっと見ていた。
チラリと視線をやる。
「なんですの」
よく晴れた青空の下のハルムは、優しく微笑んでいた。
「美味しかったですよ」
「……サンドイッチですわよね?」
「もちろん」
8枚切りから6枚切りくらいの厚みのパンなんじゃないかと思うわけです。




