104 食べられてしまうかと思いましたわ
食事を終え、棟梁の演説を聞いた後、女性たちは村へと戻る。
男たちの邪魔をしてはいけない、なんて言いながら。
アセリアも例外ではなく、ハルムが仕事で呼ばれ、橋の方へ行ってしまったところでスックと立ち上がり、女性たちの陰に隠れた。
そして、自分の家ではなく、女性の陰に隠れたまま、村の方へと戻って行った。
道すがら、アセリアは自分の両手を見て、自分の手がそこについていることを確かめた。
……ありますわね。
「どうしたの?アセリアちゃん」
ドキッとする。
手は下へ下ろす。
どこにも触れないように。大事なものを抱えるみたいに。
「手、手が、食べられてしまったんじゃないかと思いましたの」
言いながらも、顔の熱が上がっていくのを感じる。
思い出す。
ハルムと食事をしたことを。
サンドイッチを口へ運ぶ度、腕にハルムの手が触れて。手の甲にハルムの手が触れた。
そして口元にその手を寄せて、持っていたサンドイッチにかぶりついたのだ。
かぶりつく度に、指が口元に触れそうになって。
そして。
そして、ハルムはアセリアの指には触れないように、慎重にサンドイッチを食べた。
かぶりついてくるくせに。
そして最後に、ハルムは試すような瞳を、こちらへ向けたのだ。
なんで……。
なんであんな…………。
手を覗き込んだのはミラだった。
相変わらず猫みたいなニヤリ顔で、
「ちゃんとついてるよ〜」
なんて言ってくる。
「そのようですわね」
「ごめんね、アセリアちゃん」
そう言ったのはウィンリーだ。
「『あーん』して食べさせなきゃいけないなんて、嘘なの」
「……え?」
アセリアが、まじまじとウィンリーの顔を見つめる。
「嘘ですの?」
「そう。みんな調子を合わせてくれてただけ。あれは、仲がいい恋人とか夫婦がすることだから」
それを聞いたアセリアの顔が、みるみる赤くなっていく。
「そうですの?」
それはそうだと思う。
あんなこと、そうそう出来るものではない。
例えば、ただの知り合いのバルドとか。いや、ウィンリーが相手でも微妙な気持ちのなる気がする。
じゃあ、ハルムはどうだっただろう。
いいえ。
ハルムはもともと家族のようなものですもの。嫌な気分などそうそう出るものではありませんわ。実際、冗談とはいえ、ウィンリーだって父親にやっていたじゃありませんの。
「その話、内緒にしていただけませんこと?」
思いの外小さな声になったその言葉は、それでもウィンリー、ミラ、ベラの耳に届いた。
ちょっと笑いながら、ウィンリーが言う。
「いいよ。じゃあ、あたしたち、明日も乗ってあげる」
そんな風に女性たちは、翌日もサンドイッチ作りの約束をした。
アセリアはまたあれをするのかと、もう一度、手がついていることを確かめた。
しばらくサンドイッチ作りは続きそうですね。




