103 サンドイッチをいただきましょう(2)
少し躊躇した挙句、アセリアは意を決した顔をしてハルムに向き合った。
プルプルした真っ赤な顔で、手にサンドイッチを構えている。
どうしろって言うんだよ!?
「よろしいですわね?ハルム」
全然よろしくない。
周りの視線がこちらに集中している。
お前ら、ニヤついた顔見えてるからな!?
迫って来るサンドイッチを手で制し、首をブンブン振る。
「いえ、騙されてますよ、お嬢様」
アセリアがキョトンとした顔を見せ、周りをもう一度見渡す。
その時、アセリアは見てしまった。遠くでベラがどこかの男に「あーん」している姿を。
なんで丁度よく、そういうことをしてるんだよ。
「騙されているわけでは、ないみたいですわね」
アセリアが、もう一度サンドイッチを構え直した。
それは、地獄の甘い罠というかなんというか。
アセリアにそういうことをされるのはやぶさかではない。むしろ、こんなチャンスもう二度とないかもしれない。
だが、この突き刺すような視線を見てみろ。
この視線の中で、そんなマネをするのを見られるのは、俺としても避けたい現実だ。
二人きりなら、俺がやれることの全てを差し出してでもお願いしたいことではあるが。
顔が火照るのを感じながら、後ろへ頭を引く。
その引いた仕草で、アセリアは躍起になったらしかった。
アセリアが、ハルムにのしかかって来る。
「ハルム。覚悟が足りませんわ」
「いや、おかしいでしょう、お嬢様」
「手が汚れているのだから、理に適っているはずですわ」
「私は管理するだけなので、手は汚れていません!」
結局、押し倒される格好になったハルムと、その上にのしかかるアセリアという格好になってしまった。
これもう、食べさせられるのを見られた方がマシなんじゃないか?
そんなことが頭の中をよぎりつつも、攻撃のように繰り広げられるアセリアのサンドイッチをそのまま口に入れるわけにもいかず、結局アセリアの腕を掴んで抑えることになってしまった。
アセリアは、ただただ怪訝な顔をしている。
まるで、簡単な数式の答えが合わない時みたいに。
けれど、その時。
ハルムの視界の端に、見たくはないものが見えてしまった。
バルドだ。
「アセリアちゃ……」
バルドがアセリアの名前を呼ばないうちに、ハルムはアセリアの腕を掴み、そのままその手のサンドイッチを自分の口に押し込んだ。
「ハルム……!?」
サンドイッチの向こう側で、喜んだのか照れたのか、なんとも言えない表情のアセリアが見える。
そして、呆気に取られるバルドの顔も。
アセリアの手が、ぴくりと動く。
引いてしまいそうなその手の甲を掴みなおして、ハルムはまたサンドイッチを口に入れた。
誰もが二人に注目しながら、誰も言葉を発しようとはしなかった。
「んっ、むぐっ」
ハルムのサンドイッチを食べる音だけが、ただその場に響いた。
「ハル……ム…………」
まるでその手を食べられでもしたかのような真っ赤な顔で、アセリアはハルムの名を呟いた。
「美味しいですよ、お嬢様」
「……ええ。それならよかったですわ」
ハルムは果たして本当にそのサンドイッチの味がわかったのか。




