100 ただの事故ってやつですわ!
アセリアとハルムの家に怪我人が運び込まれてきたのは、その日の午前中のことだった。
「アセリアちゃん!」
と小さな女の子が言うものだから、ちょっと真剣になってしまったけれど、家に入って来たのはなんて事はない、少し足首を切っただけのバルドだった。
「いやぁ、ちょっと泥で滑ってさ。滑った先に丸太があったもんだから、スパっとね」
「情けない話ですわね」
と言いながら、村長の家から持って来た救急箱を開け、椅子に座らせたバルドの足元にしゃがんだ。
橋造りの現場から近いのは仕方がない。
それのおかげで、床が泥で擦れてしまった。
ハルムががっかりすることだろう。
細い布をぐるぐると巻いていく。
……要領を得ませんわね。
どちらも黙ったままの、静かな部屋。
窓の外に立っている木から、小鳥の鳴き声が聞きるばかりだ。
アセリアが何度撒き直しても、バルドはただ、それを見守った。
10回ほど巻き直したところで、なんとか落ちてくることもなく、巻けたと言っていい状態になる。
「アセリアちゃん」
呼ばれて、ふいっと目を上げる。
バルドは、じっとこちらを見ていた。
瞳の中に見える何かは、見てはいけないものな気がした。
「何ですの?」
あえて冷たく接する。
成り行きとはいえ、二人きりだなんていい気分ではない。
「俺と、友達になってくれないかな」
「……遠慮いたしますわ」
友達になるだけなら、なってもいいと思いますわ。
けど、この目。
これではとても友達なんて……。
「できましたわ」
アセリアが、すかさず立ち上がったところだった。
「きゃっ!」
床が泥だらけなせいで、アセリアのブーツが滑った。
あっけなく、後ろへ転がり尻餅をついてしまう。
「大丈夫!?……痛っ」
慌てて助けようと立ち上がったバルドだったけれど、怪我した足は思いの外痛かった。
覆い被さるように、床付近で二人して転がる。
ハルムを勘違いさせるには、それだけで十分だったのだ。
「お嬢様?」
ちょうどそこで、扉を開けたのはハルムだった。
ハルムから見たら、ちょうど、アセリアを押し倒すバルドに見えたことだろう。
顔を青くしたハルムは、あろうことか、ツカツカと無言でバルドに近付くと、そのまま流れるようにバルドの襟首を掴み、引き上げる。
そのまま、逆の手を振りかぶった。
「ハ、ハルム!違うんですのよ!」
ハルムを止めようと、アセリアは慌てて手を出した。
そのアセリアの行動に、より一層ハルムの目が見開かれた。
「まさか同意の上だとか言うなら余計に殴っておかないと……」
アセリアは、ハルムを止めようと手を振り続けた。
「わたくしが転んだだけですの!」
「転ん……」
右手に驚愕の顔のままのバルドをぶら下げたまま、ハルムは周りの状況をよくよく見渡した。
「何も、危ないことなどありませんでしたわ」
「あー……」
ハルムは少し気まずそうにバルドを掴んでいた手を緩めた。
そしてバルドに冷ややかな目を向けたあと、
「気をつけるように」
と一言呟いたのだった。
でもそのまま殴っちゃっても良かったと思うぞ!?




