10 こんな田舎娘の服を着ろっておっしゃいますの!?(2)
ハルムは、アセリアの手を取り、真っ直ぐにアセリアを見据えた。
「残念ながら、お嬢様は、何を着ていようとも、もうルーシエンではありません」
ふっとアセリアの目が潤む。
「わかってますわ……!けど、わたくしの大切にしていたドレスは……、象徴でもありますの。ルーシエンであるという、わたくしの誇りと人生の」
「そして私も、もうガルドルではありません」
同じ立場でありながら、ハルムは真っ直ぐにこちらを見ていた。
「あなたは……、悲しくはありませんの?こんな……一方的に追放などと……っ」
「悲しくないわけはありません。けれど、お嬢様がここにいる限り、ここ以上の私の居場所などありませんから」
「…………」
別に、ハルムは優しい顔をしているわけではなかった。
いつも通りの顔。
ここ以上はないというその言葉も、忠義からくるものではあるまい。待遇の話だ。アセリアの執事をしていた以上、他のところへ行ってもあまり高待遇は期待できないだろう。アセリア本人が、まるで犯罪者のように扱われたのだから。かといって、実家へ戻っても冷たくあしらわれるだけ。
ハルムの顔は、そんな現実を認めた上で、それでもいつも通りの自分としてここに立っている者の顔だった。
慰めているわけではありませんのね。
けれど、だからこそ、本当の言葉で話しているとわかるというもの。
「あなた、タイはどうしましたの?」
「服や食べ物と交換しましたよ」
「そうですの」
わざわざタイと交換して来たという服と食事が、アセリアの視界に入った。
アセリアの手に、ハルムの体温が伝わってくる。
ベッドから、キッチンが見える。
キッチンではハルムが、村でもらって来たというスープを温めている。
「家を追い出されても、何処にいても、わたくしはわたくしでなければなりませんわね」
何を取られても、この心だけは奪われることはない。
ハルムが後ろを向いているのを確認し、アセリアは服に手を伸ばした。
シャツを手に取る。
「あら?」
スカートを手に取る。
「あらあら?」
ひとまずスカートをはいてみる。
「あらあらあら?」
アセリアは「ふぅ」と息を吐いた。
「困りましたわ!この服、着方がわかりませんわ!」
あんなしんみりとした空気の後で、この服はどう着るのですかなんて聞きたくはない。出来ることなら、あなたの力でこんな姿になりましたと美しく登場したい。
それなのに。
「こちらが前で合ってますの?それに、この紐はどうするのが正解なんですの?」
ひとまずスカートをはいてみるか、と立ち上がったところで。
「どうかしましたか?お嬢様?」
とハルムが部屋に入って来たものだから。
アセリアは、下着姿で、
「きゃああああああああああああ!!」
と悲鳴を上げるしかなかった。
「うわああああああああああああ!!」
お互い狼狽えながらの鉢合わせは、結局、美しいとはかけ離れたものとなった。
美しくないというアセリアでしたが、ハルムとしては、
「そりゃあ、美しいかどうかで言えば、美しいと言ってもいいですよ」
とのこと。




