コロナシ村に戻る
俺達は魔族に誘導されるがまま、天帝が居ると言う玉座の間へ向かった。
豪華絢爛という訳では無いが重く大きな扉には金であしらわれた龍の絵が描かれていた。ブサイクではないがどことなく魔竜ダジリグアに似ている様な気がした。
「ここに天帝マズールが居るの?」
『『ギャギャ!ギャギャーギャ!』』うん。分からん。ジュリアンテを見ると俺を見て頭を縦に振った。ここが玉座の間で間違いないようだ。
中の様子は窺い知る事が出来なかったが、宿屋の3人の安否が心配だった為直ぐにでも突入する事にした。
『きゃっ!やめて!』中から声が聞こえる。
『中々に美味そうな肉では無いか。まだ帝都にも美味そうな肉が残っていたとはな?ギギャギギャ』
誰かを食べようとしているのか?中の声は緊迫感を増し一刻の猶予も無い様子。
俺達は玉座の間の扉を蹴破った。
『何者だ!』
部屋の中には4名の男女が居た。
1人は巨大な椅子に胡座をかいてニタニタと笑っている男。
1人は黒髪を後ろで一つにまとめた片眼が潰れた隻眼の男。
1人は槍を持ち顔が爬虫類のスーツ男。
1人は怯え顔を泣き濡らし、衣服は破れ半裸状態の女……エリーゼだった。
「エリーゼ!?何故君がここに?」
『アレン様……』呆気に取られる全員だった。エリーゼは体を隠すことも忘れこちらに這いずろうとする。腰が抜け立てないのだろう。
『ええい!小賢しい!お前らやってしまえ!』
「チビ、クロ、ヒカリ、ジーク。君たちは爬虫類男を。ライゴ、テイラー、ガウは隻眼の男を。俺とアリサとアリスはエリーゼを。」
アレンは咄嗟に指示をだす。
言うより行動が早い召喚獣達。アレンの指示を待たずに寸分違わず行動を開始する。
──まるで指示される事を予期していた動きだ。
アリスとアリサもアレンが前に出る瞬間にはどこから出したのか真新しい布にエリーゼを包みアレンの元へ連れ出した。まさに一瞬の所業だった。
爬虫類男は抵抗する事も許されず3匹の猫達に取り押さえられる。
隻眼の男は……それはそれは可哀想だった。テイラーによる電撃攻撃のあとライゴによる殴打。ガウは頭から齧り付く。生きていることが不思議なほどボコボコにされていた。今は取り押さえられることなく床に伸びている。
側近と思しき2人が瞬殺されたことで中央に鎮座する豪華な服を着た老人が驚いて……いなかった。
ニタニタと薄気味悪い微笑を浮かべたままギギャギギャ変な声を出している。
『天帝様!以前はこの様な国では無かったではありませんか!お考えを改めてください!』エリーゼだ。
どうやらエリーゼは捕まったのではないらしい。自宅へ戻るといるはずの家族が減っていたのだ。そして周囲の環境があまりに不自然だったのだ。これは国が関わっていると踏んだエリーゼは俺達に話すことなく城へ乗り込んだ。まぁ直ぐに捕らえられご覧の有様だったようだが。
『ギギャギギャ。貴様らの話は分かった。しかしな?この国は強くならんといかんかったのじゃ。周囲8国から独立し風当たりも強くてなぁ。まぁ今となっては周囲8国は我が隷属にあるがな?ギギャギギャ!』
『なぜそのように変わられたのですか?貴方様が建国された時……確かに小さな国でしたが国民たちは皆幸せそうでした。なのに何故……』
『貴様は知らぬのだ。我の苦労を。我は悩んだのだ。周囲8国からの脅威に晒され続け誰かに縋り付きたかったのだ。だがそんな我が国には周囲8国の誰も手を差し伸べてはくれんかった。ではどうするか?それは外部の手を借りるしかないでは無いか!そしてその外部と言うのが《魔族》じゃ。』
平然に魔族に魂を売ったと続ける天帝マズール。
『そして……手に入れたのじゃ。途轍もない力を。権力を。ギギャ!ギギャ!』
アレン達は唖然とした。この老人は阿呆だ。しかし分からなくもない。1人で戦い続け孤独だったのだ。そして疲弊したのだ。綺麗事だけでは国営は出来ないということだろう。《魔族》という単純な力の魅力に魂を売った天帝がこの国をここまで変えてしまったのだ。
この国の抱えた謎だった《神隠し》とは魔族への生贄だったのだ。では何故エリーゼは生きているのか?それは生贄の日では無かったからだ。10日に1人の生贄。それが魔族の提案した取引。対価として魔族幹部の貸出だ。
「腐ってやがる……お前!それでもこの国の長か!」
『ギギャ!ギギャ!貴様はこの豪華な服を見ても我が一番偉い事を理解出来ぬと見えるギギャ!ギギャ!』
「いくら豪華な服を着ようとも……いくら豪勢な食事をしようとも……お前は人の皮を被った悪魔だ!」
『ギギャギギャ!ん?もぅバレたのか?まぁいい。お前達……こいつらをぶち殺せ!』
爬虫類男と隻眼男は何事も無かったかのようにスっと立ち上がり天帝マズールの前に移動する。
あれだけボコボコにされたのに何故かヘラヘラと笑っていた。
『マズール様ァ。コイツらクッテいいのか?』爬虫類男だ。
『目をヨコセ……目を……』隻眼の男だ。
二人は先程までの雰囲気と異なるものになっていた。
俺の召喚獣達は咄嗟に構えをとる。しかし爬虫類男の速度は異常だった。まさに神業。全く目で追うことが出来なかった。先程取り押さえたチビ、クロ、ジークが床に転がる。ヒカリは難を逃れた様だ。運がいい。
隻眼の男はライゴを警戒している素振りを見せたが手を下げると爪を伸ばした。伸びた爪でライゴ、ガウ、テイラーの顔面に迫る。速度は爬虫類男ほどでは無いが明らかに先程までとは異なる。爪からは毒なのか紫の液体がポタポタと滴る。
一方アレン、アリス、アリサは天帝マズールに相対したが玉座には既に居なかった。周囲を探すと天帝マズールは天井に張り付き《あの黒く蠢く虫》の様な動きをしていた。見ているものの言葉を無くす程悍ましい光景だ。
アリスとアリサは硬直し、まるで時間が停止したかの様な錯覚に囚われた。
しかし突然……アリスとアリサは『『死にさらせぇ!!!』』と半狂乱となり《えーけー47》を乱射するという暴挙に出る。
『ギギャ!なんじゃ?その武器は……ギャーーー』とあっさりと撃ち落としてしまったアリスとアリサ。
だがその後も『『まだ息があるかも知れない!!』』と《えーけー47》の弾倉が空になるまで撃ち続けた。文字通り蜂の巣状態になった天帝マズールはぴくぴくと動くがそれもまた気持ち悪かった。
しかし──天帝マズールが討たれた事で状況は一変する。
『クケケケケ。貴様らの事は我らが妃に報告せねばだな。』
『ソウだな?ではイクカ?兄者。』
そう言うと爬虫類男と隻眼の男は煙のように姿を消した。
『ちっ、、、逃がしたっすか。アッチアイツら知ってるっす。』先程までとはテイラーとなっていたジュリアンテだ。
どうやら人格が切り替わったらしい。
「ジュリアンテ知ってるって?冥界関係なの?」
『はいっす。見たことがある訳では無いんすけど……多分でいいっすか?』
「うん。今は情報が欲しいからね。」
『ヤツらは蜉蝣隊っす。その王に君臨してるのが蠅王っす。』
「蠅王?ハエが王様なの?」
『そうっすね。たかだかハエなんすけどハエが2メートルの大きさになったらどうなると思うっすか?』
「んー……遅くなる?」
『いえ。その逆っす。更に早くなるっす。そして奴らは眼がいいんす。ハエは6000個の眼を持ち相手の動きが止まって見えるほどっす。そんなハエが大きくなり脳が発達したらどうなるか……そこはご想像にお任せしますっす!』
「『『『キモくなる!』』』」全員一致でキモくなるという意見だった。
冗談はさておき、彼ら蜉蝣隊は冥界でも遊撃部隊として最強の軍団らしくジュリアンテですら勝てないかもしれないとの事だった。
勿論その一体一体の強さもあるのだが先程の戦闘の様に敵を欺く事に長けていて、存在を消すほどに攻撃する必要があるらしい。
「厄介な敵が現れたもんだな……」
アレン達は生存者が居ないか城内を見回りに行くことにした。
王城の中にはもう誰もいなかったが地下牢には二人の子供が居た。宿屋の息子マッケンとリッケルだ。奥さんのマリーの姿は見当たらず憔悴しきった彼らを助けるにとどまってしまった。マリーのことを聞くことは出来ないだろうと察し、宿屋の主人の元へ連れてくことにした。
道中ボロボロになった服を着替えさせ宿屋に着くと、狼狽えた宿屋の主人が客に慰められていた。どうやら国中にかけられていた《認識阻害》解けたようだった。
『マッケン!リッケル!無事だったのか!』
『おとうさーーーん!』
『パパーーーー!』
親子は感動の再会を果たす。しかし……
『……妻のマリーは?……妻は?……うわぁーーーーー!』とエッケンは取り乱し泣き崩れた。アレン達が宥め徐々に落ち着きを取り戻したエッケンだったが、息子達も事の現状を理解し始め泣き出す始末。宿屋エッケンは哀しみに包まれた。
後日エッケンからマッケンとリッケルの救出について礼を言われたが、目には隈が出来窶れていた。
いつまでもアレン達がここにいると思い出してしまうだろうと本日コロナシ村へと帰ることにしたアレン一行であった。
あまり人気も出なかったため2章一旦で完結させていただきます。
今までご覧くださった方ありがとうございました。




