大根芝居、反転魂、導き
天の勇者、アイテールは森にいるという聖女を探しに一人で行くという
パーティーメンバーもついて行くと言うが勇者はこれを拒否
何か隠している表情で一人で向かったという
パーティーメンバーの二人がその後を尾行していく
◇
「聖女様が森で迷子?そんな馬鹿な話があるか…あれは確実に洗脳されていた」
勇者は一人で薄く霧のかかる森の中に足を踏み入れ宛もなくウロウロとしている
「この森のダンジョンにはどっかの悪の組織が潜んでいる…いや、もしかしたら聖女様は逃げ出せたのかもしれない」
躊躇いなく進む勇者の後をつけていたパーティーメンバーは霧でその姿を見失い、いつの間にか森から抜け、街の見える場所に出ていた
「…このダンジョンやっかいすぎるな」
「迷わせて帰されるならまだしも…」
尾行されていたことすら知らず、勇者は一人、森の中で小屋を見つける
「小屋?大きさは二部屋あるか怪しいくらいか…罠か?」
勇者が恐る恐る近づくと小屋から物音が鳴る
そしてガチャりと扉を開けて出てきたのは…聖女だった
「…聖女…さま」
勇者は剣を構え、その後ろ姿に注意を向ける
彼が見た聖女の最後の姿は、闇の炎を纏い、笑いながら踏みつけてきた姿だ、正気ではなく、あの場にいた女が何かをしていたのを見ていた、見せられていた
洗脳の類い
勇者はいつでも斬りかかれる構えだ
その手は震えていたが
「…勇者…さま?」
聖女が振り向き、勇者と目が合う
勇者はその声を聞くと共に聖女を抱きしめていた
「聖女様!」
「勇者さま!あえて嬉しいです…はやく、早く逃げましょう!」
「にげる?…あの女からか!」
「シ…あ、いえ、もう一人の私です!」
「もう一人の聖女さま?」
「少しでも目を離すとこれか」
その声は森の霧の先から聞こえてきた
小屋の扉の前の二人はその声の方を向く
「そんな…早すぎます」
霧から現れたのは、もう一人の聖女
顔から何まで瓜二つだ
「もう一人の…聖女様…いや」
しかしその聖女は明らかに違っていた
拳に黒い炎を纏わせていたのだ
「おい勇者、そいつを置いてくなら逃がしてやる、どうする?じゃなきゃいつかみたいに踏みつけちまうぞ?」
「…キミは、あの時の!」
「勇者さま!洗脳で生まれた悪の私に光の魔法は効きません!不利です!逃げてください!」
「悪の…聖女?」
「私は彼女から正しき心だけ抜け出してきた制限をなのです…力はほとんど持っていかれてしまい、今はただ拘束されるのみ」
勇者に肩を抱かれている聖女が腕を見せる、その腕には粗末な鎖で拘束がされていた
「しかし彼女も私が抜け落ちている今、魔法を制御出来ません!勇者様が来てくれて助かりました!早く!ここから逃げましょう!」
「逃がすか!」
長々と聖女が話し終えると、悪の聖女がこちらに走り出してきた
「くっ!ボクだけを見ているんだ!」
そう言って勇者は聖女をお姫様抱っこし、悪の聖女に背を向けて走り出す
「くそ!あたれ!」
制御が本当にできていないのか
勇者と聖女にギリギリ当たらない近くを炎の玉や風の刃が過ぎていく
勇者は胸の中にいる聖女を強く抱きしめ、その場から逃げ出すことに成功したのだった
◇
「……こんな感じですかね?」
シュミーさんから淡々と報告がされる
組織には全員が使える口封じの魔法がある、しかし、冒険者や勇者が長々と詠唱をし始めれば空気を読んでちゃちゃをいれ、あれよあれよと魔法の完成をまつ
口封じ魔法は最終兵器なのだ
それを、聖女はもとより覚えていた、知っていた、いや、そこまで難しいものでもない、魔法に通ずるものなら誰でも知り得る事だから
魔法使い同士だと波長の問題があり、波長が合えば互いに使えるために対人戦では無意味と悟るのだ
「…この勇者下心丸出しどころか」
「はい、触ってます、幻滅しました」
ヒカリさんの大根芝居をサラリと流し、聖女スペックで口封じが起きないことに疑問を抱かず、雑なセットも疑わず、でまかせを聞き入れ
隙あらば触りながら逃げていく
「フルネームさん大丈夫ですか?」
「少し引いてますね」
そも勇者がアウトか…
「大丈夫かな天の街…」
「復興しますかね、光の街…」
聖女の統治を復興時点ですり替える作戦だが…
もしかしたらすり替える必要もなかったかもしれない
シロと聖女の複製体はそう思いながらヒカリを待つのだった
◇
「ただいまぁー!やー!急に観測班が騒ぐから慌てて行ったけど成功だよね!ね!」
「ええ、いい芝居でしたよ、二度としないでください」
むちゃくちゃなセリフだったけどフルネームの方が演技力はありましたね
あと拘束されてるのに器用に誘惑してました
そこら辺も反転してるなら…
まぁヒカリさんに求めることではないということでしょう
「そう?ま、どうしてもって時は頼んでくれちゃっていいよ」
そしてこの反転聖女は二度とするなを演技力が聖女すぎて、という前提で喋る
…理解できま、せんね、情報として知らなかったら言葉めちゃくちゃですよ
「それで、勇者は?」
「逃げ帰ってった、観測は?」
本当は完全に準備が済めばフルネームさんだけの予定でしたが、準備がすまなかった時が小芝居です
うちの部隊に頼んで、観測班やら派遣してもらいましたが…勇者の行動の方が一歩早かったようです
まぁ芝居うってフルネームさんが街に行ったならなんでもいいんですよ
部隊の方は準備損でしたけど
フルネームさんはしばらく泳がします
上に立ったなら聖女の指示に少しずつ私たちが有利になるように傾けておくだけです
「…どうしました?顔が赤いですよ?」
ヒカリさんがペラペラ喋る中、シュミーさんの顔が赤くなっています
「…いえ…なんでも、ないです」
…そうですか
そうなんでしょうね
聖女が帰ってきたならふたつの街はお祝いですかねぇ…?
◇
「ヒカリさんって子ども好きですよね?」
「…うーん、まぁ」
好きの反転って何ですかね
「シュミーさん、子どもの事どう思いますか?」
「…あー、戯れるのは嫌いですが導くのは好きですね、まぁ信仰者としてなら好きですが…信者には特に感情は持ち合わせてませんよ」
…聖女っていうのが反転の際になにか噛んでますね
信者とかそこら辺の要素なしなら好きの反転もはっきりした答えが返ってくるのでしょうか?
「シュミーは細分化しすぎ、大雑把には?」
「それですと特になにも思いませんね」
「んー、まぁそうよねぇ…」
ヒカリさんも理解はできるようです
私は納得し難いですけど
そのような会話を続けていると扉が開きました
ナコさんです
「お疲れのようですね」
「なかなか寝付かなくって…」
子ども達のお昼寝の時間でしたか
「ナコさん、好きの反転ってなんだと思います?」
「嫌い?」
即答です、まぁ、私もそう思います…けど
「アカさんの用意してくれた本には好きの反対は無関心とあったのですよ」
「……ふぉーん」
心底どうでも良さそうな返事です
「クロ様、飲み物は飲まれますか?」
「…シロと同じで」
「かしこまりました」
よろよろーと私とヒカリさんの座ってる机まで来て、椅子に座り、頭を机の上に乗っけます
めっちゃモフりたい
飲み物も一瞬こちらをちらりと見るのが愛らしいですね
なんですか、誘ってるんですか、睡眠薬いれて勝手にモフりますよ?
「…私のシュミーは?」
「まだ調整中ですね」
「……本当は?」
…おや、バレているのでしょうか
ナコさんとはほとんど同じ時間を共有しています、するとシュミーさんが二人いるのって何となく嫌と思ってしまったんですよね
この「嫌」を感じるのは魂の強さの話なので私は複製するとすぐ壊れます
…じゃなくて、逸れました
ナコさんの単独行動の時以外は調整を理由にシュミーさんの複製体を取り上げました
しかし調整なんてしてません
…ということがバレたんですかね?
「…嫉妬ぐるいが」
「んや?」
「何か言いました?ヒカリさん」
「…なんも?子どもたちの観察フウカだけじゃ大変だろうから手伝ってやろうかなぁって、んじゃごゆっくりー」
手をヒラヒラさせ部屋から出ていきました
…扉の外にいる複製体を連れていったので思考を読むことも出来ますが
あれで考えは巡らせているタイプなので負担が大きいです
まぁわざわざ読む必要も感じられませんけど
◇
私はヒカリ、元聖女で
うーん、子ども達の挨拶に聖女のところはいらないかな?
聖女の時みたいに光の魔法関係使えないし
むしろ反転状態の闇堕ち?とかの状態みたい
闇魔法使いって言っておこうかな、うん
聖女時代と比べると悪の組織は意外にも心地がいい
子供たちとの触れ合いが意外と好きみたい、わたし
組織を密告とかそういうつもりは無いけど、私は私の個人的にこの施設を使い倒してやろうと思う
…というか教師として教えてもらうのに丁度いい豊富な知識を持つ人が多いのよ
薬学、少し常識外れだし、私は作成するには並の人なため実践はあまり
知識優先
魔法知識、マザーとかいうおばばがほとんどの魔法に通ずるとかでたくさんの魔法について書かれた本を読ませてもらえる
死霊魔法、魂の操作は今の私には合っているようでスジがいいなんて言われた…嬉しくなんかないし
機械世界の研究者
文字が読めないから勉強中
どれも最近になってから教えて貰えることになったけど
何としてもものにしてやろうと思う
がんばれわたし、わたし頑張れ!
「はーい、ヒカリせんせーの言うことを聞いてねー」
「せんせー?ヒカリが?似合わねー」
「こんのっ…ガ…こほん、まぁ私も言ってみただけ、ほら、向こうの部屋にいったいった!」
この子供たちは実験体らしい
かわいそうに…
私が元聖女らしく導いてあげる…
ふふ…
勇者アイテールは全力で適当に着けました
次で終わりになりますし
聖女が最後になんか言ってますがこの話からは続きません
次回が締めの最終話でそれで終わりです




