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もう一度、あなたに会えた、その時は。  作者: 野菜処理班
第一章 そんな事よりも、生きていける自信がありません……。
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第一章 三話 装備を求めて

「ここが私の家です。ぼろくて狭い家ですが、出発までくつろいでいてください」

 

 リュウに連れられて、俺たちは草原の小さな丘の上にある、木で建てられた小さな小屋へ訪れた。

 それは最近建てられたとは言えず、リュウの言う通り少し朽ち果てているように見える。しかし、ぼろい見た目に対し、家の壁や屋根といった外に見える場所は、細かいところまで掃除されていて、清潔感があった。

 家の横には、切り株に、丁寧に手入れされているのだろう、刃に太陽の光が反射している斧が刺さっている。近くに薪の束があるので、これで薪を作っているのだろう。

 

 近くでドラゴンのココアと戦いという名の遊びを始めたイズハを放っておいて、

 

「そうさせてもらう」


 俺は、薙刀をドアの横に立てかけた後、家の中へと入る。

 靴を脱がずに中へ入ると、ある程度この家の間取りが分かってきた。

 

 玄関が入ってすぐに、ダイニングキッチンがある。すぐそばにある木で作られたテーブルの上には、分厚い本が四、五冊積み上げられていた。周りにいくつかドアが見られる辺り、トイレや風呂場、リュウの寝室があるのだろう。

 

 それよりも、他の部屋はともかく、この机の上にある本が気になる。

 リュックをテーブルのそばにある椅子の上へ置いた後、数冊の本をテーブルの上に並べる。

 それらの本は、薬草の作り方や、装備の作り方、家具の作り方など、どれも『物作り』に関する本だった。

 リュウはお茶を三つ入れた後、テーブルの上へ置いて、椅子に座る。

 そして、少し恥ずかしそうにしながらこれらの本についての説明を始めた。


「……私、その、恥ずかしいのですが、将来、錬金術師(アルケミスト)になりたいんです。一応、ココアちゃんを育てるドラゴンテイマーなんですが、それは、ココアちゃんと一緒に暮らすための条件みたいなものなんです…………。いや、別に、ココアちゃんと仕方なく暮らしているわけじゃないんですよ! ココアちゃんとはいつまでもずっと一緒に生きていたいですから」

 

 恥ずかしいことを言ったことに気づいたのか、リュウは耳を真っ赤にしながら、一度コホンと話を戻すように咳込んだ。


「そ、その、今の職業はドラゴンテイマーですけど、いつか錬金術師になれるよう、日頃から、薬の勉強をしたり、服や防具を作ったりしているんです」

「けど、なんで家具の本とかがあるんだ? 錬金術には関係ないような気がするんだけど? それに、服の本って? その服も自分で編んで作ったのか?」


 俺が考える限り、家具作りや服を作るって言うのはまた別の職業の仕事だと思うのだが。


「家具は、生活するために必要ですので作っているだけなんです。これらの椅子や机もそういう理由で作っただけですし。服も、自分で作りました。まあ、編んで作ったわけではなく錬金術で作りましたが」


 そう言うと、リュウはお茶を一口だけ飲んだ。


「へえ、服って錬金術で作れるんだな」

「はい、一応、服は装備の分類に入るんです。錬金術で作ると守備力や耐性が付くので、普通に作るよりもちょっとお得なんですよ」


 となると、今、俺が着ているこの服やリュックの中にあるジャージには、守備力や耐性というものがないのか。

 まあ、所詮これは日本の工場で作られた量産型のジャージだからな。

 安心と信頼の実績はあるけど、守備力とかなんてあるわけがない。

 

 ……ということは、俺は今、裸でいるのも同然なのか。………そう思うと恥ずかしくなるから思わないようにしよう。

 それにしても、今思えば、あの使い方の分からない、ただ少しひんやりする薙刀一本で、装備なんて装着せず、あのドラゴンに挑もうとしていたわけか。なんて無謀なことをしようとしていたんだ俺は。

 今回はリュウがいたから何とかなったけど、もしこの先同じ事が起きたら、俺は対処できるのだろうか。


 あることを考えた俺は、一つ気になったことをリュウに質問した。

 

「服の装備ってどういうのがあるんだ?」


 そう尋ねると、リュウは薄い雑誌のようなものを机の上に出し、俺に渡してくれた。

 それは、とてもカラフルな服が掲載されてある、カタログのようなもので、俺はそれを読み始めた。

 しかし、掲載されてあるのは基本的に装備関連の事だけで、服はもちろん、胸当てや鎧といった金属製の装備についての記事もある。


「ええっと、メジャーなところですと、ローブやマントにコート、女性の方だとワンピースやスカートといったものがあります。因みに、服の装備は重ね着して、効果を重ねることもできますよ」


 そうか、だったらそこらから選ぶのが妥当だろう。

 見た感じ、リュウが言った服たちは守備力は低いが、魔力が上がったり、何か耐性がついていたりと、意外とお得な効果が多かった。

 ……よし、決めた。


「……一つお願いしてもいいか?」

「はい、何でしょうか?」

「俺とイズハに、服の装備を何着か作ってくれないか?」

「え、はい。ですが……」

「あ、いや、時間のことは心配しなくていい。時間内にできる量だけでいいんだ。できる量って言ってもそんなに多く注文なんてしない。たった数着だけだ。……ダメか?」


 必死に頼み込むが、リュウはなんだか申し訳なさそうな顔をして、少し考え込んでいた。


「どうかしたのか?」

「……あの、今ちょうど素材の在庫を切らしていて、ここから少し歩いたところにある森で素材を採取しないと、服が作れないんです。しかも、そこには魔物が住み着いているので、あまり行きたくないのですが……」


 まじか。魔物がいるのか。

 素材がないだけだったら採取しに行こうと考えてたけど、魔物がいるんだったら話は別だ。わざわざそんな危ないところに行かなくても、明日、町に行ってから服の装備を買えばいいじゃないか。

 ………仕方ない、今回は諦めるとしよう。

 

 そう切り出そうとした時、この小屋と外の唯一の懸け橋となるドアがギイッと音を立てて開いた。


「ねえ、何の話してるの?」

 

 そこにいたのは、ついさっきまでココアと遊んでいたイズハだった。肩にはエナメルバッグを掛けている。

 かなり激しく戦っていたようだが、巫女服や特徴的な尻尾や耳、長いブロンドの髪は一切汚れておらず、

本当に戦っていたのだろうかと疑ってしまうほど、イズハは落ち着いていた。


「ん? ああ、リュウに俺たちの装備を作ってもらおうとしたんだ。けど、装備の元になる素材がなくて」

「素材を取りに行こうとしてるとこ?」


 こいつさっきまで、俺たちの話を聞いていたんじゃないだろうな。


「……ですが、そこの森には魔物が住んでいて、とても危険なんです」

「だったら、ココアを連れて行けばいいじゃない」

「……そうしたいのですが、あまりココアちゃんを使役したくないんです。今日の夕方、ブラストへ出発するつもりなので………」

「……ふ~ん」


 イズハは少しの間考えると、何かを閃いたように「あ」と声を出した。

 多分こいつは今から……。


「じゃあ、私たちだけで行く?」

「却下だ」


 即答した俺にイズハは驚いていた。

 まあ、ある程度予想はついていたから即答ができたわけなんだが。

 こいつのことだ。自分の力量を理解してそんなことを言ったんだろう。

 だが、イズハがどれだけ強くても、俺は魔物に戦える自信なんてない。


「何で断るの? いい機会だから、カズヤに戦い方ってやつを教えてあげるわ」

「そうか、そいつはありがたい話だが、俺はそんな危険なことをせずに目的を果たしたいんだ」

「そんなこと言ってたら、一生かけても無理だと思うんだけど」


 いや、その通りだと思うけども。

 

「いいや。俺はそんな危なっかしいことなんてせずども、もっと簡単な方法があると考えてるんだ」

「どうせ、町についてから装備を買おうって魂胆でしょ?」

「え⁉ いや……そう……だけど」


 考えていることをズバリ当てられ、俺は、言葉を濁した。

 イズハは、相手の考えていることなどお見通しなのだろうか。

 ……もしそうならば、こいつの前で隠し事するのはやめよう。


「ああ、そうだよ」


 もういっそのこと開き直ってやろう。

 

「……あのね、私たち、お金なんてほとんど持ってないのよ。それを理解した上でそんなこと考えてるの?」

「……え、そうなの? ……因みにいくら?」

「五十カル」


 どこの勇者だよ! それになんだよカルって!

 しかも五十カルしかないのかよ。明らかに少ないってことがわかるじゃねえか。


「何でそこRPGみたくなっちゃったんだよ! もう少しだけでも持ってこれなかったのかよ!」

「持ってこれるも何も、もともと持ってるお金がそれだけしかなかったのよ」


 イズハは、エナメルバッグから四角い財布を取り出し、中から銅で作られた硬貨を五枚ほど取り出す。それを見た瞬間、カルというのはお金の単位だということを理解した。


「……それじゃあ、もしかして装備は」

「買えないわよ。一着も」


 ……諦めるしかないのか。

 

「というか、その格好で街に行くつもり?」


 イズハが、俺に向けて指をさす。

 指がさす方を見下ろすと、そこには俺が着ている半袖のシャツ。


「何かまずいのか?」

「まずいも何も、その格好じゃ怪しまれることは確実よ。この子が反応しないのがおかしいだけ。ちょっと考えたら分かることじゃない」


 さらっとリュウの純粋な心を傷付けるような事を言いながら、イズハは、ファンタジーの欠片もない俺の服装を指摘する。

 

「いや、お前の格好も大概だと思うぞ」


 イズハの格好は、この世界はおろか、俺たちの世界でもなかなか見られない巫女服を着ている。

 

「あの、イズハさんのような格好をしてる人は、ごく少数ですが、町で歩いてたりしますよ」

「マジで?」

「マ、マジです」


 ……なんでいるんだよ。

 この世界の人間たちはコスプレが好きなのか?

 

「あ、でも、私の装備もちゃんと作ってよ。ずっとこの格好で居るのも嫌だからね。で、それで何の装備を作ろうとしてたの?」

「もう作っちゃう方向で話が進んでますかそうですか」

「質問に答えて」

「……服の装備、ということ以外は特に決めてない」


 イズハは一度だけ溜息をつく。

 

「……そんなことだろうとは思ったわ。じゃあ、まず何を作るか考えないとダメなんじゃないの?」

「いや、いくつか候補があるんだ。その中から選ぼうぜ」

「候補?」


 リュウは服のカタログをイズハに渡す。

 イズハはそれを受け取ると、パラパラとページをめくっていく。

 時にページをめくるのをやめ、「おお」とか「これいいなあ」など言っている姿は、年頃の女の子ということをひしひしと感じさせていた。

 本の中身を一通り見終わると、「ありがとう」と言ってリュウに返す。

 

「よし、大体分かったわ」

「じゃあ、さっそく何にするか決めるか」

「は? そんな時間なんてないわよ。さっき今日の夕方に出発するってリュウが言ってたでしょ」


 確か、そんなこと言ってたな。

 

「もう私が決めてるから、さっそく素材を取りに行くわよ」


 そう言うと、イズハはこの小屋を飛び出した。


「え⁉」


 なに勝手に決めてくれちゃってんだあいつ。

 ………いや、時間がないのであれば、もうあいつに任せておいた方がいいな。

 服装もイズハなりに考えてくれているはずだ

 それに、魔物に襲われたとしても、多分こいつが片付けてくれるだろう。

 

 俺は椅子の上に置いてあったリュックを背負い、ドアノブに手を伸ばす。

 ……そういえば肝心な事を聞くのを忘れていた。


「……素材っていうけど、何を集めればいいんだ?」


 リュウは少し眉を寄せながら。


「えっと、その、作る装備によって集める素材が変わるので、イズハさんが考えている装備について聞かないと、何を集めればいいのか分からないんです」

「そうか。それじゃ、イズハを」

「ま、待ってください!」


 イズハを呼び戻そうとドアを開けようとしたその時、少し大きな声が古い小屋の中に響いた。

 後ろを振り向くと、そこには服の裾を弱い力で握っている声の主が。

 

「……私も一緒に、連れて行ってくれませんか?」


 ぼそぼそと小さく、可愛らしい声でリュウが言った。


「え? あ、……そうだな…」


 リュウを連れていく……か。

 リュウのさっきの言い方だと、何の服を作るのかが分かれば、必要な素材が分かると言っていた。

 そのためにはイズハを呼び戻して、何を作るのか聞かなきゃならない。

 けど、今そうしてしまうと、リュウの予定も崩してしまう。

 リュウの予定だと、今日の夕方、ここを出発してブラストへ向かうらしい。

 錬金術も素材集めも、いったいどれぐらい時間がかかるか分からない中、ここで無駄な時間を消費するのは決して得策じゃない。

 だったら、いっその事リュウを連れていった方が良いのだろうか。

 ……いや、そうしないと間に合わない。

 少しでも、装備を作る時間を短縮するためには、リュウと一緒に森へ行くしかないな。


「……よし、一緒に行くか」

「ありがとうございます! すぐに準備するので、少しだけ待っててください!」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりに、リュウは笑顔を見せ、奥にある部屋の中に駆け込んでいった。


 ………一応、ココアのやつに了承をもらっておくか。

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