一人息子が一人になった時
両親が亡くなった。
その報せは現実味がなく、呑み込むことができなかった。
報せがあった翌日、会った覚えのない親族が続々と来て、そこでようやく両親がもう帰ってこないことを悟った。
お葬式が終わっても家のなかにたくさんの大人がいる。誰かが抜け駆けして家の資産を持ち出さないように見張ってるらしい。馬鹿馬鹿しいと思った。
数日後に僕の家に残らなかった数人の内、父さんの兄らしい大人が声をかけてきた。
「先日は何も言えなかったが、君さえよければ私のところに来ないかい?同い年の娘もいて、兄弟が出来ると楽しみにしてるんだ」
その言葉に多くの大人が、自分も引き取ろうとしてたんだと声をあげた。抜け駆けするなと怒鳴る大人もいた。
「お前たちはこの子に声もかけず遺産の話ばっかりしていただろう!うちは本家だ!金なんぞ要らん!お前らで勝手にわけろ。うちが欲しいのはこの子だけだ!」
この人が叫ぶと騒いでた人たちが圧されたのか、黙りこんだ。
そして、僕に両親の持ち物で欲しいものだけとっておいで、と微笑んだ。僕は両親の写真だけを手に、本家というところに引き取られることになった。
「あいつは不幸を呼ぶんだ。だから両親は事故で突然死ぬことになった。次は本家も危ないぞ」
本家のおじさんが引き取るための手続きをする、と席をはずしてる間に何人かの大人が囁いた。
あぁ、僕が悪いのか。僕がいるから悪く言われるのか。
この優しい叔父までも、僕が苦しめるのか。
僕は戻ってきたおじさんの車にのり、新しい家族とは距離をおこうとそっと決めた。