29話『ほぼ100%当てる事ができる!』
「結局、セーブとロードが使えなきゃ裏技を探す事さえ出来ないんだよなぁ……」
「仕方ないのですよ。ここはゲームの中じゃないんですから」
俺達は今、モンスター闘技場の観客席で、バトルを眺めながら休憩を取っていた。もちろん、賭けには参加していない。
――キュピーン!
スキル『ナデナデ』のレベルが3に上がった。
「あ、そういえばマスター。これを渡しておきます」
恋は俺に袋を手渡して来た。中身はメダル60枚が入っていた。
「お前、このメダルどうしたんだ?」
「落ちてたメダルを拾い集めて、10枚溜めましたよね? あれでスロットを回したらそこまで増えたのですよ」
マジかよ!? この世界に『運』という隠しパラメーターが存在するなら、こいつはかなり運が強いんじゃないか? さすが女神様との賭けに勝っただけあるな。
――キュピーン!
スキル『ナデナデ』のレベルが4に上がった。
順調にナデナデのレベルが上がっていく。実はモンスター闘技場で休憩している間ずっと、俺は恋の頭を撫で続けている。
誤解とはいえ、俺の軽はずみな行動で泣かせてしまった事に対する罪滅ぼしだ。
「ふにゅ~、気持ちいいのですよ~」
恋はまるで猫のように俺にすり寄ってくる。
かわいい奴なのだが、まさかヤンデレだったとは……
「それでは、受け付けを締め切りまして、次の闘いを始めます!」
そうして直径20メートルほどのリングの中に、三匹のモンスターが登場した。『巨大な牛』と、『恐ろしい顔の赤い鬼』と、『少し小さな虎』
そして、そのモンスターを見た瞬間に俺は勝つモンスターが予想できた。
「あれ? これって小さい虎が有利なんじゃね?」
「そうですか? 牛も鬼も強そうなのです。倍率もそんな感じですよ?」
掲示板に表示されている倍率を見てみる。
・ミノタウロス×2倍
・レッサーデーモン×3倍
・サーベルタイガー×7倍
確かに倍率を見る限りだと、虎は大穴のようだ。いや、でもこの組み合わせは……
俺が考えているうちに試合が始まった。
ゴングが鳴ると同時に、牛は二足歩行で赤鬼に向かって突っ込んで行く。思い切り殴りつけると、赤鬼もお返しとばかりに反撃を試みる。
大体こうなる事は見当がついていた。牛が赤い物に突撃する習性がこの世界にもあるのだとしたら、赤鬼に突撃して行く事は明白だ。そしてこの世界には『敵視』が存在する。牛に攻撃された赤鬼は、敵視によって牛を攻撃対象に選ぶことは間違いない。こうして、強者二匹の潰し合いが始まる訳だ。
虎も様子を見ながら攻撃に参加するが、よほど攻撃力が高くない限り、この強者二匹から敵視を奪うのは不可能だ。
結果、赤鬼は牛に倒されて消えていく。だが、牛もまた激しいぶつかり合いでボロボロだった。こうなってしまっては能力で多少下回る虎でも勝ち目は十分だ。完全に漁夫の利と言ったところか、虎が牛に止めをさして、虎の勝利で幕を閉じた。
「本当にちっちゃな虎が勝ってしまいましたね……って、マスター! 手が止まっているのですよ! ナデナデしてください!」
俺は恋を撫でる事も忘れて考え込んでいた。
あの掲示板に表記された倍率、アレはモンスターの習性や敵視の事まで含まれていないんだ。ただ単純に、モンスターのステータスのみで倍率が決まっている。だとしたら……
「これだ!!」
「うわっ! ビックリしたのです……」
俺は自分でも気づかないうちに大声を上げていた。
「恋! 今まで見てきたモンスターの特徴、全部メモ帳にメモるぞ! この賭け、組み合わせ次第じゃほぼ100%当てる事ができる!」
「わ、わかったのです!」
俺達は観戦していた分も含めて、モンスターの特性を分析し始めた。
結局、裏技なんてものは見つからなかったけど、これならメダル2万枚の伝説の剣も手に入れる事ができる!
こうして、恋と二人で情報を照らし合わせて解析していく。そうしている内に、一つの勝負所が訪れた。
「それでは、次の対戦です!!」
アナウンスが流れ、掲示板に倍率が書き込まれる。
・キラービー×3倍
・グリズリー×1.5倍
・鋼鉄亀×12.5倍
これだ! この組み合わせなら亀が勝つ確率はかなり高いはず。いや待て、もっと手堅い組み合わせまで待つか? いや、俺達の持っているメダルは110枚。これを2万枚まで増やすのなら、いつかは大きく賭けなければならない時が来る。今がその時だ。
「恋、ここで勝負に出るぞ! 手持ちの110枚を亀に全賭けしてくれ!」
「わかりました! ……って、私が賭けてきていいのですか?」
「ああ、この世界に『運』という隠しパラメーターが存在するなら、恐らく恋が一番高いと思う」
俺は恋に全てのメダルを預けて、恋はそのメダルを全て使いチケットを購入してきた。
「それでは受付を締め切ります。モンスターバトルをお楽しみ下さい」
アナウンスと共に、リングにモンスターが登場する。
真っ黒な毛皮に覆われた、体長三メートルはある巨大な熊。
人間の赤ん坊くらいの大きさはある蜂。羽音は聞いているだけで怖気立つ。
そして俺達が全賭けした亀。大人が四つん這いになったくらいの大きさはあるが、登場する時点で動きが遅い……
三者が揃ったところで、試合開始のゴングが鳴った。
「蜂は黒い色に反応して、攻撃をする」
蜂は真っ黒な毛皮の熊に向かって飛んでいく。
基本的に作戦は同じだ。強者二匹を戦わせて、倍率の高い亀が最後に勝つという筋書き。
「しかもこの亀は、フリーにすると永遠に防御力を高める」
亀の甲羅が光り出す。
とにかく防御力を高めるのがこのモンスターの特徴だ。
「マスター。ハチさんの攻撃でクマさんに毒が入りました」
蜂に刺された傷口が紫色に変色している。
亀は防御力が高いだけであって、戦闘能力はかなり低い。だから倍率も高いのだが、相手が毒に侵されれば、その毒が回るまで守ればいい。
「あ! まずいのです!」
熊の鋭い爪が、蜂に動きを捉え、深々と突き刺さった! 蜂はその攻撃で消えていく。
もう少し粘って潰し合ってほしかったが、そこまでうまくはいかないようだ。熊は当然、亀に向かって動き出した。
熊の動きに亀が威嚇を始める。ダンッと跳ねあがると硬い甲羅で体当たりを試みた!
熊は少しよろめくが、まるで毒なんて効いていないかのように反撃を開始した。
ガスン! ガスン! ガスン!
鋭い爪で、硬い甲羅さえ引き裂こうと猛攻を続ける。
「ヤバいのですよマスター……あのクマさんタフすぎます……」
「くそっ! 毒が回るまで持ちこたえられそうにねぇな……だが、亀には奥の手がある!」
この亀、あまり攻撃は得意ではないようだが、とんでもない攻撃魔法を持っている。俺達がデータを取っている間、一度だけ見た。恐らく瀕死にならないと使わないような性質なんだろうが、その威力は絶大だった。
「使え! 起死回生の攻撃魔法! 使え!!」
だが亀は、尻尾を鞭のように使い応戦するだけで、魔法は使おうとしない。
「あわわ……負けちゃうのですよ……」
「大丈夫だ! 防御力を高めているから、そう簡単には死んだりしない。うまい具合に瀕死になるはず……」
熊は亀を持ち上げて、思い切り地面に叩きつけた。甲羅にヒビが入る。さらには容赦なく踏みつけている。
マズいマズいマズい! 本当に死んじゃう! 亀、ひっくり返ってるし! もしかして詰んだ?
バン! と尻尾を地面に叩きつけ、その反動で亀は起き上がる。さらにはその勢いを利用して、熊に体当たりを仕掛けた。
少しは毒も効いてきたのか、熊はよろめき後ずさる。
その時だった。亀の体が光り輝き出す。
「来た! 瀕死魔法来た! これで勝てる!」
だが、熊が猛烈な勢いで襲い掛かって来た。光り出した亀に憶する事もなく、思い切り体当たりをする気だ!
だが、亀に激突するその寸前で、熊に向かって光が放たれた。
「グガアアアアァァ……」
光に飲み込まれ、熊が吹き飛ばされた。そして、サラサラと粒子となって消えていく。
勝った……のか……?
「試合終了~! なんと勝者は大穴、鋼鉄亀に決まりです!!」
「うおお~~っしゃああああああ」
「やったのですよ! さすがマスター!!」
恋と抱き合って歓喜する!
そうだ! メダルを受け取りに行かなくては!
「おめでとうございます。配当金です」
110枚のメダルは12.5倍に膨れて、1375枚になった。
よっしゃ! この調子で確実に勝てる試合が来るまで待てば、マジで伝説の剣ゲットだぜ! ……レプリカだけど。
「おめでとうございます駄主人様。とても楽しそうですね」
「そりゃあ大穴当てればテンションも上がるって! 忍、次の試合はどんな感じだ!」
……ん? 忍……?
クルリと振り向くと、そこにはニコニコと笑顔の忍が立っていた。だが俺は一瞬で感じた。ただならぬ覇気! オーラ! そんな禍々しい雰囲気が忍を包んでいる事に。
恋もそれを感じ取ったようで、素早く俺の後ろに身を潜めた。
「人が真面目に聞き込みを行っているのに、二人でデートですか? マジでふざけてやがるとしか言いようがねぇです」
怖い! 笑顔なのが逆に怖い!
「お、落ち着けって……確かに遊んでいたのは悪かったよ。だけど、ちょっとした息抜きだったんだ。ほら、まだ集合時間まで時間あるだろ?」
って、あれ? 今って何時だ?
「まだ時間がある? なに言ってやがんですか! 15時30分集合って言っておいて、もう17時ですよ!!」
なん……だと……?
俺は慌ててカジノの外へ飛び出すと、周りはすっかり暗くなり、もう少しで日が落ちようとしていた……




