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25話『この世界には『敵視』が存在するのか』

「魔王ってやつはどこに住んでいるんスか?」

「魔王はここから遥か北の神殿に住んでいると言われています」


 後ろから貫かれるような視線を感じながら、俺は青年から情報を集めていた。もう女性に声をかけるのは禁止だと言われ、一人の青年に声をかけた訳だが、これがなかなか思ったようにいかない。


「ん~、じゃあ、この辺で役に立つアイテムとかってあるッスかね?」

「さぁ……僕にはちょっとわかりませんね」

「この辺で気を付けた方がいいモンスターとかは?」

「すいません。モンスターのことは全然わからなくて……」


 どうやらNPCは聞かれた事しか答えないようで、一人から情報を得るのにも時間がかかりそうな状態だ。


「あ! それじゃあ、あなたのおススメ情報を教えてもらえないッスか?」

「そうですね……魔王を倒す旅に出るのであれば、北に向かうのがいいでしょう。この街から道なりに北へ向かえば、『カキナナの街』に行くことができます」


 そうして青年と話を終えてから、俺はしばらく考えこむ。


「一人一人、ちゃんと情報を聞き出そうとすると結構時間がかかるかもしれませんね」

「マスターどうするのですか?」


 忍と恋は俺の指示を待っている。

 俺は手帳を取り出して時間を確認した。この手帳、表面にはデジタル式の時計まで表示されている。


「よし、じゃあこうしよう。人から情報を聞き出すときには『あなたのおススメ情報を教えて下さい』って言うんだ。あまり情報だけに時間を取られる訳にもいかないからな。そんで今から三手に分かれて行動する。忍は外で、道行く人から情報を集めてくれ。恋は逆に、民家や店の中にいる人から情報を集めて欲しい」

「わかりました。でもご主人様は何をしてるんですか?」

「俺は武器や道具などを見て、どんなものを買った方がいいか考えてみる。買い物は俺に任せてくれ」


 二人はコクンと頷いてくれた。質問はないな!


「貴重な情報はちゃんと手帳にメモするんだぞ。じゃあ今が朝の9時だから、一時間後の10時にこの街の入口で落ち合おう。では行動開始!」


 こうして俺達は別行動を取ることにした。情報は忍と恋に任せるとして、俺はアイテムの確認だ。

 まず俺は武器防具屋に足を運んだ。ここで装備品の値段や性能をチェックする。


「へいらっしゃい!」


 店主に軽くお辞儀をして、俺は物品を見て回る。

 どうやら主な装備品は、武器、盾、鎧、兜のようだ。通貨には『イリーナ』が使われており、どの装備品も大体100イリーナで売られている。手持ちのお金が1000イリーナに対して、俺達三人の装備を全て揃えようとするなら、それ以上のお金が必要な気がする。

 ここはあえてスルーするもの手かもしれない……


 次に俺は道具屋に入った。どんなアイテムがあるのか確認したところ、普通のゲーム同様、体力を回復させる薬草。魔法力を回復させる魔法薬。他には毒や麻痺などの状態異常を回復させるための薬が売られていた。

 俺達は三日で魔王を倒さなくてはならない。それはつまり、宿屋を使って休むという行為は極力さけて、全てアイテムを使って回復しながら突き進まなくてはならないということだ。

 俺は、50イリーナの薬草を三つ。100イリーナの魔法薬を三つ購入した。

 アイテムだけで手持ちのほぼ半分のお金を使ったが仕方がない。恋の職業は賢者。恐らくこの先、回復魔法を覚えていくだろう。魔法力を回復させるアイテムは必須だ。


 次に、一応宿屋に向かってみた。一泊100イリーナなので、休もうと思えばいつでも休める値段のようだ。

 その後もウロウロと店を回りながら、値段を確認していく。家計をやり繰りする主婦というのはこういう気持ちなのかもしれない……

 そうしているうちに、一時間が経過して、俺達は再び合流した。


「どうだ? 有力な情報はあったか?」

「特にありませんね。強いて言うなら、この世界には伝説の武器防具が存在するという話は聞けました。……まぁどこにあるのかまではわかりませんでしたが」


 ほう。伝説の装備とな! RPGの王道だな。頑張って手に入れたいものだ。


「恋は何かいい情報はあったか?」

「えっと……ここは美味しいステーキのお店が有名らしいです。A5ランクの牛肉が食べられるのはここだけらしいですよ! 北に向かったカキナナの街ではフルーツが盛んらしいですね」


 食レポ!? こいつはいつから食べ歩き専門のグルメキャラになったんだ!?


「つまり、特にこれと言った情報はなかったんだな?」

「そ、そんなことないのです……武器や防具はちゃんと装備しないと効果がないって情報なら得ましたよ」


 どんだけ初期のRPG情報だよ!


「うわ~んマスター捨てないでぇ~! 役に立たないからって捨てないでほしいのです~!!」

「いや別に捨てねぇよ! 最初の街の情報なんてこんなもんだろ。腰にしがみつくな歩きにくい!」


 ビービー喚き散らす恋を引きはがして、俺は改めて号令をかける。


「うっし! そんじゃいよいよ次の街に行くとするか! 行くぞお前ら!」

「お~!」


 そうして俺達は街の門をくぐり、フィールドに出た。


「とりあえず手始めにモンスターと戦ってみるか」


 グルリと見渡すと、丁度近くに中型で青い犬のようなモンスターがウロウロしている。


「よし。あいつと戦うか。忍、攻撃してこい」

「……は?」


 一瞬理解できない様子で、忍がワンテンポ遅れて聞き返してくる。


「だから戦闘だよ戦闘! あいつと戦うの! ほれ、早く攻撃してこいって」

「ちょ、ちょっと待って下さい! なんで私なんですか!?」

「なんでって、お前が一番攻撃力が高いからだろ? それに俺、勇者だけど武器持ってないし」


 俺は手のひらを広げて、何も持っていないアピールをする。


「そ、そういえばご主人様。買い物は俺に任せろとか言っておいて、なんで武器を買ってないんですか!?」

「いやさ、今全然お金なくて、ここで質の悪い武器買うくらいなら、次の街でもっと良質な武器を買った方がいいと思って」

「丸腰でモンスターと戦いながら次の街に向かう気でいるんですか!?」

「大丈夫だって。忍、お前は武闘家で武器が無くても十分強い職業だし、いざとなれば恋の魔法もある。こんな初期のモンスターなんかにやられたりしねぇって。ほれ、訓練だと思って思い切りぶん殴ってこい」

「ぎゃ~! 待って下さい怖いです! 心の準備が~!!」


 俺が背中を押すと悲鳴を上げて必死にブレーキを掛けてくる。

 こいつ、本当に魔王と戦えるのかな……


「仕方ねぇな。じゃあ恋、お前の魔法から試してみるか。使ってみてくれ」

「アイアイサーなのですよ! むむむ……『フレイム!』」


 ぬん! と、両手を前に突き出して、恋は魔法を唱えた。すると手の先から真っ赤な炎が出現する。ドッジボールくらいの大きさの火球は、まるでピッチングマシンの剛速球のようなスピードで一直線にモンスターへと向かって行く!


 ――ズガアアン! 


 直撃すると、火球は爆弾のようにはじけ飛び、周囲に熱風を巻き起こした。モンスターは跡形も無く消し飛び、その中央にお金が落ちていた。


「そ、想像以上に凄い威力だな……これが『特技』か」

「でも魔法力の消費が大きいのですよ。そう何発も使えません」


 そうだろうな。まぁそのために魔法薬を買っておいたから問題ないだろう。あとは……


「ほれ、次は忍の番だぞ。ピンチになったら今の魔法で援護してやるから、戦闘に慣れてくれ」

「ううぅ……わかりました……」


 忍が重たい足取りで、別の場所にいる同じ犬のようなモンスターに近付いていった。そして拳を構える。

 お互いに睨み合い、忍がついに攻撃に出た!

 ダッと駆けて間合いを詰めると、その拳でモンスターを真っすぐに突いた!


「ギャン!」


 モンスターは軽くうめいて倒れるが、一撃では倒せなかったようで、ムクリと起き上がった。


「グルルルル……ガウガウがウ!!」

「ひゃああああああああああああ」


 モンスターは怒り狂ったかのように吠えながら突進をして、忍はそんなモンスターにビビり逃げ回っていた。


「いやあああああ助けてください!」

「マスター、シノブが追い回されてるのですよ。魔法使いますか?」

「いや、ちょっと待て……」


 俺は忍が泣き喚きながら逃げ惑う姿をじーっと見つめた。


「ガルルルル! ガアアアア!!」

「怖い怖い怖い! 殺されます! 食い殺されます!!」


 モンスターは俺達には目もくれず、忍だけを追い回している。


「なるほど、この世界には『敵視』が存在するのか」

「テキシ? なんなのですかそれは?」

「敵視……ヘイトとも言うんだが、敵が俺達を攻撃するときに、誰を狙うかを決める要素のことだ。例えば、俺達三人が同時に敵を攻撃したとする。そしてその結果、忍が一番大きなダメージを与えたとすると、敵は忍に対して大きな敵視を抱き、忍を攻撃対象に選ぶというシステムだな」

「へぇ~なるほど」


 俺が説明をしている間にも忍は逃げ惑っている。


「そんな説明は後でいいから、早く助けて下さい~!!」


 全く仕方ねぇな……。まぁ俺も戦闘に慣れておかなきゃいけないし、いっちょ参加してくるか。

 俺はグルグルと同じ場所を回っている忍に向かって駆け出した。モンスターの左斜め後ろに付くと、思い切り地面を蹴って跳躍する。

 フワリと体を浮かび上がらせて、モンスターの頭上まで飛んだ俺は、落下する勢いに乗せて拳を振るった。


 ――ドゴォォン!!


 思い切り振り下ろした拳でモンスターを地面に叩きつけると、モンスターはそのまま光になって消えていく。あとにはやはり、お金が落ちていた。


「ふぅ。まぁこんなもんか。忍、大丈夫か?」


 モンスターを倒したとあって、忍はフラフラと俺に近付いてきたかと思えばいきなり胸ぐらを掴んできた。


「もっと早く助けて下さい!」


 だが、そんな忍に俺が思うのは、涙目可愛いな、という事くらいだった。

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