プロローグ
見切り発車してみました。
僕たちの世界は残酷だったのだ。
異世界。
魔王が支配し、全てが抑圧された世界。
勇者は悉く叩き潰され、その尸は無残に砕かれ民衆の前に見せしめられた。
そして、怯える民衆は自らの無力さを悟り、魔王の重税と暴政に耐えることしかできなかった。
だが、彼らは諦めなかった。
たとえ勝てなくても、逃げ道を作ろう。
世界に逃げ場がないのなら、別の世界に移ればいい。
そうして、僕たちの世界に逃れてきた人々は世界難民として登録され、人口減少で深刻な問題に陥っていた日本に新たな活路を見出した。
日本は魔法技術を独占したのだ。
『こちら、B43部隊。日本海上空にて待機中』
最後の部隊が遂に揃った。
あの忌々しい日本国を襲い、世界の覇権を手中に収めよう。そういった国連加盟国の思惑によって、日本は世界中を敵に回したのだ。
抜け駆けなど許すものか。出る杭は打たれる、そのことをとくと思い知るがいい。そんな雰囲気がそこにはあった。
「うむ、全部隊、日本国を破壊せよ!!!」
国連軍総司令官、ウィリアム・カースロードの一言で、世界各国の部隊の総空襲が始まった。
『投下!』
クラスター爆弾がふんだんに装備されたこの国連軍戦闘機部隊は、一部民間団体に悪魔の部隊といわれ、軍の派遣反対のデモを引き起こす原因とまでなった。
だが、各国とも、一致団結した世界を敵に回すのは危険だと断定し、他国に同調するため、その民間団体は悉く叩き潰した。遡求裁判に、秘密警察、軍の駐屯地提供を名目にした行政代執行などなんでもござれ。
世界は魔法と言う名の新兵器を前に理性など失っていたのだ。
だが。
『相手陣営の被害、ゼロです!!!』
「なんだと!?チィ、なら背に腹は代えられぬ。
核ミサイルを用意しろ。一時間後、一斉放火を
始める!!!」
彼は、暗い司令室で歯ぎしりをした。
おもむろに立ち上がると、机の上の小物を全てひっかけて落とした。コインゲームのコインのように落ちた高級な陶器が砕け散った。
「ちくしょうが、あの弱小列島ごとき、我々に
かかればすぐに……」
彼は頭に血が上り、驚くほどに顔が真っ赤になっていた。
「世界の軍事力をなめるな!!!」
彼は、そう叫ぶと一人扉に向かって早足で向かった。
「ウィリアム司令官様!いけません!我々の職務
はまだ……」
「黙れ、あと一時間猶予はある!私は行きつけの
店にでも行ってストレスを発散せねばやって
いられないのだ!!!」
初老の彼は、自分が築き上げた全てのキャリアが台無しになりそうで怒り狂っていた。
乱暴に高級そうな扉を開けると、そのまま何も言わずに出て行った。
「総司令官殿」
「誰だ貴様?」
おもむろに声をかけられ隣に顔を向けた。
「暗殺者です。こんにちは」
その言葉に、
ぞわり、と
悪寒が背筋を駆け抜けた。
そして、そのときにはもう遅かった。
総司令官は倒れ伏し、彼を中心として血の海が出来上がっていった。
監視カメラも赤外線センサーもましてや警備員すらを素通りしていった何者かの形跡は皆無だった。
結局、彼が発見されたのは一時間後だ。
頭をなくした動揺で、国連軍が凶行に走るのは分かりきったことだ。血走った目で躊躇なく指令を発したナンバーツーが発端となり世界の核兵器が日本に向かう。
だが、あり得ないことに、本当にあり得ないことに。
日本で炸裂するはずだったその悪魔の凶器は消滅したのだ。なんの比喩でもなく、言葉通りの意味で。
そして、日本は世界に知らしめた。
我々はお前達に敗北することはあり得ない。
そして、次の瞬間、核兵器よりも凶悪なナニカが日本を除く全世界を覆った。
悲鳴をあげる暇なんてない。何が起こったかなんて誰にも分かるはずがない。
ただ、現実として、そこにあった文明が消えた。
日本は世界の勝者となった瞬間だった。




