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0.プロローグ『聖者』

ようやくまとまった文字数に行きついたので

久しぶりというか実に3年ぶりの新作でございます。

爵位萌えは相変わらず公爵推しなのですが、最近、聖職者へ萌えを拗らせた結果…なお話です。

ハピエン確定なので、安心してお読みいただければと思います

 ここは中継都市のひとつ、王都ラデンより北に馬で三日ほどの距離にある商業都市レザリア。

 その都市の中心に建てられた厳かに佇む主神を祀る神殿。

 

 多数の信者が行きかい、日々の糧に祈りを捧げる厳かだが賑やかでもある場所。

 その地下に作られた礼拝堂には、主神を祀る大きな水晶が安置されている。

 

 朝日もまだ昇らぬ未明、朝露も作られる前の時間。

 白いローブに身を包み目深にフードを被った男は一人、水晶の前に立ち手をかざす。


 そしてそれに神聖力を注ぎ込みながら、小さな声で聖句を唱え始めた。

 すると水晶の奥から光が溢れだし、ひとつの光景を映し描いていく。


 光の中に大きな寝台に横たわり、深い眠りに落ちている美しい少女が浮かぶように映されていた。


「ああ……ヴィヴィ。今日の君も美しい」


 滑らかで絹糸のような白金色(プラチナ)の髪。

 今は見ることが叶わないが、閉じられた瞼の奥には陽光のような金色に瞬く瞳がある。


 その金色の中に自分が映り込むならどれほど幸せな事か。

 想像するだけで、彼は体の奥から震えだすような恍惚を覚えてしまう。


 ヴィヴィ。

 エルウィンザー公爵令嬢、ヴィクトリア。彼の運命。


 うっとりとした声で、映し出されたものへ声をかけていると背後から咳払いの音が聞こえた。

 途端に鮮やかに映し出された映像が乱れてしまう。

 

 遥か遠方の『今の』光景を映し出す、それは常軌を逸した繊細さで神聖力を魔力へ変換する操作が必要な魔法。

 神聖力と魔力を相互に変換することが出来るのはこの世界で彼ただ一人。


 不意な物音のせいで集中が切れ、制御が乱れてしまう。


 その微かな波動のぶれのせいか、映像の中の少女は何かの気配を感じたのかのように身じろいだ。

 人形のように閉じていた彼女の閉じた睫毛が揺れて寝返りを打つ。

 

 彼女が目覚める気配を察した男は諦めたように水晶から視線を落とし、そして静かに水晶へ神聖力を注ぎ込むのをやめた。


 水晶の内部から溢れ出ていた光も同時に消え、少女の姿は闇に溶けるように消えていく。


「朝の礼拝の邪魔をするなと言っただろう。カリーム」

「それは礼拝ではなく覗きって言うんだ。聖者様」


 神経質そうに眉を顰めつつ長い黒髪を鬱陶し気にかき上げながら、カリームと呼ばれた男が呆れを含んだ声色で答える。

 彼は珍しい褐色の肌と長い黒髪を持ち、聖者とは正反対の闇に溶け込むような黒衣の礼服を身に纏っている従者にして腹心の男。

 

「僕の女神へ拝しているのだから、立派な礼拝だろう」


 聖者という称号を持つにも関わらず、不審者呼ばわりされた男は不服気に言葉を返す。

 そのまま振り返ると、邪魔だてした従者を睨みつけた。


 相変わらずぶれない男の返答に、半ば諦めながら彼の腹心であるカリームは肩を落としてため息をつく。


「大体日が昇るのはもう数刻先であって、まだ朝ではなく真夜中だ。夜番の司祭を礼拝堂から追い出すな」

「仕方ないだろう。彼女は早起きで日が昇る頃じゃ間に合わないんだ」


 働き者さんなんだ……と、うっとりした表情を浮かべながら聖者が少女を表する言葉にあからさまに嫌な顔をするカリームだった。

 

「王都に着くまで我慢したらどうだ聖者アーサー。数日で着く距離だし王都に行けばその女神殿と会えるんだろう? 神殿の最高位に坐するお前の我儘に振り回される司祭たちが気の毒でならない」


 アーサーは黙ったまま深くかぶっていたフードを外すと、鮮やかな蜂蜜色の髪が零れ落ちる。

 聖騎士と認定を受けてから数年、魔王軍と最前線で戦い抜いていたとは思えないほど傷ひとつない白磁の肌が覗く。


 彼は魔王の軍隊に奪われた土地を取り返し、数百年ぶりに国境を元に書き換えた功績を称えられた。

 そして、若くして聖騎士から聖者の称号を得ることになる。

 

 聖者アーサー・グランベル・エルハーベン、23歳。


 彼が生まれたのは23年前、シェバーノ王国の第一王子として祝福の星が降り注ぐ夜に生まれ落ちた。

 

 聖騎士として覚醒し、12歳の誕生日に魔王軍の討伐に旅立ってから実に11年ぶりの帰郷となる。

 国を救った聖者だと行く先々の街で歓迎を受け、民衆たちに救いと慈愛を与える神の子。

 

 至る場所で奇跡を起こし民衆の絶大な支持を得ながらの凱旋の旅は、あと数日で終着地王都ラデンに着く。

 

 神の代理人と呼ばれる唯一の男は、神への信仰より愛する令嬢を女神と讃えるおかしな男である。


 それを知るのは、傍に居る腹心カリームただ一人。


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