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【第61話:しずかな二人のはなし】

ゴオオオオォォォォォォォォォ!!


 広間中に広がる真紅の炎。

魔竜スヴァイレクの吹いたファイヤブレスだ。

オレンジにぎらぎら輝く致死の炎が部屋を埋め尽くした。

 ユアは天井まで飛び壁との境を蹴り砕き跳ねる。

スヴァイレクをして追いきれない速度は全身を覆うラウマの強化魔法。

少し長くなったスヴァイレクの首に黄金の剣先が迫る。

気付いたスヴァイレクが背を向けると、追って流れてきた尾がユアを捉える。

ズドンと重い音を立ててユアが壁にめり込んだ。

普通なら3回は死ねる攻撃だ。

 アミュアはレビテーションを多重発動し緊急回避。

これも天井付近からアイスニードルを放つ。

その数はかつてソリスに見せられたものを超えていた。

20本以上のアイスニードルは複雑な回避軌道を描きスヴァイレクに突き立つ。

小さな矢を無効と思ったかユアに集中したスヴァイレクはほとんど全てを食らった。

このアイスニードルにはアミュアのオリジナルでランダム軌道の他に凍結を仕込んであった。

全身に突き立った矢は、そこを起点に大きく凍結する。

見た目以上に魔力を注ぎ込んだ隠蔽式攻撃魔法だ。

重ねた式は四重(クワトロ)

賢者ソリスにならぶ魔力放出と詠唱能力だった。地面に落ちる寸前に再度レビテーションで着地するアミュア。

そのまま受け身を取りつつ柱の影に移動した。

ユアを追撃しようと踏み出したスヴァイレクが凍結した各部に引かれ、膝をつく。

「おのれ!!小娘め!!小癪な真似を」

叫んだスヴァイレクの首の横には横回転しながら迫るユア。

「黙れ!!」

 ユア渾身の横殴りは、スヴァイレクの首にめり込んだがペルクールの雷は防がれてしまう。

影が覆って防ぐのだが、元が黒い竜なのでよく判別できない。

威力は伝わったのか、スヴァイレクの巨体が横跳びに壁にめり込んだ。

追い打ちをと迫ったユアに再度尾が唸り飛ぶ。

細い先端が視認しづらいが、速度は途轍もない。

ユアをして回避が間に合わないのだ。

クレイモアを斜めに受け流したが、殺しきれずまた壁まで下がらせられる。

ドンドン!とアミュアが隠れた辺りの柱も倒される。

ユアを打った尾がそこまで行ったのだ。

アミュアはすでにそこには居ないのだが、ユアにさえ状況が解らなくなっていた。

スヴァイレクにはなおさらである。

ユアが再びダッシュして弧を描く。

正面から単純な攻撃では通らないと判断したのだ。

その二人を見下ろす位置。通路天井の巨大なシャンデリアにアミュアが乗っている。

アミュアの脳裏には師匠の指導が蘇る。

(アミュア、敵の意識の外にでるのだよ。そこが最も魔法が当たる位置だ)

アミュア会心の移動であった。

崩れる柱の影に沿って、スヴァイレクに見せたことのない飛行魔術を駆使しここまで回り込んだのだ。

スヴァイレクの尾が砕いた柱が、皮肉にも死角を増やしてくれた。

(はでなまほうはいらない)

アミュア渾身のアイスジャベリン改。

最大限の回転をこめて威力を高めつつ、隠蔽魔法で気配を隠す。

あとはユアが隙を作ってくれる。

スヴァイレクは器用に四肢と尾を使う。

攻撃する腕が5本あり、その他に噛みついてくる首と、ブレス。

死角がない攻撃者であった。

ユアも竜との戦闘経験が少なく、勝手が掴めない。

そうして均衡した接近戦を嫌い、スヴァイレクが尾を使い距離を取ろうとする。

宙に浮いて回避したユアに右手の爪が迫る。

(ここ!)

アミュアの魔法が一点の穴を通すように精密にコントロールされる。

尾を振り抜き、死に体となったスヴァイレクの残った左目にアイスジャベリンが突き立った。

「ぐああああ!!」

スヴァイレクの悲鳴にユアの跳躍が重なる。

視界を失ったスヴァイレクの右手はユアの横を裂き抜ける。

ユアの右手から血煙があがるが、止まらず黄金の光がスヴァイレクを捉える。

 その寸前にユアは左目の端にセルミアを見た。

しまったと思ったときには銃撃されていた。

その馬車をも一撃で粉砕する強力な弾丸がユアを狙った。

弾丸がユアにめり込む直前、スヴァイレクの右手が戻りユアを守った。

粉々になる右手の影でユアの剣先がついにスヴァイレクを捉えた。

カッ!

一瞬で黄金の爆発に包まれる部屋は全ての者の視界を奪う。



ユアは不思議な声を聞いていた。

驚くほど静かな世間話のような囁きを。


ーーーすまないセルミア。3度目は許せなかったよ。


ーいかないでスヴァイレク。


ー私をひとりにしないと約束したじゃない。


ーーー久遠の果でまた巡り会おうぞ。


ーそうして貴方まで去っていくのね。


ーーーなに、少しだけだよ待っている。


ーーーさようなら、愛しいセルミア


ーそんな言葉なんてもういらないのよ。



 それは声を荒げることはない別離の会話であった。

ユアにはすぐに意味がわからないほど、落ち着いた穏やかな会話であった。

黄金の輝きが収まると、そこには舞い上がる大量の黒いチリがあった。

とんっとユアの隣にアミュアが降りてきた。

「大丈夫?!ユア血が出てる」

ユアの右手はずたずたに裂けていた。

そこから止めどなく血があふれる。

ペタンと力が抜けて座ったユアは痛みに震えた。

「いたた、今頃痛くなってきちゃった」

「まって今円環を試してみる。いまなら力がまだ残っているはず」

ユアの両手にアミュアの両手が重なり金色の光が弱々しく巡りだす。

アミュアの顔が痛みに歪んだが、声はこらえることができた。

それはラウマの力を借りないアミュアの奇跡の力だった。

消費は多くないが、アミュアに痛みが伴うのだ。

(この痛みをラウマさまやユアが代わりに受けてくれていたんだ)

ユアの止血が手一杯で、力が切れる。

「ありがと痛みがよくなったよ」

ユアは汗塗れだがにこりと答えた。

 やせ我慢だとすぐわかる顔だったが、円環は痛みが激しくこれ以上は時間を置かないと無理だとアミュアは判断した。

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