【第31話:そして騒ぎがはじまった】
ここから第4章です。よろしくお願いいたします。
日が少し登りだしたころ4人で中庭に降り、荷物を積み込んだ。
カウンターが空だったので、チェックアウトは諦め短い書置きだけ残した。
追加清算があればハンターカーニャまでと。
馬車にミーナが乗り、アミュアが乗ろうとして動きを止め叫ぶ。
「待って!!」
後ろからの声にカーニャとユアが振り返る。
目を閉じたアミュアが続ける。
「影獣の気配があった!」
聴いた瞬間にユアが跳ね、馬車の前にでる。
進路警戒だ、短剣は既に抜かれていた。
アミュアはミーナを馬車に押し込み、腰の銀ロッドを抜きレビテーションで馬車の屋根の上に。
上方を含んだ、前以外の周囲警戒だ。
無詠唱でカーニャがディテクトイビル。
「反応はなし、静かすぎる‥‥一旦外まででましょう。」
カーニャも耳を澄まし警戒を深め、馬車の運転席に乗る。
ディテクトイビルの範囲は城外までは届かない。
ユアの言っていた通りに、中庭の馬車置き場には他に誰も駐車していなかった。
昨夜は数台停まっていた。
右に出るユアが出口とは反対側の2方を警戒、1方と上空をアミュア、前方はもちろんカーニャが警戒しながら馬車を進めた。
城塞の入り口門に差し掛かると、カーニャが馬車を停めた。
同時にユアが前方に飛び出る。
入り口の外に人影がある。
大きな影に赤い瞳が二つ。
以前に山間で見た巨大な人型影獣だった。
「押し込むからつづいて」
ユアはカーニャに短く告げ、同時に前方に飛び出す。
アミュアは詠唱が終わりディテクトイビル。
「前方1」
他には敵はまだいないと、簡潔な報告にカーニャがうなずき馬車を進める。
ドゴォ!!
ユアが影獣にぶつかる、短剣はユアの身長ほども延長され金色に輝く。
足元の石畳を半分ほど吹き飛ばした。
「やば!馬車通れるかな?!」
叫びながら、後ろに飛んだ影獣を追うユア。
その瞬間に城壁の扉が勢いよく落ちた。
自重で落ちるタイプの鉄格子ドアだ。
城壁外苑の門口下には、この鉄格子を受ける小さな穴が一列横並びにあり、扉が差し込まれ固定される。
ユアは分断され、焦るが影獣は手を止めず両手の斧で攻めてくる。
受け流しながら、後方を気にする余裕はない。
カーニャの無事を問う叫びがあったが、答える余裕もない。
呼吸を切らせない猛攻だ。
(クレイモア持ってくればよかった)
馬車との分断は想定しておらず、後部ドアの外側にクレイモアは固定して置いてきていた。
剣自体の重量が軽いので、影獣の獲物を流しきれず切り返せない。
「初めましてと言うべきかな?ペルクールの使徒よ」
切り下ろしを剣で受けたユアを押し込みながら話しかける。
「私はスヴァイレク。貴様を殺す影だ」
言うなり前蹴りが飛ぶが剣で受け、スヴァイレクの力も借りユアがバックステップ。
やっと間合いが開いた。
「ユアよ。邪魔をするなら滅ぼす」
ユアの両目が赤光を流し、左に流れる。
右手の剣はペルクールの雷を纏い、黄金に輝く。
短期決戦にでたのだ。
スヴァイレクの獲物は片手斧。
両手に一本ずつ持ったそれは、普通の人間なら両手持ちであろうサイズだ。
そのスヴァイレクが飛び退る。
すぐ横の手すりが吹き飛び、粒子に変わる。
(あれは受けられぬな)
黒い炎に縁取られたスヴァイレクは冷や汗を流していた。
紙一重で躱したそれが、致死の一撃だと知っているのだ。
少し開いた間合いも、ユアの足なら有利だ。
間合いを詰めたいスヴァイレクだが、ギリギリの綱渡りを続けることが求められる。
スヴァイレクの体を覆っていた黒い炎が滲み消えていく。
ペルクールの雷はかすっただけで、黒い炎を拭き散らしスヴァイレク本体すら削る。
同時に現れた両の瞳は、ユアと同じく赤い光をもらす。
「これはタフな戦いになりそうだな…」
ニヤリと呟くスヴァイレクの声はユアには届かない。
一方のユアはこの隙に後方に叫ぶ。
「必ず追いつくから!裏に逃げて!!」
ユアの叫びが出口のトンネルにこだまする。
馬車が全力の後進からターンする、複合素材の車輪から火花が列になり散った。
「後方反応なし!」
再度のディテクトで確認後報告はアミュア。
屋根の手すりに片手でつかまりロッドを振りかざしている。
(ユア…無理しないでね…)
後ろ髪引かれつつカーニャは全力機動を馬車に強いる。
ユアの実力に疑いはないが、カーニャは心配になってしまうのだった。
ターンが終わり、そのまま火花を散らしつつ中庭後方の裏門に向かう。
そこは昼間観光した裏庭経由、裏口に至る。
裏庭に出たところで、後ろを見ていたアミュアが、カーニャに提案。
「レビテーションで上がってみる!索敵反応なければユアの援護にいく!」
戦闘モードのアミュアは逆に言葉がするするでてくる。
アミュアもユアへの心配が、隠しきれない。
「了解、無理はしないで!前衛無しだからね!!」
カーニャも叫び返す。
間も無く馬車は裏庭を半分進んだところだ。
出口の裏門も外を透かし開いていた。
詠唱してからのレビテーションで一気に城壁にあがるアミュア。
魔力が漏れるほどの多重詠唱でいつもの倍以上の速度。
城壁は3階相当の高さだ。
アミュアの離脱を見ていたかのように、裏口の両開き扉が外から閉まってくる。
「くっ、罠か!!」
カーニャは決断が早く、壁際に馬車をよせていく。
こうしてセルミア勢力とユア達の戦いが始まったのだった。
朝日を戦いの幕開けとして。




