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【第25話:必死のきょうてき】

 落ち込んでいるノアも食事はちゃんと取った。

多少マナーが乱れ、後半はフォークを投げ捨て手づかみであったが。

セルミアはちょっとこめかみがピクピクしていたが、笑顔は崩さなかった。

「どうかしら?もっと食べられるなら持ってこさせるけど?」

ニコニコ明るく聞くのだった。

「‥‥」

 ノアは無言。

口の周りと、両手はソースや油でべとべとで、それをテーブルクロスで拭いたので、辺りは大惨事であった。

テーブルクロスは大きな長机を包む、大変高価そうな刺繍入りの大判である。

何年も掛けて作り上げた作者も草葉の陰で泣いているだろう。

ナプキン代わりにされて。

そのあたりの物に価値を感じないセルミアが主人で良かったとも言える。

「あなた達、ノアの口と手を綺麗にしてあげて」

 控えていた影メイド達に指示をだすセルミアは特に表情に変化はなかった。

そうして二人がかりでメイドが拭き上げていると、鼻がむずむずしたのかノアはメイドさんのエプロンをおもむろにつかみ。

ちぃーん

と鼻をかむのであった。

これにはさすがの無表情メイドさんも青筋であったが、主人には逆らわず無言でご奉仕するのであった。

メイドの鏡である。




 ノアのために準備された寝室。

白で統一されたふわふわの寝具、真鍮で装飾の入った天蓋付きのキングサイズベッドである。

4つも5つも準備されたフリル付きの枕は、驚くほど沈みこみ頭を支えた。

そうして寝かしつけたノアの髪をやさしくなでる慈愛に満ちたセルミア。

「なにも心配いらないのよ、好きなだけ眠りなさいノア」

そういって目を閉じるまで辛抱強く髪をなでてあげるのであった。

終始無言のノアが目を閉じすやすやと寝息を立て始めた。

(やっと寝たわ。明日からはメイドにさせましょう)

なにげにメイドさんの過酷な日々は続きそうである。




 最奥にあるセルミアの寝室。

その前室には大きなデスクの他に、ソファとテーブルがあり、かなり贅沢に空間を使っている。

余白の多い部屋だった。

家具は最低限、装飾も華美にならず、しかし統一感が全体にある趣味の良い部屋であった。

所々にクラシックな雰囲気の魔石燈があり十分な明るさであった。

ダークブラウンのソファにセルミアはいた。

少し疲れた顔で思案している。

(これで後はノアの心に入り込めればよいのだけど。)

 足を組みなおし、表情を改める。

疲れは残っていなかった。

(あのアミュアもユアも私の影を受け付けない。ノアもだめだった)

 セルミアは時間をかけて見つめると、影獣の種を植えつける事が出来るのだ。

その能力で連綿と過去から支配者達のあいだにわだかまっていたのだ。

 ここもとある王族の流刑地として築かれた館であった。

王都から近く、使いやすかったのでのっとったのだ。

逆にセルミアの配下はすべてその種から育てた。

長く種を育てた人間は影獣に変わり果てるのだ。

(あのカーニャという娘‥あれも種は植えたはずなのに、いつの間にか消されていた)

なにか特種な生い立ちだとは、かつて雪月山脈であった時に確認している。

 セルミアは相手の思考も、ぼんやりとだが読めるのだ。

それはダウスレムのように全て読み解ける能力ではなかったが、思考誘導に適した能力ではあったのだ。




 コンコンコン

丁寧なノックと共に扉の向こうからこえが来る。

「スヴァイレク様とレヴァントゥス様がお戻りです」

メイドの声だった。

「入ってもらって」

短く答え視線だけドアに当てた。

間も無く二人が入室する。

レヴァントゥスは先ほどの姿のまま。

スヴァイレクはいつもより控えめなサイズになっている。

ある程度自由に姿が変えられるようだ。

 そうしてセルミアの横まで来て跪く二人にセルミアが声をかける。

「楽にして頂戴、誰も来ないわここは」

その言葉を聞き二人はセルミアの向かいの大きなソファに並んで座るのだった。

しばらく無言が続くが、二人共微動だにしない。

こうゆう時主人が深く思考に入っていると知っているのだ。

「ノアは私の方でうまく飼いならすわ。あのカーニャの妹ミーナといったかしら?」

「はいミーナ・ヴァルディア。ヴァルディア家の次女ですね」

即答でレヴァントゥスが答える。

ユア達が王都に来てから、念のためスヴァイレクではなくレヴァントゥスを監視に付けていた。

スヴァイレクは一度ユア達と面識があった。

影の姿での面談だったが、念のためである。

「ミーナを攫いなさい」

そこのコップを取ってと言うように簡単に犯罪が指示される。

「スヴァイレクはユアを、レヴァントゥスはアミュアを抑えて」

ごく、と二人の喉がなった。

影獣も恐れる心があるのか。

一瞬の間の後答える。

「了解です」

「お任せを、一命に変えて」

セルミアは表情を変えず、指示を続ける。

「あの子達をここまで引きずってきて、私とノアで対処するわ」

二人のこめかみから汗が一筋落ちる。

表情には出さないが、決死の指示であった。

命をかけなさいと言葉の外に意味が置かれていた。

「残ったカーニャ達には、メイド達を当てます。首尾よくミーナを攫えればよし」

セルミアのかたほおがにまりと上がる

「だめでも王族のメイドを手に掛けた傷をつけれるわ」

それ以上は会話はなく、セルミアが寝室に下がったタイミングでお開きとなった。

 部屋を辞す二人の顔は優れない。

ダウスレム様すら滅ぼした二人なのだ。

ユア達は影獣達をすら恐怖させる存在となっていたのだ。

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