【第16話:言葉がいらないとき】
アウシェラ湖にはもう一つの顔がある。
夏の間だけだが、伝説の神聖さとは全く異なるキラメキがあるのだった。
「いやああーーーーーーーー!!」
ざっぱああん
ミーナの甲高い声とともに、アミュアの水魔法シュートが決まり水面を滑っていった。
「おぉ、ミーナ上手だなバランス。結構すべってった」
ちゃんと人の迷惑にならないタイミングで、沖に向かい水魔法で押し出したのだ。
ミーナのかわいい赤のワンピース水着がお尻滑りで沖まで滑っていく。
それを沖にいて待ち構えたカーニャが受け止めるのだった。
カーニャはミーナとお揃いの生地だが少し際どいビキニだった。
「つぎあたしあたし!」
待ちきれないひまわり娘が片手をあげてぴょんぴょんしていた。
水色のパレオを巻いた白いビキニはアミュア。
黄色にオレンジラインでヒマワリカラーのセパレーツはユアだ。
「はやくはやくう!」
待ちきれないのかアミュアの前ですでに準備完了し、前屈までし始めるユア。
既に3回目のシュートだ。
全身で湖水浴を満喫していた。
そう、アウシェラ湖は夏だけ解禁される、湖水浴場があるのだった。
まだシーズンには若干早いのか人の入りは少ないが、寂しい感じはしない。
奥まで行くとぐうっと深くなるのだが、ホテル側は遠浅で、真昼の光に水色の揺らめきが返す。
きめ細かな白い砂が、セレブにも人気である。
ビーチにはカラフルなビーチパラソルや白いお揃いのビーチチェアー。
大きな原色の浮き輪がころがり、気分を高揚させる。
ホテルサイドには出店も立ち並び、まさにお祭りの雰囲気だった。
こちら側にはもっと小さい子やのんびりしたい人向けに、浅い大きなプールまであるのだ。
ちょうどカーニャのいる辺りから先が深くなるのだが、そこには浮の連なったロープが張られ安全対策もしっかりしてあるのだった。
ひとしきり遊んでくたくたになった3人は、ビーチパラソル付のリクライニングチェアに横になっている。
ちょっと肌のよわいカーニャにアミュアがひえひえジェルを塗ってあげている。
「あぁ~しみるのよ!アミュアちゃんやさしくしてぇーー!」
少し赤くなったカーニャの白い肌に、ひえひえジェルをぬりたくるアミュア。
カーニャの足がぴくぴく震える。
乾いたら次はオイルだ。
左右の掌が別々の円を描き、拳法の防御のようである。
ぬりぬり達人であった。
「あはは!姉さまのそんな声初めて聴いたわ!」
とはカラフルな青いドリンクにフルーツ山盛りジュースを持つミーナ。
よくばりドリンクであった。
もちろんアミュアのチェア横のサイドテーブルにも同じものがある。
「ふうぅ~~~」
「ひゃぁぁ~~~」
冷え冷えジェルの塗りたてに、ココア冷ましで鍛えられたフーフースキルも発動するアミュア。
「あは、あははは」
カーニャの声がミーナの琴線にふれたのか、わらいが止まらない。
不思議な事にカーニャより白いアミュアは日に負けないのだ。
透明な白さを保っている。
ユアとミーナは小麦色になっている。
そうして沖の方では、あり得ない高さまでジャンプして水面に出るユア。
まるでイルカである。
ざっぱーーんと戻っていく。
空中で伸身後転も一回入れている。
あきれたアミュアがつぶやく。
「とんでもないフィジカルですねユアは」
ロープの向こう側の深いところで泳いでくると、3人と別れたユアであった。
くたくたになっている3人より、明らかに運動量が多かったにも関わらずである。
「あれで強化魔法なしとか‥恐ろしい子」
カーニャもさすがにドン引きであった。
お昼になるとさすがに疲れたのかユアが走ってもどってくる。
ビーチにあるまじき速度だ。
戻るなりお腹に両手をあてて言う。
「おなかすいたね!ご飯にしようよ!」
疲れたわけではないようだった。
こうして一日中笑いが絶えず、楽しみまくった4人であった。
夜になると、今度はビーチにライトアップが映える。
光魔法も駆使しているのかブルーを基準に、白から青まで派手ではない様々なライトアップがされている。
おそくまでビーチサイドの出店は閉まらず、営業を続けていた。
そういったむんむんした夏の雰囲気は、ユア達最上階スイートの広いテラスにも届いていた。
「もう寝ちゃってた?」
「うん、アミュアって小さい頃と睡眠サイクル同じなんだよね。本当に体だけ大きくなったみたい!」
クスクスっと二人で笑い合いベッドの方を見た。
ミーナが眠いといってベッドに行くと、アミュアがわたしが見てるよとお姉さんぶるのだが、同じタイミングくらいで寝てしまったのだ。
頭が見えなくなったと言い、ユアが心配して見に行ってきたのだ。
今は白いテーブルセットで、食後のお茶の時間だ。
ちゅうっと最後までアイスティを飲み干したユアが言う。
「ねーねージャグジー入ってみない?」
このスイートには屋上ジャグジーまでそろっていた。
ちゃんと温水もでるのだ。
「そうね、ちょっと気温もさがってきたしね」
そういったカーニャはコースターにグラスを置き、羽織っていた薄手のストールをとる。
藤色のキャミソールだけでくつろいでいたので、肩を抜きするりと落とすだけで脱ぐのはすぐすむ。
ユアもサラリとした白い生地のミニワンピを万歳で脱ぐ。
向かい合って下着姿になった二人はお互いをみて、何故かクスっと笑い合う。
何度も一緒に入浴しているし、互いに照れは少ない。
ただ、そういった自分たちの関係がおかしくなるのだった。
ちゃぷん
ちいさめのジャグジーバスなので、二人で入ると結構せまい。
吹き出す泡で水面下はくもるのだが、下から水色のライトが照らし幻想的だ。
まるいジャグジーの壁に沿い、二人は肩を寄せ合っていた。
綺麗な月が出て湖面にも光の筋を映していた。
「本当に不思議だわ‥‥私が誰かとこうしてお風呂に入ってるなんて」
とは髪をタオルで巻いて目を閉じているカーニャ。
「もうカーニャとは随分一緒にいる気がしてたけど、一年もたってないかな?」
「そうね」
またちょっと可笑しくなり、二人でそっとクスクスする。
お湯はぬるめで、日焼けに火照る肌にちょうど良い。
本当はお互いに訊ねたいことが幾つかあるのだが、今は言葉は要らないなと思うのだった。
お互いの触れている部分だけが少し暖かいのだ。
ユアも目を閉じてじっとしている。
ユアの手がそっと水面下でカーニャの手を見つけて繋ぐ。
一瞬だけ目を開けたカーニャは、ユアを見ることも無く微笑み目を再び閉じた。
結構長い事入っていても会話はあまりないのだが、とても深くお互いを知った気がしたのだった。
部屋のベッドでは、ユアにミーナと同じベッドに入れられ、抱き合って寝ているアミュアとミーナもすやすや健やかにしているのだった。




