【第15話:悪意は受け取ってしまうもの】
「ユア、起きてください!朝日がのぼってしまいます!」
「姉さまも起きて起きて!遅れてしまいますよ」
年少組?がおしおし起こしをダブルタッグで。
「昨日よふかしはダメといいました!」
「う、ぅん…」
ちょっとかわいらしく目をコシコシして起きたのはカーニャ。
「もうちょっとだけぇ」
と頑張るのはユアであった。
アミュアのおしおしに耐性が付いたのか、カーニャがあくびをし終わってもユアは頑張っていた。
ミーナとアミュアが目をあわせてうなづき合う。
これはヒトク攻撃ツインおしおしドライブの合図。
さらっとカーニャも混じって、もう遠慮なくトリプルおしおしこちょこちょするのであった。
「ふわわわわわっわ!!!」
さすがに3人がかりでは耐えられなかったユアが、やっとおきたのだった。
「もう!みんなひどいよ……っ///」
未だかつてない、まっかっかユアが出来上るのであった。
4人が頑張ったのには理由があった。
アウシェラ湖の伝承それは『暁に約束を叶える湖』
かつて世界がまだ夜と昼の境を知らなかったころ、暁の女神アウシュリネは一つの願いを胸に地上を訪れたという。
女神の一つの願いとは「離れ離れになった者たちが、再び心を通わせる世界にしたい」という切なる願い。
アウシュリネは人々の間に芽吹いた誓いの言葉、信じる気持ち、届かない愛を見ては胸を痛め、夜と昼のあわいにひとつの湖をつくったという。
それが、「アウシェラ湖」。
想い合う二人が湖畔で明け方の朝焼けの中、心からの約束をそろえたならその約束は必ず叶うと言う。
約束はその場で声に出してはならず、それでもそろった願いだけ叶えるのだと。
ただし、その時刻はごくわずか。
朝日の最初の一線が差した時、と言われている。
真摯であれ、誠であれと言う訓戒でもあったのであろう。
この伝承をなぞるため、部屋から湖が見える西岸のホテルの最上階を取り、夜更かしを禁止したのだった。
テラスに並んだ4人は、目を閉じ手を合わせる。
静かな時間がしばし流れ、遠くで鳥の鳴き声がひびいていた。
そして一瞬の後、4人の顔を朝日が染める。
明るさに気付いた各人が目を開けると、そこには先程の祈りすら忘れる絶景。
金色に輝く朝日が湖に反射しているのだ。
あまりの神々しさに言葉をなくし立ち尽くしているのだった。
「あれ?」
カーニャが突然声を漏らす。
「あれれ?」
ごしごしと目をこするが、なぜか涙があふれてくるのだ。
ミーナとアミュアに目配せで部屋にいってと合図したユア。
そっと背中に手をあて無言でぽんぽんしてあげるのだった。
部屋にもどった二人も思案顔だったが、アミュアがミーナを連れ出す。
「いっかいのレストランでご飯たべれるはず。先にいってよう」
「そうですね、どうしたんだろ?姉さま」
すこしおどけたアミュアが最後はささやく小声。
「大人はいろいろあるのです。わたしはしらないけど」
クスっと二人でアミュアの冗談に乗ることにしたのだった。
玄関ドアは重厚なつくりなので、出ていった二人の気配がユアには判った。
そっとカーニャを押してテーブルセットの椅子に座らせる。
そしていつかの夜のように、そっとカーニャの頭を胸に抱いたのだった。
いつの間にかすすり泣きになったカーニャは、いつまでもそうしてユアの腰に手をまわし震えていたのだった。
どれくらいたったか。
朝日が温かみを帯びた頃、そっとカーニャが離れた。
ユアはカーニャの隣の椅子にすわる。
「ご‥ごめんなさい。自分でもどうにもできなくって」
まだ目をこすりながらカーニャが言う。
「うん、自分で止められないんだよね、涙って」
あえてさらっと言うユアは朝日に輝く湖に目をやる。
そっと読み聞かせの物語のように、ユアが話し出す。
「前にシルフェリアで泣いてたの聞いたでしょ?あたしもあの時涙が止められなくて」
カーニャには一度も視線を合わせず、まぶしそうに眼を細め湖に語りかける。
「あたし村で一番年上の子供だったの」
母親からも、他の子どもの親からも必ず言われること。
「おねがいね」
期待されるのがうれしかったこと
期待に答えられないのが怖かったこと
そうしてるうちに泣くことを恐れるようになったこと
村を逃げ出した時ですら泣けなかったこと
それがアミュアに抱かれた瞬間にこらえられなくなったこと
そういったユアの主観だけを並べ立てたのだ。
だから、とは一度も言わない。
これはユアの独白であって、同情ではなく、思いやりですらないという姿勢。
こういった気遣いはカーニャにはこたえた。
自分の方が年上だという気持ちがあり、どうしても素直になれない。
ぐっとおなかに力がはいった時、カーニャは気付いた。
涙が止まっていることに。
おどろいてユアを見る。
(まさか‥‥計算してやってるの?)
そこしれない恐怖すら感じる違和感。
「なんだかお腹空いたね!」
にっこりひまわりでこちらを見るユアには、カーニャが思ったような影は一筋もないのだった。
(ああ‥くもってるのは私だ…)
すっと腑に落ちたら、グゥとお腹が鳴ってしまった。
両手で顔を隠したが、真っ赤になってるのは自覚があった。
(もう恥ずかしくてユアの顔見れない!)
その心の声を聞いたかのように、ユアが立ち上がる。
「我慢できない。よだれがたれてきたから先に行ってるね!」
そういって、へたくそなウインクをして去っていったのだった。
指の隙間から見ていたカーニャは、ユアが出て行ったとたんに我慢できなくなり笑いだすのだった。
「あはっ、あははっ。あはははっはは!」
今度は別の涙が出てくるカーニャであった。
もう朝日は大分高くなり、ホテル中から朝の気配が立ち上るのであった。




