お砂糖増量中?
「それで……このピアスは、志乃に持っていて欲しいんだけど……」
「あ、そのピアス!」
ルーファスさんが持っていたのは、あの赤いピアスだった。
「このピアスと志乃の願いのお陰で、俺は死なずにすんだし、こっちの世界に来る事ができた。ありがとう。」
ーそうか。このピアスが……。だから、失くなっていたのか…ー
私は、素直にそのピアスを受け取る。
色々あったピアス。二度目の召喚の元となったピアスだけど、ルーファスさんを救えたのなら……良しとするしかないかなぁ?
「ルーファスさんが……無事で良かったです。それと、遅くなりましたけど……あの時は、助けてくれて、ありがとうございました。」
ペコリと頭を下げてお礼を言うと、「こちらこそ─だな」と、ルーファスさんはニッコリ微笑んだ。
それから暫く、千代様の空間で話をした後、『志乃、ルーファス、また遊びにいらっしゃい』と、千代様が手を振りながら見送ってくれて、私は菊花さんとルーファスさんの3人で地上へと戻って来た。
因みに、菊花さんは、独り暮らしをしている私の部屋の隣の部屋に住んでいる。
「菊花さんだけ狡くないか?」
「狡くないわ。私は、志乃様を護っているだけだもの!」
何故か、菊花さんとルーファスさんがバチバチと睨み合っている。
ー仲良し─になった?のかな?ー
暫く睨み合った後、ルーファスさんが「はぁ─」と溜め息を吐いた後、私の方へと向き直り
「次の土曜日は…空いてる?店を休みにしてるんだ。良かったら…ゆっくり話がしたい。」
「あ──はい。大丈夫です。私も…ゆっくり話がしたいです。」
「良かった。それじゃあ、土曜日の10時に迎えに来るから、家で待っててくれ。」
「はい。」
そう約束して、ルーファスさんはお店の近くにあると言う家に帰って行った。
翌日──
ルーファスさんは約束の時間通りにやって来た。
そのルーファスさんは、意外?にも、パーカーにデニムと言うラフな格好をしている─のに、どこからどう見てもイケメンモデルな人にしか見えない。
「車の免許までは、取れなかったから歩きだけど─」と言われてやって来たのは──
ルーファスさんのお家だった。
そのルーファスさんのお家は、ルーファスさんのお店の裏側にあり、L字型になった平屋の戸建てだった。
平屋の理由は「向こうの世界ででも、階段の昇り降りは面倒だったから」だそうだ。
案内されたのはリビングで、そこにはソファとローテーブルが置かれていてテレビもあり、こちらの世界では極々普通のリビングだ。
「座って待ってて」と言われて待っていると、甘い匂いがしてきて、暫くすると、ルーファスさんがパンケーキを持ってリビングに戻って来た。
「イチコやニコみたいにうまくは作れないんだけど…」
とテーブルの上に置かれたパンケーキは、普通にお店に出せるよね!?位のレベルのモノだった。「ありがとうございます」とお礼を言ってから、それを口にすると、それはやっぱりあのパンケーキだった。
「……美味しい…です。」
「なら良かった。」
フワリと優しく微笑むルーファスさんも、瞳の色が黒いだけで、以前と全く変わらない。
ー本当に、あのルーファスさんなんだー
「……志乃」
ルーファスさんは、少し困ったように笑いながら、テーブル越しに手を伸ばし、私の頬に触れた。
どうやら、私はまた泣いてしまっているらしい。本当に、最近は涙腺が緩みっぱなしで困る。
「あの、すみません。何と言うか…本当にルーファスさんなんだなぁ…と思ったら安心して……」
「志乃、そっちに行っても良い?」
「は……い」
横に座られるのは緊張するけど…近くに居られるのは、素直に嬉しいから───
なんて、思ってたんだけど
「えっと?」
ルーファスさんが座ったのは私の横ではなく、後ろだった。「ソファの下に座ってくれる?」と言われて素直にフカフカの絨毯の上に腰を下ろすと、私とソファの間にルーファスさんが入り込んで来た。
バックハグ状態──である。
お腹に手を回されて、私の右肩にルーファスさんの顔がある。
「近過ぎませんか?」
ー近過ぎるどころじゃないよね?ー
「───嫌だけど……嫌なら…離れる」
「──────」
「じゃあ、このままで……」
「ゔっ───」
と、更にキュッと抱き付かれた。
ー断れない自分が恨めしい!ー
恥ずかしいけど、本当にルーファスさんが居るんだと、実感できて安心しているのも確かだ。
ーよし、パンケーキを食べようー
「このパンケーキ、作るの大変だったんじゃないんですか?」
「うん。でも、このパンケーキだけは、ちゃんと作れるようになるまでイチコに特訓してもらったんだ。他のは…全然うまく作れなかったけど。」
「コレ、本当に美味しいです。あのパンケーキと同じで、見た目に裏切られまくりですよ。ふふっ」
ールーファスさんって、料理男子なんじゃない?ー
なんて、鼻歌が出る勢いでパンケーキを食べる。
「うん。前に、あのパンケーキを食べた時のウィステリアの顔が忘れられなくて。もう一度見たくて…俺だけに見せてもらいたくて、作れるように頑張ったんだ。」
「んぐ───っ!!」
ーこの距離でこのタイミングで砂糖口撃か!?ー
「──顔…見せて?見たいな………」
「…………」
ー彼氏居ない歴21年(+α2年)を苛めるのは止めて欲しいー
ググッと頑張って右肩の方に少しだけ顔を向けると、私をジッと見つめるルーファスさんと目が合った。
「顔…真っ赤で可愛い」
「ゔ───っ」
ーやっぱり、眼科に連れて行こうか!ー
なんて思っていると、そのまま右側の頬に軽くキスをされた。
「ふわぁっ!?」
「あー…本当に……可愛い……どうしよう……」
ー“どうしよう”って何だ!?ソレは私のセリフだろう!!ー
魔力もない私が、元騎士のルーファスさんの腕から逃れられる筈もなく、それから暫くの間はルーファスさんの腕の中に捕らわれたままとなったのは、言うまでもない。




