ルーファス
*時は遡って、ルーファスが沈んだ後のお話*
『志乃を助けてくれて、ありがとう』
と言って、目の前に居る女性はニッコリと微笑んでいる。
その女性は─チヨ様。何でもウィステリア殿の世界の神様の1人らしい。確かに、ウィステリア殿と同じ黒髪に黒色の瞳をしている。
「どうして、俺はここに?それに…魔犬に噛まれた傷が…無くなっている。」
あれ程の血が流れていた。夢──ではない筈だ。泣きそうな顔をして、必死に俺を助けようと手を伸ばすウィステリア殿が居た。それを必死で抱き留めていたアレサンドルには感謝さえした。
『…必ず……元の世界に還れ……』
ウィステリア殿には、気に病む事なく元の世界に還って欲しかった。それでも、彼女はきっと自分を責めるだろう。あの言葉は、俺の独り善がりな言葉だろう。
そのチヨ様曰く、向こうの世界で死にかけた俺を、こちらの世界に掬い上げてくれたそうだ。
『志乃─ウィステリアが願ったのよ。“必ず還るから、ルーファスさんも生きて─”とね。』
「ウィステリア殿が………」
『今、貴方の手の中にあるソレが、更に貴方をこちら側に導いたのよ。』
“手の中にあるソレ”─とは、俺がウィステリア殿に渡したが置いて行かれたと思っていた、あの赤いピアスだった。
『でも………本当に………おかしな話だと思わない?』
ーん?ー
『ウィステリアは、向こうの世界を助けただけじゃなかったかしら?』
「──はい。確かに、あの4人には助けられました。」
ーエメラルド殿に関しては、色々思うところはあるがー
『そうでしょう?なのに、何故、ウィステリアの意思に反して再召喚された上にあんな扱いを受け、魔犬の餌にされかけて………おかしな話だとは思わない?』
「───魔犬の餌……」
ーあの馬鹿騎士か!ー
『ルーファスには悪いけれど、ウィステリアの幸せの為にも、貴方と向こう側の繋がりは切らせてもらったわ。繋がっていると、貴方の命も微妙だったから。それと、私の“愛し子”と加護を与えたから、貴方はもう二度と、私の“許し”無くしては、向こう側に還る事は無いわ。喩え、召喚されたとしてもね。』
ニコリと微笑んでいるが、有無を言わせない圧がある。
『それで、貴方の銀髪は、こちら側でもなんとか許容範囲内なのだけど、魔力持ちを表す赤い瞳と魔力はこの世界では不要のモノだから、取り上げさせてもらったわ。だから、貴方の瞳の色は……黒色になっているわ。」
設定とやらによると、俺は欧州と日本のハーフで、名前は狐月ルーファス。両親は亡くなっていて、唯一の親戚が狐月菊花─キッカ殿。
『後は……ルーファスは、甘味系にかなり詳しいわよね?』
「────はい。」
ー何故知られているんだろうかー
両親の影響で甘味が好きになり、気に入ったモノがあれば料理長にお願いして作り方を教えてもらっていた。自分で考えたりしたモノもある。
ただ、知識はあっても、作るとなれば……うまくいかない事の方が多かった。
と言うか、両親はそんな俺を咎めるような事はしなかったが、やはり伯爵家嫡男がデザート作り─とは外聞がよろしくないと言う事で、家族以外に話した事は無いし、箝口令さえ敷かれていた。
『日本では、“騎士”なんて職業は無いし必要ないし、働かなければ食べれないし生きていけないし……何より、ウィステリアが幸せになれないのよ。それとも、ルーファスは……ウィステリアに養ってもらいたい?』
「嫌です!」
『なら良かったわ。』
ふふっ─と千代様はニッコリ微笑んだ後『菊花』と呟けば、魔法陣が展開されたかと思うと、その中から三角のケモミミと3本の尻尾を付けたキッカ殿が現れた。
『菊花、ルーファスをパティシエに仕上げなさい。それが無理なら、経営学を完璧に叩き込みなさい。どちらでも構わないわ。できる?できるわよね?やりなさい。志乃の為よ』
『分かりました!お任せ下さい!』
「…………」
そうして、少し草臥れ感のある菊花殿と俺との特訓?勉強?が始まった。
『それと同時に、こちら側の一般常識や言葉も叩き込んでちょうだい。』
チヨ様は、容赦なかった───
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菊花さんやイチコ、ニコにも頑張ってもらったが、“パティシエ”になる事はできなかった。ならば─と、経営学をみっちり叩き込まれた。
カフェをオープンさせる目標を立て、菊花さんと共に頑張った。
自分はオーナーになり、イチコとニコがパティシエ。そこで作るのは、あのパンケーキ。
彼女と一緒に食べたパンケーキ。口にした途端驚きの顔になった後、ふにゃっと笑った、あの時の顔は忘れない。また、彼女にこのパンケーキを食べてもらう為に、俺は彼女が還って来る迄に必ず店をオープンさせるんだ───。
それから、何とか無事に店を持つ事ができた。
彼女がいつ、どのタイミングでこちら側に還って来るかは分からない。
そもそも、勉強中は千代様の空間で生活をして、店を持つ少し前に地上?にやって来た為、今が彼女にとってどうなっている時なのかも分からない。
今はただひたすら、自分の存在、地位を確保する為に頑張るだけだ。
赤いピアスと共に────




