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今だけ



『兎に角、そこに関しては安心してちょうだい。』


それを聞いたバーミリオンさんとアズールさんは、ホッとしたような顔で頷いた。


『それと、エメラルドからは聖女の能力は取らせてもらうわ。勿論、魔力や加護を与える事もしない。他人(ひと)を殺めようとした者には、喩え召喚された者であっても与える事はできないわ。』


エメラルドにとって、聖女ではなくなると言う事は、これからは大変な事になるだろう。

“聖女()()()”と崇拝されチヤホヤされていた。


では、その聖女の能力を失くした“()聖女”の扱いは、どんなモノになるのか──おそらく、それらは180度変化するだろう。それに、エメラルドは耐えられるのか。耐えられなくても…頑張るしかない。


『それと、そこのメイナード(魔導士)。』


「──っ!はいっ!!」


急に声を掛けられたメイナードさんの驚きっぷりは凄かった。そりゃそうだ。相手は女神様だもんね。


『ウィステリアを襲わせた者が居るでしょう?あの者も……暫くの間預かるわ。良いかしら?』


「はい!全く問題ありません!好きなだけどうぞ!」


『キッカ─』

『承知しました。今すぐに()()()()!』


“送ります”──なるほど。あの脳筋は、千代様の逆鱗に触れたから、アリシア様のように日本で預かるのか…。


あの脳筋も、“丑三つ時行脚”とやらをさせられるんだろうか?あれ?ひょっとして、アイリーン様より千代様の方が……格上だったりするのかなぁ?


『あの騎士は、また頃合いを見て……返してくれると思うわ。』


「分かりました。」


『さて、ウィステリア。他には何もない?』

「───あの湖に沈んだルーファスさんは……」

『ごめんなさい。あの湖に関しては、私からは何も言えないのよ。ただ……あの湖に沈んだ者は……この地には二度と上がって来る事は無いわ。私が掬い上げる事もできないの。』


“掬い上げる事もできない”


もう無理だよね─と思いながらも、ひょっとしたらと言う思いがあったけど、その可能性は無いようだ。



あの顔面攻撃や砂糖口撃を喰らうことは───



もう、ないらしい──────




『──ウィステリア……必ず……元の世界に還れ………』




還ろう──


赤いピアスと一緒に────






『一週間後に迎えに来るわ』


そう言って、アイリーン様は塔全体に張っていた結界を解いて姿を消した。


未だ気を失ったままのエメラルドは、アイリーン様と言葉を交わす事無く、言い訳すらさせてもらえないまま、聖女としての能力を取り上げられ、“愛し子”からも外された。ここに居るのは、“罪を犯したただの女の子”でしかなかった。

いや、この世界は貴族主義の階級社会だ。能力を取り上げられた平民の女の子が、伯爵家嫡男の死に関わっていた─となると…


ー私が考えても仕方無いよねー


フルフルと軽く頭を振って、それ以上考えるのを止めた。




『すみません。3日程留守にします。』


少しやつれた?感じのキッカさんは、そう言って、転移魔法でどこかへと行ってしまった。


「取り敢えず、今のこの状態のエメラルドをどうこうする事はできないから、医師を呼ぶついでに、俺達も城の方に戻ろうか」


と言うバーミリオンさんの言葉に賛同して、私達4人はその場を後にした。









*王城応接室*



「女神……アイリーン様が!?」

「あぁ!本当に目の前に現れて!話もしたんだ!!」


「「「…………」」」


応接室にはアレサンドル様が待っていて、興奮しまくっているメイナードさんと2人で盛り上がっている。そんな2人を笑いながら見ているのは、バーミリオンさんとアズールさんと私の3人だ。


「あと1週間か…何する?やっぱり毎日のお茶は必要だよな?美味しい物を食べ納めしないとな?」

「バーミリオンさんとエラさんは、毎日は無理ですよね?」

「魔導士達はリアの事を知っているから、1週間ぐらいなら何とかなると思うし、何とかするよ。」

「じゃあ、毎日でも大丈夫!」

「本当にリアはぶれないな!いっそ、気持ちいいな!」


ーだって、やっぱりモテるイケメン有名人と2人きりと言うのは遠慮したいからねー


「また、還りは突然かもしれないから、先に言っておくけど…リア。リアにとっては辛い事になってしまったけど、俺は、またリアに会えて嬉しかったよ。万にーつも可能性は無いらしいから、もう…二度と会えないんだろうけど……日本では、元気でな。リアの幸せを、この世界から祈ってるから。」


バーミリオンさんはフワリと微笑んで、私の頭をポンポンと優しく叩いた。


「リアなら…きっと幸せになれるよ。」


今度はアズールさんが優しく私の背中をポンポンと叩く。


「ありがとう…ございます……」


どうやら、私はまた泣いているらしい。


元の世界に還れる喜びからなのか、2人の優しさからなのか、それとも………何処にも居ないルーファスさんを思ってなのか───



この世界を楽しむ─と、一度は決めたのだから、残りの1週間は思い残す事なく楽しもう。




泣くのは、今だけだ─────







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