短剣
あれから泣きやんだ後、アレサンドル様には私の目の前に座ってもらって───苦情案件だった魔力の溜め込んだ魔石の管理について、言わせてもらいました。
相手が王太子であろうが私には関係無い。“不敬罪”?と言うなら、一週間後にでも執行して下さい。
ーその時には、この世界には居ないけどー
兎に角、まだ残っていると言うなら、今すぐに処理するようにもお願いした。
同じ魔導士のバーミリオンさんとメイナードさんも居たから、これからは大丈夫だろう─と信じたい。
アレサンドル様とは、これで最後になるかもしれないと言う事で、そのまま5人(アレサンドル、メイナード、バーミリオン、アズール、ウィステリア)でティータイムを兼ねてのお喋り会となった。
「結局、2人もの聖女を失った事になるけど、この国は……大丈夫なんですか?」
アリシア様がどんな状態なのかは知らないけど、多分、もう聖女としてこっちの世界に戻って来る事はないだろう。
「まぁ……痛くないと言えば嘘になるが、ある程度は魔導士でも浄化できるし……あの2人程ではないが、他にも聖女は居るんだ。」
ーえっ!?そうなの!?それ、初耳ですけど!?ー
とビックリしているのは私だけで、側近の1人のメイナードさんは勿論の事、バーミリオンさんもアズールさんも知っているようだ。
「リアが知らなくてもしょうがないよ。その子ね、半年位前に聖女の能力が発現したんだ。」
生まれ持ったモノではなく、年齢や性別に関わらず、ある日突然能力が発現すると言う事が、極希にあるらしく、半年前にある令嬢に聖女としての能力が発現したらしい。
ただ、急激な体調変化をもたらす為、一時的に昏睡状態のような状態に陥るらしく、そのまま1年程眠りに就くそうだ。
因みに、食事等を取らなくても、やつれる事も衰える事もないのだと言う。
「そうなんですね。それなら良かったです。」
「しかも、そのご令嬢って、アレサンドル様の婚約者なんだよ。」
「婚約者!?」
アグネーゼ=シフォン
公爵令嬢であり、アレサンドル様の幼馴染みでもあり、アレサンドル様の初恋の人でもあるそうだ。
「後半年…5ヶ月弱程で目覚める予定なんだ。ネーゼの性格がウィステリア殿みたいなバッサリ系のお人好しでね。ウィステリア殿に会えていたら…きっと仲良くなれていたと思う。会わせられないのが残念だよ。」
そのアグネーゼさんを思い出しているからか、その時のアレサンドル様の顔は、今迄見て来た笑顔の中では、一番優しい笑顔だった。
それから暫く、惚気話を聞かされた。
ーコレも、ある意味砂糖口撃だよね?ー
と思ってしまった事は、許して欲しい。
兎に角、聖女についてはあまり良い印象はないけど、アレサンドル様が側に居るなら大丈夫だろう。
「コレを…ウィステリア殿に。」と、ティータイムも終わり、アレサンドル様にお別れの挨拶をしていると、デレクさんが私に短剣を手渡して来た。
それは、日本のモノとは違っていて、黒色の革で作られた鞘に収められていて、柄頭には赤色の魔石が嵌め込まれていた。
「コレは、ルーファスが常に身に付けていた短剣で、偶々手入れの為に工房に出していて、あの日は持っていなかったんです。それが昨日、工房から戻って来たんだけど……コレは、ウィステリア殿に持っていてもらった方が、ルーファスが喜ぶかと思って。」
黒色と赤色
たまたまかもしれないし、単なる自惚れかもしれないけど、ルーファスさんと私の色のような気がして、嬉しいやら恥ずかしいやら─でも、ソレは素直に受け取った。
「ありがとうございます。」
「こちらこそ、受け取ってくれてありがとう。」
それから、またタイミング良く現れたイチコのお迎えのもと、私はもう一度アレサンドル様に挨拶をしてから、キッカさんの邸へと転移した。
その日は、やっぱりイチコとニコが狐になって、もふもふで私を挟んで一緒に寝てくれた。
ーもう泣かないー
と決めたのに。どうやら、優しくされると涙腺が崩壊するらしい。
ー人間とは、こんなにも泣ける生き物なんだなぁー
そんな私に、イチコとニコは何も言わず、ただただ私に寄り添ってくれた。
翌日──
「よしっ!」
パンパンッ─と、気合を入れながら軽く頬を叩く。
昨日、それなりに泣いてしまったから、目の腫れが気になったけど、思ったより酷くはなっていなかった。更に、イチコが冷えたタオルを用意してくれていたお陰で、いつも通りの………普通の顔に戻った。
その日はアズールさんとバーミリオンさんとエラさんと、買い物をして、ランチをして、また買い物をしてお茶をしてから帰って来た。
2日目は、4人でピクニックをした。皆で持ち寄ったランチはサンドイッチになるだろうと思い、私はおにぎりを持って来た。米や鰹節や海苔は、キッカさんが転送?してくれたそうだ。
勿論、バーミリオンさんとアズールさんは喜んでくれたし、エラさんも「美味しい」と言って食べてくれた。
3日目は、王都で人気のカフェの食べ歩きをした。
その中には、ルーファスさんと来た、あのパンケーキのお店もあったけど、涙は出なかった。ちゃんと…笑えていたと思う。
そして、その夜。
またまた少し草臥れた感じのキッカさんが帰って来た。




