聖女エメラルド
私の本当の名前は─久保清香。
自分で言うのもなんだけと、私は“美少女”の分類に入ると思う。大抵の人は、私が笑うと私に好意を向けてくれていた。両親だってそうだった。
もともと男の子は苦手だった。女の子と居る方が気が楽だったから。そんな理由で、彼氏ができても女友達を優先していたら、彼氏には愛想を尽かされたりもしたが、“友達思いの良い子”と言われるようになった。
私は、私のしたい事をしているだけなのに、私への評価が勝手に上がっていたのだ。
ーホント…勝ち組じゃない?ー
そんな事は決して口には出さないけど。
そんなある日、私達4人は異世界へと召喚された。ハッキリ言って、女神様とのやり取りは殆ど覚えていないけど、兎に角、私は4人の中では唯一の聖女だった。一緒に召喚されたもう一人の女の子─ウィステリアは、同じ学校だったけど私の記憶の中には居ない子だった。きっと、おとなしい、目立たないタイプの子だったんだろう。
同じクラスのアズール君と、一つ先輩のバーミリオンさんは、女の子から人気のあった2人だ。そんな2人と異世界──何があってもおかしくないよね?
「私は、この国の第一王女であり、貴方と同じ聖女のアリシアよ。よろしくね。」
そう言って微笑むアリシア様は、私の顔が霞むのでは?と思う程綺麗な王女様だった。そして、そのアリシア様の後ろには、いつも彼が居た。
ルーファス=シーヴァー
いつも笑顔を私に向けてくれる。キラキラと輝く銀髪に赤い瞳はとても綺麗だ。
何かあるかも?─と期待していたアズール君とバーミリオンさんが、霞んで見える程の……私の理想の王子様だった。
アズール君は同じ騎士仲間達と仲良くしていて、バーミリオンさんは……ウィステリアと仲が良い。あんな暗い子のどこが良いのか。きっと、女魔導士だから憐れんで優しくしてあげているんだろう。
シアが言っていた。女魔導士は必要無いと。
ー根暗な子は、どの世界に来ても必要とされない、可哀想な子なのねー
聖女の私とは違う存在。必要なかった存在のウィステリア。可哀想なウィステリア。
それなのに───
何故、ウィステリアの側にルー様が居るのか。
何故、ルー様はウィステリアを目で追うのか。
「有り得ない──」
でも、それはほんの数日だけの事で、シアのお陰でまた、ルー様は私の側へと戻って来た。
ーこのまま、ルー様と共にこの世界で生きて行くのも良いかもー
日本に戻って、また高校生生活を送るより、この世界の聖女として過ごして行く方が、私には合っている。
そんな夢が崩れたのは、あの女─ウィステリアが還ってからだった。
ルー様は笑わなくなった。私を見てもくれない。他の騎士達は、私を見て私の欲しい言葉をくれるのに、ルー様は私を見ない。
ルー様は、そこに紫色の花があれば足を止めるのに、私の近くに来ても足を止めてはくれない。
紫色の魔石やアクセサリーを見付けると、ソレを手に取って見るのに、私の事はやっぱり見てくれない。
ーウィステリアのせいだー
あの子は、ルー様から全て奪っておいて、自分は今頃日本でのうのうと過ごしているんだ。
小さなジュエリーボックスを開けると、そこには小さな巾着袋に入った赤いピアスの片方─一つだけがある。ルー様の赤色だ。
ウィステリアが還った後、ウィステリアのテントに置いてあったモノだ。このピアスをルー様が買っているのを見ていた。あの時は、「私へのプレゼントかな?」なんて浮かれていた。
ーそれが、まさか……ウィステリアにだったなんてー
“それは、私のモノ!本来在るべき所に在るべきよ”
私はソレを、誰にも気付かれないように持ち帰って来た。
改めて中身を確認すると、やっぱりあの時見た赤色のピアスだったけど、片方しか入ってはいなかった。
おそらく、ウィステリアが持って還ったんだろう。
本当に、つくづく嫌な感じの子だ。
そのウィステリアがまた、この世界に現れた。
しかも、またルー様の側に居て、ルー様に笑顔を向けられていたのだ。
ルー様が私に向けるのは──侮蔑を含んだ視線だけだった。
『“自分は聖女だ”と言うなら、私を見下す前に、それに見合う行いをする努力をするべきじゃない?』
ー女魔導士のクセに。要らない子のクセにー
『我々が排除しましょう。』
『ありがとう』
彼等は、私の欲しい言葉をくれる。
シアは居なくなったけど、彼等が居る。
ニッコリ微笑めば、顔を赤くして私を見つめ返して来る。シアと違って、彼等は───単純だった。
いや。ある意味、シア─アリシアも単純だった。私が頷いて笑っていれば、後はアリシアが勝手に動いてくれたから。居なくなってしまったのなら仕方無い。
彼等は、とある不思議な湖にウィステリアを棄てる─と言っていた。魔獣に殺られたようにする─と。
ー勿論、“私は聞かなかった”“知らなかった”事だけどー
彼等は聖女を崇拝していて、女魔導士を嫌悪している。手加減なんてしないだろうし、必ず成功させるだろう。
「本当に、ざまあないわね……あれ?」
ふと、何かが引っ掛かる。
その引っ掛かりが、何故か私の心をざわつかせる。
ソレが何なのか──と思案していると
「エメラルド……よくも…やってくれたよね?」
と、私の目の前に、ウィステリアが立っていた。




