ウィステリア次第
*バーミリオン視点*
本当に、この子─リアは運が悪いと言うか良いと言うか……兎に角、相変わらずの不遇にも関わらず、すれていない事に感心する。なんなら、(まだ目覚めていないらしい)女神アイリーン様や、元凶であるキッカ殿に、もっと悪態を吐いたりしても良いと思う。裁判で言うと、勝訴案件ではないだろうか?
この世界での“聖女”は、その力の大きさは関係無く崇拝?に近い存在なのだそうだ。そして、その聖女だったのが第一王女アリシア様。王族であり聖女でもあるアリシア様は、ある意味現国王より人気があったらしい。ルーファス=シーヴァーに関わる事を省いては、真面目に聖女としての務めを果たしていたらしいが──
『何故、聖女ではなく、魔導士なのかしらね?』
アリシア様のその一言で、騎士達のリアへの態度が変わったように思う─と、アズールが言っていた。
『召還される女の子は、聖女でなければいけないのか?』とアズールが訊けば
『そうではないかもしれないけれど、聖女が必要なのに、何故魔導士なの?と思っただけよ?聖女には……向いてなかったのね』
と、笑っていたそうだ。そう、その隣でエメラルドも笑っていたそうだ。
聖女の1人がリアを否定し、もう1人の聖女がソレを否定しないとどうなるのか……火を見るよりも明らかだ。
もともと、騎士達は自分よりも能力の勝る魔導士達には良い感情を持ってはいない。まして、ソレが女性とくれば……口撃対象には持って来いとなった。
勿論、アズールは騎士達の考えを改めさせようとしたそうだが、聖女2人の言葉には勝てる筈もなく、リアを庇えば庇う程騎士達の態度が悪化したらしく『バーミリオンさん、ウィステリアさんの事、気を付けて上げて下さい。』と俺にお願いした後は、放置する事にした。その代わり、王太子のアレサンドル様が何かと動いてはくれたが…。
“聖女”と言う存在は、ある意味厄介だな─と思った。
それに、リアは本当に頑張り屋で優しい子だと思う。諦めるのが早い─とも言うかもしれないが…。
リアが還った後、リアに対して態度の悪かった騎士達は、尽く粛清された。国王陛下の怒りは凄かったと聞いている。その反面、魔導士達には労いの言葉をいただき報奨の話も出たが、『当たり前の態度をとっただけです』と言い、魔導士全員が報奨を断っていた事には驚き、皆で大笑いしたのも懐かしい話だ。
兎に角、リアは魔導士達からは可愛がられていた存在だった。今日だって、本当は俺とエラのお祝いの筈が“ウィステリアとの再会お祝い”に変更されているような気がするのは──俺だけではないだろう。
「寂しかったから─と言うのは言い訳にもならないと思う。寂しかったら、その分誰かが苛められても良い─と言う理由にはならないだろう?それが、喩え友達でなかったとしてもね。リアは、勝手に召還されて勝手に魔導士にされただけだ。虐げられても文句も言わず、すべき事を全うしたんだから、この世界では胸を張っていれば良いんだ。勿論、リアからエメラルドに歩み寄る必要も無いと……俺は思う。もしもだけど…エメラルドから歩み寄って来たら、取り敢えず…話位は聞いてあげても良いかもね…赦す赦さないは別として…。」
「そう……ですね。と言うか、エメラルドは私がこっちに来ている事は…まだ知らないと思うけど……あれ?話は変わりますけど…バーミリオンさんの瞳の色、赤いままですね?」
「ん?」
ーあぁ、そう言えば、名前を取り戻した後も赤─朱色のままだったなぁー
「リアは、ウィステリアではなくなってるんだな」
藤色ではなく、黒い瞳に黒い髪。懐かしい日本人が目の前に居る。
「この黒色の髪と瞳のセットのせいで、売られて買われたんですよ!せめて、この世界に居る間は、また藤色にならないのかなぁ?」
と、机に突っ伏すリア。
“売られて買われて”
二十歳の女の子の口から出るような言葉ではない。
何て事ない─みたいにサラッと言っているけど、本当に、運が良かったとしか言いようがない。色々辛い思いもしただろうけど、兎に角、無事で良かった。
「あ、ところで……リアがこっちに居る事、ルーファスさんは…知っているのか?」
「………何で、そこでルーファスさんが出て来るんですか?」
ビクッと肩を揺らして、突っ伏していた顔を上げたリアの顔は、何故か少しだけ赤くなっている。
「ん?ルーファスさん?」
家名呼びではなく名前呼び──と言う事は………
リアが還ってから笑わなくなったルーファスさん。そこで初めて、ルーファスさんが想いを寄せていたのが、聖女エメラルドではなく、女魔導士のウィステリアだったと気付いた者も居た位、ルーファスさんは変わった。
それが……今また、そのルーファスさんの目の前に現れたのなら──
ー逃げられないんじゃないのか?ー
とは、ウィステリアには…言わないでおこう。
還るも還らないも、ウィステリア次第だ。




