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4年経っても


日本に還ってからが大変だった。


私は、召喚された、あの日のあの時間に還って来ていた。だから、ふわふわした不思議な感覚のまま、予定の時間迄図書委員としての仕事をして、5時半に下校した。


ーアレは夢だった?ー


と錯覚しそうな程に、普段通りの日常がそこにあった。いつもと変わらない家族。

その日は疲れていたからか、布団に入ると直ぐに眠りに落ちた。






「行方不明?」


還って来た翌日。

学校に登校すると、大騒ぎになっていた。


「そう!なんでも、久保さんと本間君と、2年生の谷原先輩の3人が、昨日学校から帰って来てないらしくて、今、先生達が大騒ぎしてるって。」


「…………」


そう。還って来なかった3人は、“この世界での存在がなくなった”のではなく、“居なくなった”と言う状況になっていたのだ。


その日の授業は午前中迄となり、3人が最後に目撃されたのが図書室だった為、図書委員で居た私は先生と警察の人から色々と質問をされた。


『実は、異世界に召喚されて救世主になって、今頃はその世界でのんびりラブラブ生活を送ってます』何て言えないから『3人とも図書室には居たけど、いつの間にか帰っていたようで、私が帰る頃には誰も居ませんでした』と答えた。勿論、先生も警察も私の証言を疑う事はなかった。







「疲れた…」


家に帰って来ると、私は制服のままでベッドにダイブした。


同じ高校の生徒が、しかも3人も行方不明。当たり前だけど、テレビのニュース番組でも取り上げられている。


「………着替えよう……」


色々考えるのも億劫になり、ソロソロと起きて着替える事にした。


「ん?」


すると、制服のスカートのポケットに何か入っている事に気が付いて、ポケットの中に手を突っ込んで取り出してみると──


「ピアス?」


何故か、赤色の宝石のピアスが─しかも一つだけが入っていた。


ー何で?ー


あの世界のモノは、全て置いて来た…筈なのに。


そもそも、こんなピアス……貰った記憶も買った記憶も無い。アイリーン様にも、全て置いて行きたいと願ったのに。





『なぁ、エメラルド様、赤色のピアスを着けてないか?』


『本当だな。って事は…()()()()()()()か!やっぱりだな!』





ルーファス=シーヴァーさんの瞳の色と同じ赤色のピアス。


「今すぐには無理でも、いつかは…思い出になるのかなぁ?」


ふと、シーヴァーさんとエメラルドが微笑み合う姿を思い出し掛け、フルフルと頭を振って気持ちを切り替えて、私はそのピアスを勉強机の引き出しに仕舞い込んだ。










それからは、行方不明の3人の事で色々と周りはざわついていたけど、私や私の友達の周りでは比較的落ち着いていた。もともと接点の無かった人達だったから。未だ騒ぎ立てているのは、久保さんと本間君の取り巻き?の人達だ。そんな人達を、私は離れた所からチラチラと見るだけ。


ーこの世界で、あの3人と接点がなくて良かったー







半年も経つと周りも落ち着いて


1年経てば彼らの名も出なくなって


2年経てば大学受験でいっぱいになった


3年経てば大学生生活も落ち着いた


4年経てば……思い出にできたかどうかは…まだ分からなかった。ふと赤色を目にすると、ドキッと反応してしまう自分が居るのだ。


まだ、新しい恋をしていないから─と言う事もあるのかも知れない。


この4年、スッカリ忘れていたピアス。

引っ越しのタイミングで偶然見付けてしまった赤色のピアス。

ソレを目にした時、まだ思い出になってないんだなぁ─と気付いた。


あれから4年だ。あの世界でも同じように4年経っているなら、あの2人も……結婚している可能性だってある。



『聖女様と近衛騎士か…盛大なパレードとかあるかもな。』


ー皆から祝福されるパレードしか…思いつかないー


「はぁ──…私、ダメダメじゃない?」


自分で自分に活を入れてから、引っ越し前の部屋の片付けを始めた。












******


「──なん……で!?」


ドクンッ─と、心臓が嫌な音を立てて騒ぎ出す。

私は、()()を知っている。知っているからこそ、何故()()がまた、私の身に起こっているのかが分からない。


『神咲さーん、いらっしゃいませんかー?』


真っ暗な空間にも関わらず、どこからか声だけが聞こえて来た。私は、縋る思いで声のする方へと手を伸ばし「助けて──」と、口を開きかけた時、浮遊感を感じて


ーあぁ、もう……駄目だー


伸ばした手から力が抜け、開き掛けた口を閉じて、その浮遊感に身を任せた。












「──────ん…」


次に目にした景色は真っ白な空間ではなく、どこかの…森?だった。明るさ的には…夕方だろうか?


ーあれ?何となく…見覚えが…ある?ー


ヒュッ─と息を呑む。




あの満月の夜。銀色の光に照らされた2人が居た。鞘にエメラルドグリーンの石が嵌め込まれた短剣。それを、微笑んで受け取っていたシーヴァーさん。


その場所に、今、私が………居るのだ。






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