置いて行く
「赤色のピアスを着けてるってだけで、イコール“ルーファス”とは…限らないのにな。」
そう呟くメイナードさんは、軽く眉間に皺を寄せている。
「でも、あれだけ2人で微笑み合っているところを目にすると、そうであってもおかしくないと思いますよね。」
「「「………」」」
あの美少女エメラルドに惹かれない男が居るなら見てみたい─とさえ思う。
ー本当に…お似合いだよねー
「お花摘みに──」と言って、私は1人で打ち上げの場から離れた。
ー“お花摘み”…確か…男性バージョンは“雉撃ち”だったっけ?ちょっと過激な比喩だよねー
「────で───を─」
「───ます──」
ー?誰か…居る?ー
ヒュッ─と息を呑む。
エメラルドが差し出した短剣?の様なモノを、優しい笑顔で受け取るシーヴァーさん。その短剣の鞘には、エメラルドグリーンの石が填められていて、キラキラと輝いている。
「………」
今夜は満月で、銀色の光が輝いていて、いつもより幻想的な夜空になっていて、その月の光に照らされている2人は───
「お似合いだなぁ───」
ー見ているだけなら、許されるだろうか?ー
王都に帰る迄。日本に還る迄だけなら、見てるだけなら…良いよね?日本に還る時には…全てをここに置いて行こう。
軽く目を瞑って気持ちを落ち着かせてから、私は静かにその場を後にした。
私が皆の元に戻って来て暫くすると、シーヴァーさんが私達の居る所にやって来た。
「あれ?今日は、聖女様の護衛は良いの?」
「アレだけ騎士に囲まれていたら、私が居なくても問題無いし、居ない事も気付いてないかもな。」
なんて笑っているけど、エメラルドがこっちをチラチラ見ているのには…気付いてないのかなぁ?
「それに、騎士だけではなく、魔導士達とも祝いたいからね。」
ニコッと笑うシーヴァーさん。
確かに、お祝いくらいは許されるだろう。
こうやって、一緒に居られるのも後何回あるか分からない。なら、今は今で私も楽しもう。
相変わらずチラチラ寄せられるエメラルドの視線は気になったけど、私は気持ちを切り替えて楽しむ事にした。
打ち上げも終わり、皆がそれぞれのテントへと戻って行った。
明日の朝はゆっくりして、昼食をとってから片付けをして王都への帰路に就く予定だ。
旅は1年程。この世界に召喚されてから2年。
「あっと言う間だったなぁ」
世界が変わっても、美少女は美少女、イケメンはイケメンなのに、普通の私だけは扱いが悪化…したよね?
「理不尽!」
ー魔導士には…恵まれたけどー
アズールさんは分からないけど、バーミリオンさんとエメラルドはこの世界に残るかもだから、またどこかで…挨拶でもできたら良いんだけど…。気になるのは…周りの人達が、私達に「これからどうするの?」と、訊いて来ない事。私達が、これからもこの世界に居ると…思ってる?それとも───
と、考えていると
『さぁ、あなた達は───どうしますか?』
と、頭の中で声が響いたかと思うと、眩しい光に包まれてあまりの眩しさに目を閉じて───
次に目を開けた時は、また、あの真っ白な空間に居た。
でも、召喚されて来た時とは違う事。
それは──
その空間には、私と、女神アイリーン様だけしか居ないと言う事だった。
「やっぱり、バーミリオンさんとアズールさんと…エメラルドは残るんですね?」
『えぇ。あの3人は、この世界に残る事を選んだわ。貴方は…元の世界に還る事を選んだ。それで…良いのかしら?』
「──はい。私は…1人でも還ります。皆に…挨拶ができなかったのは…心残りですけど。」
『そう─では、貴方には…名前を還します。』
アイリーン様がニッコリ微笑んだ後、ストン──と、私の中に“何か”が入って来た。
『では、最後に、名前には魂─魔力が込められていて、その名を囚われると、魂まで囚われてしまう恐れがあるから、貴方達が元の世界へ還る迄、貴方達の名前は預っておきますね。』
『“名を隠す”より、“名が分からない”方が、より安全だから──』
思い出した。あの時、アイリーン様に言われて、私達は納得して名前を預けていたんだ。
私の名前は─神咲志乃。
『ウィステリア──』
ナチュラルに呼び捨てになってたけど…私が想いを寄せた人は、私の本当の名前すら──知らない。
『何か、思い出として、持って行きたいモノはありますか?』
「……あ……」
そこで、ようやく思い出したソレ。ウエストポーチから取り出したのは、あの日、シーヴァーさんから貰ったモノ。あれからバタバタして中身の確認すらしていない。
『ソレを、持って行きますか?』
「……いえ。逆に……置いて行く事はできますか?あの…できれば、召喚された時と同じ状況で還りたいんです。この世界のモノは……全て置いて還ります。」
『……分りました』
パチンッ─と、何かが弾かれたような音がした後、私は2年前と同じ─高校の制服を着ていた。
『他に何かありますか?』
「いえ、これで…大丈夫です。」
『では──神咲志乃さん、私達の世界を救ってくれてありがとう。これからの貴方に──幸が多からん事を────』
私は、淡い恋をした。いや─“恋”とは呼べない程の想いだったかもしれないけど。そんな小さな淡い恋も、貰ったモノと一緒に置いて行く。




