マリン(2)
水でできた子供は道を指を差し示し自分達を先導してくれるようであった
着いていくかは三者三様に悩んだが確かめたい、とのセイレーンの一声に押されて従ってみることにした
「不気味ですね。どうにも」
リーダー氏の目はまっすぐ先導する四人を見ていた
確かに不気味だ。攻撃してくるわけでもない、かといって言葉を交わすわけでもない
つまりは、試練を与えるどころか交流すらできない。こんなものがマリンの弱点であるところに導くだなんてどうしても思えなかった
「なぁ、セイレーンーー」
俺が口を開こうとすると前の子供たちに変化があった
三人が家になり、一人が女の子になったのだ
ーーわたしはマリン。今日は思いきってあの娘にあってみようと思うの
始めて声らしい声を発したと思えば、そんな言葉だった
「こ、これはーー」
まさか。と俺はセイレーンを見る
隣に立つセイレーンの双眼が震えていた
ーーだってあの娘の魔法ってとてもキレイで、興味深くて……こころが暖かくなったから
そういって女の子は扉をノックして水溜まりの様に沈んでいく
そしてまた、四人の子供たちに戻った
「……ふーむ。そういうことですか。大丈夫ですか?」
指で差し示す子供たちに合わせず、リーダー氏は後方にいる俺とセイレーンを見ながらいった
「俺はいいがセイレーンが……」
隣のセイレーンはしっかり前こそ見ているがその足取りが重い
「我のことならーー構わなくていい。大丈夫だ」
この時点でかなり憔悴しているようであったが、彼女はそう言った
当然、大丈夫だろうとは思えない
「この物語、とても後味が良くない結果になりそうですね
その先あるマリンの弱点……というのは恐らくろくなものではないと思われます」
それを見ていたリーダー氏は脚を止め、こちらを向いていった
確かにこれは覚悟するとかしないとかの問題じゃない気がする
「どうでしょう? 引き返す、という選択もあるかと思うのですが」
俺はリーダー氏の言葉に悩んだ
確かに、クエストリタイアする案件かもしれない
すべて放り投げる。それもまた勇気と言えた
「……わかった」
「回れ右ー。カメトキー」
俺の答えに、亀に乗ったメイ氏は方向転換する
「ーー待って」
その途中、セイレーンが声を震わせた
俺はどうしたとばかりに顔を向ける
「あの娘が助けを求めてる。どうしてもどうしても見棄てるなんて、我には……わたしには、出来ない」
悲痛だった
恐らく、彼女には聞こえるのだろう。マリンの本当の声が
例えば、それが罠だったとしても……確認せずにはいられない
そんな思いが見てとれた
「その結果、ピタゴラスが命を落としても?」
メイ氏は亀の方向はそのままにこちらを向いて問うた
実に意地の悪い質問ではあるが、これは必要な質問でもあった
「セイレーン。貴方は自分の主人を護るといった。しかし、そのような状態で守れるのですか?」
セイレーンは答えられない。目を伏せ、唇を噛んでいた
その脚は一歩も進んでいない。諦めきれないのだ
それも無理からぬことだ
「それともーー貴方は主人よりも、マリンを取るのですか?」
セイレーンはいよいよ頭を抱えて蹲ってしまった
これでは、あまりにもーー不憫だ
「メイ。それは違う……違うんだ」
「ピタゴラス。君は自分より他人をとるところがあると言っただろう。出過ぎた真似をしたのはわかってる。でもきっと……こうでも言わないとそのセイクリッドはわからなかった」
俺はメイ氏と蹲るセイレーン見比べるように見てそうなのかもしれない、と思う
確かにセイレーンの希望を踏みにじるようなことは俺にはできないし、客観視も難しかった
「蹲らせてしまってはしょうがありませんね。この世界の果てとやらがどこまであるのかわからないですし、またマリンが襲ってくるとも限りません」
「セイクリッドを強制的に引っ込める方法って……ありました?」
「術者のHPかMPを零にできれば、可能でしょうが……」
「それは本末転倒ですね……」
リーダー氏とメイ氏の会話はそこで終わり、頭を悩ませていた
「なぁ、セイレーン……」
機をみて、俺は蹲ってしまったセイレーンの隣で声をかける
「ごめんなさい……ごめんなさいピタゴラス
わたしはこんなにも……小さい」
耳を塞ぐように蹲り、小さく震えて抗っている様をみた
どのあたりが小さいんですかね?
「俺は勿論迷惑メール消すついでにセイレーンが良くなるって思って受けたってのはある
でも今回はちょっと違うんだ」
「ち、がう……?」
「うんそうだ。ちがう。厳密にはマリンのことも増えた」
セイレーンが食いついてくれたのを良いことに、俺は話を続けた
「ああ。あれは重症だ。早急になんとかしないとえらいことになると思う」
「それは……」
どういうことなの、といった顔であった
今説明する
「俺はマリンに恩なんて売った覚えなんてない。全く。しかし、マリンは俺に恩があるという
なぜか。答えは簡単だ。セイレーン。おまえに関係している」
「それはセイレーンをただ召喚したことが関係してるんだ。きっと」
「セイレーンを憎みながら、セイレーンには興味がある。それは元から恨んでる人間がもつ思考回路じゃない」
「本人に確かめないといけないこともあるけど、確実なのはあれは、助けを求めてる。ちょっとハズレてほしかったかもしれないけど当たりだよ。あれはどうしようもなくもがいてるんだ
そして、それを助けられるのは……セイレーン。君しかいないんだ」
「ピタ、ゴラス。でも……」
分かってる。君は不安なんだろ
「正直に言おう。セイレーン。俺はね、あれは今潰さないと面倒な存在になると思うんだ
今回を逃すとそれこそ、俺の敵でも、セイレーンの敵でもない……自分を傷つけ続けて他人を傷付けることに慣れたような……慣れてしまったようなそんな存在になると思うんだ」
「それは……そうなっては……あまりにも後味が悪い。そして、今以上に戦いにくくなると思う」
「わ、わたしは……!」
おっ立ち上がったな。いいぞ。いい顔になってきた。その息だ
「それにそもそも君は俺だけじゃなく、リーダー氏やメイ氏に迷惑になることを恐れているんだよ。違うかな?」
セイレーンの目が分かりやすく泳いだ。図星か
そんなことだろうとは思ったが全く。余裕もないくせになんていい娘なんだこいつめ
「それなら、二人にはここでまってて貰おう
元より、マリンの目的はセイレーンの親である俺ってことになるだろ。俺さえいればまぁ納得してくれるんじゃないかな」
ほえー、とかおおー、とかリーダー氏とメイ氏の声が上がるが、とりあえず無視だ
二人には後で説明しよう
「今までずっと護ってたからってんで気合い入りすぎてたんじゃない?」
ここはちょっと頂けない部分でもあるんだけど。まぁ、自戒も兼ねて
「たまにはさ、護られてみたら?」
俺の言葉を聞いて、セイレーンが神妙な顔をして近付いてくる
おっ。殴りたいのかな?
「……ま、まぁ、やっぱりうまいことはいえないんだけどおわはぁっ!」
「ピタゴラス……ピタゴラスっ!」
最後の最後でうまく言えなかったと思ったが、言わんとすることはわかったのか我がパーフェクトセイクリッドが抱き付いてきた。というより殆どのし掛かってきた
あらー、とかだいたんなー、とかいってる二人は今は見えないものとする
楽しそうでなによりです
「ごめんなぁ……いつも無理させて」
「ううん……わたしこそ」
俺の上に倒れたセイレーンの頭をといて、落ち着かせる
セイレーンさんは目を細めてらっしゃった。いくらでもなでるでーす
「ピタゴラス……行こう。もう、大丈夫だから」
しばらくそうしていると、セイレーンが起き上がり両手で俺の頬を挟んでくる
どこか吹っ切れたような、憑き物が落ちたような爽やかな笑顔を向けていた
セイレーンに片手を取られ、俺は立ち上がった
なにやら密着率が上がって色々大変なことになっているが、先程とは比べ物にならないほど脚が速いのでまぁ良しとした
「どうも」
そんな俺たちを一言で一人が追い越す
リーダー氏だった
「リーダー……さん?」
「若さとは尊いものです。少しあやからせてください」
セイレーンの声かけに独り言のようにリーダー氏は自分達の先を歩いた




