毒を食らわばなんとやら
リーダー氏は急遽として酒場に呼び出されていた
正確にはキャパシティをこえた俺を見かねてメイ氏が呼び出したのである
ややあってメイ氏の隣に座り、今は眉間にシワを寄せている
「うー……?」
俺の端末を両手で持って唸っているエルフ幼女だが
メイ氏に流石に目立つのではと注意されていた
こうでもしないと見落とすのです。なりふり構ってられませんね、とリーダー氏にやや冷たく返され、相手にされなかったのが悪かったのかメイ氏は小さくなっていた
いい加減なにかメイ氏に話のひとつでもふろうかと思っていたころ、リーダー氏がふぅ、と一息ついた
「何かわかりました? アリスさん」
「ええまぁ……大きくは伝え聞いた通りだということがわかりましたよ」
メイ氏とリーダー氏の会話になるほどとわかった風に俺も頷くが、実はそこまで状況が分かってなかった
運営から迷惑のメールが送られるのは少なくとも俺一人であろうことはわかる。それだけのことをした覚えもあった
ただこういう形でくるというのはちょっと斜め上であった
もっと直接的なことができたのでは、と思わなくもないのだ。それを考えると肝が冷えるが
「それとこれは朗報と呼べるかも難しいですが、これレイド扱いみたいですね」
「レイド扱い……? 全プレーヤー向けってことか?」
「いえ、三人が望ましいようです」
俺は目をおとした
相手はセイレーン並みかそれ以上の存在だろう
三人というのはもしかすると少ないのかもしれない
「久々に、腕がなりますね」
俺の端末が机を滑って帰ってきた
俺はこれをしっかり包み込む
「欲を言えばカナンさんがいればよろしかったのでしょうが……まさか喧嘩とかしてませんよね?」
した覚えはない。全くない
とっても仲良しである
「そこまで必死に首を振られると一体どこまでの関係なのか邪推したくもなりますが……まぁいいでしょう」
多分及びませんものねと続き、苦笑いを浮かべたリーダー氏の片手がメイ氏の肩に止まる
びくりとメイ氏はリーダー氏と顔を会わせた
「確かメイ……とおっしゃいましたね。カナンさんから話は聞いています。なんでも我がクランに入りたいのだとか」
ずいずいとエルフ幼女に言い寄られる侍という見る人が見たら羨ましがられそうな場面ではあるが、ここでなくてもそういう誤解は受けなさそうだと思った
「は……はひ」
お侍さんは震えている。それはそれで一部の人には受けそうな魅力はあるが、だからといって変わってやりたくはならない
「どうでしょう。毒を食らわばもろとも……でしたっけね。まぁ、そんな感じかと思いますが」
覆い被さるかのようなリーダー氏の提案にメイ氏は滅茶苦茶頷いていた
「素晴らしい。一応確認しますがよろしいですよねピタゴラスさん?
ああ、もちろんカナンさんの方が良かったのはよくわかりますから言わなくて結構」
そんな状態からリーダー氏は顔をこちらに向けてきたので、はいかイエスしか答えられなかったと思う
作戦会議が始まって間もなく俺とメイ氏はリーダー氏によってとあるフィールドに連れ去られた
「期日は多くはありません。お二人とも……とくにピタゴラスさんはそのレベルであのレイドに参加し、その上で優秀な成績を残したことは驚きでしかありませんね」
リーダー氏はにこやかに告げた
この人の笑顔は怖い。実際俺とメイ氏は並んで正座である
「正直少し妬ましいという思いすらありますが、ここでは問いません
なんといってもわたしたちはこれから協力しあう仲間なのですから」
そうですよ、と再度自分に言い聞かせたのか告げて一息つくリーダー氏
どうやら冷静に戻ったようだ。迷惑かけます。本当に申し訳ありません
「なんて顔ですか二人とも。とりあえず立ってください」
なんとなく流れで正座していた俺とメイ氏だったが、この場で始めて顔を合わせた
どうやら今度はどちらが早く立ち上がるかの譲り合いらしい。リーダーに申し訳が立たないやら、メイ氏が涙目で黙って首を振るやらで結局俺が折れた
「見てください。これがお二人の功績です」
知ってか、知らずかと思い背を向けたリーダー氏は天を仰いでいた
ーー確かに、これは自分達が立ち向かったとは思えないな
そこは仰ぎ見るほどの巨大な島。しかし、俺はこれが亀であることを知っている。もうずっと大きな寝息を立てているそれは、やはり今にも起きだしそうで緊張を感じる
「貴方達のレベルはここで上げきるのが望ましいでしょう
最もここでしたら少し余裕も出来てしまうかもしれませんがね」
そんなものなのか、と俺は緊張を越えた先の拍子抜けをした
「そうですよ、ピタゴラスさん……メイさんも。誇るべきです
貴方達は皆の暮らしを凄まじく快適にしたのですから」
リーダー氏はわざわざ振り返って告げた
どうやら言葉が溢れていたようで恥ずかしかったが、面と向かってリーダー氏の笑顔を見れると良かったなぁとの実感が沸いてきた
実績
レベル99
ピコーンとなって間もなく切り上げた俺達だったがやることといえば、与作のように木を切ったり折ったり水浸しにしたのみだ。しかし、それで嘘のようにレベルは上がっていった
「メイさんからステータスお願いします」
「うっ。え、えと四十、六十、五十、四五です」
緊張しすぎて吐きそうなメイ氏が告げたのは上からHP、MP、Atk、Defだろう
魔法使いであるリーダー氏の師事により、少しMPが加算されてるといった様子だろうか
「ふむ。平均的なのは珍しいですね。返って好都合です
巷では前にでないからとMP極振りする輩が多く飽き飽きしてたところです」
「本当ですか! 良かったぁ。ありがとうございます!」
どうやら今回の懸念はそこだったようでメイ氏の顔は晴れやかだ。ありがとう。つよくいきてほしい
「ではピタゴラスさんは?」
「う、うえ。その……」
「どうかされましたか?」
ギクリとして言い淀む
どうやら今度は俺が吐きそうになる流れなようだ
流石に極振りになったとはいえない。どうしよう
「ははん、さては極振りに……?」
覗き込むような視線に更にギクリとして、力なく俯いた
俺の場合はMP極振りでも良かったはずだ。それは忘れてない
しかし、流石に大体HPにいったとは言い難かった
メイ氏よりリーダー氏の時間を割いてこれでは本当に申し訳が立たなかった。どうなってるんですかね?
「数値を吐くのです。早く」
「百二十、五十、十五、十……です」
「呪われたかのような紙ですね……」
ふむ、とリーダー氏は顎に指を添えた
メイ氏も青い顔して見守っている。大丈夫だメイ氏。吐くときは一緒に吐いてやる
「まぁいいでしょう。想定内です
ピタゴラスさんはこのドラフル食べてて下さい」
キイチゴをりんごの大きさにさせたような謎フルーツをリーダー氏に押し付けられた
憮然としながらも、俺はこれを口にした。すっぱいが癖になる
「ドラゴンフルーツは色々と種類があるみたいですが、殆ど見分けがつきません。とにかく沢山食べて下さい。特に貴方はそれだけに時間を費やしてもいいくらいです」
そうなのか、と思いつつどっさりあるそれに少し顔をしかませた
リーダー氏の風魔法でほぼ全自動で運ばれるのだから、終わりは見えない。腰を据えてがんばろう
「しかしそうなると自分は……待ってるという形で?」
「いえ、メイさん。貴方には少し知恵を貸して頂きます
……ピタゴラスさん。食べながらで結構です。セイクリッドコールをお願いします」
ふぁ、と俺は食べながら顔を上げた。リーダー氏の淡く碧な瞳がうつる
何故、とは最早問わない。セイレーンの親友にして今回の敵であろう人物については二人に伝えてある
「ピタゴラスさんとセイレーンさんの見解は違うと思うのです。誤解しないで頂ければと思います」
俺はそうでふか。と続き物を食べたまま言おうとしたのでそれは流石とリーダー氏に飲み込むよう促されたあと告げた
「こい、人魚姫……セイレーン!」
やはりおよそ呪文とも言えぬそれに従い、足元から水が渦のように発生した
ひっ、やらにゃあやら声が上がる
ーーフフ、フ
セイレーン氏の渦は勢いを増していた
俺が成長したからだろうか。完全に油断していた
溺れる。溺れちゃう
亀の上で溺死かぁ……間違ってない気がする!
ーーごめん。ごめんね。すぐに楽にしてあげるから!
半ば壊れた思考と共に渦が俺を包んだ。いけません本当に楽になってしまいます!
そんなことを思っていると漸く人肌を感じた
「ピタゴラス……ピタ、ゴラス!?
ごめん。ごめんなさい。大丈夫!?」
軽くブラックアウトしかけたがとても元気です
実はちょっと吐きましたとですピタゴラスです
セイレーンはそのパーフェクトぼでーを押し付けながら俺の背を擦ってくれていた
ありがとう
「……ふぅむ。ピタゴラスの話とは逆に、聞けば聞くほど敵であろうといった懸念は消えていきますね」
「……そう。本来ならあの娘が我と矛を交えようなどとは考えぬはずだ
あの娘は、奔放だが愚かではない。冷静に自分を見つめる能力に長けていたと記憶している……私に好意まで抱いてくれていた」
メイ氏の言葉にセイレーンは答えた
俺も食べながらではあるが耳を傾けている
「酷い事いうようで非常に心苦しいのですが、同時に敵の可能性もあることもありえなくはないんですね?」
「……ああ。正気でないのならその限りではない
最もこのわたしが……このわたしが突き放してしまったばかりに……」
「総点はそこではありません。究極的には個人の問題でしょうから」
続くメイ氏の言葉にどこか元気をなくしてしまうセイレーン
リーダー氏はその言葉を遮るかのように告げた
俺は食べながら彼女の肩に片手をおき、それとなく慰めようとしたがこれは不要であったようだ。それどころか、すべすべした手を重ねてきてこちらが元気になる有り様である
すべすべしながら……ドラフルを食らうっ!
実に捗るのだった
「しかし、残酷なようですがそんな唯一無二という親友と戦わなければならないかもしれないのもまた事実なのです」
「ピタゴラスの敵は我がこの命にかえても滅する」
セイレーンはこちらを向いてきっぱりと言った
手が震えていた。多分、言ってくれたんだろうとは思う
大丈夫。俺もついてる。いざとなれば……食べ物で言葉には出せないが、伝わったはずだ
「どうやら愚問のだったようですね。アリスさん」
メイ氏に呼ばれたリーダー氏は一つ頷く
「待っている間、セイレーンさんさえ良ければもっと貴方と親友の彼女とのことをお聞かせいただければと。かいつまんで聞いていても非常に興味深いお話でしたし……ダメでしょうか?」
「それはーー」
リーダー氏の提案にセイレーンは困ったような目を向けた
自由にするといい。少なくともこの二人は敵じゃないのだから
「ひみつですっ!」
そういってセイレーンは俺の背中に隠れてしまった
そんなセイレーンをみてフラれました、と傷心するリーダー氏の顔でメイ氏が笑っていた
俺には仲間がいる。こんな心強いことはない
改めて当たり前なことに気が付いて、なんだか負ける気はしないなという思いが膨れ上がった




