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招待状

“to:運営

拝啓、ピタゴラス殿

貴方は先日の戦慄! 動く宝島において優秀な成績をおさめられました。記念品として特別ガチャコイン一枚をお送りします”


 俺は端末に向かってため息を吐く

 いらない。正直なところそんな感想だった

 その理由は明白だった


 なんといっても、セイクリッドはセイレーンだけで十分すぎるからである

 パーフェクトだからである


 かといって使わないわけにはいけないようで、端末を開くと最初にこいつが出やがるのだ

 むしろ、常に出やがって消せないのだ。流石に連絡手段は生きてるようだが気休めにもならない。一度見たきり掲示板を見ることもないので、そこまで端末を弄らないからだ


 或いはこれは交友関係の乏しい俺への嫌がらせなのだろうか? 実に腹立たしい。クソゲーかもしれない


「……よ。ピタゴラス」


 この事態を知る唯一の人物が対面に座った

 唯一な存在にしては頬杖ついたようなぞんざいな態度だがまぁそこは許してくれるだろうと思う


「ああ、メイか」


 ぞんざいな態度から出る言葉はぞんざいな言葉だ。交友関係が乏しいのは自分の責任だが、それでも俺はささくれだっていた


 その席にリーダー氏が座れば今にでも言おうと思っていたが彼女(?)はログインこそしてるものの、そもそもつかまらない。まぁこれはいつも通りだ

 リーダー氏は、本来忙しい人物である。なんといっても、リーダーなのだから一人を構ってるほどの暇人ではないはずだった。……そもそもなんで構ってくれるんだろう。今度、聞いておこう


 問題はカナンだ。カナンだけは別だった。やはりここに存在していれば今にでも言おうと思っていたが彼女は何があったのか、ログインすらしていない

 考えられなかった。これこそありえないとすら思う。今回とは別件だが、少しどころじゃない心配だ


「散々考えたんだけど使った方がいいんじゃないか?」


 どんなに忙しかったりありえなくてもそこへ実際に座ってるのはメイ氏である

 イベントの時、なんだかんだで助けてくれたのもメイ氏であった


「そうかな」


 俺はひとつ呟いた。ささくれだっていた気持ちもこう一回や二回構ってくれたというわけでもなければ氷解していくらしい


「そうだよ。ピタゴラス。勿体ないって」


「……これメイにやれれば話は解決だったんだけどな。そもそもくれてやれないとは用意周到なもんだ」


「だからそういうところダメだぞ。ピタゴラス

 おまえはそれがプレイヤーにとってどれだけ価値があるものなのかわかっちゃいないんだ。不用心すぎる」


 ぽつりと俺は溢すが、メイ氏は存外心配性である

 結局はそういうケアが有り難いと思うのかも知れなかった


 ただ同時に申し訳なかったとも思うのだ

 流石にこれは言葉に出せないがせめて、続くであろう言葉にきちんと姿勢を正して聞こうと思い付いた


「……どうした? 急に姿勢なんて正して

 もしかして、頭でも打ったのか? それともケンカでも売ってるのか?」


 どうやら日頃の態度を改めなければならないようだ




 俺は倒れ伏す爆死を脚でのかしながらそこへたどり着いた

 てっぺんが赤く、丸く半透明な球体と銀色の取手。いっそ懐かしいとすら思うその出で立ちだった


 しかし、嘗めてはいけない。これだけの犠牲者がでるのだから

 俺は気を引き閉めて握っていた片手を広げた

 手に収まるのは特別なガチャコインだ


 特別なガチャコインというがそれは通常金色に輝くコインが黒いだけの代物だ

 なにも言われてなければ、通常のコインの方が高級感はあると思う


「やっぱりそのコイン黒いんだな。特別感ある」


 なりゆきで着いてきたメイの目はわかりやすく輝いていた

 何とかして渡そうとした都合上、何回か見せたはずだがそこまで夢中になれるものなのかはやはり疑問だった


「……まぁこいつを入れて回せばあの迷惑メールともおさらばだな」


 口ではその程度だと言ってはいるが俺も内心、期待していた

 なにやら凄まじい演出があったりするのではなかろうか


 ガチャがすごく光る(メイ氏はこれだったらしい)以上の演出だと考えるとスタッフが出てきて胴上げとか……それは流石に殺されそうで恐い。倒れ伏す爆死ちゃんくんは侮れない


 その日を境にフレンド申請でメールがパンクしたと道すがらメイ氏に聞いた時は身が引き締まる思いだった


 露払いなら任せろだとかカナンさんに挽回のチャンスをもらってどうこうとメイ氏は独りでに燃えていたので、割りとどういう時も頼もしい人なのかもしれないと俺は思っていた


「なに? 回さないの?」


「今回す。すぐ回す」


 メイ氏にせかされ一瞬で決めてやると意気込む

 怪しげな黒いメダルを取手の上に入れ、一息で回した


実績

始めてのガチャ


 特別、重いとか光るとかはなかったな。と思っているとピコーンと鳴った

 ふーん……だから?


「ん?」


 メイ氏が疑問符を投げる

 当然だ。なにも出てこなかったからである

 実績以外なにも出てこなかったからである


 俺は無言で取手を掴み回そうとした

 それは頑なに回らない。考えてみれば当然だ。コインを入れてない。ガチャを回すにはコインが必要だ


 しかし、俺にはガチャを回すコインがない


「待て。待てピタゴラス。あ、ありえない。もう少し粘ろう!

 ほら、袖からスタッフが来るかもわからんし! 胴上げとか! するかもわからんし!」


 俺は愕然とした顔をメイ氏に向けた

 爆死だ。もらったコインとはいえこれは爆死だ

 意識が深く深く沈んだ。そうか、これがーー


「ピ、ピタゴラスーーッ!」




「セイレーン!」


 俺は白い謎空間でぽつねんと鎮座し存在するそれを見つけた

 そうだ。俺には帰る場所があったんだ

 こんな幸せなことはなかった


 道すがらあっちょっと待って、とか心の準備が、とか悩ましい声が脳内から聞こえたが構わなかった


 このまま止まらなければ、きっと道は続く

 そう思って駆け出した


「……ピタゴラス。流石にそれはなしだよ。ね?」


 脳内から我がパーフェクトセイクリッドの声が聞こえる

 鎮座してる彼女は人指し指を合わせてしっかりばってんにしている


 控えめな笑顔を向ける彼女にかわいいとか甘えたいとか考えてると頭から水バシャーされた。ですよねー




「ピタゴラス!

 よかった。目覚めたか。爆死したかと思った!」


 メイ氏の声にはたと目覚め、俺は無言で立ち上がった

 まるで新しく産まれかわった気分だった


 ガチャで人は爆死する

 恐ろしい経験だが、なにもおかしくはなかった


 俺はひとつ賢くなった

 酒場へと帰る道すがら、倒れ伏す爆死者達を敬意をもって脚で退かしていった




「結局、何だったんだろうな。アレ」


 対面に座るメイ氏の言葉に、俺は頬杖を立てた

 わからない。結局まるで意図が掴めなかった。あの催促こそなくなったが、いよいよもってクソゲーかもしれない


 そのまま無言でいると、急に端末が震える

 ちょっといいか、というように目線をメイ氏に投げた

 メイ氏はなにを感じたのか頷いた


 俺は爆死したショックを引きずりつつ、ズボンのポケットから端末を取りだして目を剥いた


“to:運営

特別なガチャコインの使用を確認しました

貴方に【歌姫からの招待状】をお送りします”


 そういうことか、と椅子から尻が浮いた

 なるほど。サプライズとはいい趣味をしている

 夢と希望と期待を込めて、歌姫の招待状を開いた


“歌姫からの招待状

アトランティスの更に奥、そこに待ち人は現界する

今、永遠に無くされし楽曲が完成する時”


 その内容は、見たこともない最高難度のクエストだった

 無言で閉じようとするとメールは消えなかった


「ピ、ピタゴラス!?

 どうしたんだピタゴラス!

 ピタゴラスーーッ!」


 俺はその場でひっくり返った

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