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アトランティス

「助けてくれ“セイレーン”!」


 俺は声の限り叫んだ

 するとどうだろう。海水が迫ってくるではないか


 いや、渦となった海水が重力に逆らって逆流している

 そういや草原ですらあれでしたものねぇ


「ーーがっもがぅ」


 渦に突っ込むと鼻に水が入るわ、耳はブクブクしか聞こえないわで息など留められる訳もなく死にそうだった

 このままだと溺死する。カナンとセイレーンとの三人旅という理想をのこして。自重してくださいセイレーンさーん!


ーーごめんね


 わざとじゃなさそう! まぁ良いや!

 セイレーンの声が聞こえたのと早めに渦が終わったので思考が回復した


 しかし、水の中だからなのかセイレーンの姿が見当たらない

 そもそも海上目指さんと死ぬな、これ

 はたと気付いた俺は懸命に上に向かって掻いた


「ひゃああぁっ!」


 するとどうだろう。柔らかいものが落ちてきた

 尻だと俺は確信すると共にあっこれは死んだな、と感じた


「ーーピタゴラス、ピタゴラス。大丈夫!?」


 かろうじて吐く息はあるよ、カナン

 でもその……肩をもってガクガクされるとね、息が出ちゃうの


「はうっ」


 ブラックアウトした視界の中でそんなことを思っていると

 情けない声と共にカナンの手が離れ、違う手に触られる感覚がした


ーーじっとしてて


 セイレーンの声が聞こえたのと同時に、柔らかいものを唇に押し当てられた

 押し当てられたと思ったら、平面のぬるりとしたものが俺の唇をこじ開ける


 色んな意味でいけませんが、死んでしまうのが深刻だ

 口に含んでいた空気を最後まで吐く


 ぬるりとしたものはそのままぎこちなく俺の舌を這った

 まぁ、良いとどめになったかなぁとか思ってると喉仏辺りがビリリとして朧気だった意識が覚醒した


ーーピタゴラス。息を


 ぬるりとしたものを空気と一緒に吐き出す

 セイレーンの声には従えなかったが咳ができた。喉の側面辺りがこそばゆい


「これは、一体」


 俺は言葉を発せた

 側面を触ると両側に楕円形の穴がある


ーーエラ


 エラなんだ、と水を飲む

 確かに意識がはっきりした


 裸眼だが視界もクリアになっていた

 だがやはり、近くにいるはずのセイレーンの姿は見当たらない


「だ、大丈夫?」


「まぁなんとか」


 競泳水着系褐色女子が近付いて来たのを確認し頷く

 ゴーグル着用すると色気より先に選手感出るな


「よかったぁ。死んじゃうかと思ってたよ」


「実際セイレーンがいなかったら即死だった」


 ははは、と笑うカナンにそういや普通に喋れてるなと思う

 どういう手品なんだと胸の辺りを凝視してみるが苦しそうという感想しか浮かばなかった


「……触ってみる?」


 カナンの魅力的な誘いにいやいやと俺仰け反りながら手を振ると目を細めたとゴーグルごしでもわかる距離まで近付いて来た。あらべっぴん


 悩んだ末、肩に触ろうとしたが押し戻されて触れなかった

 ざんねん


「二人に風魔法をかけてもらったから今は強力な泡になってるみたい」


 カナンは自分の二の腕辺りを指で触って確かめた

 察するにカナンはなにやら風魔法を身に纏って水中でも無理矢理酸素を確保しているらしい。二人がかりとはいえスゴいぞ風魔法!


「そういえば、ピタゴラスのセイレーン? さんは……」


「気配はあるんだけど……いや、実態もあるはずなんだけど」


 カナンの言葉に首を捻る

 MPが僅かに減っていっている感覚がある

 最初の一連でごっそりだったが、そのあとは静かなものだ


「……ま、またっ! 肩を叩かれた!」


「おいおい、おばけじゃないんだから」


 青い顔で両肩を抱えるカナンに笑いかける

 まぁ犯人はわかりきっているが、あの弾力に抗えるとは。流石に頼りになるな


ーー負担を少なくしてみたよ


 セイレーンの声だ。声の方に片腕を伸ばす

 やはり、手を握ってくる感覚があった


「そこにいるんだな、セイレーン」


ーー声が届かなくて肩を叩いた。ごめんって伝えたいんだけどどうしたら……


 俺は握ってきた手を握り返した。なるほどそういう事か

 いるし、在るけど、同化して見えないだけ

 つまりはこういうことらしい


「いるんだね? ピタゴラス」


「肩を叩いてごめんってさ。今右手占領されてる」


 へー、とカナンは関心しているようであった

 すごいだろう、カナンでもあげないぞ


「ふふ、さてはいたずら好きだな?

 ちょっとびっくりしちゃったけど気にしてないよ」


 カナンは良い笑顔でそういった

 さてはイケメンだな?


「でもこう予兆があると助かるかなー、なんて……」


 両手を胸のところに合わせてカナンは声を控えめにいった

 肩叩きの予兆とは一体。少し本気で考えてしまった


ーーうん。がんばる


「ほ、本当に気にしないで!

 びっくりしただけなんだから!」


 がんばるってさと簡単にセイレーンの通訳をすると、この調子である

 カナンは面白いなぁ


「じゃああたしは左を持つから!

 セイレーンさんは右お願い!」


ーーわかった。離さない


 風を纏っている人が纏っているだけに俺の左腕を厳重に抱え、セイレーンは握った手が二度と離せない位に握ってきた

 着々と自由に身動き取れなくなってますねぇ


 セイレーンに引っ張られ、カナンを引っ張りながら俺はわーいと言って泳ぐ

 とりあえずはこの調子で海中をさまようのだから慣れなければならんな


 そんなことを思っていると魚頭の人間と目があった

 手には三又の槍をもち、如何にもといった風貌だ


「まずいぞ」


 俺の忠告は遅すぎたと思った


ーーギギッギッ


 魚人は歯をカチカチさせながら自分達をぐるりと囲う

 運が悪かったのは相手が一人ではないことと、奴等が思いの外速かったことだ


「行けるか、カナン」


「ごめん……」


 俺は振り返り確認するがカナンは俯き、俺の腕を離さないだけだ

 ……なるほど。海中の上に魔法をかけられては流石に動けんか。魔法詠唱はできそうだが、覚えてそうもないものな


 一人の魚人が腕を上げると、一斉に槍をこちらに向けた

 あれがリーダーか。よく見ると背鰭が立派な気がする


ーー“消えろ”


 甲高い声に耳が遠くなる。セイレーンか!

 向かい来る魚人は蜘蛛の子散らすように離れていく


ーーギッ


 しかしリーダー格の魚人は戦意を失っていなかった

 槍を固く握り、こちらに目にも止まらぬ勢いで突っ込んでくる


ーー 一節“悲劇の楽士”


 セイレーンの詠唱に答えるように魚人は止まった

 セイレーンがいるであろう位置で丁度止まり両腕が切断されるのを見た


ーーまだ息があるとは……やむを得まい


 目の前の惨劇におうグロいやらこんなゲームだっけという思いがぐるぐる頭を巡っているとそんな声が聞こえた

 魚人の体が顔を上に向ける形でが浮いている。水掻きのついた脚をバタバタさせていた


「ミ、ニクイマジョめ……」


 魚人はその言葉を最後に痺れた

 それはとても光っていた。そのまま魚人は泡となる


 実績

 海底の長


 脳内でピコーンとなって実績解放

 なんか強かったもんなぁ。ネームドではなかったけど


ーーピタゴラス。これは我の……本性でもある

  醜いといわれても、仕方がないのかもしれん


 セイレーンが俺の手から離れそうになる

 声色から根が深そうな感じだ。知り合いだったのかなぁ


 うーん、言葉にはならない。とにかくこちらから強く握った

 色んな意味で離れとうない


「つよいね、セイレーンさん」


「ああ。カナンでもあげないぞ」


 カナンからのなにげない一言に俺は救われた

 サンキューカナン。君がナンバーワンだ


ーーありがとう


 実績

 セイクリッドとの深い絆


 セイレーンの言葉に被さるような実績解放であった

 最高にタイミング悪いですね

 レーズンバターロールのバターの部分でもここまで悪くない


「……礼を言うのはこっちだぞ」


 気を取り直して俺はそう告げた

 返事の変わりに手を強く握られた

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