また会うその日まで
凛子とじゅんの異様な関係も時間がたつにつれて、その異質さをカモフラージュするすべを持ったようだ。じゅんは凛子に言われた通りに脱毛やボイストレーニングを行うことで、もはやどこから見ても女の子にしか見れなかった。そんな、完全な男の娘としての生活に慣れてきたころにはマンネリ化するとも思えるほどのデートを重ねつつも、彼女等の心にはその悪魔は顔をのぞかせるどころか影すらみえなっかたほどであるから、二人の相性はよかったとも言えるかもしれない。そして例にもれずにまた二人はデートを楽しんでいた。
「じゅんは今日なに食べたい気分なの?」
凛子が顔を覗き込むように問いかける。
「最近できたあそこのスイパラ行きたい!」
最近できたというスイパラとは、近年女子の間で流行していた甘いものとしょっぱいものが食べ放題のお店である。少し時代遅れ感は否めないが、まだ中学生の彼女等にはあまり関係のないことである。
「スイパラね…。いいよ。」
少し間があったのは、凛子自身はあまり魅力を感じていないからであるが、同時にじゅんの女子らしさに関心しそれに免じて付き合ってあげようとする優しさからなるべく悟られないように二言目は一言目を打ち消すかのような屈託のない笑顔で答えた。その様子は、とても女子らしい笑顔がある。凛子は外見だけで見れば当然女子としての魅力に満ちている。普通、このようにあまり群れたがらない美人は女子グループから煙たがられる存在であるのが常である。しかし凛子はそれどころか慕われる。それは彼女のじゅんに対する紳士な対応からも見て取れるように、彼女が男よりもジェントルマンだからだった。
二人は話がまとまると、足早に例の店へと向かった。そして二人の食事がスタートした。
「ちょっと、じゅん。そんなにとって食べれるの?この前だって、大盛りにするー!とか言いながら結局半分くらい食べれなくて私に食べさせたことわすれたの?」
念願のスイパラにつくと、テンションが上がって少し冷静さを欠いているじゅんにたしなめるように凛子が注意する。
「わかってるよー。でも今日は甘いものだから別腹なの!ちゃんと食べきれるから大丈夫だって。」
いやな事を思い出したといわんばかりに顔をしかめると、反発するように次々と皿にケーキやら、パスタやらを盛っていく。
「ふーん。」
火に油だったと思いつつ、その様子を横目にみると、凛子は自分のさらにはあまり料理を盛らずに、じゅんが満足するまで一緒に料理を物色した。
ひとまず、盛った料理を平らげようと席に戻った二人はいよいよ食事を始める。しかしその30分後には、最初に盛った料理の半分ほど残ったままで、じゅんがギブアップした。
「はぁ~。やっぱりこうなるじゃない。」
一言だけじゅんを責めると、無言でじゅんの皿を自分の前までもっていき、パクパクと食べ始める凛子。あらかじめこうなることを予想していた凛子は流石と言わざるを得ない。
凛子も食べ終わって少し落ち着いたころ、凛子が重々しい口調で口を開いた。
「あのね、じゅん。よく聞いて。大学はあなたは○○大学に行くと言っていたわよね。私も進学先を決めたわ。」
「え?どこにしたの?」
凛子のこれまでに感じたことのない雰囲気につられ恐る恐る訪ねる。
「海外」
一言言い放つと、空気に妙な緊張が走り、二人の表情は見る見るうちに影に隠れていった。
それもそのはずである。じゅんは進学先が違うところまでは受け入れていたものの、月に一度くらいは会えると考えていたのだ。それが海外となると、月に一度なんて愚か年に一度だって会えるかわからないのだから。凛子自身もその事実に純粋に悲しむとともに、じゅんの表情を見るのがつらいのだ。
しかし、いつまでも落ち込んでいるわけではない。
「なら、いつか会えって来るの?」
じゅんは問いかける。
「そうね…早くて三年後かしらね。」
「…。わかった。凛子が帰ってくるまで待ってるからね。海外に行くまでの残りの時間、たくさん思いで作ろうね!」
現実を受け入れ、飲みこむには早すぎる。じゅんは、受け入れたのではない。空元気なのだ。悲しむことは一人でもできるが、凛子との思い出は今しか作れない。それならば、今は悲しむことなんかよりも、凛子と過ごす時間を大切にしようと心の中ではわかっていたのかもしれない。
それから月日がたった。3月も終わり、春の香りが色濃く感じられ、その足音がもう聞こえてくるような時期。凛子は海外へいった。二人はあの日から、濃い時間を共有した。また会うその日まで心の平穏が保てるように、たくさんの思い出で二人の心は満たされていた。もちろんそれは、満開の桜のように誰が見ても美しいものではない。見方によってはひどく悲しく見えることもあるが、やはり見方を変えると雅で上品に見えることもある、枝垂桜のようなものかもしれない。とにかく、二人が納得できる分かれ方をしたのだから、これはよいのである。
そして、じゅんは凛子にこそ言わなかったが地毛を伸ばすことを決意していた。これは、彼なりの凛子とのつながりのあかしなのかもしれない。そもそも、半ば強引に男の娘にされてしまったが、いまはそれを強要する凛子が不在である。しかし、やめるどころかより高みを目指すその姿勢からは、凛子との生活に満足していたことは言うまでもない。そして、凛子が帰ってくるその日まで、彼は凛子との思い出を胸に、そしていつか再開する時への期待を彼自身の髪にこめて、その時を待ち望んでいるのである。彼の高校生活はまだ少し先になるが、また波乱万丈の物語となることを知らずに。
この小説は番外編といいますか、私の世界観からは補足的な意味合いをもった話しとなっています。もちろん楽しんでいただければ幸いなのですが、あまり刺さらないかもしれません。短い作品でありながら、更新が大幅に遅れてしまって大変申し訳ございませんでした。