はじまりのとき
大人になることを怯えないで、辛い時下を向かないで、別れを惜しまないで、人と人はここで確かに繋がってるから・・・
未来に立ち向かって
「どうだ?ここからの景色は綺麗だろ?」
「この学校にこんな所あったのか・・・」
「まぁ、ここはそもそも立ち入り禁止なんだけどな」
二人はしばらく周りを見回した。
「本当に辞めちまうのか?」
「もう分かっちまった気がするんだ。こんな学校に三年間通っても何も残らないって」
拓は笑って言った。
「やっぱり似てるな~昔の俺に。俺も昔はここから景色を見ながらそんな事考えてたな~」
「え?あんたここの卒業生かよ!?」
「あぁ・・・なぁ、お前にはここから何が見える?」
「は?そんなのただの人とかビルとかだろ?」
「そうだよな・・・俺も昔はそう見えてた。でも、今は人や植物や建物、雲さえも一つ一つが生きているように見えるんだ」
「なんだそりゃ?訳分かんねーよ!」
一志は風景に背を向けた。
「すべてはあいつと出会ってから変わったんだよなぁ~」
「あいつ?」
「あぁ友達?いや仲間?何なのか俺自身も分からないけど、きっとあいつは俺をここまで運んでくれた人生の翼なんだと思うな」
「何だそれ?意味わかんねーよ」
一志は扉の方へ歩き出した。
「お前は何でもかんでも答えを出そうとしないから、何も見えないんだ」と言い拓は一志にここの鍵を渡した。
「なんのつもりだ?」
「この鍵をお前に預ける!答えが分かったら返しに来い!」
「こんなモノいらねぇよ!!」
「いいから持ってろ!それとあの封筒、もう一度本当に決心がついたら持って来い!」
拓はそう言ってその場を去った。
一人その場に残った一志は心の中で思った。
「答えを見つけ出す前に問題がそもそも分からないんだよ」
一志はしばらく鍵を見つめ、ポケットにしまった。
「・・・まぁ、しばらく時間がかかってもいいか」
静かに ゆっくりと静かに 時は止まらず進んでいた
そして数日後
「今日で俺はみんなの前で話すのが最後になるかもしれない。でも・・・」
拓が教壇で話していると一人の生徒が手をあげて言った。
「何言ってんの?」
その生徒に続いて他の生徒も口を開いた。
「今日で最後とか寂しい事言うなよ!」
「うざいけど、話は面白いしな!」
拓は正直驚いた。
自分がここまで出来るとは思わなかった。
自分の声はみんなに届いてないと思い怖かった。
拓が下を向いてると遠くから一志の声が聞こえた。
「俺らの前でそんな顔すんなよ!ちゃんと先公らしくしろよ」
拓は笑って一志を見た。
「おまえ・・・」
一志も照れくさそうに笑って言った。
「俺の名前は稲森一志だ!おまえなんて呼ぶなよ!」
拓は鼻をこすりながら「出席を取るぞ!」と言い名簿を見ずに端から一人一人名前を呼んだ。
「桐嶋先生・・・あなた」と安田先生は驚きながら言った。
「生徒の名前は距離を近ずける文字ですよ。覚えてあげないと可哀相です」
拓は全員の名前を呼んだ後、生徒たちに言った。
「まずみんなは最高だ。最高の笑顔をみんな持っている。全員この先もっと変わることができる・・・とは言わない!俺はみんなを変えることはできない。
『咲くかどうかは自分次第』これは俺の先輩の言葉だ」
拓が話し始めるとみんなは真剣に聞き耳をもつ。
「それから俺はおそらくここに長くは居れないし、居る気もない。だから卒業まで面倒を見ることはできないが、これだけは確実に約束できる。悲しい時、ムカついた時、悩みがある時は俺に大きな声で全部すべてをぶつけろ!!絶対に両手で心から受け止めてやるから・・・」
拓は一呼吸してまた話し始めた。
「とりあえずこれだけは聞いて欲しい・・・今から話す事を武勇伝なんかとは思わないでほしい」
生徒達は唾を飲み込んだ。
一志は前かがみになった。
安田先生は足の疲れなど忘れ、その場に立ち尽くした。
これは俺が高校2年の時の物語だ・・・・
傷「完」