GO
「私は明日のために頑張ってこの病気を治すから、拓君は今を生きて、生きて前に進んで・・・」
夏美は笑顔でそう言うと静かに去って行った。
拓は何も言えなかった、いや何も言うことは無かった。
拓は夏美の言葉を理解した。
その足で夜の学校の屋上へと向かった。
真っ暗な街中にポツポツと灯りが輝いている。
「いつまでも巣にはいられない、翼を持つ者は羽ばたかないと」
夏美の言葉と街のネオンが心に染みる。
拓は屋上へと通じる扉に入学式に壊して開けた鍵をかけた。
もうここには戻らない、ただただ前に進むと決め。
そんな拓に次の日、先生からある提案が出された。
「留学?」
「おう、どうだ?本気で勉強したいなら専門や大学行くより良いと思うぞ!俺の後輩がアメリカにいるからも行くなら相談してやるぞ」
「そんないきなり言われてもな~」
「まぁまだ時間はある、ゆっくり親御さんと話し合え!」
「うっす!」
「あとな~お前に言っときたいことがあるんだ」
急に先生の顔色が変わる。
「俺なお前等と一緒に卒業することにしたから」
「卒業ってどういうこと・・・」
「前々から決めてたんだ。もうこの仕事は合わなくなってきてるってな」
「マジかよ・・・」
「あぁ、もう最近の子が何を考えてるか分からなくなってきている。お前も含めてな」
「もしかして俺のせいか?」
「いやいや、お前は最後の最後に俺の生徒になってくれた。あと何年続けてもお前みたいなやつには会えないだろうな」先生は手を差し出した。
拓もそれに答えるようそっと手を出し、感謝の握手をした。
「今までありがとな」
先生の手は拓よりも大きくゴツゴツしていた。
その日、拓は家に帰り両親にすべてを伝えた。
今までろくに話したこともなかったのに、久しぶりに会話をすると家族が愛おしく思える。
両親は特別何も言わずに了解してくれた。
ただ「俺達の役目は子供を育てることだ。俺達から離れた時は世界がお前を育ててくれるさ」と言った。
拓は深々とお辞儀をした。
拓が自分の部屋に戻った後、父と母は話した。
「あの子が留学なんて不思議ね~」
「人は出会いと別れを繰り返して大人になるんだ。いつの間にかあいつは色んな人と出会っていたんだな」
「なんだか成長するのが早くて悲しくなるわね」
「成長に終わりは無いんだ。悲しむより笑顔で我が子を見守ろう」
「はい、そうですね・・・」
拓は先生に告げるとさっそく留学の手続きをした。
アメリカに飛び立つのは卒業の次の日というバタバタなスケジュールになったが、拓は「目標には早ければ早い方がいい」と言った。
拓に迷いはなかった。
むしろ自分の歩みを楽しんでいた。