別れ
夕日が沈みかけで一面オレンジと赤色で染まる。
川が流れる広野を2人で歩く。
龍二の体はボロボロで拓に体を預けてゆっくりと前へ一歩ずつ進む。
「なぁ拓?」
「なんだ?」
「俺との約束覚えてるか?」
「タイマンだろ?覚えてるよ!」
「それもそうだけど・・・もう一つだよ」
「もう一つ?」
「学校の頂点を取る約束だ」
「あぁそっか・・・なんか最近色々あったから忘れてたな~」
「天辺取るには避けては通れない奴がいるぞ」
「ゴリか・・・」
「あいつは強いぞ」
「あ~そうだなぁ~」
拓は空を見上げ、指で天を指した。
「知ってるか?こんなに遠い雲の上の世界に人間は将来簡単に行けるんだってさあ。こんなバカデカい夢が叶うなら、逆に人は夢を持つことを忘れるんじゃないか?」
「じゃぁ~俺達の考える事なんてまるでゴミだな」
「あぁ、でもそんな中で今度は地球を超えて火星に人が住めるようにしたりする夢を作りあげるんだよ!夢に小さいも大きいもないんだな」
「俺達の心にそれがある限り俺達は生きている。生きていける」
「すげぇ話に繋げるつもりはないけど、俺は龍二、お前とタイマンで生きている事を証明したい」
龍二はそれを聞いてかすかに笑った。そして拓に血のついた拳を見せた。
「俺の拳はただの凶器だ。でも拓の拳はただの凶器じゃない。言葉に表せないことを拳に託して何かを与えている。そんなお前ともう一度拳を交えたい」
二人はタイマンの日を決め、お互いさよならを告げた。
龍二は疲れた体なのに心の奥では拓とのタイマンで高ぶっていた。
人通りの少ない道を歩き、夏の風を傷だらけの体で受けた。
車が来てないのを確認し横断歩道を渡る途中、身体が急に重たくなりその場に膝を着け屈みこんだ。
「く・・・そ、なんだよ?」
背中にものすごく刺激が走る。ゆっくり振り返るとそこには一人の男が立っていた。
「お・・・お前」
どうやら龍二はその相手の顔を知っている。そしてその男の手には血がついたナイフを持っていた。
さすがの龍二も今の体では動けないでいた。
そこに一台のトラックが急に近ずいて来る。
男はその場を去り、龍二は血が溢れるお腹を押さえじっと向かってくるトラックを見た。
「ブーーーーーーーーーーッ」
クラクションと急ブレーキの音が鳴り響く。
数時間後、拓は大急ぎで町にある総合病院に駆け込んだ。
受付で龍二がいる病室を聞き、また大急ぎで静かな廊下を走る。
ドアは開けっ放しだった。
病室の中を見ると龍二の母親と医者と看護婦が寝ている龍二の周りに突っ立っている。
拓はゆっくりと龍二に近ずいた。
拓の口は呼吸をするために開いたままだ。
龍二は包帯で巻かれていて、ほぼ顔を見ることができない状態だった。
拓はゆっくりと龍二に手を差し出した。
「お・・・・い、りゅう・・・じ?」
その声に龍二は顔を拓の方へと向ける。
「た・・・く」龍二の小さな声はまるであの龍二ではないように思う。
「俺のせいだ。俺があの時、別れなければ今頃はこんなことに・・・」
拓は歯を噛みしめた。そして拳を強く握った。
そんな拓に龍二はそっと包帯で巻かれた手を頬に差し出した。
「ありがとな・・・」
「そんなこと言うなよ・・・まるでもう会えないみたいじゃねーかよ」
「俺との・・・約束、忘れるなよ」
「忘れねーよ!お前も見ててくれよ!」
「はは・・・なぁ拓」
「なんだ?」
拓は龍二の顔に耳を近づけた。
「おれの・・・分まで・・・生きてくれ」
そう言った瞬間、看護婦が慌て出した。
「先生!心拍数が・・・」
「くそっ!」
拓は何も言えずじっと龍二を見つめた。
龍二の母は泣きじゃくって看護婦に支えられている。
周りの人はこの部屋の中で慌てて動き回っている。
しかし拓と龍二だけはまるで時間が止まっているような空間にいる気がした。
拓は涙を流しながら笑った。
「俺達の約束の日、待ってるからな!来いよ!絶対に来いよ!!」
龍二はコクッとうなずいた。
そして静かにこの世を去った。