鼓動
この町で一番ネオンが光る場所、それが神楽町
ここには大人の世界が広がっている。
警察にバレなければドラッグの売買や違法風俗店があり、ヤクザの集まる闇に隠れている町なのである。
「クラブGDJ」地下にあるこの町で一番大きなクラブ。
そこに龍二は拓と会わなくなった後、一人で行くことが多くなった。
ここでは年齢や人種は関係ない、男と女ただそれだけしか認識されない。
いわば自由の空間。
龍二の名前はここにはない、ましてや高校生でもない。
心の中に潜む邪悪なもう一人の龍二が顔を出す。
ドーン ドーン ドーン
デカい音が心臓にまで響く。
「ヘーイ!ミスタハーデース!!」
龍二の元に乗りのいい短髪で金髪の男が近寄る。
「俺はハデスじゃねーし、その英語使うの止めろ」
「what?そんなこと言うなよ!ユーは俺達のゴッドなんだからよ~」
「あれはあいつらが気に入らなかったから殴っただけだ」
「でもそのおかげで邪魔する奴らが消えたから俺達は商売しやすいよ」
「俺には関係ないことだ」
「まぁこれはお礼だ、受け取ってくれ」
そう言ってテーブルの上に白い粉が入った小さな袋を置いた。
「俺はヤクなんてしねぇ~よ」
「まぁ初めはみんなそう言うんだよ。でもスカッとするぜ」
「それに手を染める奴は死人だ」
「そういうあんたも死人の顔だぜ」
「あぁ?」龍二はそいつを睨みつける。
「だってそうだろ?ここに来た時点で地獄に片足をつけたもんだぜ。ここにいる奴らはみんな何か抱え込んでいる。または現実から目をそらそうとする連中ばかりさ」
「なら、ここで商売しているお前もこいつらと同じって訳か」
「知りたい?俺のひ・み・つ」
「興味ねぇーよ」
「も~う冷たいな~ユーはクール過ぎなんだよ!!」
「もうこれ持ってさっさと失せろ!」
龍二は袋を投げつけた。
「俺はユーに惚れたんだよ!あんたならここで生きれる!他の奴らとは違うさ」
「俺はただ時間を潰しているだけだ。すぐに去る」
「もったいないよ!あんたならここでトップになれる!俺と変えようぜ!俺達の理想郷に!!」
そう言うと龍二に手を差し伸べた。
龍二はじっとその手の平を見つめていた。
そういえば拓ともこんな風に誓ったな・・・
ずっと親友だって。
「どうする?こういう世界は危険がいっぱいだ。でも支配すれば最高に見たことのない景色が広がるんだよ」
「まるで一度見たような言い方だな」
「あぁ見たさ、神楽町をこんな風にしたチームの下に俺は居たんだ。でも、俺はこんなヤクを広めたり、レイプも当たり前に見て見ぬフリするイカれた町を望んだんじゃね」
「そのチームの頭を俺に潰せと?」
「そうさ!まぁ上にはヤクザがいてこの町を綺麗さっぱり変える事はできないが、せめて前よりもひどくさせたチームを潰したいんだ!」
龍二はその気ではなかった。
でも、闇に潜む龍二の考えは違った。
おそらく拓は俺とタイマンをはるきなんて無いはずだ。
なら、別の所で名を轟かせ拓が俺に気付かないフリも出来ないようにすれば必ず向こうから来るはずだ。
龍二は小さくつぶやいた。
「拓、お前が学校で頭を狙ったように、俺はこの地獄で頭を狙うさ」
「ん?なんか言ったかい?」
「いや、お前のその願望、俺が叶えてやってもいいぞ」
「ハッハァ~!!まじかよ?ユーはマジで最高だぜ!!」
「でもよハデスって言うのは止めろよ、なんか気分よくないぞ」
「何言ってんだよ~ハデスも一応は神なんだぜ」