姑の搬送 1回目
救急車シリーズなのか、姑シリーズなのか・・・
どちらにも共通の話題
二十一世紀になった頃の夏――だったと思います。
大型台風がやってきました。
屋根瓦が吹き飛び、家中、雨漏りだらけ。
もう、手のつけようがありません。
洗面器もバケツも、まったく足りません。
ばあさま(姑)が、廊下にバスマットなどを置き始めました。
「ないよりはマシかな?」
まあ、気休めでございますねえ……。
ばあさまは律儀に、マットが水を吸うたび、風呂場まで運んで絞り、また廊下に置きます。
「もう、放置でよくない?」
と夫が言いますが、大正生まれは聞きません(苦笑)
そして、だいぶ風雨が落ち着いた頃。
私が洗面所へ行くと、目に入った物体――
いや、人でした。
ばあさまが、床に横向きになっております。
「疲れて横になっている?」
どこでも構わず、すぐに横になって寝る人でした。
「それとも、倒れた?」
いや、さっきまで歩いていましたがな……。
頭が真っ白になったというより、その状況をどう判断したらよいのか、まったく分からない私。
そして、とりあえず選んだ行動は、
「おばあちゃん! どうしたの!」
と叫ぶことでした。
夫と娘がやってきます。
ばあさまは意識があるようですが、
「起き上がれない」
と言います。
なぜ倒れたのかは不明。
「どうしようか?」
外は、まだ暴風が吹いています。
「こういう時のための119番だよね」
というわけで、私、人生初の119番通報をいたしました。
すぐに救急車が駆けつけてくれました。
ところが……どうも、臭います。
「台風のせいで、下水があふれた?」
首をかしげる家族たち。
しかし、ばあさまは救急隊員の男性たちを見ると、自力で起き上がりました。
「起き上がれるやんか! だったら救急車、呼ばなくてもよかったんじゃない?」
と内心では思いましたが、口には出しません。
まあ、それはいい……。
ばあさまは、そのままトイレにこもりました。
「ああ、お年寄りには、よくあるんですよ」
と、ベテランらしい救急隊員の方。
「おばあちゃん、ゆっくりでいいからね」
トイレの外から、優しく声をかけてくださる救急隊員のおじさま。
どうやら、倒れた時に粗相をしていたらしいのです。
「奥さん、着替えを渡してあげてください」
さすが救急隊の方は、気が利きます。
私は、何が起こっているのか、さっぱり分かりませんでした。
「おばあちゃん、下着と着替えね。それから、汚れ物はこの袋に入れてね」
そうして、ばあさまは何とか自力で着替えを済ませ、トイレから出てきました。
汚れた衣類は、夫がそのまま処分したそうです。
そして、病院へ搬送。
実は、救急車に付き添いで乗るのは二回目の私。
一回目の話は、そのうちネタにしましょう。
検査の結果――
上腕骨の、見事な骨折。
右だったか左だったかは、忘れました。
よくまあ、一人で着替えられたものです。
今思うと、すごい。
「入院の必要はありません。近くの整形外科にかかってください」
と、大きな病院の先生。
台風で患者さんが少なく、お時間があったのでしょうか。
皆さま、とても親切でした。
帰りに、
「迎えに来て」
と夫へ電話をかけたところ、
「タクシーで帰って来い」
と言われました。
「なんでや!」
と思いながらタクシーに乗り、すぐに思い知りました。
道路には木々が倒れ、道をふさいでいます。
いろいろな物も飛んできています。
要するに、自分の車に傷がついたら困る、ということだったらしい。
ちゃっかりしています、夫。
骨折がどのように治ったのかは、もう忘れてしまいましたが、完治までずいぶん時間がかかりました。
治っていく途中、骨折した辺りの皮膚が、すさまじい色になっていたことだけは覚えています。
「骨折した箇所から出血するので、こういう色になるんですよ」
という先生の説明でした。
そして、ばあさまの搬送騒ぎは、この一回では終わらないのでありました……。
ちなみに、転倒した理由は、
「マットから滴り落ちた水で滑った」
とのこと。
それ以来、雨漏りはしていませんが――
雨漏りしている廊下は、要注意です。
その時は「足の付け根じゃなくてよかった。救急車呼んだのも正しい」と整形外科の先生に言われました。
後に、足の付け根の骨折がきっかけで結果的に亡くなる事になるなんて、その時は考えもしませんでした。




