引退する守護竜を生み出したきっかけの話
本当にあったお話そのまんま
数か月前、我が家に夫の大事なお客様がいらっしゃいました。
私は療養中だったので、ご挨拶だけ。
お帰りの際、夫が「タクシーを呼んでくれ」と言います。
ところが、どこに電話してもなかなかつかまりません。
ようやく「到着まで20~30分ほどかかりますが、よろしいですか?」という会社が見つかりました。
GPSで住所も把握しているようだったので、「まあ、大丈夫だろう」とお願いすることに。
……ところが。
待てど暮らせど来ません。
30分なんて、とっくに過ぎています。
私は防犯カメラの画面とにらめっこ。
45分ほど経って、ようやくタクシーが見えました。
「来た!」
……と思ったら、そのまま我が家を通り過ぎ、お隣の家の前で停車。
私は慌てて走ります。
「あの、〇〇ですが、うちがお呼びしたタクシーですよね?」
「そうです。遅くなって申し訳ありません」
運転手さんは、かなりご高齢に見える方でした。
「すみません、そこはお隣です。うちの前にお願いします」
玄関を指さして案内します。
「わかりました」
……と言ったまま、動かない。
私は玄関の前まで戻り、もう一度指をさします。
すると今度は前へ進み始めました。
「えっ???」
バックすれば10秒もかからない距離なのですが。
しばらく進んで止まり、ようやくバック開始。
「おい、大丈夫かよ?」
夫がつぶやきます。
私の方が知りたい。
今度は、そのまま我が家の前へ来るのかと思ったら、通り過ぎて隣の空き地へ。
さらに、また元の場所までバック。
来客の方と夫と私の三人で、ただ黙って、そのタクシーを見つめていました。
ようやく我が家の前に到着。
今度は夫が
「トランク開けて!」
と何度も叫びます。
……反応なし。
何度か声を掛けて、ようやく開きました。
やっとお客様を乗せて出発。
「方向が違う~~~~!!」
また空き地へ入り、何度も切り返しを繰り返して、ようやく道路へ戻っていきました。
車内のお客様の、あの引きつった笑顔。
今でも忘れられません。
事故の連絡はなかったので、無事ホテルには着かれたのだと思います。
見送ったあと、夫がぽつり。
「もう、引退した方がいいよな」
私も心の中で大きくうなずきました。
「あのタクシーには、もう乗りたくない……」
――そんな出来事が、小説に登場する「引退する守護竜」の着想になりました。
もちろん、守護竜は空は飛べます。
でも、「もう現役を退く時期かもしれない」という雰囲気だけは、この日のタクシー運転手さんからお借りした気がします。
あの運転手さんを責めたいわけではありません。
きっと事情もあるのでしょう。
でも、お客様を乗せる仕事だけは、本人だけでなく周りも止める勇気が必要なのだと思いました。




