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06 逆プロポーズ

 っん……


 自分の声で目が覚めた。


 ――え? 


 ぼんやりと目を開けた私の目には、頬を染めて瞳を煌めかせて私を見下ろす美しい男の顔がうつった。上半身は服を着ていない。鍛え上げられた胸板に思わず目が泳ぐ。


 ――は?


 私は目をしばたいた。って。


 ……っはぁ……



 ちゅっとキスをされて、思わず身悶えしてしまった。


 ふう。



 ――いやっ!

 その気はない。

 ――いや……それをなさねばならないのだけれども、今は気分ではないっ!


 恋をしていなければ、ひたすら気持ち悪いというか、なんというか……。


 この美しい男である前夫とは子を成した。でも、捨てられた。


 私が知っている夫よりも5歳若い美しい男と、18歳のまっさらな私。


 私は何も身につけていない体を横向きにして縮こまった。


 暖炉の前に置かれた毛布の前で寝ていたはずなのに、いつの間にかベッドに運ばれている。


 ――この展開には見覚えがあった。前回の展開だ。

 ――いや、もう一人の令嬢のマリーがいたはずなのだが、マリはーどこだろう?




「マリーはどこかしら?」


 もしかして、この男は美しい顔をしながら3人で……っあまりの破廉恥さに私は血の気が引いた。


 私は毛布で体を隠して、美しい男、アンドレア皇太子に「マリーはどこ?」と叫んだ。これが私と子供たちを捨てた元夫だ。


「帰した」

「え?帰した?」

 

 私は思わぬ言葉を言われて、おうむ返しに美しい男、アンドレア皇太子に聞き返した。


 彼は煌めくグレーのようなブルーのようなグリーのような特徴的な瞳でイタズラっぽくウィンクして、私にささやいた。


「そ。あれはきっとどこかの公爵家が仕込んだ愛人候補だ。あまりに見え見えだから、体が温まってドレスが乾いた段階で帰ってもらった」


 ――そうなのですか。

 ――前回の愛人候補は私でしたが、前回私はあなたに追い返されませんでしたが……。


「なぜ私は愛人候補ではないと?」

「君もそうだろうとは思うのだが、そう思うには君の魅力は少し中途半端でちょっと自信がなかった。やはり、君もどこかの貴族に仕込まれたのか?」


 私は無言になった。

 かなり複雑な気分だ。


 ――そうなのか、前回、疑われなかったのは、私の魅力が中途半端だから……って、おっと待って。



 ――前夫のあなた……。

 ――だから、前回の私は疑われずに正妻になれたのでしょうか。


 私はあまりのことにショックを受けて一瞬黙りこんでしまったが、急いで反論した。


「……誰にも仕込まれていませんっ!それに勝手に同意なく触らないでいただけますか」


 私は美しい男に食ってかかった。


「うわっ。そんな格好しているからてっきり……いや、やっぱりというべきか」


 美しい男は若干失礼な言葉をつぶやき、頬を赤らめて横を向いた。


 私は自分の目的を忘れてはならない。

 結婚して子をなすのだ。

 愛人のまま子をなしてもよいが、ウィルと双子が可愛いぷくぷくしたほっぺで笑っている顔を思い出して、頭を振ってしまう。双子はアーサーとロイだ。双子もウィルも正妻の子にしたい。なぜかそう思ってしまう。



 私は毛布を体にしっかりと巻き付けて、自分を奮い立たせようと心の中で自分を叱咤した。


 私の体を毛布が覆っているのを自分の目でしっかりと確認してから、褐色の髪の美しい男に近寄る。上半身裸の彼は私が近寄ってきたのを見て、受け止めるかのように両手を軽く広げた。




 射るような透き通った瞳が、真っ直ぐに私を見ている。グレーのようなグリーンのようなブルーのような瞳。その瞳が少し驚いたように見開かれた。私がグッッと彼に近づき、小さな声でささやいたから。


「あなた。私を妻にしていただけますか。私はジェニファー・メッツロイトン。私を妻にしてくれたら、特別に未来を教えて差し上げます」


 彼は完全に驚いた表情になった。


「君は何を言っている?」


 眉をひそめて私を見つめる表情は、私を捨てた時の前夫と同じ表情だ。唇は疑い深く真っ直ぐに真一文字に結ばれて、腕組みをして私をジロッと見た。拒絶モードだ。


「マリー・アレクシア・ルクシーは、ブレッチダービー公爵とヒュームデヴォン伯爵、それからマルキューノ博士にあなたの愛人候補として選ばれた令嬢よ。あなたの婚約者はクイーンズマディーノモベリー公爵の姪のパトリシアでございますよね。クイーンズマディーノモベリー公爵家だけが皇太子と特別な関係になるのを嫌がるお方が、策を練っています。私は自らの意思であなたの妻になりたいのです」


 アンドレア皇太子は厳しい表情になり、私を睨んだ。


「パトリシアと婚約破棄して、君と婚姻関係を結べというのか」

「さようでございますわ」


『君と婚姻関係を結べというのか』


 このフレーズを言わせることに成功はした。あとは拒否されなければ……。




「断る」


 私は深いため息をついた。


「私を信じてください。少し先の未来が分かる私は、多少お役に立てると思います。一点だけ申し上げると、ドヴォラリティー伯爵に私は助けていただきました」


「婚姻は断る」


 ――やっぱり……。


 仕方ない。覚悟しよう。

 目をつぶって私は毛布を床にはらりと落とした。一糸纏わぬ姿だ。この美しい男は、なぜか一度ならず私に夢中になった。彼は私に恋をしたことがある。



「なっ何をっ……」


 私はゆっくりと美しい男に近づいた。


 そして、ふわりと抱きつき、耳元でささやいた。


「(あなたの好きに)いいわよ」


「うわっ!」


 真っ赤になった美しい男は、「ド、ド、ドレスを着ろ!」と叫んで、こちらに背を向けた。


 1回で成功するとは思えない。

 少なくとも、死に戻った私は、もう一度夫に再会できた。


 予想は裏切られず、やはり皇太子に警戒された。私の気持ちも含めて、長期戦かもしれない。だが、最初の一歩として知り合うことはできたのだ。


 長期戦なのだから、没落したお家の状況を少しでも改善するには、働くしかない。あとでよく考えよう。


 私は真っ赤になった前夫に思わず微笑みながら、ドレスを着た。


 ――これほど近くにアンドレア皇太子がいるとは、夢のよう。

 

 ジェニファー・メッツロイトンは、前夫のものであるベッドで眠った。(前夫のお気に入りの山小屋のベッドだが)




 拒否されようと、これは計画に向けて大進歩と言える。私は愛人として謀ら令嬢ではなく、最初から正妻に立候補した。正妻一直線だ。


 私は嬉しくてたまらなかった。あの子たちまで1歩近づいた気がしたから。 


 2度も死に戻った私は、本気で人生を変えるのだ。



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