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#34 カイ達の謎

「お、そろそろ街が見えてきたよ……あー、私は疲れたよもう」

「よいせー……ふぅ」


 恐竜サイズの生き物を運んでくるのはなかなかヘヴィだった……重さはトン単位はあるんじゃないか? わからんけど。ちなみに、流石に素手ではなく"魔力の腕"でがっしり掴んで引っ張っている。正直魔力の操作もあって素手で引っ張ってくよりも大変なんだが……大きさが大きさだからしょうがない。

 シエールがグロッキー気味になっているのは、木に引っかからないよう森の中から外までワイバーンを運んでくるのに、物体を浮遊させる術を使ったからだ。ついでに自分達も上に乗って移動していた。どうやら魔力の消費が浮かすものの質量と比例するらしく、魔力の枯渇寸前にまで追いやられたようだ。普通は人間サイズを飛ばすための魔術なんだけどなあ、とぼやいていた。


「君の魔力はほんと無尽蔵なのかねえ。割と羨ましいよ」

「まあ望んで身に着けたってわけじゃないけど、便利に使わせてもらってるよ」

「今の御時世、変な奴はそこまで多いわけじゃないけど……気をつけときなよ」

「仲間にも同じこと言われたよ」

「ふふ。特に"砂の国"は比較的デンジャーだからね。行くなら注意を払った方がいいよ」


 砂の国……確かエステルの故郷だという話だ。彼女は故郷のことをあまり話したがらない。というか露骨に嫌そうな顔をして拒否する。良い思い出がないんだろうか。アルテナさんの言ってた"色々なものを憎んでる"というのと関係が? ううん、まあ、今考えたって仕方ないことだ。


 それにしても砂の国には危険な連中が多いんだろうか。単純に奴隷狩りの連中みたいな犯罪グループなのか、それとも……。




 ワイバーンを自力で引っ張ってきたとなると色々騒ぎになりそうだということで、シエールが浮遊の魔術を弱めに使って軽量化した、という体で行くことにした。"魔力の腕"に関しては……まあ今更だろう。兵士の人たちに見せたことだし。

 街の門の方では既にちょっとした騒ぎになっている。見物人がどんどん増えている状況だ。


「志郎兄ぃどうしたのそれー!」


 ちょうど門外で訓練をしてたのかユートが走ってきた。後ろにはミツキたちも続いて来てて……。


「こら、訓練中に勝手にどっか行かない」

「あふん」


 ユートが後頭部にチョップを食らってべしゃっと沈んだ。こういう時は割と容赦ないミツキだ。


「簡単な依頼を受けてくるって聞いてたんだけど……」

「まあ、突然降って湧いた火の粉を払う必要があったわけで」

「ようは不意の遭遇だったんだね。まあ、特に傷も受けてないようで何より」


 ミツキはシエールを見ると、軽く会釈をして話しかけた。


「おや、同行者はシエールさんだったのか。志郎くんがお世話になったようで」

「いやいやー、今回はこちらがお世話になっちゃったよ。一人じゃちょっとヤバかったね」

「あれ、2人とも知り合い?」

「以前何度かね。魔具の類を調達する時とか彼女の伝手を頼ったりしたのさ」


 なるほどなー。シエールも割と顔が広いらしい。




 その後はワイバーンを解体するための業者を冒険者ギルドから急ぎ呼び寄せた。これくらいの獲物になると皆嬉々として作業している感じがする。エステル達も呼び、俺達はその横で素材の分前や報酬の相談等をしていた。


「革はそっち持ちでいいんじゃない? 結構いい防具になるよ」

「そうだな……でも今着てるの割とお気に入りだから、裏当てかパッドにでもしようかな」

「まあ君達の魔力ならそうそう傷つかないか」

「ああ、俺とユートは要所に組み込むくらいで他はエステルの分にしようか。ユート達もそれでいいか?」

「うん!」

「わたしもそれで構わないよ」


 本当は大魔猪の革を使う予定だったが、飛竜の革の方がまあ良いだろう多分。そこらへんは防具の仕立て屋と要相談になるだろうが。


「私は魔石とか内臓とか角とかその辺りを少し持ってくよ。魔具の材料に使えるからね」

「魔石かー。本来なら杖の素材にでもするんだろうけどな……」

「エステルちゃんはそれ、お気に入りだもんね」

「まあ、うん。性能的にも文句ないからね」

「肉とかを一部貰って後は現金に替えるかな……」

「男の冒険者ってやたらと肉を食いたがるわよねー。まあ精は付きそうだけれど」

「兄さんも一回食べたがってたなあ。ワイバーンは肝とかそこそこ良い味してたし……宿に調理をお願いできたら頼んでみようか」


 ドラゴンステーキとかロマンだからなー。ちゃんと処理すれば美味しいかもだ。


 とりあえず素材売却の値段については、俺達3人にもそれぞれ金貨が何枚か行き渡るくらいに落ち着いた。




「おー、なんだなんだワイバーン狩ってきたのか」

「あ、カイ」


 諸々済ませたあと、カイとツバキが街の外の方からやってきた。……全身到るところから血を流して。


「ちょっと2人とも大丈夫!?」

「カイさんにツバキさんどうしたの!? 治療しなきゃっ」

「おー、助かる」

「手間かけさせて悪いけど、頼むわね……あいたた」


 カエデが珍しく狼狽えていて、ユートがカイ達に急いで治癒魔術をかける。見た目は派手だがそう深い傷でもなかったらしく、痕も残さず治っていった。


「どうしたんだ一体」

「あー、まあちょっとな」

「ええと、実は一緒に訓練してたんだけど、ちょっと気合が入りすぎちゃってー……」


 いや嘘だろ。一体何があったんだ……?


「兄さん、例のあれかい」

「ああ、まあな……」


 ミツキがいつになく真剣な目でカイを見つめている。カイはバツが悪そうに頭をかいている。


「まあ、あまり深く聞かないでくれると助かるわ……これから何回かこういう事があるかもしれないから、先に謝っておくわね」


 ツバキまで変なことを言い出した。ユートがあわあわとしてカイとツバキを交互に見つめる。


「なんだそりゃ。わたし達にも話しておけない事なのかい」


 エステルが目を細めて2人を見つめる。カイとツバキは申し訳無さそうな表情をした。


「一応、俺達の家の機密に関わることでなー……本当にすまんが、詮索しないでくれるとありがたい」

「機密、ねえ。確かに私達も何があるのか聞いてないけど……」

「……話す事ができないのならば、それでいいだろう」

「むー……」


 カエデとクレスも知らないことらしい。ユートは頬を膨らませてカイ達を睨んでいる。


「きつかったら僕も呼んでおいてね兄さん。……とにかく、今日は宿に戻ろう。もう夕方だし、志郎くん達の防具の件は明日かな」

「時間的にはそうなるねー。あ、久しぶりカイ」

「お、シエールか、元気そうで何より」


 ひょこ、とどこからかシエールが顔を出してきた。そういえば居なくなってたような気がしてたが、単に隅っこにいただけらしい。

「相変わらず無茶やってるねー。入り用なら店寄ってってよ」

「まあ時間があったらなー」

「なんか大変そうだから来たらおまけしといてやるよ。じゃ、私も今日はこれで。また公演の日にね」

「ああ、今日はありがとう」

「いやーこっちこそ。じゃーねー」


 ひらひらと手を振ってシエールは去っていった。さて、色々あったけれど俺達も戻るか……。


 ワイバーンの肉を宿に持ち寄ってみたところ、快く調理をしてくれる事になった。今晩の分はもう調理に取りかかってるから、明日の朝食になるらしい。




 夜。寝間着に着替えて3人で夕方の事を話していた。


「結局何だったんだろうなー、カイとツバキのあれ」

「さあね……本人たちが話してくれないと何ともだよ。問題は私らがあの3人の何がしかに巻き込まれないかだ」

「カイとツバキがあそこまで手傷を負うんだから、ちょっと手強そうな案件だよなー……」

「手伝えることならボクも手伝いたいけど……勝手に関わるのもダメそうな雰囲気だったよね、ミツキさんも」


 考えてみれば、カイ達のこと、俺達はあんまり知らないのかもだ。ただ何というか……3人ともいつもと違う、使命を背負ったような表情だった。如月家や龍月家の機密事項……いつか俺達にも打ち明けてくれるんだろうか。


「まあ、今考えてもしょうがないな……そろそろ寝るかね」

「ねえねえ、今日は志郎兄ぃとエステルちゃんで一緒に寝ててもいいよ」


 いきなりユートが爆弾発言をぶっ込んできた。いやそうなりそうな予感はあったのだが。


「はー? そんな交代制じゃあるまいし。余計なお世話だよ……第一、男と女を一緒に寝かすのを勧めるんじゃない」

「むー、前に一緒に寝た時は凄く安心してそうな寝顔だったのに」

「なっ……」


 エステルは顔を真っ赤にしてしまった。……悪くはなかったのだろうか。


「と、とにかくわたしは1人で寝るからね!」

「えいっ」

「ぐえー!?」


 あ、ユートがエステルを引き摺りながらこっちにやってきた。


「どーん!」

「ふぎゃっ」


 そして、ちょうどエステルを俺とユートで挟むような形でベッドに倒れ込んできた。


「えへへー、エステルちゃんあったかーい」

「やーめーれー」


 エステルはしばらくジタバタしてたが、やがて諦めたのか大人しくなった。ユートの身体能力は魔封じのサークレットを取り外してからというもの、鰻登りだからな……もうエステルじゃ抵抗できないのかもしれない。


「俺は別んとこで寝るよエステル」

「志郎兄ぃはそこね」

「アッハイ」


 ユートから不可解な圧力を感じる……まったく、何を考えているのやら。仕方ないからそのまま横になると、エステルと目が合った。当たり前だが物凄く不機嫌そうだ。ジト目度が3割増ししている。


「……むー。ていうか狭い」

「こらユート、押すなよ」


 ジリジリとユートが距離を詰めてきて、結局一人分のベッドの上に3人で横になって密着する羽目になった。エステルが俺の胸に頭をくっつけてるような状態になってしまった。まったくもう。あードキドキする。


「わたしはあんたの鉄面皮を見習いたいよ、もう」

「そう見えるか?」

「……胸。凄く鼓動が早くなってるのに全然顔に出てないじゃん」

「まあ、うん……」


 この状況にした本人はエステルの背に密着したまま、既に寝入ってしまっていた。狸寝入りじゃなかろうなこいつ。


「わたしにも、ドキドキするんだね志郎は……」


 エステルは顔を赤くして俯いたまま、何事かボソボソと言っている。……エステルは小動物的な体温の高さがあるような気がする。温かい。


「あ、べ、別に今のは特別な意味とか無いんだからね。ふんだ!」


 それ思いっきり自爆してるぞエステル……特別な意味って。そのまま目を閉じてもなんだか思うように寝れず、同じような調子のエステルと一緒に悶々とした時間を過ごしてしまった。……一度タガが外れたらどうしようもない関係になりそうだな俺達3人。割と本気で。

■Tips

・ワイバーン

 保有する魔力の量もあって使わない箇所がないというくらい価値があるため、冒険者にとっては強敵であると共に一攫千金の対象でもある。しかし、その素早さと筋力の高さ、飛行能力やブレス攻撃などの注意事項の多さから、それなりに腕の立つ冒険者でも複数人で用意周到かつ慎重に相手をする必要がある。2体以上いる場合は手を出してはいけないとされるほど。例外はいるが……。

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