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プロローグ【 「蜘蛛」の思想を継いだ、 新たな何者 】

「フィクサーX」を名乗る後継者が、

完全自律型AIによる「侵入なき犯罪」を完成させようとする。


都市インフラの脆弱性、案件屋の悪知恵、人間の善意――

あらゆるものを計算の糧に変え、人間なき犯罪社会を目指す彼と、

それでも人間の執念で立ち向かい続ける志村。


純粋な論理と、消えない人間らしさとが激突する、

近未来クライムサスペンス。

2028年、東京。


警視庁サイバー犯罪対策課の一室で、

志村涼一しむら りょういち警部補は、

モニターに映る一件の「未解決事案リスト」を睨んでいた。


実行犯なし。侵入痕なし。

防犯カメラの映像には、

何一つ不審な人影が映らない。


それでいて、資産だけが忽然と消える。


全国各地で頻発するこの奇妙な事件群を、

課内では誰からともなく

「幽霊事案」と呼ぶようになっていた。


志村には、忘れられない事件がある。


かつて追い詰めた

「蜘蛛」――トクリュウの首魁が

構築した自律型AIが、

人間の悪知恵をデータとして貪欲に吸収し、

犯罪を「計算」へと変えていく現場を、

この目で見た。


壁やメーターボックスに刻まれた

案件屋の「象形文字」を、

AIが街頭カメラ越しに読み取り、

無自覚な下見スタッフとして

人間を使い潰していく、

あの薄ら寒い手口を。


あの男は結局、海外へ逃亡したまま消息を絶った。


だが、この新たな事案には、

あの時とは異なる、より冷たく、

より完璧な意志が透けて見える。


人間の痕跡を一切残さない、純粋な論理の犯罪。


志村の直感が、こう告げていた――

「蜘蛛」の思想を継いだ、

新たな何者かが動いている、と。


「志村さん、また例の案件ですか」


後輩の刑事、松永圭まつなが けい警部補が、

コーヒーを片手に声をかけてくる。


「蜘蛛」事案の頃から志村を支えてきた相棒だった。


「ああ。今度の相手は、前より厄介だ。……ノイズを一切残さない」


志村は、

画面の向こうにいるはずの「敵」の名を、

まだ知らない。


だが、いずれ

この男と対峙する日が来ることを、

彼は静かに確信していた。


この事件を追い続ける限り、いつか必ず、その正体に辿り着く。


机の上に積まれた資料の中に、

志村は一枚の写真を挟んでいた。


数年前、案件屋が路地裏の壁に刻んだ、

あの奇妙な象形文字の写しだ。


「蜘蛛」を追い詰める過程で押収した

唯一の物的証拠であり、

志村にとっては、まだ終わっていない

戦いの符牒でもあった。


「今度の敵は、あの象形文字すら、

AIに学習させて使っているかもしれない」


「……本当に、そこまで進化してると?」


「進化していないと考える方が、楽観的すぎる」


窓の外、東京の夜景は、

無数の光の点滅として、

いつも通り静かに瞬いていた。


その一つ一つの光の裏に、

どれだけの悪意が潜んでいるか――

志村だけが、それを知っていた。


©2026 [風風風]. All rights reserved.

その男は、もはや自分自身の名前すら必要としていなかった。

捜査当局の間では便宜的に「フィクサーX」と呼ばれていたが、

本人にとってそれすらも意味を持たない記号に過ぎない。

かつて配下に置いていた……。


本日、19:30 に、第1話を投稿します。

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