旅のゆくえ
サルマンの町は、朝早くから大勢の人で賑わっていた。
通りには旅装束の男たちや、荷を積んだ駱駝が列をなし、あちこちで威勢のいい声が飛び交っている。
数十年ぶりに、西方へと向かう大規模な遠征隊が組まれることになったのだ。
かつて幾度も送り出されては、一人として越えられずに引き返してきた、あの西の地へ、再び赴く。
遠征隊の中心となるのは、族長の娘、サラ・ミリア・アデールだった。
サラは屋敷で出立の準備に追われていた。
卓の上には、隊列の編成を記した書きつけと、西方の地図が広げられている。
人手の割り振り、水と食料の見積もり、確かめるべきことは尽きない。
「サラ様、お客人です」
サラに仕える砂漠の民に連れられて顔を覗かせたのは、クレイだった。旅の埃をかぶった外套のまま、まっすぐにサラのもとへと歩み寄る。
「遅くなりました」
「クレイ、待ってたぞ」
「湿地帯の様子を見てきました。霧はもうほとんど晴れて、磁石も効くようになってきています」
「そうか。予想通りだな」
*
数日後、十分な準備を整えた遠征隊が出立の日を迎えていた。
町の外れには、見送りの人々が幾重にも列をなし、その先頭には、サラの兄、アシュラフの姿があった。
「では、兄上。行ってくるぞ」
「期待しているぞ、サラ」
サラを先頭に、長い隊列が、朝日の中へと動き出す。見送りの歓声が、いつまでも背を追いかけてきた。
町を出て、いくつかの砂丘を越えた頃、遠征隊の行く手の砂上に、三つの人影が、馬を並べて待っているのが見えた。
サラが馬を寄せると、先頭で手を振っていたライルが、目深に被っていたターバンをほどき、笑顔を向けた。
「待ってましたよ」
そこに同じようなターバンを被ったアルマも、馬を寄せてくる。
「また皆さんと旅ができるなんて、楽しみです」
そして、三人目は、以前よりいくぶん背の伸びた少年、リオだった。
「よろしくお願いします」
律儀に頭を下げるリオの、変わらない生真面目さを見て、サラの顔にも笑顔が浮かぶ。
「これで揃いましたね」
クレイが馬を寄せ、四人の顔を見る。
刻印を手放し、それぞれの日々を過ごしてきた歳月も、この顔ぶれが揃えば、たちまち旅の空気へと溶けていく。
「今度は、未知なる西方への旅です」
クレイの言葉に、サラが不敵に頷いた。
「よし、進むぞ!」
サラの号令とともに、一行は、まだ見ぬ西の地平へと、馬を進めていった。




