第11話 提案と太鼓判
「…………はい?」
寝耳に水の話に、ヘキサの目が丸くなる。
「どこかに就職と考えるから行き詰まるのです。自ら会社を起ち上げ、そこに属して働く。これもまた、就職と言えるではありませんか」
対するルクスは、妙案閃いた! と言わんばかりの顔で言い切った。
呆気にとられるばかりのヘキサだが、我に返るなり勢いよく首を振る。
「ままま、待ってください、ルクスさん! 会社って、そんな簡単にできないでしょう? だ、第一、何の会社を起ち上げると言うんですか?」
目を白黒させて思い直すよう言い募れば、ルクスは不服そうな顔で言う。
「ヘキサ様……私のことはルクスとだけお呼びくださいませ。今回は大目に見ますが、呼び捨てでなければ今後一切返事をいたしませんよ」
「ルクスさん、私は真面目に話しているんです!」
「…………」
「ルクスさん!」
「…………」
どれだけ呼び掛けても返事がない。
本当にヘキサが呼び捨てにするまで応じないつもりなのか。
それならそれで構わない! こっちだって――と意固地にならない、なれないヘキサは、疲れ切ったため息をついて言う。
「分かりました、ルクス。……これで話を続けていただけますか?」
「ええ、もちろん」
満足そうな翁の笑みに、ヘキサの口からまたため息が出た。
「何の会社かと聞かれましたが、逆に問います。会社を起ち上げるということは、社長は当然我が主ヘキサ様です。であるならば、その会社の特色もヘキサ様ができること、得意とすることにすべきでしょう」
「それはつまり……いえ、ですがそれは」
ヘキサが得意とするところ。挙げられるモノは一つしかない。
そしてそれはヘキサが隠そうと思い、だからこそどこかに就職しなければと思い悩む原因そのもの。
決して、表立って掲げられる代物ではない。
だが、ルクスは先を制して首を振った。
「要は使い方次第ですよ、ヘキサ様。貴方の恩恵は確かに優れているかもしれませんが、その実、それを商売にしている者は他にもいます。貴方がその職についたところで、急に注目が集まるものでもないでしょう。なんでしたら、しばらくは地味に活動して、教授の推薦話が完全に消え去ってから本格的に動いてもいい」
「それは……」
無理だと言いたいところだが、ルクスの提案を拒むには材料が足りなかった。
ヘキサの恩恵ほどはっきり見つけられなくとも、探索を自分の能力と位置づけ、これを果たすことで報酬を得ている者は少なからずいる。そこにヘキサ一人増えたところで、恩恵を大盤振る舞いでもしなければ目立つことはまずあるまい。埋没した上に潰える可能性の方が高いくらいだ。
「それに、会社の起ち上げもそんなに難しくはないと思いますよ?」
気楽にそう言ったルクスは、顎で屋敷を示した。
恐る恐るそちらへ顔を向けたヘキサは、そこに佇む黒一色に目を丸くする。
「市長……」
屋敷に突入する警邏たちの後をついていったはずのクロウは、ヘキサの声掛けを合図に黒い嘴を振りつつこちらへ移動してきた。
『私自身は一通り調査を終えたところだよ。ただ、警邏たちの気が済むまでは待つしかなくてね。それで? 面白い話をしていると思ったんだが、私にも聞かせて貰えないかな? 君が起業するとかなんとか』
「いえ、それはルクスさんが」
「ヘキサ様」
「る、ルクスが勝手に――」
「ところで、クロウ殿はヘキサ様についてどの程度ご存知で?」
じろりと睨まれ訂正したものの、訴え自体は潰されてしまった。
たじろぐヘキサへ歯車を向けたクロウはぎこちなく頭を傾ける。
『まあ、それなりに。ルクス翁の言い回しを推測するなら……恩恵についても知っている、と言えば通じるかな? もちろん、彼女が「院」を嫌煙する理由もね』
「結構。それを踏まえて、ヘキサ様に会社を起ち上げていただこうと考えております。つきましては、用地確保と資金援助を早急にお願いできないかと」
「る、ルクスさ――ルクス!? 何を勝手にそんな無茶を」
黙っていればぽんぽん出てくる要求。一言も相談なしに進められ、慌てて止めに入るヘキサだが、ルクスは心外だとばかりに眉を上げた。
「無茶ではありませんよ。それ以外に有効な手立てがございますか?」
「その前提がそもそも無茶です! どうして一市民の個人的な起業に、市長が手を貸す前提なんですか?」
どう考えても突拍子のない話の飛躍っぷりだろう。
ヘキサはそう思っているのに、当の市長はと言えば、
『いやいや。君は私の怠慢が招いた事件に巻き込まれてしまった訳だからね。しかも元邪竜のコブ付き。それでいて一人の死者も出さないで解決させたのだから、それなりに報酬はあってしかるべきだろう?』
と何故かルクスの前提に太鼓判を押してきた。
「し、市長まで何を!?」
原盤の竜と双賢の司書。
二人の高位種族に挟まれたヘキサは右往左往するばかり。




