第3記~ =KISS BLUELAKE On the CHEEK=
――――助けて・・・助けて・・・!・・――――火が燃えている―――――誰か・・・!―――家が、紅く燃え上がり――――――あそこも、もうダメだ・・・――――悲鳴が――――・・・・っ!?・・・・・っ・・・!!?―――――なんでぇ・・っ・・?・・!・・・――――
『―――うそつき・・・・』
どくん・・・っ・・と強い衝撃・・目を開く・・・・・鼓動・・・自分の・・・強い鼓動を・・・感じて・・・暗闇の中で・・・汗だくで・・・静かな・・暗闇の中で・・・薄い壁の、外の、人の気配は・・村で準備する人たちのものか・・・呼吸を繰り返していた・・・その耳に届いていた――――――。
――――なんか、嫌な夢を見ていた気がする。
戦いのような夢・・・、汗・・・思ったよりもそんなに掻いていない・・。
ミリアは・・・ぼうっとする頭で・・というより、なんかぐちゃぐちゃしているような。
・・・1つだけ深く息を吸って・・吐いていた。
部屋の外が明るい。
もう、朝だ・・・――――。
滞在4日目に入っても、敵の襲来は無かったようだ。
朝、ミリア達4人は村の様子を見て回ってみた。
村のどこも欠けていないし崩れていない、騒ぎもないようだ。
村の入口も昨日の内に封鎖されているし、本格的に村全体が厳戒態勢に入っている。
でもそれ以外は、特に異変は無いようだった。
その辺に屯していた人たちやすれ違う人たちに挨拶がてら話しかけても、異常はないと返ってくるだけだ。
というか、彼らの様子や遠巻きに見てくる態度を見ていると、自分たちはまだ少し警戒されているみたいだ。
私たちが村を歩くこの身に着けた装備が、物々しいものに変わったからかもしれない。
それを言えば、村の様子も変わったんだけれど。
銃を携行している人も増えたし、村で行き交う人々の笑顔に何処と無く翳りが見える気がする。
昨日の宣告の影響、村は2、3日前とは明らかに雰囲気を変えている。
彼らにとっては生活に影響し始めて、戦いが現実味が帯び始めているのかもしれない。
村長の所でいつものように朝食を頂いた後、マダック村長らに連れられて村長宅の裏手の崖の麓へ歩いていくと、洞穴が1つあった。
人が集まってきている様子で、入口には目立たない色の扉が備え付けられてい。
中に入ると照明が点いていてそこはかなり広いことがわかる。
村の人たちも多いし、物資など荷物も集められているようだ。
「避難場所か・・」
ケイジが呟いていた。
事前に話は聞いている、ここは備蓄庫も兼ねている、有事の際の避難場所だ。
戦闘が始まれば戦わない人たちはここに集まり、扉を固く閉じて籠り身を隠す。
扉を見た感じ、見つかればすぐ壊されそうなものだが、カモフラージュする作りになっているようだ。
今、周囲から耳に聞こえてくるのは少し不安な噂話とか、今度の戦いの話、人々の表情は心配そうな面持ちでいる。
大人が子供へ、ちゃんと大切なものを纏めたか、とかそんな風に傍で話している。
そんな様子を見回しながら、人々は少しずつ、もっと集まってきているようだった。
『集まったな。』
大きな声は拡声器が使われているようだ。
みんなが気が付き向いていく方向を見れば、白む光の入口の方にアシャカさんが立っているのが見えた。
『今から話す言葉を聞き逃すなよ。いいか。俺らの戦いは今夜になる。もう一度言うぞ、戦いは今夜になる。』
唐突に始まったアシャカさんの演説。
彼らは口を閉じていく。
『やることはやっている。準備を続けていく。準備が整う分だけ勝てる可能性が広がっていくと思ってくれ。俺らは戦士だ。この村を守る戦士たちだ。ブルーレイクの全員で俺らCross Handerと一緒に戦うのは、親父たちが初めてブルーレイクへ来た頃のようだな。ブルーレイクを守り切る!今回もだ!頼むぞ!戦士ども!!』
『おおううぅ!!』
洞穴では大声が深く広く響いていく。
地の底からの残響がお腹の奥を奮わせている、子供が驚いて大人に縋っていたけど、その頭を強く抱き寄せる彼らはアシャカさんたちを真っ直ぐに見つめていた。
戦いは、日没以降から始まる、と最後の宣告だ。
きっと彼らは信じる、そしてアシャカさんたち、戦う人たちを信じている。
私にとって、彼らが主張するその根拠は結局わからないままだけど。
緊張で張り詰めた空気、だが、深刻な表情を浮かべる中で、その場にいる人達からは、悲観的な雰囲気を感じる事は無かった。
戦うことの覚悟が見える、これは、とても辛い事。
人それぞれが心の中に、踏ん切りというものをつけなければ、人は希望を打ち砕かれて、泣き喚くものだと、痛いものだと、知っている。
それでも、泣き縋る者が一人もいない、この村に住まう人々の覚悟は感じ取れた。
・・いや、それは・・・泣き縋らせない、戦士たちの姿が見えているからかもしれない。
伝えるべき事を伝えたアシャカさんが戦闘する者以外の散会を告げた後で、近づいたミリア達の姿を見つけ、近づいてきた。
そして、ミリアの前で告げた。
「今夜になる。頼む。」
「はい。」
「それで、サービスだ。この2人をお前の班に入れておいてくれ」
「はい?」
突如の申し出に少しばかり素っ頓狂な声を出してしまったミリアだ。
確かに案内役を頼んだけど、2人も来るらしい。
「カウォ、リタン、」
アシャカさんの後ろに、男の人を2人連れてきているのは見えていたが、前に出てくる。
「人数も多少合わせなきゃならんのでな、それに場合によっては他に数人を任せるかもしれないが、頼む。カウォは指揮も頼れる。」
「あー・・、はい」
アシャカについて来た2人を改めて見れば、その出で立ちは見るからに砂漠の漢といった感じだった。
屈強な肉体を持つタフな、軍人と言っても良いくらいの体格で、2人とも年は30台頃かな。
砂の熱に焼かれた褐色の肌に、隆々とした筋肉がシャツの下から見える。
「Cross Handerだ。足手まといだと思うなら、弾集めでも何でもやらせてやってくれよ、はっはっは。そうはならんとは思うがな」
自分で言って高笑いして、言うだけ言って行ってしまったアシャカさんだ。
まあ、彼らを無下にはできないのはわかっている。
でも、面通しができる案内役くらいでよかったんだけれどな。
ある程度の戦力を渡してくれるなんて、信頼の表れか、ただのお目付け役かもしれないけど、それは別に困ることはないだろう。
アシャカのその豪快な物腰に広い背中で歩く姿を、眩しげに見つめるミリアだったが。
ミリアの眉が無意識に顰まっているのは、心中複雑な感情が表に出てしまっていたみたいだ。
軽い自己紹介により、彼らの名、カウォとリタンの腕前、どちらもれっきとしたCross Handerの一員で、戦力として申し分のない腕前のようなのを把握した。
それから皆にアサルトライフルが配られ、カウォとリタンも受け渡された。
ミリア達が前日に受け取ったものと同じで、そのアサルトライフルは最新式では無いが、軍部の一部で未だに使われている物であった。
本人が言っていた通り、ドームからの支援、補給が日頃から存分にあるのだろう。
それから、重い銃弾を詰め込んだリュックを担ぐ弾持ち役はケイジだ。
全部の予備弾薬を持たされるケイジをカウォとリタンは訝し気な顔で見ていたが。
「あいつ精密射撃も射撃もてんでダメなんだ」
って、ガイが説明したら。
「ドームから来た人なのに・・・?」
とカウォとリタンは頭を軽く捻っていた。
アシャカさんたちが私たちへのハードルをいくら上げてきているのかわからないが、ここでは彼らの反応が普通だと思った方が良さそうだ。
「ケイジがちょっと特殊なんですよ」
って、一応ミリアは言っておいた。
元々、2人のどちらかが弾役か補佐役を引き受けるつもりでいたらしいが、ケイジより射撃の下手な人はいないと思う、という全員の推しにより、やはり弾役はケイジで確定した。
ケイジはちょっとむすっとしてたけど、いつもの事なので放っておいた。
洞穴で、渡された装備の点検、新しく加わった2人がいるチーム内での細部の確認・説明などをしていた。
でも彼らは日常的に戦闘訓練を受けているようだし、戦闘面の心配は要らなさそうだった。
それから、ずっと洞穴に集まっていたし、気晴らしに村を散歩してみた。
正直、相変わらず時間は持て余している。
夜まで、って本当かどうかわからないけれど、とりあえず夜までやれることは限られているから。
「いつもどういう暮らしをしてるんだ?」
ガイが彼らカウォとリタンへ普通にそんな事を聞いてた。
「どういう?」
「まさか起きている間ずっと訓練してるわけじゃないだろう?」
「・・食事して、農作業を手伝ったり、昼寝をして牧場を手伝ったり、見張りをしたり、哨戒をしたり」
「独自の文化を持ってるって印象だったんだが、案外普通なんだな。」
「そういう人たちもいるな。決まった時間に祈る人らも」
「そういえば、ダーナトゥさんが床の上で祈っていたな。」
「あれはその家系の人たちだけだ。」
「家系?」
「まあ、敬虔な、って言うのかな・・?昔はそういうの信じている家族は多かったが、そこまでしっかり祈るような人達も一部になってきているな。」
「へぇ。あんたは違うのか?」
「ああ。もともと、Cross Handerは違う部族や外からの傭兵が集団になったものだ。」
「え、そうなの?」
「ああ。今じゃ家族みたいなもんだがな。昔、土地を追われたときにそうなったらしい」
この辺りから人がほとんどいなくなった原因は、あれしかないだろう。
数十年前に起きた重大な出来事で、ドーム群地帯に住んでいる人たちはみんなが知っている。
「そろそろお昼だね」
ミリアがふと時計を見ればお昼になっていたので、村長宅へ足を向けていた。
Cross Handerの人達と一緒に食べようとも思ったが、村長宅でお昼が用意されていたので、お昼は頂いて、夕食はCross Handerの所で食べると告げておいた。
昼過ぎは、班のリーダーと補佐が集まり、ミーティング。
その様子をミリア達も初めて見守りながら作戦の詳細を確認していた。
さらにそこから指揮下の個々の班の人達に伝える事になるらしい。
彼らのやり取りを見守りながらミリアは考えていた。
朝からなんか、感じている不思議な感覚だ。
本当に来るのかさえ、確証を得られてないのに。
お腹の奥を押されるような緊張を感じる。
頭のどこかで信じなくてもいいと考えているような、でも身体の方が緊張しているのか。
その半々なのか。
彼らの緊張が伝わってくるのか。
どちらが正しいのか、それがわかるのは今夜。
・・・ケイジ達もそれなりに、口数は減ってる気はするけど。
軽口は相変わらずたまに交わしてる。
そして、思い思いの時間を過ごして、時は日が傾き、夕方となる。
村長宅の裏手広場に集められたのは戦闘員のみ。
他の女子供は他にやるべき事があるそうだ。
話では80数名の人達がここに集まっている。
そのざわめきの中、ケイジがリースに向かって聞く。
「これで戦うの全部か、他のは?」
「戦闘中は、非常用の隠れ場所に避難するって言ってた」
「そうか」
さっき確認したことをまた繰り返す、ケイジにミリアが何か言おうとしたけど。
右手で握り拳を作り左手の手の平にぶつける、ケイジの目付きは既に鋭くなっている。
集中はしてきているのか、口を閉じておいた。
「集まった諸君、今回の防衛はいつもと規模が少々違うと考えているのを先に言っておく。Cross Handerの嫌な予感ってやつが、疼きまくっているようだからな。気合を入れていけよ!」
『オウッ!!』
腹の底を奮わせる大低音が響いた。
小さい体のミリアには、全身を強い風に瞬く間に撫でられたようで、その刺激が去った後にもまた身体を奮わせた。
口頭演説をするのはミーティングでも見かけた、指揮官クラスの人のようだ。
「作戦の簡単な説明をする。俺たちアシャカ隊36人は中央のここで待機する。それと別に八方、正確には崖と面していない方角五方に見張りを5人ずつつける。そして、見張りが敵を発見した方角へと駆けつける、ここまではいつも通りだ。ただし、今回はCross Handerの『嫌な予感』だ。数名この広場に残す。敵の増援、または不測の事態へと備えるための隊だ。増援のあった場合は広場に残った隊、ダーナ隊が駆けつける。また、敵の攻め手によって適時隊を分ける指示が出る。お前らが覚えとくのは2つだけ。ここで敵が来るまで待つ事、指揮官の指示に従い付いて行く事だ。行く先で敵と交戦するだろう。1人も侵入を許すなよ!分からない部分があるなら隊で聞いとけよ!長期戦を覚悟しとけよ!以上だ!」
「結構、シンプルだよな」
ケイジに言われてるくらいだけど、確かにそうだ。
「ん、そうね。でも、何回もこれで防衛に成功しているなら・・、でもスタンダード過ぎて。悪くはないと思うけど。」
相手の攻めを把握して対応していく、防戦一方の作戦だ。
相手が徒党を組んでも単純な作戦で来るならそれで十分だ。
「俺はどうでもいいけどな、敵を蹴散らしゃいいんだろ。・・本当に来るのか?」
「いえす、ケイジ」
わからないけど。
「・・まあいいや、ふっはっはぁ、腕が鳴るぜぇー」
「ふむ」
作戦は悪くはない、ただし敵が単純な作戦で来るなら、だ。
敵の情報に一番詳しいアシャカさんたちがこの作戦を立てたのなら、これが私たちの現状でベストの作戦なんだろう。
「よし、では戦に向けての腹ごしらえだ。お待ちかねだろ、皆!」
やはり大低音の歓声が上がる。
「しっかり力を溜め込んどけよ!」
その声を合図に、テーブルと金属製の食器、良い匂いのする鍋、沢山のパンが運ばれてくる。
お待ちかねの夕食が始まるようだ。
戦う前の腹ごしらえ、沸き立つ空腹の男たちを尻目にミリアがちょこちょこっとアシャカの元へと小走りに駆け寄っていった。
アシャカはダーナと何か話していたようだが、ミリアに気付いて会話を止める。
「どうした?ミリア殿」
「あの、作戦会議の時に言ったあの案はやっぱり必要だと思うんですけど・・」
「あれか、あれなら頭に入れておいているぞ」
「そうなんですか?」
「ただし、当該者たちだけに伝えるつもりだ。ストレスは最小限に留めるべきだろ?」
「なるほど。了解です、失礼しました」
やっぱり、全員に伝えるのはシンプルなものだけだったようだ。
「気付いた事があったなら他にも言ってくれよ」
「はい、後は大丈夫だと思います」
ミリアは来た時と同じように小走りに駆け去っていった。
「『後は大丈夫』、か。言ってくれる」
アシャカは何故か嬉しそうに笑う。
「俺たちも確認した。不備は無いだろう」
「まぁそうなんだがな。うしっ、じゃあ、ああ言われた事だし集めてきてくれ、当該者たちをな。」
「了解」
ダーナは低く唸ってから、アシャカの側からのそりと離れていく。
大鍋にたくさん並び飯で喜んでいる群れの中へと入っていった。
――――ケイジはそんな光景の中、知った顔を見つけた。
村中で知った顔は数少ないが、そのうちの1人、メレキである。
あの少女は忙しなく鍋の周りを駆け回っていて、配膳の手伝いなどをしているようだ。
声を掛けようとは思わなかったが、彼女が一生懸命動いていたのを見た気がして、何となく見つめていた。
「俺らももらいに行くか」
ガイがミリアが戻ってきたのを見計らって声を出した。
「・・そうだな」
ケイジは、メレキへの視線を切って、ガイたちの方へ追っていった。
「腹減ったな」
「よく食うなお前。リースはどうだ?」
リースは手をお腹に当てて、お腹の空き具合を確かめたようだ。
「・・食べれそうだ。」
いま発見したように言っていた。
「なんだそれ」
ケイジが毒づいてたが。
「みんな、いつもよりも早いけど食べれそう?」
ミリアが近づいてきていた。
「俺らは大丈夫だ。」
「カウォさんとリタンさんもちゃんと食べてね。持続力に関わってくるから。」
「はい」
「うっす。」
「さて、たくさん食べますか!」
夕日の差し掛かる広場の真ん中で合流したミリアが大きく号令をしてた。
沸き立って賑わう広場の中でも何人かが振り返っていた。
「ドーアン!」
その声、姿を見なくても知っている。
「なんだよ・・、メレキか」
けれど、わざわざその姿を確認してから、呟くように言う。
こんなざわめきの中、その呟きは聞こえる筈もないだろうが。
「ドーアン!」
そう大きな声で呼びながら、立ち止まったドーアンの側まで駆け寄るメレキはいつに無く・・、心細そうだった。
その原因は、何となく、わかる。
初めて戦場に立つ自分への心配、それから・・・。
「なんだよ、メレキ」
「なんだじゃないでしょ、こんな時くらい・・」
「何か用?」
「・・やっぱり戦うの?」
「戦う、何度も言ってるだろ」
「なんで、・・こんな時に」
「俺ももう、戦える。そういう年だろ。皆そうしてるだろ」
「・・・絶対、パパから離れちゃダメだよ」
「わかってるよ、ダーナさんに殴られるのはもう嫌だから・・けど・・、は、はは・・・何だか・・・いや、なんでもない・・」
「・・・ドーアン?」
「なんでもない、ダーナさんに迷惑はかけない、うん」
「・・死なないでよ、絶対に」
「うん・・・」
「ママに、お祈りするから。パパとドーアン、皆をお守りくださいって」
「・・・うん」
メレキは俯いたドーアンをぎゅっと抱きしめる。
そして、背中を優しく叩きながら諭すように耳元で呟いた。
「頑張ってよ、頑張って、生きて帰ってね」
「・・わかってる」
姉弟の様に、2人だからこそ、その温もり、ドーアンが身体が熱いような、芯で何かが燻っているような、自分がそういう状態である事が感じられるまで、メレキが、自分の落ち着きを取り戻させてくれた。
――――賑やかな夕食が終わった頃、後片付けもそこそこに女子供の姿が無くなっていく。
避難用の壕に集まっていくらしい。
夕日の赤は強くなっていっている・・・時間が近づいてきている。
その様子を、浅く座ったまま壁に背中を寄りかからせていたケイジは見ていた。
女子供がいなくなっていくだけで、楽し気な、賑やかな雰囲気が減っていく。
残るのはほとんど男だけだ、それは当たり前なんだろうが。
なんか不思議だ。
・・なにかの念と言うのだろうか、そう言ったものが後に残っている光景だった。
そして、ここにいる6人とも誰も言葉を発さずに眺めている。
ただの食後休みだ。
そう、ミリア曰く、すぐ動くとお腹が痛くなるから、だそうだ。
だから、夕空を見上げて、足を延ばすケイジは仲間の彼らと共にゆっくり過ごしていて。
他の女性や子供たち、メレキから見れば叔母さんたち、お姉さんたち、やんちゃ盛りの子供たちと一緒に、避難用の隠し洞穴の中へと入っていった。
元々、軍用か何かの施設だったらしいこの村に昔からある安全な場所だ。
村の南に位置する崖の壁面にあるカモフラージュされた扉から入れる。
入り口付近こそ土や岩でできた洞窟になっているが、暗がりの奥に進めばいつの間にか固いものでできた廊下となっていて、何かが取り払われたケーブルや機械の破片、部品が無造作に散らばる複数の部屋へと続く。
少し大きな声を出してもあまり反響しない、不思議な空間。
壁だってとても頑丈だって言われてる、扉を閉めれば誰も入れない・・。
・・・避難用だから普段は閉鎖されていて、この不思議な感じのする洞穴自体、人が出入りする事は無いし、動力も通っていないし、非常時にしか使われていない。
メレキだって入るのは数えるくらいで、小さい頃の記憶は覚えていない。
今はその複数の部屋の1つに持ち込まれた食料、水などが置いてあるだけで、避難している女性や子供たち、老人たちは広い通路で少ないランタンの明かりを頼りに待ち続けるだけだ。
その中で、メレキは壁に背をつけて、膝を抱えて蹲っている。
「ど、どうにかできないものかねぇ・・?ねぇ?メレキ?」
そう、とても怯えた目を・・ベシュカおばさんは向けてくる。
「止しなよ、ベシュカ」
「・・・・」
ベシュカおばさんはまだ怯えた表情のまま向こうへ、私へその目を向けて来ていた・・。
「気にするんじゃないよメレキ、あんたのお父さんたちがなんとかしてくれるから、」
「そうだよ、あたしたちは明日のご飯の事を考えておけばいいのさ」
「またたくさんご飯作らないとねぇ」
みんなが、明るい声で言ってくれて。
「それにさ、あの助けに来てくれた人たち?『コァン・テャルノ』だって言うじゃないか、」
あのときドーアンが言ってた、みんな笑ってて真に受けてなかったのに。
「あっはっは、なら大丈夫だ、」
笑うみんなだから・・・。
「うん。」
メレキは、おばさんに笑って頷いてて。
仄かな灯りしか暗闇を灯すものが無い。
敵に見つからないように、息を潜めなければいけない。
我慢しなければいけない事は多いけれど。
ただ、この中にドーアンがいない事が落ち着かない気持ちにメレキをさせる。
昔から、同い年であるドーアンはいつも、村に何かあった時ここで事が治まるのを一緒に待っていたのだから。
あの頼りないドーアンがここにいないで外で戦ってるなんて、想像してみても、それは変な感じであり、心配であるし、そして、少しの心細さを感じる。
そう、かもしれない。
勿論、お姉さんたちは構ってくれるし、おじいさんたちは面倒を見てくれるし、私より小さい子たちもたくさんいるから、この張り詰めたような、それでいて外の人達の無事を祈るような気持ちで溢れるこの雰囲気は昔から変わらない。
けれど、やっぱり少し寂しいのも本当で。
パパとドーアン、2人くらいに私とすごく近しい人は多分、この中にはいないんだと思えると・・・。
仄かな灯りが揺れる、人が多くて、少し息詰まる空間を照らしてる中で、メレキは抱えた膝の上にゆっくりと彼女のおでこを乗せた。
それは、彼女自身も気付く事なく。
メレキは、深い闇の中に意識を落とし込んでいった・・・――――誰かが、手を、温かい手で重ねて、包む・・・隣で、誰かが・・・一緒に目を閉じた。
それは、私の、よく知っている温もり・・・―――――
「――――はっ、そう来るとは思ってたよ」
男の、お兄さんの声、・・・ケイジさんの声が聞こえていた。
「あのね、そうならない方が本当はいいのよ?その辺はわかってるよね?」
それに、ミリアさんの声が重なる。
「安心しとけっつの、そうなったとしても、だ」
ケイジさんはいつも、自信満々に話すなぁって。
「俺が切り札、ってんだろ・・!」
「・・・はぁ」
それに呆れた様に、息を吐くミリアさん、なんだか、ほっとした気持ちにさせてくれた。
「なんだよ。」
「いや、任せるって言ったし、」
「じゃあ不満そうにすんな、――――」
――――・・・パパにドーアン、どこにいるかなって、思ったら・・・まるでコァンになったみたい・・ふわふわ・・・、色んなところへすぐにでも飛んでいけるから・・・すぐに見つかってた。
パパはチャレさんのお家のステップに腰掛けて、目を閉じている。
いつもの瞑想みたいに、祈ってるみたい。
ドーアンはその近くでうろうろ、落ち着き無く歩き回っている。
同じ場所をふらふらして。
やっぱり、頼りないね、ドーアンは。
だけど、今はそんなドーアンを笑えない。
頑張ってと、そう告げたかった。
『ドーアンも頑張って』と。
・・・ドーアンが、足を止めて、・・辺りを見回してた。
誰かに呼ばれたのかも、って思った感じで。
でも誰も近寄る人も、それらしい人もいない。
ドーアンの、上を見るような、ちょっと視線が合った気がしたけど、・・気にも留めずに辺りを見回すドーアンは、歩き出して、そこの箱に腰掛けた。
ここにいる私は、無視するつもりらしい。
でも、それも当然だと思う私。
なぜなら―――何でだろう・・・。
何でだっけ・・・――――?
そんな、簡単な事の答えがなんだか、頭に浮かばないまま、・・その時が刻々と近づいてくるのを、村をゆっくり飛んで・・・――――。
日がとうに落ちて、残った砂の余熱のお陰で緩やかに気温は下がっている。
広場では数十人が詰めているというのに、時折、誰かがぽつりと話すような事があるくらいで、静かである。
気配は多いのだが、言葉を発するものがいない。
ぼそぼそと、時折、誰かの話し声が聞こえてきても、大した話でもなく、それもすぐ消える。
長く、長く、時を溜めるように。
村人たちも混じって、緊張を、恐怖を誤魔化すように屯う者たち。
Cross Handerは、その時に向けて照準を合わせている者たちが多い。
ミリア達4人は、どちらかと言えば、Cross Handerに近いのかもしれない。
ミリアもケイジも、ガイも無言で携帯をいじっているし、リースは目を閉じてリラックスしている。
・・・リースだけは、寝てるのかもしれない。
――――ようやく夜の肌寒さを感じ始めた頃、この村の時が動き始める。
『こちらウィスディだ、来たぞ、『灰』が、来たぞ』
「聞こえた、了解だ、・・・ウィスディの方から来た」
アシャカが無線機の受け口を耳につけたままダーナトゥに目で合図をする。
その合図と共に、ダーナトゥは深く息を吸い込む。
「ウィスディの方からだ!アシャカに付いていく者たちは行け!」
低い轟音が1人の声、ダーナトゥの怒気をも孕みかけた気勢が辺りの風さえ強く奮わせた。
「来い!」
アシャカの威勢が皆の体を奮わせる。
『おオおおおううウっ!!』
男たちの腹を震わす咆哮が闇夜に響いた。
彼らが立ち上がり武器を携行し1つの方向へ歩み出す。
そんな中を追う仲間たちの中で、ミリアは1人呟いていた。
「・・ほんとに来た・・・」
アシャカを先頭に、共に数十人の仲間たちが走っていく中、ミリアはガイに目線で合図する。
ガイはそれに気付き頷いてみせる。
「よろしくっ」
声にしたら目線で合図のクールさが消えたな、とガイは思ったが。
「おう」
素直に応えつつガイは立ち上がっていた。
「なんだ?」
ガッチャリガッチャと背負ったリュックの中身を揺らすケイジが、こっちに反応してた。
「何でもないよ」
ミリアがにぃっと白い歯を見せて笑みを向けた。
悪巧みをしている時の顔だなと、直感的にケイジは思った。
そして、ガイがあらぬ方向へ駆けていくのも見つけたが、ケイジは仕方ねぇなと言わんばかりに肩をすくめて見せただけだった。
リースも一部始終を見ていて、特に気にするつもりはないようだった。
『ウィスディの方から攻めてきた』つまり、攻めてきた方角は東側らしい。
ハンドライトを持ったアシャカについていく複数の人たち。
ミリアの隊5名の中では新しく入ったカウォがそのハンドライトを持って、1~2M先の地面を照らしてくれている。
みんなが慣れた様子でフェンスの方角に対して壁となった陰に、バリケードの裏へ次々に人が納まって行く。
フェンスの上で弱々しい照明に無数の虫が絡み付いて飛ぶのが見えるだけで、異変は確認できない。
敵の姿もまだ裸眼では確認できない。
空いているバリケードの裏へミリアが入り、それに続いて隊4人も潜り込む。
土嚢や厚く固い土で作られた壁。
幅も充分だし、通常の射撃の威力なら弾はまず貫通しないだろう。
計6名が入っても悠々と動ける壁の大きさを基準に、後方のにミリア達が位置するその場所からはハンドライトを持った他の仲間の位置も大抵確認できる。
壁壕の陰に入ったカウォが、ハンドライトを壁に括りつけた。
ライトは息をひそめる彼らの手元や足元を照らす。
・・後に、後方から近づいてくる音に気付き、リースが後ろを向く。
それに気付いたケイジとミリアも同様に後ろを見れば、誰かが走ってきたか。
カウォがくいっとハンドライトを向けて、一瞬照らし出したのはガイの姿だった。
確認した後はそのまま、壁に引っ掛け仲間の手元、足元を見えるように戻しておく。
ガイがミリアたちの壁に背中を張り付け、座り込むと同時に、手馴れた動作で担いでいたライフルを腿に乗せて弾倉などの確認に入った。
「よぉ、遅かったじゃんか。何してた?」
「んぁ?」
声をかけたケイジに振り向かず、ガイは手元のライフルをしばしの間いじりながらだ。
「忘れものだ、ただの」
「忘れもんねぇ」
ケイジが、ちらりとミリアを見ても何食わぬ顔で暗視スコープの調整をしている。
「んな事より、お前、安全装置とかあるんだ、銃の扱いには注意しとけよ」
「なめんな、安全装置外すの忘れるなんてあほな事するわけねぇ」
「ちがう、安全装置をくれぐれも外すなっつってるんだよ」
「・・・」
「ぁー」
ちょうどミリアの妙な声が聞こえ、ケイジはその声を辿ってそちらへ向く。
ミリアが胸の前で人差し指を小さく振ってケイジを指した。
「ケイジは撃っちゃダメよ。ガイの言うとおりにね。」
昔の出来事、ケイジが構えて撃った銃の弾が在らぬ方向に飛んだのを見た人間は揃ってこんな事を言う。
ケイジも心当たりがありすぎるので何も言えないでいる間に、ミリアが言葉を続ける。
「下手なんだから、こんな密集した所でやったら洒落にならないわよ」
「・・・チクショ」
「あと、暗視スコープ、ちゃんと準備しときなさい」
「わぁってるよ、」
結構、機嫌を損ねたようで、それはそれは小さな返事で呟いてた。
「あんたは出番をじっくり待てばいいから」
ミリアの言葉はもう届いていないように、はぁっと溜め息をついたケイジだった。
ちゃんと頭に取り付けたスコープを確認はしているケイジのようで。
それから暫く、準備を終えた彼らの周囲は静寂、時折、他の場所の仲間が出す音が遠くに聞こえるのみ。
くしゃみの音が聞こえてきたのは、まあ、寒いからわかるけれど、こんな時は止めてほしい。
ミリアたち4人は標準A装備を詰め込んだ携行バッグを着用し、暗視スコープを装備している。
といっても、結局ケイジだけは外して首に下げているが。
ミリアは壁向こうを覗き込んで暗視スコープの淵を、指で淵の部分を操作しつつ警戒している。
バリケードに正対した遠くのフェンスの方を見ているが、敵影は見えていない。
フェンスは200Mほど先、守るべき村の要の外縁から500mの距離はあるだろうが、その距離でもスコープに搭載されている望遠装置で視認可能である。
『ザザっ・・・』
不意に、無線機からノイズ交じりの音が零れた。
『―――ルナカテャボ、精霊に見くびられるな』
アシャカさんの声だ、落ち着いていた声・・・。
『ルナカテャボ、精霊を受け入れろ』
まるで、戦士たちを宥めようとするような声・・・。
「・・ルナテ、キャボってどういう意味ですか?」
「『ルナカテャボ』は、『同胞の、戦士たち』というような意味だ」
ミリアの疑問に、リタンが言葉を教えてくれた。
村の戦士たち全部への呼びかけ・・・。
『コァン・テャルナ』だっけ、彼らにとって、きっととても大切な言葉・・・。
・・・来る筈の敵、その姿を息を潜めて待つ、・・何かがブレたように視界の一点で白い輪郭を現し始める。
咄嗟に視界をその輪郭を中央に持ってくる。
浮かび上がってきたその輪郭、トラック大の大型車両のフォルムを確認できる。
一見、ゴツゴツした輪郭、装甲車の様に改造を施されているのか、鈍重な図体、そして堅そうである。
未だ静寂、砂を運ぶ微風の中、視界だけが敵の来訪を告げて。
ここを率いているアシャカさんたちも敵の車両を確認した筈・・。
ォォォ・・・と、遠くの微かなエンジン音がようやくここまで届き始める。
一瞬で、周りの静寂が緊張で張り詰めるのを肌で感じる。
暗視スコープで捉えてる大型トラックはフェンスの側まで来ると、左へと大きく曲がって横っ腹を見せた。
その後ろにはもう一台の似たような大型装甲車両が走っていた。
そのもう一台も左に大きく曲がり、先の一台と並んだ。
それら2台は、フェンスに突っ込んでくる真似はしなかった。
嫌な予感がした。
村の戦士らはその様子を辛抱強く見つめていた。
微かにぐらぐらと揺れている2台の大型車両。
恐らく、敵が外に降りている。
二台の装甲車両の大きな腹は壁のつもりだろう。
アシャカは強く舌打ちを鳴らした。
その次に、ダダダダダダダっっぁんっ・・・と何発もの銃声が轟き渡り、静寂であった虚空を揺るがす咆哮を上げた。
咄嗟にバリケードに身を隠したアシャカは、共に車両の腹から広範囲に火が何発も吹く光景が網膜に残っていた。
「撃ってるぞぉ!!」
暗闇が広がっていく。
「なんだ、なんだ?・・?」
「奴らの発砲だ!気にするな、狙って撃っていない!」
「落ち着かせろ!」
そして、唐突にアシャカは敵が計る意に感づいた。
「持久戦は望む所かよ」
苦々しげに、その言葉を吐き捨てる。
「解せんぞ」
誰かが呟いていたが・・。
敵の一斉射撃は数秒で止まっていた。
フェンスに備え付けられていた、高い場所の灯りさえ、ほとんど破壊されたらしい。
村の敷地はその一角だけが闇に溶けていた。
「どうする!?アシャカ!」
「撃ち返せ!威嚇だ!」
その一喝と共に、仲間の銃が一斉に火を吹く。
「止めとけ!それでいい!止めろ!!弾を大事に使えよ!」
これで互いの挨拶は終わったのか・・・再び静寂が辺りを支配した。
・・・先ほどまでと違うのは、明らかに相手の存在を感じ取る闇が広がっていたということだった。
夜の静けさの中、瞑想しているかのように、両目を閉じていたダーナトゥは銃声を耳に聞き目を開いた。
村長宅の入り口の段差に腰を下ろしていた、・・ダーナトゥは立ち上がり、東、アシャカの隊が向かい敵と相対したはずの方角を無言で睨み付ける。
「・・・・・・来た・・」
隣にいたカリャリとドーアンの内、ドーアンが強張った声でそう言った。
遠い発砲音はここまで微かに聞こえた。
緊張の面持ちを湛えた彼らにはその言葉の先を添える言葉も無い。
『ザザっ・・!見張りのクロッソだ!こっち、来たぞ!』
ダーナトゥの腰に下げていた無線機が、そうはっきりと告げた。
ダーナトゥは無線機を手に取り、焼けた薄い口元へ寄せる。
「ダーナだ、了解した」
無線機を持った手を下ろしダーナトゥは顔を上げる。
「クロッソの方だ!西南の方角!行くぞ!!」
『オウッ!』
周囲の隊を連れてダーナトゥは駆け出す。
「ダーナさんが当たる・・新手」
ミリアが通信を聞いて、呟く。
「そうみたいだな。」
ケイジはミリアに反応して応える。
ケイジはなんも考えてなさそうだけど。
タゥンん・・ッ、と弾を超高速度で飛ばす反響音がたまに響く。
ミリアは隊へ、5、6発までなら適当に撃ってみていいとは言ったけれど。
バリケードの穴から低く構えたリースのライフルが、硝煙と共に薬莢が吐き出されるのはこれで2度目か。
着弾点を確認して調整してるのかもしれない。
ケイジが暗視スコープを覗いても、むき出しの敵の姿なんてものを確認できないのに、リースには敵が見えるようだ。
2台の大型車両を擁している敵なのに、彼らは特攻を仕掛けてくる気も無いようだ。
「仕掛けてこねぇのな・・・」
ケイジが呟いていた。
彼らが仕掛けてきたら仕掛けたで、こちらが準備している携行式ランチャーの数射で特攻してきた大型車両は無残な姿になるかもしれないが。
確実に破壊できなければ、大型車両がここのバリケード域まで達する可能性も充分にある。
それだと突破を許した事により、村に点在する家屋を巻き込んだ白兵戦になる。
ただ、そういった強引な突破をするつもりは無いらしい。
厄介なことになる前に、確実に当てられる距離まで近づいて破壊するとか。
危険は伴うけど打開したくもなってくる。
これくらいで焦れる必要は無いが、アシャカさんたちは全く動かないみたいだ。
――――タゥンんッ、ヒュゥンッ・・・
時折、耳を嫌に刺激する、仲間が発射する弾の乾いた音と、敵が遠くから撃った弾が纏う風切り音の度に、現状への警戒を強く引かれる。
ダーナトゥ率いる隊は既に西南から攻めてきたという敵に対して遮蔽物への配置を済ませていた。
弾の運び役を担う事になったドーアンがダーナトゥの後ろで落ち着きなく、弾倉をがちゃがちゃと弄っている。
暗視スコープを覗いて敵を警戒するダーナトゥは、待ち続けている。
何かが起きるその時を。
「うるさいぞ、ドーアン」
ダーナトゥの隣で銃を構えるカリャリが低く声を発する。
静寂の中だと、その低音は耳にはっきりと重圧を乗せて届く。
「ぁぁ・・、は、はい」
はっとして先輩のカリャリを見るドーアンが頷く。
「落ち着けよ」
ハンドライトに照らされたドーアンの姿は既に大量の汗をかいたらしく砂が付着し黒く汚れている。
肌を伝って垂れる汗には冷たさしか感じない。
「来た」
ダーナトゥが口の中で静かに弾いたその言葉にドーアンは身体をぶるりと奮わせた。
ダーナトゥの暗視スコープの緑がかった光景に映るのは重厚そうな装甲車両、改造されているのか大型の1台だ。
アシャカ隊からの報告から似た大型トラックが外縁で停止していると聞いている。
夜間警戒用ライトに浮かび上がる黒色のシルエットが大きく右に曲がっていった。
その瞬間、車両の横腹から銃撃が飛んでくる。
咄嗟に身を隠したダーナトゥは、その銃弾の斉射が止むまで待つ。
暫くして複数の銃撃が止みダーナトゥが土壁から覗き見る。
・・静寂が・・・横たわっていた。
しかしその静寂もつかの間、車両の横から顔を覗かせる人影が暗視スコープの景色に見えた。
ダーナトゥは反射的に銃を構え、土壁の空けた隙間から再び顔を出し様子を伺う愚か者に狙いを定め、引き金を引いた。
ッパアンッ・・・と鋭い衝撃とその反響が、余韻を残して当たりは再び静寂に落ちる。
ドーアンは目が霞みそうな緊張の中で、・・かたかた震え出し、ダーナトゥの自動小銃が放った硝煙の臭いを感じていた。
「おい、ドーアン、落ち着け」
仲間に肩を叩かれた・・。
「ただの脅しだ。怯むなよ、おまえら」
ダーナの太く安定した声が掛けられていた。
『戦線は膠着。奴ら攻める気が無いようだ。』
「奇襲に失敗したか?」
『明確には言えない。可能性はある。だが何かおかしい。』
「そうか。なに、時間がかかればそれだけこちらが有利だ。そっちは頼んだぞ」
『わかっている』
ダーナトゥとの連絡を取り終えたアシャカは溜め息を1つ吐いた。
「敵に動きがあったらすぐ連絡しろよ」
『わかってますよ』
ここ、東側の大型トラック2台に動きは無い。
こうも戦況が動かない事態はあまり予想してはいなかった。
いや、予測する必要が無かったというのが正しい。
奴らが、こんな所で膠着戦線を作ってどうする?
あの大型車両の裏で何か策を用いているのか?
そうだとしても何もできないだろう・・・?
一息に此処を攻略する秘策などあり得るはずがない・・・数にものを言わせて来ると思っていたが、まさかな・・・。
「・・不気味だな」
そう呟いたアシャカの声は、周りの仲間を注目させる。
「・・・しかし、動くわけにはいかないな。奴らがいつ攻勢を仕掛けてきても迎え撃たんとな」
「絶対に何も通しませんよ」
頷く仲間と共に、闇の中で大型車両の停車しているはずの方角を警戒する。
一陣の風が強く吹く荒野、その先の崖を前に。
望めるのは闇夜に広がる深淵と、日の残り香を微かに残す砂漠のみ。
この崖の遥か下にあるはずの、無骨に形成された鉄屑と家畜の村は急傾斜により見渡せない。
常人が降りれるはずの無い崖。
その場所に1人の男が立っている。
背中から強風に煽られ尚も崖の先を見下ろす男。
だぶついた服が風に強くはためいている。
長い髪が絡まり、風に流れ遊ぶ髪が顔まで覆う。
筋肉質な肉体のシルエットが纏わり付く薄い布からわかる、彼は男だ。
細身の身体なのか、青年なのか、それさえ判別が難しい均整の取れた身体は動くことなく。
強い風に曝される中でも体勢を崩す事無く。
ただ、そこに両腕を組み、立っている。
・・・一陣の風が吹き流れる髪の波間から見えたその切れ長の鋭い眼は、暗闇で何も見えないはずの崖下を見下ろしている。
実際、男の周りでさえ、光源の一つも無い。
人の眼であれば、一光も無いこの夜の砂漠、山を登りこの場所に辿りつくのさえ困難を極める。
それは、人の眼を持っているならば。
獣の眼ならば。
人が恐れる暗闇の中でも、僅かな光源に照らされた夜の真の姿を見出せるというのに。
彼の髪が風に流され、彼の眼が見えた。
先ほどと違う。
銀の鈍い光を放っていた眼。
・・アアアァァン・・・と夜の冷気を伝播する、揺らぐ薄い音が彼まで届いた。
「・・ころあい」
男は一言、そう呟き崖の先からゆっくりと右足を前に出し、その身を頭から、崖下に投じた。
落下に飛ぶ視界の隅々から入ってくる、崖に引っ付いた岩の粉砕された残骸がいくつも。
男は力強く空中で一回転して体勢を保つ。
ようやく近づいてきた岩の、固い足場を砕くが如く蹴りを入れる。
脚の鋭い力が接触した瞬間、岩石が粉砕された。
何より、その男は空中で姿勢を保ちながら跳躍する。
そうして落下の勢いを殺しつつ、幾度も岩石を粉砕していく。
ほぼ落下に近い速度に、彼は鈍くぎらついた眼を更に輝かせていく、彼自身が耐えうる落下速度を維持したまま、暗闇の底へ、崖の下へと落ちていった。
何気なく、・・・いや、そうじゃなかったのかも、何か感じたのかもしれない。
村を守る警護の人たちに、『何かあったら、何でもいいすぐ報せろよ』と言われ、渡された無線機は少年の誇りだった。
重い無線機を腰に引っ掛けながら、明かりを点けない暗い避難壕の中、入り口で外を一所懸命に見張っていた少年が。
・・・彼が、村中の、誰かの家の側を走る何かを見つけた。
それは、家の軒先の弱々しい火の灯りの側を駆け抜けた・・・、一瞬、人の形が浮かび上がる。
なんだ・・『あれ』・・・――――月夜の暗闇の大きな影は、人と同大くらいの、そして、嫌な、ぎらつくような、背筋が思わず小刻みに震えた、奇妙な色の眼が、そこにあって・・・以前、見た・・肉食の獣、狼の・・・。
それが、その異形が、ぴたりと止まる。
・・・何かを探すように、立ち止まる・・。
――――息を呑んで、少年は・・・その狼を・・獣を見つめていた・・・。
辺りを周到に見回し・・済んだのか、その異形は前傾になり、加速し一瞬で走り去っていってしまった。
・・・少年は、・・あれが何だったのかわからないが。
・・この村の非常時に紛れ込んできた『悪魔』だと感づいた。
はっと思い出した、少年は腰の無線機を手に取った。
手が震えていた。
凄く、震えていた・・・――――
――――アシャカが腰につけていた無線機が声を受信する。
『ザザ・・カさん、アシャカさん・・・応答を・・ザッ』
「どうした?」
『ザッ・・よくはわからないんだが、村中で何か人のようなのを見たと言っていて、ただ、混乱もしているようだ』
「伏兵か?侵入されたのか?」
『わからない。人を見たと言っている・・ザザ』
「わかった、聞いてたな見張り、今すぐ点呼しろ」
『グレイズ、異常なし』
『ウィスディ、戦闘中』
『クロッソ、同じく戦闘中だ』
「・・・・・・」
数秒待ったが、順番の1人の声が無い。
「バブ、おい、応答しろ」
『・・・ジジッ・・・・・・』
微かなノイズしか無線機からは返って来ない。
「おい、バブ!・・・ちぃっ!3つ目かよ!三波だ!ミリア!行ってくれ!」
『了解』
―――――ちっ・・・」
今しがた・・・首を刺して殺した2人の男の、その内の1人が懐に持っていた無線機、そこから聞こえる会話から敵が異常に感づいたのを知って、男が舌打ちした。
男が両手に持った2つの無線機、左側の、自前の無線機に向かって苛立った声を出す。
「早く来い!ちんたらすんじゃねぇ!この野郎!」
『・・ザザッ・・向かっている。すぐに着く』
彼は再び苦々しげに舌打ちをした。
見張りと思われる2人を殺す前から既に連絡を入れておいた、だが、2人を殺してから残りがいないか周辺を軽く捜索した後でもまだ奴らは来ていない。
「鈍間が・・」
―――――ひどい――――
血を噴き出し・・倒れている2つの死体、肉が鋭利なもので裂かれた傷跡が複数付いている。
胸から大きく斜めに、脇腹から脚にかけて、他にもいくつもの傷跡があるはず・・・。
だが、今は垂れ流れる血で纏う服が染まり、どこを切り裂かれたのかすらも判別できない。
そして、そんな事を知っても、既に意味が無い。
―――――こんなひどいこと、なんで・・・――――
彼はあのフェンスの外のやつらを今か今かと待つ、だが、これほど性に合わないものはない。
腹が煮えくり返る怒りを隠す事さえしない、その荒い気性・・・それは、彼の・・肉体、・・外観さえ変えていく。
長い髪が、より所々逆立ち始め、筋肉質であった二の腕など体躯が更に盛り上がっていく・・・骨格が・・尋常では考えられないほど筋を深くしすぎた筋肉の暗影模様を曝け出していく。
彼の体躯が筋肉の変化によって、より前屈みに姿勢を矯正されていく・・が、何より彼の険しく歪んだ顔、その眼の目尻は一段と釣り上がり、闇の中で銀色の鈍い光を歪ませた、ぎらぎらと放ち続けるようになっていた。
―――――あくま・・・――――――――
瞬間、フェンスの一角が赤黄の炎を吹いて爆発する。
鉄くずが吹き飛ぶ轟音の中、更にその炎の中へと黒い大きな塊がフェンスを突き破り、ガタガタと車体を揺らしながら突っ込んでくる。
引っかかった鉄くずを車体が引きずる音と共に、残る装甲車両の1台がフェンスの内側へと進入してきたのだ。
離れて1人立つ、異形と成り果てた男はそれを見て、火を撒いて突進してくる車両を背にする。
撒き散らされる飛び火、鉄くずの散乱、それらの破壊で満たされた景色は、今更ながら盛大な戦初めの轟音として、異形となった男の狂気に拍車をかけていく。
――――――悪魔が、混迷につられてやってくる――――
――――報せを聞いたミリアが声を俊敏に飛ばす。
「ケイジ!出番!」
「俺か!?」
やたら反応よくケイジは振り向く。
「ダーナさんの防衛域からこう時計回りに迂回していって!きっと出くわす!でなければ連絡を入れる!いい!?」
「おうよ!」
ミリアは辺りを見回して任せられる手筈の人員、壁から動き始めた人員を確認する。
ケイジが弾の入った袋を背中から下ろし、カウォとリタン2人の方に放る。
ずしゃっと袋の中の弾が崩れる音と、その重みで土が陥没した。
「出くわしたやつらをヤりゃぁいいんだな!?」
「そう!行って!ケイジ!」
「おう!」
勢いある返事と共に、ケイジが大きく跳び出す。
そしてミリアが呻く。
「あぁ・・・・・」
ケイジが跳び出したのに合わせて敵が発砲する。
「当たらなければいいんだけどさ・・後ろから回り込むとかして欲しかったな・・」
ミリアのそんな呟きがケイジに聞こえる筈もなく、地面から跳ぶたびにスピードに乗り、闇の中に消えていった。
そのケイジの跳んで行った方向を呆然と見つめる・・・新入り2人のカウォとリタンだったが・・。
驚愕に目を丸くしてる表情の2人の肩を、パンパンと叩くミリア。
「カウォ、付いて来て。カウォ以外の3人はここで待っててね、後で指示出すから」
「おい、隊長」
ガイがその指示に反応してやや声を荒げる。
暗視スコープを装着しているので目の表情はわからないが、ガイにしては珍しく指示に不服な様子だ。
ガイの方を見たミリアがすぐに左横へ顔を向けた。
それは何かに感づいた様子で・・・。
ガイがその視線を追うと、ミリアが何を見たのか納得する。
7人ほどの仲間が、村の中心へと移動して行っているのである。
なるべく素早い足並みで。
「指示は後で出すから」
ミリアはスコープの右こめかみ辺りを人差し指でコツコツと小突いて見せた。
口元でにっとミリアは笑うと、壁にしている壕を背にして走り出す。
カウォもそれに続く。
ガイはその後姿をずっと睨んでいるようだったが、間を置いて、顔を背けた後一息、溜め息をついた。
「ガイ、大丈夫?」
リースも珍しく声をかけてくる。
「んぁ、どうした?」
聞き返されたリースは口ごもったのか、ガイを見ていたが。
「ん、いや、・・何でもない」
「大丈夫だ。言われたとおりに指示を待たんとな」
そうして壁を背に、相対している敵の様子をまた伺うガイ。
リタンはその頃、弾の入ったリュックを背負い終えた。
更に第四波、第五波が来ないよう祈るのはアシャカさんの仕事だろう。
ミリアは村の中心の方へ走った後、良い具合に先ほど村の中心へ下がった、第三波への対応メンバーが数人待っているのを見つける。
家屋の軒先に下げた弱々しい灯りでも彼らのシルエットはわかる。
自分を入れて、合計9人。
ここまで、手筈通り。
「指揮を執るミリアです、よろしく。みなさん聞いてる通り、これから敵の多面攻撃、第三波に対応していきます。指示を出します。3人1組になって。・・あなたはここ、うん、それでいい。それから村の中を索敵しつつ、ダーナトゥさんの所まで行きます。」
ミリアが声を発しながら次へ向かう方へ小走りに駆けていく、それを追いかけて彼らも走る。
「あなた達は避難壕の前を通過して、あなた達は村長のお家を通過して、私たちはフェンスに近い所を行く。敵を見つけたら銃を撃って。そして素早く隠れる。撃って、隠れる。当たらなかったとしてもそれでいい、すぐ隠れる。いいですね?」
『おう!』
「ぁぁ・・、声は小さくして。敵がいるとしたら見つかるので。それと、村中で銃声が聞こえたら即集まってください。銃を撃てば誰かが駆けつける。私がいなければ各自の判断で動いて。私がいたら従ってください、よろしい?」
「ぉぅっ」
いささか小さな声で返事をしてくれる。
「はい、あと、丁寧にではなく素早く移動を心がけて。目的地に早く着くように。ダーナトゥさんと合流が目的。では散開」
ミリアの指示に従い、彼らは隊を分けて動き出した。
彼らの中にはCross Hander以外の人、たぶん銃の扱いには慣れているだろうけど、村の人が混ざっている気がした。
戦いには慣れてないかもしれない。
頭には入れておいて、指示した周囲の哨戒に集中する。
「あなたの名前は?」
「ジュギャだ」
「よろしく、ジュギャ」
新しく加わった3人目に声をかけて、寒風の闇夜を駆けていく。
夜の凍えるような風をその身で切って跳ぶ。
身体が下へ落ちる重力が煩わしく思えるほど、いや、地面を蹴るその時が一番、ビリビリと全身を駆け巡る衝撃と風を感じられるのだから、それはそれでいい。
最高な機動力で、フェンスが見える距離を一定に移動し続ける。
前方には何も異常は無い。
装着した暗視用スコープは軽量は軽量であるが、そのおかしな色の視界にいまいち感覚が狂う気がしてやりにくい。
やっぱなんか気になり始めてスコープに手をかけたとき、幾つもの人型が前方に見えた。
あれは壕に身を隠した人か。
ダーナとかいうおっさんの隊に違いない。
ケイジはその人影が見えるフェンスに一番近い前方の壕へ跳び込んでいく。
―――ザザンッッ・・・!!
着地に周辺の砂を吹き飛ばし、砂埃を少し派手に上げたか?とケイジは思ったが、それは手遅れだ。
「!?」
チャキっと横顔に銃を構えられる音がした。
「おいおいおい、仲間だよ。」
銃を突きつけられ少し慌てた声を出すケイジ。
その声に反応したのは低い声。
「・・・お前か」
壁裏で銃を突きつけたダーナトゥと数人、全員がケイジに向かって銃を構えていた。
怯えた表情で震えている奴もいたが。
「銃を下ろせ、客人だ」
そうダーナトゥに言われ、複数の銃はケイジから取り下げられる・・・。
「わりい、わりい。で、無線聞いてたよな、それらしいのは見たか?」
「いや、ここは異常無い」
「わかった、俺は先を見に行く。」
「ミリア殿は?」
「遅れてくる、多分な、」
「・・そうか」
「じゃな」
その軽い声を残し、ケイジは再び跳ぶ。
「向こうは誰も・・・」
一つ跳びの驚異的な跳躍力。
二歩目には既に彼らの潜んだ壕エリアからは抜け出た。
三歩跳んだ内に、ヒュンっと空を切る音が耳に届いた気がした。
恐らく、敵に撃たれたんだろうが掠りもせず。
ダーナトゥは、その姿を見送っていた・・・風のように消えた彼の耳には、ダーナトゥの声はほぼ届かなかっただろう。
ドーアンはそれを驚愕の表情で見つめながら、呟く。
「・・なん、なんなんだよ、あいつ・・・、」
「・・コァン・・・」
誰かが呟いた声が聞こえた・・・。
――――そして、ケイジは感覚が微妙に狂う所為で、スコープが映す景色に集中していった。
ミリアは重いアサルトライフルを肩に提げて抱えるように走っている。
敵がいる可能性がある敷地内では咄嗟に射撃できるように構えながら走らなければいけないのだが、如何せん、この銃、少し重いのである。
横について走るカウォとジュギャは両手に構えながら走っているのが少し引け目であるが。
やっぱり、いつもの銃を持ってくるんだったかなと思う。
でも、村で補給してくれるという弾薬はサイズが同じでも、手造りも混じるらしいので、火薬量がまちまちだったり劣化などが心配で、少し警戒して村のライフルを借りた。
私のライフルが弾詰まりしたりで壊れるのも嫌だし。
借りたライフルをさっき試し撃ちしたが、旧式なので反動も大きい、精密に一射ずつならいけると思う、手入れは普段からちゃんとされていると思う、わかったのはそんなところだった。
そんな事を頭の片隅で考えながら走っていると、前方のスコープを通した景色にダーナトゥ隊が隠れているはずの幾つかの壕が見えてくる。
フェンスの方にいるかもしれない敵に注意して村側から迂回をしているのだが、今の所、敵の姿も形も無い。
んん・・?標的は村中に行ったか・・ケイジがぶつかっても遅くないはずなのに・・・やっぱり、なにかおかしいみたいだ・・・崖の方から・・?・・来るものか・・・?―――――
―――――その時、ケイジは前方の異変に気付きつつある時だった。
遠くから黒い、高さ3mはある黒い塊が向かって正面から突っ込んでくるのをスコープに捉えていた。
そしてそのフォルム、さっき見たフェンス際に並んだあの大型のトラックと似ている。
と言うより、間違いない、同じものだ。
既に敵の進入を許した事を瞬間的に察知して、ケイジは舌打ちをする。
駆け跳んでいた足を踏ん張り、身体の移動にブレーキをかける。
足の甲に砂が積もっていき、2秒にも満たずに止まる。
「トラック、トラック・・」
ケイジは口の中で呟きを繰り返す・・・。
グロロロロ・・・―――――と遠くで車が鳴っている。
トラックのエンジン音、砂を弾き飛ばし進む音が次第に聞こえてくる。
超重量の金属の塊がそれを動かす強大な力と勢いが、正面から突っ込んできている。
ケイジは担いでいたアサルトライフルを前へと構え、カチャリと安全装置を外す。
確か、オート射撃にしていたはずであるのを指の感触で確認した。
「トラック、トラック・・・、・・トラックといやぁ・・」
倍率を一倍に戻したスコープにもトラックのフォルムがはっきりと映し出されるほど近づいてきている。
――――ケイジは一つ跳び、正面のトラックへ突っ込む。
トラックに充分届かないような距離へだ。
砂を飛ばし二つ跳ぶ前、ケイジは着地する前から、突進してくる鈍重なトラックの左前輪にライフルの狙いをつける。
軽く引き金を引くと十数発の弾丸がトラックの左前輪に、火花を散らして襲い掛かった。
着地の己の体重と、ライフルの反動を上手く相殺し、体勢を崩すことなくトラックとの距離を余裕を持って右へ跳ぶ。
余裕と言っても距離は、すれすれ5mといった所だが。
ケイジは横に低く跳んだ後、空中で一回転体勢を立て直し、あくまでトラックを前方に捉える。
そして砂の上に寝転がる格好で、狙いを定める。
そしてオートでの連射を放つ。
狙うのは左後輪。
閃光の如く火を吹くケイジのライフルはトラック左後輪付近の火花を刹那に創り上げる。
ライフルの火花が消えた頃、ライフルから伝わる振動が温いものとなった。
弾が切れた。
硝煙と焦げた臭いが充満している中、トラックは左に傾き曲がっていき、ギュルギュルギュル・・っ・・!!と砂と摩擦するタイヤの音を出しながら止まった。
「やっぱ、タイヤだな」
ケイジは一人頷いた。
「かぁあああ・・」
突如、視界外、ケイジの右側から何かが聞こえた。
ケイジは瞬間に反応し、右を向く。
砂上に腹ばいのケイジの低い視線で、20mは遠くに人が立っているのが見えた。
そいつはゆっくりとケイジに近づいてきているようだが、
その人影、人としておかしくも見えた。
――――上半身が盛り上がった筋肉の、何より暗視スコープでは真っ白にぎらぎら光る眼光が、おかしい。
ケイジは反射的に跳ね起き立ち上がっていた。
なにより、そいつが俺を見ているということに対して、あいつを見なければまずいと、本能的に感じる。
―――ブロロロ・・っ・・と、砂を踏みしめる音が始まる。
音のした方、左を見ると今しがた急ブレーキをかけたトラックが走り始めていた。
ぎ・・・っと歯を噛み締めたケイジは、『そいつ』に構わず、トラックへと跳んだ・・・!
2、3歩、跳ぶ度にその瞬間だけで爆発的な加速度を生み出す、充分速度に乗ったケイジの左拳が突き出し、トラックの横腹へと衝突した・・!
ゴアッシャ・・!!・・と、トラックの装甲がへこむ、鉄板を仕込んだ分厚い装甲だったらしく、衝撃でトラックがバランスを崩した。
だが、それでも足りない。
その感触でわかる、ケイジは感覚でわざと逃した突進の余力の勢いで、左拳の一突きを支点にトラックの上方へと飛び上がる。
トラックは片輪が浮いた、ケイジの衝突で横にぐらつく、しかも走り出していたトラックは既に運転のバランスがおかしくなっている。
そして、狙いを付けたケイジはそのまま落下してきた、右足をトラックの上向きになった右側から蹴り込んだ。
ガインっ・・!と金属音同士がぶつかる音を出し、トラックは大きく傾いてた所の止めの一撃に、超重量が倒れ込んだ。
ギャリギャリギャリギャリ・・・!!・・っと砂と金属を思い切り擦り上げるながら横転したトラックは、衝撃で引っくり返った。
「――――ッカ!!」
突如の奇声か、ケイジが振り向く前に目の前に付けていたスコープが吹き飛び、ケイジの眼は暗闇で染まる。
咄嗟に、ケイジは後ろへ大きく跳ぶ。
嫌なにおいを感じた、しかし、暗闇での方向感覚、空中での間隔が狂っており、わけもわからずに着地は尻をついた。
そのまま勢いを殺さずに後ろに一回転し、四肢を地面に着いた状態で状況を知ろうと警戒する。
目を凝らせば何とか、何かが見える程度、月のお陰でもあった。
そして、急速に接近してくる何かが視界に入り、再び咄嗟にケイジは転がり、砂上から跳んだ。
上空から見下ろした、ケイジが今までいた場所に飛び込んできたのはあの異様な人影、悪寒が走るような異形のなにか。
太い右手を振り下ろした格好で、銀光の眼で・・上空のケイジを睨みつけている。
・・1歩、2歩と跳び、遠くに着地したケイジは、その人影から目を離さない。
最初のスコープが飛ばされた一撃、瞬間的に、身を引いていたため、スコープが掠った程度で済んだのかもしれない。
顎を伝う何かを感じて左手をやると、手に液体がついた感覚がした。
どうやら、スコープだけじゃなく、頬の辺りも軽く切ったらしい。
「あんな肉食獣いねぇよな。・・特能力者かよ」
吐き捨てるように言ったケイジ。
だが、その顔、今までに無く、張り詰め、・・・僅かにでも引きつっていく口端が、笑みさえも浮かべていた。
「グレアっ!!」
その大声に反応して、その異様な人影がケイジから目を離し、倒れた車両の方を見た。
ディッグの数人が車の中からわらわらと脱出し始めたようだ。
「俺たちはどうする!?」
その中の誰かがあいつに大声で話しかけている。
「行け」
怒気を孕んでいるかのような、どす黒い低音がケイジの耳まで届いた。
響いてきたという感じでなく、腹の底が震わされたような感覚。
人間にそんな声が出せるのかというほどの奇妙な声。
――――ケイジがはっとして、振り返るとその声を聞いて走り出そうとするディッグの奴らが見えた。
追いついて吹っ飛ばしたい所だが、前に立ち塞がる『あいつ』を無視しては行けなかった。
というか、ケイジ自身が無視する事ができない、と言うのが正しい。
狂気染みた殺気が辺りに充満していて、ケイジ自身当てられたかのように、心臓の鼓動が激しくなっている――――。
ぱァンん・・っ・・・!!!
銃声が反響した。
反射的に辺りを見回すが、それらしきものは見えない。
パン!パァンん・・・ッ!!
続けて2発―――村の方か?
ひゅっ・・と弾が飛ぶ音が遠い、こっちは狙われてはいない、弾が飛んでくる感じじゃあない、暗闇で俺が見えてないのか・・・?―――――
トラックから出てきた男が1人撃たれるのを認めた――――向こうか・・!村の方、援護か!
そう直感したケイジの耳に、さっきとは打って変わって甲高い声が届く――――。
『ケイジ!?来た!ダーナトゥ隊の所と村には入れさせない!あの車両から釘付けにする!そっちの状況は!?』
ミリアの耳を劈くような声。
だが、それはとても心強い援護だ。
「あっち側に1人特能がいるっぽい」
『え!?』
「ナチュラルだ、だが、相当やばそうな奴だ」
『・・それは任せてもいいの?』
あのぎらぎらした眼の異形の男、ケイジが目を離していないそいつは、ずっと村の方角を見ている。
突然の伏兵にあいつは脳みそをフル回転させているんだろう。
「・・ぁたりまえだろ!!」
『・・おーけい、何かあったらすぐ連絡すんだよ!』
そう思った瞬間、『あいつ』は車両の方を無視し、村の方へと駆けた。
その速度、物凄く、速い。
やべぇと、思ったケイジ。
ケイジは、そいつを追いかけ大きく前方に跳んだ。
かなりの速さで跳んでいる筈だ。
ケイジ自身、焦っている。
すぐには追いつけない。
奴は50m近く距離がある筈の村の敷地内へ、数秒もかからない内に飛び込んだ。
前屈みに走る奴の姿は、最初の印象の通り、獣を思わせる。
それも獲物を見つけた時の肉食獣が、スピードに乗った走りの。
それが、余計にケイジに焦燥感を与えていく――――。
――――ダーナトゥ隊方面への進路、村方向への進路。
第三波の攻撃ルートは両方とも塞いだ。
少なくとも索敵は充分できるし、この位置、村中のバリケードの暗闇の中から、あの新手の倒れた車両付近から離れようとする敵を射撃できる。
しかも、敵にこちらの正確な位置を知られないだろう。
辺りを見回せば、指揮下に置いた3マンセルの3チームが適当に間隔を置いた異なる位置に身を潜め車両を狙っている。
これならば簡単には車両の敵はあそこから動く事はできない、釘付けにできる。
きっと、さっきケイジが撃ったライフルの連射音を聞きつけて、集まった彼らの素早い行動だ、戦闘員として心配なく頼りにできそうだ。
状況を整えたミリアが次の事を考え始めた瞬間、ミリアから見て右隣に張った3マンセルが何かに警戒するような様子が、暗視スコープの中に見えた。
ミリアは彼らを注視する、・・・1人、背中から血が破裂したように噴出した。
そして、何処からか現れた異様な人影を見た。
盛り上がった肩周りの人影を見た瞬間、2人目が首を裂かれ膝を突いた。
素手での手刀に見えたのに、血が出たのだ。
ミリアはその瞬間、反射的に腕の中にあるアサルトライフルを肩に当て狙い構える。
標的は当然、その異様な人影。
覗き込んだライフルのスコープの中では3人目が地面に顔面を打ち付ける瞬間だった。
彼はその顔面の強打を最後に動かない。
刹那、標的と照準が合い、トリガーを引いた。
タゥンッ
ミリアの減音器付きライフルから火薬の爆発によって撃ち出された鋭い弾丸がその人影の胸へと目掛けて放たれた。
――――しかし・・、その人影は尋常でない速度で村の方へと跳ね、砂の上を転がり、四肢で張って止まった。
ミリアの弾丸は余裕を持ってかわされたと判断する。
その人影は張ったまま辺りを警戒している。
弾の出所を探しているのか、他の獲物を探しているのか。
あれが、ケイジが言っていた能力者か?
もしくは新手の能力者・・?それは、ヤバい。
その人影の存在について一通り考え終わる前に、更に奥から黒い物体が人影へと急襲をかけた。
その特能力者を追って来たのは、『ケイジ』!
そう直感したミリアは、ケイジと対峙するあの能力者へのシュートチャンスを狙う事にした。
「指示出して、このまま配置を維持。横転した車に敵を釘付けにして」
「了解」
2つの人影が高速で動くのを、・・照準の中心で追い続けるミリアは、一息を深く吸い、深く吐く・・・――――。
―――――ダッパァっ・・・と全体重で踏みつけた砂が混じった土が陥没する。
狙ったあの『獣野郎』は地面を転がり避けやがった。
逃げた左方向の奴を目尻で捉えながら、跳躍して距離を空け相対する。
既に地面に屈んだ『獣野郎』が態勢を整えていて、こっちを睨みつけている。
「さっきからっ、うぜえぇっ!!」
奴が叫ぶ。
「んだ・・?」
「俺の邪魔をする奴ぁ、ぶっ殺す!」
「んだよ、来いよおら・・・」
ケイジが言い終わらないうちに、奴が機敏な動きで体勢を更に低くした。
ヒュンッ・・
空を切る音がケイジの耳にも届く。
奴の身のこなしはケイジに襲い掛かるためではなく、何処からか飛んできた銃弾を避けるためだったようだ。
「うっぜえ!!」
吼えたその獣は更に村の奥へと駆け込んでいった。
「弾ぁ避けんのかよ・・・しかも逃げんのかよ・・」
ケイジも再び奴を追い、跳躍する―――――。
――――離れた所で狙い撃ったミリアは二度も外した事を、いや、避けられた事に、口元を閉めた、緊張の面持ちをしていた。
だが、どうしようも無い事は頭ではわかっている。
後はケイジに任せる。
そう、強く自分を言い聞かせ、当初の目標だった車両周りに潜む敵に注意を戻した――――。
―――――町中を突っ切って走る異形の男。
獣が疾走するが如く男のスピードに何とか追い縋っていたケイジだ。
が、突然、あいつが跳躍し、ある一軒の家屋の屋根へと男は一跳びで上がった。
ケイジは男を警戒し、距離を充分に空けて着地した。
「ッッッカアアァァッ!!」
およそ、獣の咆哮の如く、鬱憤している滾る激情を天空へと放っているのだろうか。
歪な屋根の上で月夜を背にしたその男、顔こそ見えないが銀色の眼光が更に異様な存在感を放っていた。
――――悪魔が、村にやって来た。――――
ケイジはその男に声を張る。
「お前、能力者か」
「・・ッカ・・、のうりょ、くしゃ?何のことだ?」
――――悪魔が・・・、・・・のう、りょくしゃ?――――
「けっ、完璧、ナチュラルかよ、にしたって、やりすぎだな」
この男、麻薬をやってるかもしれないと、ケイジは思う。
「オレのコレ、か?これが、のうりょくとか言ってんのか?」
喋りのろれつがおかしいのは能力の所為か、麻薬の所為か・・・。
「おつむは生きてるみたいだな」
「ケッ、オマエは驚いてないみたいだ、な、オマエもなれんのか、こんなな、テンション高くヨ?」
「・・俺の場合は、テンション高くなんねぇでも、強いぜ?」
「・・っひゃはっはっひゃ」
――――悪魔が笑っている。・・でも、その本性が――――
・・月の薄明りに見えるその姿、風に荒立つ長髪に逆立った部分に、獣のような長い耳が見えた気がした。
そして、腕に鋭い爪。
獣の牙のようにぎらりと、光ったように月明かりを反射した。
・・半透明なのか・・?・・薄く透き通るような・・・よく見えないが、その長めの鋭爪ならば、獲物を切り裂くのに難儀は無さそうだった。
「・・・だぁあく・・っ・・ダーク、ネイビ、グレア・・・」
「ん?」
「っつったら、この辺でも有名だと思ってたんだがよぉお」
『ダーク・ネイビ・グレア』っつったのか、こいつの名前か・・・?
「・・知らねぇ」
グレアと名乗ったその異形、随分と昂ぶりが落ち着いたらしく、最初に比べて発音に違和感は無くなってきていた。
「・・・んじゃ・・、死にゃぁわかるだろ?」
歯を食いしばるように、笑ったのか・・・言うことは物騒だが・・・。
――――・・ケイジさん・・・――――
グレアは立っていた屋根の上から跳躍し、まっすぐケイジへ飛び掛ってくる。
ケイジは構えたまま後方へ跳ぶ、距離を取るように、だがグレアの突進が目の前で両手が大きく開いた瞬間、加速度を増したケイジが横へ跳ぶ。
空を斬るグレアの両爪、刹那が追いきれなかった・・・グレアがケイジの逃げた先を睨みつける。
その着地、衝撃を感じさせず、グレアはケイジ目掛けて地を駆ける。
しなやか過ぎる筋肉、一気に距離を詰めてくる。
あまりの速度に、ケイジは肝を冷やす――――顔面に繰り出されたグレアの右爪をすれすれで避けた、地面を高速で蹴り出し捻った身体で回転した右肘撃ちを食らわす。
グレアの無防備な肩に当たった肘鉄は、盛り上がった硬すぎる筋肉が、岩に肘を当ててしまったぐらいの感触で返って来た。
ぎりっ、と歯を嚙み締めたケイジはグレアの右爪が薙ぎ払う2撃目を横の大きな跳躍で避け、距離を開ける。
さっき当てた肘が、じんじんする痛みを感じながら、体勢を整えようか・・と頭に過った瞬間に、グレアがすでに距離を詰めている。
早すぎ・・っ・・、とケイジは心の中で毒づく。
グレアのその右ショルダータックルが、ケイジの胸腹を襲う。
咄嗟にケイジは左肩を差し出し、ショルダータックルに当てる。
ガインっと、奇妙な衝撃音と共にケイジは吹っ飛ぶ。
宙で、体勢を立て直す事ができずに、ずざああぁっと砂の上を滑った。
その滑りの勢いが弱った時、ケイジは半身を返して、四肢をついた体勢へ砂上で整える。
グレアは追ってきていない。
思った通りだ、追って来れなかった。
ケイジの左肩との衝突でグレアも痛みを覚えたからだ。
そして警戒もしているか、グレアは忌々しげにケイジを睨んでいる。
それを見て取ったケイジは、仕掛ける・・・!
一つ跳び、前方に低くケイジはグレアとの距離を一息に縮める。
その驚異的な加速度にグレアは眼を見張る。
二つ目の跳躍で、ケイジは左腕を中に引き込み、両足で溜めた力を伝えた。
そして、グレアへ目掛けて左拳を思い切り突き出した衝撃を当てる・・・!
ボシュウっと音が、掠めたグレアの左頬を焼いて、左拳が後方へと飛んでいく・・・まだだ、突っ込んだ勢いのまま力を込めたケイジの二撃目、左肩がグレアの顔面を強打した。
その衝撃に首が持っていかれそうになり、・・吹っ飛ぶグレアの身体。
たまらず転倒しそうになった、だが、何度も横転した後、片膝を付いたグレアは、ケイジを殺気の篭った眼で睨む。
ぎらぎらとした銀の眼光が更に激しさを増していた。
――――すごい・・・、すごい!悪魔を、悪魔を跳ね除けれるなんて・・・!―――
宙を跳んでいる間も、横目でそれの挙動を見ていたケイジは3歩目で、ガリガリガリ・・っと片足、そして反転しつつもう片足で地面の砂を削りながら、グレアを正面に捉えつつブレーキをかける。
―――ケイジさん!すごい・・・!すごい!ケイジさん・・!・・!?――――
再び相対したグレアの口の端からは・・牙のようなものが見えていた。
さっき消えてたな・・・。
不安定だな、とその牙を確認したケイジはグレアから目を離すことをしない。
「・・・ギっ、グッ、・・ッハ・・」
・・グレアから嗚咽のような、漏らす声か・・・怒りが限界を超えたかのような、奇音が聞こえ始める・・・感情が暴れている・・か?
「グッ、・・ハッ、ッヒャッハッッシャヒャ・・・」
かろうじて・・・グレアが、笑い始めたんだという事がわかった・・・―――――。
――――――リース、応答を、リース、応答を」
『リースです。ミリア?』
「そろそろ頃合だけど、いける?」
『敵の位置は大体把握した。任務の遂行に支障は無い』
「わかった。では、今より行って下さい」
『了解』
「・・くれぐれも気をつけてね」
そう告げて、ミリアは耳元の通信機の接続を切り替えた。
そして未だ、車両の影にこもり、それを包囲する自分たちの、動かない状況に視線を走らせる。
「・・切り札は、多い方がいい、けど、危険な事、わざわざさせる必要、も無いのに、か・・・でも、必要なのか・・・」
そう一人ごちるミリアを尻目に見るカウォは、何のことを言っているのかさっぱりわからないでいた――――――。
「―――――ッヒャッハッハハアアァァッハッハ!!」
拍車をかける異様な雰囲気にケイジは、緊張を余儀なくされる。
「お前!異常だな!?お前も異常だナ!?カタチは変わってないガ!イジョウなヤツだロ!!?」
何が可笑しいのか、笑いを抑えきれないようだ。
いや、『嬉しい」のか?あいつ・・・。
「お前と一緒にスンナ。けどまぁ、・・俺は普通じゃない、かもな?」
「―――ヒッヒヒャアァッハッアアァ!!」
メキメキと音を立て、あいつのテンションが、笑い声の大きさがでかくなると、連鎖したようにヤツの、身体が奇抜に変形していく。
骨格がそもそも、異常に、盛り上がり、腕のリーチも足のリーチも・・・みるみる内に伸びてないか・・・?・・とケイジは疑う。
身体が・・・さっきよりボリュームが増えている気がする。
強く逆立ち始めた髪の毛が・・針金のような、触れると刺さりそうに固そうな、おぼろげな鈍い光を艶やかに反射している。
それに眼は、『あいつ』の目は・・・既に、人間の眼の形で無くなっている。
獣の、肉食獣の眼がぎんぎん・・・と闇夜に強く光り輝いていた。
やっぱそうだ、こいつ。
まだまだまだ、不安定なやつ。
ケイジの判断はこれだった。
ナチュラルだから当然と言えば、当然なのだが。
これだけ、ナチュラルでキテいる奴も珍しいんじゃねぇか?
――――悪魔を、パパたちの所へ行かせないで・・・――――
ケイジは、上半身を低くして、相手に構えた。
「ッシャァッ!!」
不気味な奇声を発して、グレアが突っ込んでくる。
先ほどより数倍早い・・っ!
――――きっと、ケイジさんしか、止められないから――――
一瞬にして、驚異的な脚力がケイジとの距離を詰めた。
ケイジは反応した、右に大きく低く、地面すれすれに跳ぶ。
グレアは空ぶった右腕の一振りを身体に巻き込むと同時に、砂を幾度も足でかき、ケイジに向かって突進する―――――。
―――――リースは独り、砂色のローブを身に纏って立っている。
微かに金色の髪がローブから風に乗せて揺れるが、暗闇の中ではそれは無いに等しい。
リースが立つのは、アシャカ隊が張っている東側の壕、の更に北東。
ここは村が襲撃に遇ったにも関わらず何事も無く、更に北東の見張りからの敵影発見の報告も無い。
充分に周りを警戒した後、リースはフェンスへと駆け出す。
暗視スコープに映るものに異常は無い。
そして、100mの短距離を走り終えフェンスの側へと付く。
リースが手探りをしながら、探して・・見つけるのは汚れた赤いテープ。
腰の高さに見つけたそのテープは目印で、その周囲を押せば人1人が通れるほどの穴が空く。
事前に細工をしていた内の1つだ。
その穴へリースは潜り込み、容易にフェンスの外へと出た。
そして、更に砂漠の方へと駆けて行った。
暗視スコープで周囲の警戒は欠かさない。
東の敵集団は既にフェンスにくっ付く事しか頭に無いようで、行く手に敵影は見つからなかった―――――。
―――――異形のグレアの乱暴なステップワーク、地面が抉られるその身体の転換は多少のロスだが、それでも充分に速い。
距離を開ければスピードに更に乗り、乗れば乗るほど際限なく速くなる。
眼前まで来たグレアに身を捩っていたケイジはタイミングを合わせ、右足の踵を外側へと振り回す。
グレアの右の二の腕を捉えた右踵、後ろ回し蹴り。
めき・・っと、グレアの筋肉で盛り上がった太い腕が陥没した感触が伝わる。
ケイジはその蹴りを支点に跳ぶ、つもりだった。
グレアはその一撃で多少体勢を崩したのかもしれないが、強引に左腕を伸ばし、鋭い爪がケイジの右の二の腕を掠った。
そしてその左手を握り込んだ、が、グレアにとっては惜しくも、ケイジには危うく捕まらなかった・・・。
・・グレアが右腕から伝う衝撃の痛みに踏ん張ったのはその後の刹那、吹き飛ぶのを堪える、ぎりぎりでケイジがその右蹴りの跳躍力で身体ごと射程圏外まで跳んで行った。
ケイジが自身の右腕を視界の端に入れると、血が滴り落ちるのが見えた。
奴の鋭利な爪は一撃で死ぬのも厭わない。
爪がまともに切り裂く・・嫌なイメージが浮かび、ぞくっとする。
グレアが跳ぶ、ケイジほどの跳躍力では無いが、目の前のケイジへ距離5mほどで着地、その刹那、重力の影響を見せずに横へ駆ける。
ケイジの死角を取るつもりか。
小回りが早すぎて眼で追うのも、次第に追いつけなくなりそうだった。
ケイジは前方に、グレアの包囲から一瞬で距離をとる跳躍をする。
空中で肩越しにグレアを目で追うと、グレアは一直線にケイジへと突撃してきていた。
着地を狙うのか、とケイジの頭に過ぎる。
ケイジの着地と、グレアの速さがぎりぎり同時になりそうなほど、グレアの動きが速い。
ケイジは着地、その瞬間に後方へ、グレアから見れば右に跳んだ、筈だった。
どんっ・・と、どうしようもなく重く堅い、何かに背中を打ちつけた。
ケイジは目で追ってはいない。
だが、その背中を打ちつけたその何かに、一瞬の判断で即座に腕の力だけで左の裏拳をかます。
息が止まってるのにも構わず、繰り出したそれは確実に何かに当たる手ごたえがあった。
ゴアン・・っ!と金属が震える感触を感じながら、右手と右ひざを地面ついたケイジは再び前方に跳び、距離をとる。
空中でげほっ、がほっ、と咳きこみながら。
苦しいが、最悪の事態よりはましだと、わかっている。
着地時に、転がり両膝を付いた姿勢で、今跳んできた方向へと顔を向ける。
残りの咳き込みを消化しながら状況を確認した。
背中に打ち付けたあの重く堅い何かは、いま顔面を押さえているグレアだったのだろう。
それは、自分がかわせると思った動きをかなりの速さで上回ってきたってことだ、あの一瞬で自分の死角に飛び込んでいたグレアの・・・。
咳が治まって来る頃には、グレアの鋭い目付きがケイジを睨んでいた。
月夜、未だ、翳り無く、両雄の対峙、阻む事なし。
ただ、静かに戦況は、変じつつある。
・・彼らの闘いのことじゃない。
大局が、確実に傾き始めている―――――。
――――――・・・砂漠を充分に回り込み、慎重に東の敵集団の背後を取ったリースは、暗視スコープの景色を頼りに敵の背後へと近づいていく。
背後を守る敵兵の存在は無い事は無い。
だが、手薄だ。
1人、2人、3人・・、5人。
――――リースは当初の予定通り、闇の中、砂に紛れ、低い姿勢を保ちながら近づいていく。
一番手薄になっている場所、左端。
そこは1人、いや、かろうじて2人が見える。
リースが小走りで近づいていくにつれ1人が、何かに気付いたように視線を止める。
微かに気付かれたのは頃合である。
リースは今しがた何かに感づいた1人がこちらを見ているにも関わらず、足を止めずに近づいていく。
だが、その敵は何かが近づいているのが、・・目に入っている筈であるのに、数秒後、視線を逸らした。
リースは砂の上に腹ばいに倒れ込む。
2人目が何かに気付きこちらを見たからだ。
もぞりと、顔を上げたリースはその離れた場所にいる2人目の姿を確認して、再び立ち上がり、低姿勢で駆け始める。
そしてリースは1人目の見張りの傍まで来て、眼を見て声をかける。
「ボス・・、どこだろう?」
「ん・・あ?ボス・・?首領なら、さっき確か、あの馬鹿でかい車の方に行ったが・・」
「そうか」
にべも無く答え、リースは敵の陣地へと歩いて入っていく。
あの重装甲の車両が2台横に並ぶ配置。
その後ろ、もう1台軽車両が停まっていた。
村の方からは陰になって見えない位置だ。
そして、たくさんの武装した人たちがいる。
薄いランタンの灯りがいくつか使われているようだが、大きな車両の陰から村の方を覗う者たち、それを後ろで見ながらぶらぶらと暢気に座って暇そうにしている者さえいる。
その大型車両の中にはまだ人がいるとしても、ここには40、50並の人数がいるのか。
大型の車両に入れるぎりぎりの人数を連れてきたという事か。
紛れるように歩いているリースはそんな彼らに、念のために1人ずつを目に留めて、処理を施していく。
・・頃合を見て、リースはまた1人であぶれている者に尋ねる。
「首領、どこだろう?」
「首領か?あの首領の車に戻っちまったよ、さっき」
そう言って指差したのは、あのベージュ色の軽車両。
「そうか」
にべもなく、リースはその軽車両へと歩いていく。
リースにその事を教えた男はすぐに興味を無くしてリースから視線を外した。
その軽車両、後方座席の屋根が開くようになっていて、1人、ふんぞり返って座る男がいた。
30台頃の男がいた。
狡猾そうな目をした、隙の無い雰囲気。
それが、恐らく、探していた目標――――。
――――1つ、異様な感覚を覚えていた。
揺らぐ何かが、何かが見えているはずなのに、異様な何かが目の中に見えている筈なのに、おかしい。
見ていたってそんなものなんて無いじゃないか、とモルゲン・ハティウスは考える。
何かが視界に入ってるわけじゃあない。
しかし、次第に強く襲ってくるこれは、・・焦燥感。
「おい、だれか・・いねぇのか・・・?・・ゼゾ、・・・ライカ・・」
汗さえ噴出しているこの身体の状況、明らかにおかしいだろう。
明かにおかしい・・・何が、おかしい・・・?・・・。
揺らぐ、いま、何かが見えた気が・・した。
「あなたが首領?」
耳元で囁かれた言葉。
それが形のあるものになるのに、数秒を要した。
「誰だ・・?」
振り向くと同時に、微かな灯りに反射した、フードの闇の中から金色の長い髪が見える、誰かが。
そして、生暖かい、ものが胸に注がれるのを感じている事に気付く。
胸から腹へ、そして下腹部へと止め処なく流れていくそれが・・・己の血である事に・・・・・気付くのに・・さして時間はかからなかった。
両の手で押さえようとしても・・・首にできた広い、深い裂傷の隙間から零れていく自らの生命の液が・・車のカーペットに染み込んでいく。
身体中の力が抜けていく・・・霞んでいく視界で・・もう一度背後を・・・見ようとしても、そこには誰もいるはずが無かった―――――。
―――――おいモギー、」
男が車両に上ってくる。
「動きたがってる奴ががぁがぁ言ってきてるぜ。時間かかり過ぎだろう、あのイカレ野郎・・言うほど使えねぇ・・・」
車上で、椅子深くふんぞり返っていた天を仰ぐ男が・・・モーゲのはずだ・・異臭・・・大量の血の匂いが・・充満している・・・。
「・・おい、・・おい!モギー!・・モギー!・・モルゲン!!モルゲン・ハティウス・・・!!?・・・!!――――――」
『―――――任務完了した。離脱中、です』
「了解、帰りも気をつけて」
ミリアはリースの報告を聞き終え、少し、頭を巡らす。
ゴロツキと言っていいレベルだから、いくら指揮官を取ったからと言ってどこまで相手の指揮に影響があるのかわからないが。
あれだけの人数を3隊に分けて攻撃を仕掛けてきたくらいなのだから、多少の影響は見込めるだろう。
それに、攻めてきた第一波が大型車両2台と他の隊より規模が違うし、定石で言ったら、切り込み隊を務めるのは地力が強い隊の役回りだし。
今は関係ないか。
大切なのは、現状だ。
南西側のここでは、目の前には未だ動きのない横転したままの車両の第三波と対峙し続けている。
・・・装甲車の屋根をこちら側に向けたままで、ずっと裏側に潜んでいるようだった。
その距離およそ100mだが、十分な射程距離圏内だ。
しかし、敵の姿が見えなくて射撃はできない。
たくさんいる事はわかってはいるのだが、彼らは混乱もせずに留まり続けている。
混乱してくれれば楽に掃討できるんだけれど。
無抵抗の人間を撃つなんて、そんな趣味もないが。
・・そんな馬鹿な事はしないみたいだ。
いつまで待つんだろう、彼らは。
こちらから攻撃するのは、被害を抑えるならしない方が良い。
もう少し、待てば・・・。
突如、車両の扉から、真上に照明弾が上がる。
夜に赤色なりの、眩い火花を纏いながら撃ち上がったそれに、その場の全員が目を奪われた―――――。
―――――天高く浮かんでいる眩い照明弾が目を奪ったのは、その場にいたミリア達だけではなく、村に点在する隊の仲間たち全て、そして遠く離れた家屋に囲まれた村中で対峙するグレアとケイジも同様だった。
夜空に浮かぶ火が、ブルーレイクにいる全ての人間たちを見上げさせる・・・――――。
「――――シュェッ」
グレアの口から空気が鋭く洩れたような音が出た。
その音は舌打ちだったのかもしれない。
グレアはケイジを再び殺気の篭った銀光で睨む。
その夜空に飛ぶ照明弾を見たケイジがグレアに視線を戻したと同時に、グレアがケイジに突っ込んで来るのが目に飛び込んできた。
隙を突かれた・・っ・・ケイジは身構えたままグレアを迎え撃とうとする。
歯を食いしばり全身に力を入れた、だが、一瞬、判断が遅れたのは否めない。
グレアの真っ直ぐに突いた右爪が胸を裂こうとするのを、大振りに砂上に倒れ込みそうにながら避ける。
完全に体をひねり過ぎた、だが距離をとって、余裕を持って、避けれて、ケイジは・・グレアのその一撃が空を切った、と思った。
かすったのか、プロテクタが運よく引っかかったのか、そんな感触はあったが。
グレアの二撃目を警戒していたケイジは少しの距離を置く・・・が、そのグレアは、ケイジを無視して、直進していっている・・・。
ケイジを追っていない、その方向はフェンスの方・・・っ・・。
――――だめえぇっ!!――――
ケイジはグレアの行動が何を意味するのか、はっとして、激しい焦燥感に駆られる。
すぐさまグレアを追う、だが、直進するあいつは、速い。
出来る限り出せる速さで跳んで置いていかれる事は無いが、リードを詰められもしない。
むしろ、微妙に距離が開いていく。
・・ケイジが、高速で直進するグレアを追っている間、その脳裏に浮かんだのは、その先にいる筈のミリアだ。
そしてそのイメージが直結する数秒後、ケイジは耳元に手を当てた―――。
『――――おいミリア!背後!気をつけろ!』
突然のケイジから来た耳元への声。
ミリアはその声への驚きに身体をびくっと震わせ、すぐに後ろを振り返る。
暗視スコープの中に何か異常が見えるわけではない。
「何があった?」
いや、物凄い速さで、村の方からミリア達がいる物影とは離れた距離を通過しようとする・・人間?
『あいつが向かっている!』
あの特能力者か、ケイジが逃げられたか。
物影に息を潜め、背後にいる仲間2人に手で制すジェスチャーを示す。
『身を隠せ』と指示を出した・・・次、どうするか、あの特能力者、狙撃?このまま行かせる?車両の戦力と合流してから撃つ?仲間を退避させる?でも車両からの攻撃が危ない。
そもそも、あの照明弾、合図だったのか・・・?―――――
―――――場合によってのメリット・デメリット、その結論が出る前にその高速で走っていた特能力者が90度向きを変えてこちらに突進してきた。
自分たちは物影に潜んで、この暗闇の中なのに、こっちを一直線に目指して駆けてくる。
見つかったと考えていい・・・――――
「―――――逃げて!」
ミリアは背後の2人に鋭い声でそう告げて、ライフルを構える。
狙いをつけたライフルから突進してくる能力者に間髪を置かずに弾が飛ぶ。
オートの連射、数秒の内に弾倉が空になるが、近づかれる前に即、仕留めなければ、死ぬ。
しかし、能力者は横へと跳ぶ、その素早い撹乱動作、地面を踏むいくつものステップを読む事さえできずに連射を続け。
仕舞いにはミリア達が隠れている物影の壁になる方、外側フェンスの方へと逃げられ遮蔽物に姿を一瞬見失う。
逃げられたというより、フルオート射撃を全て避けられたと言った方が正しい。
即座にミリアは空になった弾倉をワンタッチで外し、代えの弾倉を装着、ガチャリと装填を済ませる。
その間にも周囲を見回していたが、後ろの2人は未だ持ち場を離れず、逃げずに銃を構え、今しがた突撃してきた侵入者に備えていた。
「前後左右、上空も気をつけて!何処から来るかわかりゃしないから!」
特能力者の恐ろしさを、この人達が知るはずも無い。
「あ、あれは・・」
カウォだろうか、何かを言いかける。
『あれはなんだ?』ってことだろう、言葉の先はわかってる。
でも、必死に見回す視界の中に黒い影が遠くに入った。
村中の方。
そう思った瞬間、バババっ!と間近で銃声が鳴る。
反射的にそちらの方、右側を振り向く―――――。
――――得体の知れない、大男が右手を振り下ろすモーション、仲間の1人の腕が、斬り飛ばされる瞬間―――――はっきり見た。
びしゃっと、血を撒き散らし左腕が地面に叩きつけられた。
―――既に大男は左腕を振りかぶっている。
「――――はああああぁぁああっぁっっ!??」
バババッ!!
――――悲鳴が混じる奇声を発するカウォ。
火を吹くカウォのライフル。
しかし、狙った大男は既にもう、そこにはいない。
カウォが咄嗟に出したライフルが、空中にいた大男の左腕の薙ぎ払いで吹っ飛ばされる。
カッ!とライフルが吹っ飛ぶ音と同時に、カウォがライフルのベルトを巻いた身体ごと軽々と吹っ飛んで転がっていく――――。
――――ミリアと大男の目が合う。
―――銀色に光り輝く眼、それに意思なんてものを見る事ができない、暗闇に吸い込まれ・・堕とされそうな眼。
大男が呟く瞬間にも、振り上がった大男の太い右腕。
「ガキ・・」
そう呟きかけた瞬間、大男は横からの巨大な衝撃に吹き飛ぶ。
ミリアの視界外から飛んで来た、大きな黒いものが大男を吹き飛ばした。
大男は物影にしていた、ガラクタを積み上げた物達の中に吹き飛ばされ、それらの無数の残骸と共に宙を舞った。
あまりの衝撃に、その様子はスローモーションの様に、ミリアは眼に焼き付けられていく。
大男は大きな衝撃に身体を歪め、脱力し、成す術も無く飛ばされるがままに。
壁が・・・大男との衝突で、硬い物に亀裂が入るよう形を崩し。
無数の残骸と共に、大男も残骸の一部になったかのようで。
砕けていく、吹っ飛んでいく・・半開きになった大男の口が何故か印象的だった――――。
――――ずさああぁあっと、大男が横転して回転していく度に砂を撒き散らし遠くへと転がっていく。
吹っ飛んだ―――――
「かはぁ、はぁ・・」
近くで聞こえてきた人の気配に気付き、ばっと振り向く―――。
そこにはケイジが、口を開けて肩で息をして立っていて、今吹き飛んだ大男の方を見ている横顔が見えた。
鋭い目付き、普段は見れないが、戦闘中のよく見るあの顔つき。
「は、はぁ・・はぁ・・っ・・ふっぅ・・」
ミリアは大きく肩を揺らして息を吐き出した。
極度の緊張から落ち着かせるためのルーティン・・息を整える。
「っぐうっぐあああぁあ・・・」
・・呻き声。
ミリアがはっとして見ると、さっき左腕を切られた仲間、リタンの痛みに耐える声。
ミリアが駆け寄って状態を・・異臭、・・酸っぱいのか、金臭い臭いが混じった臭い、血の臭いだ・・・確かめる。
左腕の先が切り落とされて、血が止め処なく流れている。
とても強い力で裂かれたのか、引き千切られたのか。
―――止血が、必要だ・・、止血・・布、長い布なんて・・・縛れる物なんて・・・これ・・。
ミリアはライフルを肩に引っ掛けるベルトを外し始める。
「ちいっ」
ケイジが舌打ちするのが耳に届く。
ミリアがケイジを見上げると、ケイジは遠くの一点、さっき吹っ飛ばした大男の方をじっと見入っている。
「どうしたの?」
機敏にミリアは手を休めずきつく傷口を絞め始める。
仲間の男、リタンの口から痛みに耐える苦しげな呻きが洩れる。
「跳ね起きる元気がまだあんな、あいつ」
「・・そう・・ちょっと代わって、」
「ん?あぁ・・どうすりゃいいんだ?」
「きつく縛って、きつく、血が止まるくらい」
ミリアは吹き飛んで小さくなった壁の端から様子を覗き見る。
あの能力者は走って、車両に向かっている。
「やっべぇな・・これ・・・ちくっしょっ・・っ・・・」
力を籠めるケイジの声が傍で聞こえている。
後ろ姿だが速度は幾分落ちているのが目で見てわかる。
戦意喪失したか・・?銃で狙うには遅いか・・・。
「おけぃ、代わる」
ケイジと代わったリタンの止血は、きつく縛ってある・・・顔色は悪いし痛がっているが。
「・・大丈夫か、これで」
タゥンッ!
銃声が反響した。
代ろうとしたミリアが慌てて、辺りを確認する。
ここ以外のミリア隊から分かれた残りの3人が発砲しているようだ。
あの能力者を狙ってるか。
視界の端に入った、もう1人・・。
力任せに吹っ飛ばされたカウォは横たわっている。
ミリアはカウォに駆け寄り、脈を取り、息をしているのを確認する。
ただ、気絶しているようだった。
出血はしていない、運が良かったのか。
ミリアはふぅっと一息ついてカウォの両足を力いっぱい引きずり、素早く壁の陰まで運んで。
ケイジはその間ずっと、相手のあの特能力者の出方を伺っていたようだ。
隣に戻ってきたミリアにケイジは尋ねる。
「どうなってる?」
ミリアはケイジをちらりと見て、肩で息をしながら答える。
「こんな膠着状態。どっちもどうしようもない感じ。それと、リースがアシャカさんの所で対峙してたの、の『頭』を取ってきた。」
「・・リース、か」
ケイジはそう呟いて虚空を見つめたのは一瞬。
「あの、能力者は?」
「あいつか?強いな。ナチュラルっぽい。まだ不安定みたいだ。」
「車両に逃げた?」
「ああ、けど、結構痛めつけたんじゃねぇか?戦いは無理なんじゃねぇかと思うが。」
「そう。」
幾分、ほっとしてミリアは肩で息したまま、壁に背をつけて休んでいた。
『アシャカだ。こっちの敵は撤退を始めた。敵が撤退を始めた』
『ダーナだ。こちらも敵が撤退を開始した。』
ミリアは突如入ってきた、その通信を聞いて、3呼吸程おいて、ふおぉおぁ~っと、一息を深く、大きく吐いた・・・。
「退いたのか・・?」
同じく無線を聞いていたケイジが呟く。
「そうみたいね。」
周りは終わらせにかかっている。
大局は完全にこちらのものだ。
後はこっちの車両に残ってる敵戦力だけだけれど。
壁から暗視スコープで覗いていても・・なんか、さっきと違うような、人のいる気配が無い。
さっきの能力者とのごたごたの間に逃げたのだろうか。
どっちにしろ、他の隊がこっちに回って来るまで動かなくていい。
危険性が消えていく流れだ・・・。
「・・もう、消耗はあっても、勝機は限りなく低くなったからね、あっちは」
「・・そうか」
・・・敵の方にとっての切り札は、わかりやすく、あの特能力者だった。
その能力者による奇襲が、失敗した今はもうこの状況を覆す手は無いだろう。
彼らは、後は無駄に消耗するか、特攻を仕掛けるしかないだろうが、あの装甲の車両でも一台突っ込ませても、その後は白兵戦の展開に勝機はほとんど無いだろう。
地の利を生かせるこっちが有利になるし。
ミサイルランチャーも所持してるし。
それに、1番戦力が大きそうだった第一波は、リースが指揮官を取ったから。
指揮官がいない今、そんな無謀な作戦を決行しようとしたって、士気が続かないだろう。
だから到底、成功させれないと思う。
そもそも思うに、第一波が最後まで車両で特攻してこなかったのは、彼らは撤退するための公算を重視していたからなのであって。
こちらが余程の弱みを見せない限り、特攻も無い。
特攻は、自殺行為だから。
だから結局、あの特能力者、彼が戦場を掻き乱してどうしようもないほどの打撃を与える。
必勝法だったはずだ。
それだけ、信頼できるほどの、能力者だったんだろうけど――――。
――――ミリアはケイジを見る。
薄明るくなってきている空を見ていたケイジは・・・防弾チョッキの胸元が、表面が破けているのが見えた・・・その視線に気付いたのか、ミリアに視線を移すケイジは。
「あん?なんだ?」
「・・べつにぃ」
そう応えたミリアは、息を吐く・・・膝を抱いて蹲る様な格好になってから、・・静かに眼を閉じた。
数分して、連絡を取り終えると、ダーナトゥさんの隊が合流して、数を頼りに警戒しながら横転したままの車両を包囲して中を調べた。
車中は、死体が2体あっただけで、蛻の殻だった。
どうやら、こちらから死角になるように移動してフェンスに穴を開けて逃げて行ったらしい。
その事がわかり、皆ほっとして笑い声が上がりかけた所で。
『おおいっ、何か来たぞ?あぁ、グレイズだ。車が・・2台か、小さい車だ。向かってきている。』
その報告に、アシャカは深く眉を寄せる。
――――その2台は白みかけの空の中、砂の上を音も無く走っていたが、途中でふらふらと進路を変えてグレイズがいる、見張り用のスクラップ置き場の元へとやってきた。
カモフラージュされた誰もいないように見せかけた壁、隠れていた筈なのだが、一直線で来た。
フェンスの外側で止まったその車の右扉が開き、中から体格の良い短髪の男と長い髪の女が降りてくる。
その纏っている黒い服には見覚えがあった。
「あの、すんません。通報があってきたんですけどー」
えらく軽い口調で女が話しかけてきた。
隠れている筈なのに、グレイズは話しかけられている様子。
「あのー・・、ここ、ブルーレイクですよね?」
何となく堪り兼ねて、グレイズはスクラップの中で声を張る。
「そうだ、ブルーレイク。・・味方、だよな?」
「うっす、味方っす。で、どんな感じすか?」
「・・今、敵が逃げたっつって喜んでいる所だよ」
少々、ぶっきらぼうだったか。
「あ、そうなんですか。どうする?リーダー」
「・・決まってるだろ」
そう言った男は、車の方へと戻っていった。
「ふん・・?あぁ、ありがとねぇ」
女はそう言って多分姿の見えないグレイズに軽く手を振り、男を追って車へ戻っていった。
暫くの間、2台の車はずっとグレイズの前のフェンス越しに停車したままだった。
1つは白色をベースにしているようなカラーリングで、もう1つは暗い色をベースにしており、どちらもポイントに異なる紋章を付けていた。
その軽車両は1台6人ほど、どう見てもそれ以上は入れないほどの大きさだ。
『どうなっているんだ?こちらからは不審な物は見えない』
グレイズの無線機から応答を求める声が。
「あぁ、いや、まだここにいるが・・」
そう言いかけた直後、車は移動を始めた。
来た時同様に、エンジンの音も無く、砂を踏みしめる音だけで、砂漠が広がる方へと走っていった。
『そこにいるのか?』
「いや、今、行っちまった」
『はぁ・・?』
『客人方が乗ってきた車に似てなかったか?』
「はぁ・・ああ、そうか、そう。どっかで見たと思ったんだ。そうかもしれない・・・」
ダーナトゥは無線を聞き終え、ミリアを見る。
「どうやら、そうらしい。君たちの仲間のもののようだ」
「はぁ、やっぱり。」
ミリアは少し溜息の様にしてた。
「一足、遅かったようだな」
「そうですねぇ、でもまぁ、後始末、してくれますよ」
にこっと、ミリアはダーナトゥに笑ってみせる。
「後始末・・?それくらいは自分達で」
「いえ。いえいえ、あっちの方、です。」
ミリアが細い人差し指で軽く指差す方向、フェンスの方、いやフェンスの向こう側。
日の光に、砂漠の景色が広がっていく方――――。
ダーナトゥはミリアが何を言いたいのかはよくわからなかった。
「本音は、もう少し早く来て欲しかったんですけどね」
「ん・・、まぁ、それはな」
ダーナトゥは渋い声でそう言うと、終始和やかな雰囲気を湛えるミリアに眉を上げて見せ。
「俺もそう思う。」
って、そのまま車両の片づけを始めた仲間の所へ歩いていってた。
ふと、ダーナトゥが気付いたのは、空が明るみを取り戻し始めた事と、長い時間が経っていたのだと言う事を、砂漠の果てに広がりつつある白みを、地平線から色づく光を遠くに眺めていた。
次第に皆がそれに気付き、皆がその白みに目を惹かれ・・・。
砂漠の向こうから白光の輪郭を染め与えいく、日の光はなんとも雄大だった。
「ちょっと、どうしたんだい、メレキ、大丈夫かい?」
「どうしたんだいメレキは、ギュレレ?」
身体を揺すられて、ゆっくりと目を開けるメレキ。
「起きた?寝ちゃってたのかい?」
苦笑いでも、心配そうな彼女に。
覗き込むサーナさんの顔が、メレキのぼやけた視界の中に入る。
そして、メレキは一筋の涙が右頬を伝うのを感じた。
隠れていた人たち、女性や子供や老人たち、彼らが壕から村へ出てきて朝を迎えて、喜びが村の中で溢れていく。
歓声と喜びが、戦いを終えた彼らと混ざり合って、今までの辛さの反動が歓喜の大きさに表れているようだった。
銃を提げた彼らが声を掛け合い、村には人々の笑顔で溢れていた。
そんな中、次々に村に到着してきた車両群は、フェンスの外側を陣取っている。
その厳めしい装甲車両の群れは、ドームから遣わされた軍部の治安部隊のものである。
およそ3台の中型車両、2台の大型車両で成っている群れで。
整列して並ぶ黒味がかった車体が、頑丈そうな装甲と塗装と相まって荘厳な印象を覚える。
そして、車体には2種類の紋章がそれぞれデザインされている。
1つはリリー・スピアーズ軍部のもの、もう1つはEAUのものだ。
元々、EAU所属のミリアの隊は緊急時の規則が適応され、その車両隊の指揮下に入ることになる。
既に危機は去った筈なのだが、これから事後処理が始まるだろうし、この隊の指揮官が命令を下さなければ、帰れない。
村の入口近くで出迎えたミリアと仲間の3人もそこで、直属の指揮下に入れという小隊長からの説明を受け、ミリアは疲れた体で頷いたが。
ガイはともかく、後ろのケイジとかリースなんかはあくびをかみ殺しているようだ。
隊長の彼女へ簡潔な報告を済ませた後も、やはり事後処理の手伝いをしろということで。
「次は関係者から確認を取りたい。責任者への案内を・・・」
その最中に無線機から、1つの報せが入ってくる。
『先行隊E-αはVパート11・ブルーレイクを襲ったと思われる集団の1つを拘束完了。抵抗があり逮捕に切り替えた。先行隊αは移送の応援を要請する。』
彼女も指示を止めて無線通信を聞くようだ。
『こちら指揮官のレッカーだ。逮捕者は何名だ?』
『ざっと40名ほどだ。』
『わかった。手配させる。聞いてたな、ケーラ、移送車1台連れて行ってくれ』
『了解』
大型装甲車の1台を向かわせるようだ。
その報せ、この黒い車両団がここに着いてから、ミリア達が顔を合わせてすぐ指揮下に入る命令を受けた数分後の報せ。
「特務協戦ミリアネァ・C、車両は4台と言ったか?」
「はい。ですが逃走したのは3台のはずです。少なくとも確認したのは・・」
「1台、中型車両を見たよ」
と、リースが教えてくれた。
「つまり、大型3台、中型1台だな?」
「はい。」
「確認を取りたい・・・――――」
彼女は隊への通信を始めた。
要請で応援に来た彼らの部隊は、村に駐車したこの黒い車両団とは別に、まだ先行隊があるようだ。
たぶん、さっき一番最初に見張りの人が見つけたのが先行隊だろう。
軍部直属のEPFも来てたりするんだろうか。
彼女が言う協力は、けっこうすぐ終わらせてくれた。
たぶん、徹夜で戦ったことを配慮してくれたんだと思う。
車両の日陰で椅子を借り座っていたミリアは、向こうでアシャカさんやダーナトゥさんたちが軍部の彼らに聴取を受けている様子を少し眺めていた。
現在の状況を聞いたのか、アシャカさんとダーナトゥさんが目を見張った時の表情をミリアは忘れられないと思う。
特に、ダーナトゥさんがあんなにも表情を崩したのを見たのは初めてだったのだから。
逃げた襲撃者たちは目算でも、70名以上はいたはずだ。
それを、軍部の彼らが到着してものの数十分で制圧し拘束していっている。
徹夜で戦ってた私たちからは、安堵のような、そしてCross Handerの彼らは驚きを感じているだろう。
聴取を開始してから、軍部の隊員が携帯端末を操作している。
軍部の大型車両の2台目が動き始めたのが見えていた。
テントの日陰で椅子を借り座っていた4人は、それが動くのを目で追っていた。
熱射が滾る砂漠の方へ走っていくようだ。
「なぁ、あれどこ行くんだ?」
ケイジが聴取を始めようとした軍部の隊員に聞く。
「あれは、拘束したのを取りに行くんだろう」
「はぁ、そうか・・」
ぼぉっとケイジは走行していく車両の後姿を眺めていた。
「なんだ、お前も行きたいのか?」
「・・やだよ、疲れた。」
「だろな。ご苦労さん。お前ら、とんでもない事件に巻き込まれたようだな」
彼はケイジへ、にやっと笑っていた。
ケイジはその笑顔を、眉を顰めた目つき悪く見たが。
――――状況は?」
「拘束対象は集団に紛れていた模様で、徒歩で砂漠を逃げようとしていたところ、B2部隊が追跡、交戦。足は止めたんですが、現在も激しく抵抗している模様です。」
「今回のBはショグマンの指揮か。」
「はい。先ほどの報告のアストレイヤー1体に対して、対パーティキュラーズ隊の我々が呼ばれた模様です。」
「あー、何度も言ってるが、うちでは『特能力者』だ。そう言うとまた怒られるぞ。」
「『パーティキュラーズ』のが言いやすいんで。直します。」
「ショグマンならやろうと思えばやれるんじゃないの?あいつの所にも2、3人活きが良いのがいたじゃねぇか?」
「無傷で捕えたいんだろ。高く評価されて嬉しいねぇ・・」
「ただのアストレイヤーじゃねぇのか?」
「報告ではただのアストレイヤーっすね、でもたぶん、えらく恵まれてるみたいっすね。」
「ほぉん?手こずるほどか?まあどうでもいいか。」
「見えてきました。」
「停めろ。ゲレス、コウディ、行くぞ」
砂上で停車した軽装甲車から出ていく男を先頭に、続いて男1人と女1人が砂を踏んだ。
「相手は1人だ。いつものやつで行くぞ。」
「了解、」
足を向け小走りに駆けていく。
「もうやっちゃっていいの?味方払いしとかないの?」
「そうだな、ジギー、先行隊に2個煙幕グレネード投げさせてくれ。それを合図に100Mは距離を取らせろ」
『了解。ご武運を』
「祈るほどでもねぇさ』
――――なん、なん、なんんあんんなんんだよっ・・!おまえらあぁあああぁぁぁよおおぉおおぉお!!!!」
『獣の男』の咆哮が砂漠に響く。
彼は独り立ち、仲間たちが無力化され無数に倒れた中で、距離を取って取り囲む兵士たちが今も銃口を突きつけ狙ってきている、その激情を吠えぶつける。
『軍部の制圧部隊だ。大人しく武装解除し、抵抗を・・・』
何度も投降を促す呼びかけを繰り返す拡声器の・・・ひゅっ・・・と何かが飛んできた、その男の厳めしい眼が捉えるそれは手投げのグレネードのなにか・・・、彼は瞬時に大きく跳び、距離を取・・・しゅばふっ・・・っと黒煙が発生して周囲が瞬時に煙が広がった。
男はその黒煙に捕らわれない距離を一瞬で取った、煙が彼に触れることはなかったが・・・それだけで彼の肉体の性能の優秀さはわかる・・・――――。
男の厳めしい眼が、気が付き、向こうを・・そこに立つ、男2人・・毛色の何かが違うそいつらを捉えた・・・――――
充分な距離は取っている彼らは、砂漠迷彩の戦闘服に身を包んでいた。
「おうおう、見事に変形しているな」
「完全に物質模造タイプですね」
「そう見えるな」
余裕を見せて会話するその男たちに、獣のような男は、口端から涎を垂らすほどに歪めた顔が、そいつらを睨みつけていて。
「どうだ、コゥディ、視えるか?」
「おかしな動きは無いよ。あいつ、『そのまんま』だ」
「じゃあ、そのまんまいっていいな」
「『そのまんま』だしな。責任は取らん。」
「おい援護は頼むぞ。」
「念のため、催涙でも投げます?」
「じゃあ・・ちょっと左に投げてくれ」
「いきますよ」
彼が放り投げる催涙弾のグレネードは弧を描き、その軌道を見たその獣の男は、・・弧の中腹に来る前にも逆側に跳んで逃げ距離を置く―――――
着地、する瞬間、―――――空気を切り裂き・・―――遠くから銃弾が向かって飛んできた―――――刹那の判断、身体を捻り・・避けたように見えたのはそいつの身体能力の所為か・・・いや、その前だ・・・一瞬で距離を詰めたその男が、目の前に既に突進してきていたのに・・気が付き・・・獣の男は身体を捻る力でそのまま回転して、爪を力強く振るう―――――
・・どんなものでも切り裂く最強の獣の爪が・・・当たらなかった・・奴が避けたのだと気が付いた・・のは、その優れた動体視力のお陰だ―――――。
獣の男は歯を、牙を、ぎりっと噛み締める・・・!・・次の瞬間には、がっ・・・と男が握るナックルプロテクタがその『アストレイヤー』の腹に入る、鋭く入ったが、刹那の痛みは無い・・・!獣の男は痛みを感じる前に更に全身に力を入れる!
「きか・・」
きかねぇよっ・・・・!と叫びながら、そのバカな野郎の肩口を獣の爪が切り裂く・・・はずだった。
全身に鮮烈な痺れが襲う、全身がけいれんを起こし始める・・涎をまき散らして・・・焦げた臭いが鼻をつく・・・――――――
「――――お前を倒すのに、そんな拳は要らねぇよ」
男はその倒れた獣の男だったそいつを見下ろして、拳をぐっぱさせている。
「終わった。スタンで一発で終わりだ。呆気ねぇな」
「こんなもんでしょう。装備も何も無いんだから」
傍に駆けよって来ていた部下の彼がそう言っていた。
その倒れて白目を剥いているその・・獣だった男が、ただの男になっている・・・そいつの髪の毛を掴み、顔を持ち上げて見てた。
完全に気を失っている、汚い顔を至近距離で見ている趣味は無い。
「ま、才能だけはアリだな・・・」
手を離すとそいつの顔は砂の上に落ちた。
「早く回収させてやれ、火傷じゃすまないぞ」
「隊長が回収してくださいよ。運ぶだけでしょ」
「汚いだろ、変なにおいがする。風呂ぜってぇ入ってねぇだろ」
『B隊の指揮官から通信です。繋げますよ』
「ああ。」
『D隊指揮官へ、感謝する。さすがEPFの対特隊だな』
「なんだ新手の皮肉か?」
『ただの感謝さ』
「あんなの手こずらねぇだろ、ショグマン」
『拘束する必要がでてきたんだ。穏便に無力化してくれてありがとう』
「そんなことだろうと思ったよ。」
『それだけだ。またあとでな、ガイタス』
通信が切れた、本当に意味のない通信を入れてくる奴だ。
「広報の仕事以外なら、ガイタスさんが一番っすよ」
「殴るぞてめぇ・・・」
部下のそいつの言葉は本当の皮肉だと受け取った指揮官の彼だ、現にそいつはニヤニヤしている。
「それよか、コゥディ。お前は俺に当てようとしたろ」
『当たっても寝ちゃうだけなんだからいいですよぉ』
「お前のその適当な性格が・・」
『あたしが運んであげますよぉお?』
「お前が撃たれやがれ」
『援護しろって言ったの隊長じゃないっすかぁ』
「お前が雑なんだよ」
その周囲では指示を受けた兵士たちが動き、その倒れた獣だった男を拘束し、生存していた敵性戦闘員の武装解除を進めていた――――――。
「ミリア殿」
呼ばれてミリアが振り向くと、そこにはアシャカとダーナトゥが近づいてきていた。
「あなた達は村のために尽力してくれた。とても感謝している。言葉では言い表せない程の感謝をしている。」
ダーナトゥがそう丁寧に。
「いえ、そんな・・」
「まぁ、待て、ダーナ」
「戦士として命を掛けてくれた事、最高の敬意と受け取る。村の総意としての感謝を貴方たちに伝えよう。」
「このごたごたの後で、再度感謝を伝えるがな」
アシャカがミリアに微笑んでみせる。
「つうか、やっぱお前がリーダーみたいだよな。」
ダーナトゥはそのアシャカの言葉に、軽く肩を竦めてみせて口元を緩めた。
「いえ、・・当たり前の事をしただけです・・・。」
ミリアはそう・・・。
「・・何か言いたげだな、ミリア殿は」
アシャカは目を細める。
その目を受けて・・、少し俯くミリアは口を閉じていた。
でも、アシャカもダーナトゥも、ミリアが口を開くまで待っていた。
・・・だから、ミリアは口を開いた。
「――――村の人、5名を、・・・5人が死亡しました。それに重傷者も1人出てます。」
「・・その事か?」
「・・はい、その事です。見張っていた2人、私についてきてくれた4人です。・・・私は・・、」
「ミリア殿」
アシャカがミリアの言葉を遮った。
ダーナトゥは静かに口を開き、落ち着いた声音で言葉を静かに述べ始める。
「覚悟はできている。戦いで死ぬ。それは死んだ者も知っている。覚悟はできている。だが生きて帰れる者もいる、それは奇跡だ。・・奇跡は、生きる事を喜ぶ。生きて帰った者たちを喜ぶ。精一杯。人が死んで泣くのは赤子だけだ。」
「・・・・・・」
見つめるミリアへ、アシャカも口を開く。
「村の子供さえ泣きはしない。死んだのが父親であってもな。泣くなら、笑え。生きて帰った者たちと共にな。・・・ふははは、」
突然笑い出したアシャカにミリアはぴくっと、不思議なものを見る視線を送る。
「笑い出してすまんな。おかしくなったんだ。共に戦った戦士に、赤子に教える言葉を伝えたのがな」
「赤子、ですか・・」
「心が赤子に戻る。という言葉もある。」
って、ダーナトゥさんは。
「・・えっと、」
「気を悪くするなよ。したなら謝る。だが、喜ぶ人がいても悲しむ人はいない、この村には。そういう村だ。それを伝えたかった、な、ダーナ」
「そういう事だ」
悲しい事があって、それに泣かない人なんて、いるはずが無い。
けれど、人前では涙を見せずに、笑って乗り越えていく・・・そういうことなのかもしれない。
それに・・・戦士には、敬意を。
それが幼い頃からの、ここの人達の心の奥底から溢れるような力の源である・・・のかもしれない。
アシャカとダーナトゥの穏やかな笑みは、決して大笑いしているわけじゃないから。
ミリアは・・・小さな声が漏れる。
「そう、か・・」
「何か言ったか」
「いえ、・・・その言葉、受け取ります。」
ミリアは微笑むような、はにかむような、穏やかな表情を湛えてみせる。
ダーナトゥは一つ頷く。
「そうか」
「機嫌が直ってなによりだ」
アシャカは笑顔でミリアに応える。
「それでは村の方へ戻る。他のドームから来た方々と色々やる事があるらしいからな」
「はい、お疲れ様です」
「ミリア殿たちもな」
彼らはガイや、ケイジやリースたちも見たようだ。
ガイは敬礼を、ケイジは会釈を返したようになるが、リースは眠い眼をはっと少し開いてた。
悠々と歩いてフェンスの中へ、村へ帰っていく2人を、ミリアは見つめていた。
その後ろ姿は大きくて、堂々としていて――――。
捕り物から戻ってきたらしい、先ほど動いた軍部の大型車両1台と、異なるカラーリングの軽装甲車2台。
日の下で見れば、片方の白色を基調にした車はミリア達の軽装甲車によく似ている。
その白色軽車両から出てきた中に見知った人間を見つけたケイジは遠いながらも駆け寄った。
「よ、調子どう?」
「お、ケイジか?お前らも来て・・・あ!お前らか!?先に来てたってのは・・・!」
「まあな、昨日の夜から徹夜だぜ」
「はっは、妙なテンションだろ。おつかれ。俺たちもいきなり夜中の招集だからな。かなりびびったわ。まぁ、車ん中で寝てたけどな」
「ぜんぜん楽じゃねぇか。」
「オレは繊細なんだよ。車ん中なんて薬飲んででも熟睡しなきゃいけないんだよ。そんぐらい繊細」
「それ図太いのか?」
「うるせ。でもまぁ、早く仕事が片付いたのは良かったな」
「・・あぁそれ。えーと、けど、なんだ・・?」
ケイジが考え込む素振りを見せる。
「あんだ?モジモジしてんのか?」
「なんだよ。いやまぁ、眠いっちゃ眠い・・。あれだ、なんだっけ・・??グラ・・?アラア・・?みたいな?名前のナチュラル・・」
「ナチュラル・・?あれか?無線で聞いたぞ。軍の方の隊がゲリラを押さえる時にいたって。ナチュラルが。」
「そいつか。どうなったって?」
「恐らくナチュラル1人だけだ。暴れようとしたらしいが、すぐ取り押さえたってさ。」
「はっ、速攻かよ。」
「らしいな。まぁ、軍だしな。えげつない事してでも迅速に・・こんな所じゃまずいか・・」
周囲が軍部の隊員でしか溢れていないのに気付き、口ごもる白いアヒルだ。
「EPFも来てんのか?」
「さあな。特能対策は充分だってんならそうかもな?」
「ふぅん。そうか・・、よろしく言っといてくれ、んじゃな」
「誰にだよ。EPFにかよ」
「ナチュラルに」
「話せるかよ。知り合いか?」
ケイジは肩越しにびしっと指を指してから、後姿を見せて手をわきわきと振りながら去っていった。
「なんだ?」
そのナチュラルと本気で知り合いかよ、と疑問を声に出したかった彼、ラッドだが。
既に行ってしまったケイジの後ろ姿に、その友人は訝しげな表情を向けていた。
あのナチュラルを取り押さえたのはいいけど、軍部が連れ帰ってあいつ生きてられるのかね・・・、と、ある事無い事、色んな噂を聞く軍部のやり方に思いを馳せる。
まあケイジとあいつがどれくらいの知り合いか知らないが。
ぶらぶらと歩き始めた、軍部の奴らが仕事している中を。
とりあえず、集合がかかるまでどうするかね、と考える前に眠気が出てきて、あくびをしていた。
村の家屋の日陰でパイプ椅子に腰を落ち着けて座っていたケイジが顔を上げると、さらさらとした金髪をそよがせ目を細めたリースの顔が見える。
「・・ねみぃな。」
ケイジがリースへ声をかけたのか、ただ聞こえるような声で呟いただけなのか。
・・そう、リースはケイジを見ながら何気なく、傍の家屋の壁に背中をよっかけ、ケイジと同じ方向、同じ景色を眺める。
そのフェンスの奥の景色は、軍部の団体が駐留している方面とは逆で、騒がしさが無い、―――――ただ風が砂漠の砂を連れて舞い上がるのが見える景色だ。
戦闘の傷跡も少ない、いつか昔の跡だ。
並んだ家屋の形、木と金属のスクラップが混ざり合った見た目、ぼろっちい鉄くず物たちが置かれている。
こんな時なのに、誰かが扉を開けたのか、柵の中では羊たちが闊歩している。
あれ、山羊だっけ?・・・山羊か、メレキが言ってたな・・。
・・・ひなびた光景ってやつだ。
そう数日前から見ていた・・このブルーレイクの本当の風景。
妙に、・・眺めようと思っていた・・・心の中に覚えておきたかったのかもしれない。
・・・ケイジはふと思い出し、呟く。
「・・リース」
言葉遊びのように。
発音のどこか違う・・いつもと違ったような『リース』と呼ぶ響きに、リースは何気なく間を置いて・・・。
それから、応える。
「呼んだ?」
「ぁあ・・。・・・またやったってな・・?」
「・・あぁ、その話・・・」
思い当たるリースは、こういう所を、・・ケイジのこういう所をまだよく理解できずにいる。
無言で、腕を胸の前で組んだリースは簡潔に応える。
「そういう作戦」
「・・そりゃ、わかってる、けど、な」
いつまで経っても、ケイジが納得する事なんて無いと思う。
「僕が、やるなら、ああなる。・・ケイジみたいに速くて、力で倒して、とか・・、僕はそんな事できない。僕がやるならこうやるしかない」
「・・標的は必ず殺すか?」
「・・・始末しないとね。」
リースが感情的になることは滅多に無いが、表情でなく、変わらない口調でのリースの指摘・意見でわかるものは、ある。
今は、微かだけれど、リースがむっとしたらしいのをケイジは少し感じた。
「・・・」
リースは眼を閉じる。
ただ、地面をじりじりと焼く太陽の光が、ケイジにだって眩しい。
「・・ただ、僕の能力がこういう事でしか生かせないっていうのは、僕自身も知ってる」
「ああ。お前、俺よりもずっと強いしな」
「・・それは、・・・」
リースは瞳を開けた。
両目の碧眼が地面の砂を見ているが、言いかけた続きを言わない。
「ん?」
ケイジの催促。
「だってお前、ずっと俺が勝ててねぇじゃん。」
「・・ま、そうだけど。」
リースはそう言って、何か言おうとした言葉を押さえ込む。
「はっきり認めんなよ、」
ケイジは呟くように告げる。
リースがちらりと見る・・・ケイジはずっと遠くを、遠くの景色を見ていた。
「・・事実でしょ?」
リースもそう呟き、遠くの景色に目を移す。
その呟きがケイジの耳に届いたかわからないが。
村人たちの喜び溢れる姿が1人、また1人と、彼らの眺めていた景色にまで入ってくるようになっていて。
笑って何か話している・・・親子か、父親と息子・・・。
「まぁな・・・」
それが在る風景を眺めていた。
2人の間に続く言葉は無く・・・話した内容さえ・・まどろみと、砂漠の微風に溶け消えていく――――。
「――――ケイジさん!」
少女の声が聞こえた・・・。
「んぁ?・・メレキか」
ケイジは・・・まどろみの中から戻ったようだった。
砂漠をぼうっと見ていて、きっと徹夜した所為だ。
「探しました!あっちの黒い車の人達の中にもいなかったし、聞いてみても教えてくれないし、皆さんもう帰っちゃったんじゃないかって思って・・」
「ん、お、おう・・」
なぜかテンションの高いメレキだ、その勢いにケイジは少し押されてる。
「でも、皆がこの辺で見たって教えてくれて、やっと見つけられたんですから!」
息継ぎの為に、ようやく言葉を途切れさせたメレキで。
「おう・・、えーと・・、何か用だった?」
「皆さんにお礼が言いたかったんですっ!!」
「・・あ、ああ、」
「・・?なんですか?」
「いや・・なんか」
一瞬の剣幕が凄かったからとは言えない。
「本当にっありがとうございましたっ!皆さんがあんなに頑張ってくれたから、ブルーレイクは無事だったんだと思います!・・死んじゃった人もいるけど、仕方ないと思います。ケイジさんじゃなければ、絶対に・・あの・・・」
「・・ん?」
ケイジが怪訝そうにしたから、メレキは少し慌てていた。
「夢見るんです、いつも見ちゃう夢みたいの。」
「夢?」
「隠れてる中で、私寝ちゃったんです。その時、夢で・・ケイジさんたちが戦ってて・・・」
「・・夢見んのか。」
「・・・はい、そうです。」
「・・よく寝れんのな。はははっ」
「べ、別に眠いからじゃないですよ・・っ」
「ん、違うのか?」
「・・ふっ、と、気がついたら、眠っちゃってたみたい・・」
「ぷっははは、同じようなもんだろ」
「う~~~~」
少し顔を赤くしてむくれるメレキを見て、笑う。
それを見て更にむくれるメレキだが、それを見るケイジはやはり嬉しそうに笑ってた。
だから、メレキが諦めたように身体から力を抜いて、一息、吐いてた。
良い言葉は探せなかったらしい。
「そんな意地悪だとは知りませんでした」
で、またむくれた。
別に、意地悪していた気は無いのだが。
「そうか?わりぃな」
「・・う、うん。・・あ、他の皆さんはどこに?」
「他の?ミリアとか?」
「そうです。」
ふとケイジが横を見ても、さっきまでいた筈のリースがいなくなっている。
「あれ・・?」
「はい?」
「いや、」
ふらっとどっかに消えるのはリースのいつもの得意技だ。
そうか、リースはいなくなってたか・・・。
「何か用事?」
「はい!皆さんにもお礼を言おうと思って」
「ん、そうだな・・ちょっと無線使ってみるかね」
「え、いいんですか?」
「ん?いいけど・・ちょっと待ってくれよ」
「はい・・・!」
「おーい、誰か、応答してくれ」
『どうしたの?』
「ミリアか?いる場所どこだ?」
『今?今は、ラクレナイの中よ。あ、そろそろ用が終ったから私達は帰れるって』
「お、早いな」
『EAUの方からも言ってくれたみたい。だから、調整するし、戻ってきて?』
「了解、あ、そこにリースとガイもいる?」
『ガイはいるよ、リースは・・・?』
『・・呼んだ?』
「リースか、今何処にいる」
『・・散歩してる』
「散歩ってどこ」
『さぁ?』
「なんでだよ・・・。まぁいいか、そろそろ戻れよ、聞いてたろ」
『聞いてた、問題ないよ』
「どうでした?」
眼をきらきらさせて尋ねてくるメレキだ。
そういや、連絡とったのはこっちが目的だった。
「俺たちが乗ってきた車にいるってさ」
さっき『ラクレナイ』とミリアが言ってたが、確か前にミリアがつけた名前だ。
以前、車にもニックネーム付けるか、って話になって結局ミリアの案に決まった。
まあ、たまにその名前は使ってる。
「車ですか?もう帰っちゃうとか!?」
「まぁ、そろそろだって言って・・」
「あああ・・、早くしないと皆行っちゃう!私、走っていきます!」
「あ、ああ・・」
既に走り始めたメレキの背中に何とか頷いてみせる。
元気でいて、妙に迫力というか雰囲気?気勢で圧す子である。
ていうか、無線使えば良かったんじゃねぇかな、って思ったが。
それに、俺がここにいるからまだ出発しないだろう、とその慌てて駆けていく後ろ姿を・・・見送るケイジだ。
そんなぱたぱたと駆けていく後ろ姿を見ていると、少し微笑める。
なんか、不思議な子だ。
あれが、純真無垢な子ってやつなんだろうなぁ、とケイジは思いつつ。
ケイジは立ち上がり、寝そうになってた身体を、『うーっ』と伸ばす。
そして、歩き出してのんびり帰るのだった。
つうか、歩いてると村中の人達がこっちを見てくる。
少し居心地が悪かったが、傍でこっちを見ていた子供が声を掛けてくる。
『ありがとうね』って。
『ありがとー』って。
ケイジは苦笑いしながら、頭の後ろをぽりぽりと掻いてしまう。
「・・なんか・・むずむずすんな・・・」
そう1人で呟いてた。
「―――でもですね、大切なお客様をお見送りする時は、皆で丁重にしないといけないって」
「でも帰投命令出ちゃってるしなぁ・・さっき、挨拶はしたから、伝えといてくれないかな?メレキが代表ってことで」
お家の軒先の日陰の中で、メレキが足止めしたがってるのを、ミリアはちょっと困ってたけど。
「私がですか?」
「うん、色々お持て成しもしてくれてありがとう、って。ちゃんと挨拶できないのは悪いなって思うけど」
ガイやリース達も、そこの日陰でのんびりしている。
お持て成ししてくれるのはありがたいけど、ずっと長居していたらたぶん、警備部から新しい仕事を割り振られそうなので、それだけは遠慮したい。
それに、軽く汚れを流したとはいえ、早くちゃんと身体を洗いたい。
血の臭いもまだ残っている気がする・・・。
「いえ、悪いなんて。それは、大丈夫です。お父さんや、アシャカさんや、皆感謝してるし、みんなにも言っておきます」
「ありがとうね、メレキ。あ、これ、返しといてくれるかな、アシャカさんに」
ミリアは前に手渡された黒くてごつい無線機をメレキに手渡す。
「はい!」
返し忘れてたそれを受け取ったメレキは、ずしっと少し重たそうに両手で受け取った。
「よ、」
歩いて戻ってきたケイジが、メレキとミリアたちに声を掛けた。
メレキは振り返って、ケイジにはにかむような、でもそれから真剣な眼差しを見せた。
「・・あの」
「?」
「あのね、いつか、私もドームに行ってみたいって、思うんです」
「ドームに?」
「うん、いつか。・・その、見に行くだけじゃなくて、・・ううん、行きたいんです、きっと」
「・・そうか、行けるといいな」
「はい!・・でね、もし行けたら、訪ねていってもいいですか?皆さんのとこ」
訪ねると・・・。
「・・訪ねるね」
「・・・無理ですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが・・」
「リプクマを訪ねればいいんじゃないか?」
ガイが後ろから声を掛ける。
「そうか?」
「総合病院やってるし、いいかもね」
ミリアも賛成のようだ。
実際、リプクマは政府が支援する総合病院としてもリリー・スピアーズの社会に貢献している。
けれど、複雑にシステム化する一方、プライバシーは軽々と教えられない部分もあるらしく、EAUでは規則もあり許可も必要だろう。
一応、ケイジ達もリプクマのスタッフのような扱いにはなっているらしいが。
「どういうことですか?」
「ん-とな、」
「ちょっと正確じゃないけど、私たちには私たちのお家が無いの」
「気軽に会えるような、な?」
「そうなんですか・・?」
「うーん・・、よっしゃこうしよう。そのリプクマっていう所はドームで調べればすぐに場所がわかる。もし、それでも会えないなら、この番号に連絡してくれ」
「番号?連絡?」
「ん?アドレス、」
「あ、はい。知ってます。使ったことないけど」
「なに!?」
「・・すいません」
「ケイジ、怖がらせてる」
「あぁ・・、わりぃ。ここじゃ必要がないもんか。」
「ドームに知り合いがいなけりゃ、使わないだろうね」
「よし、じゃあ、それも調べろ」
「えぇ」
ミリアが驚いたような。
「ドームじゃみんな使ってるぞ。他にも面白いもんいっぱいあるしな。美味いメシとか、スタジアムとか、ゲームとか、他になんかあるか?」
「なんだろう?」
「女の子なら可愛い服とか、お菓子のお店とか」
って、ガイが。
「それだな。目に入った店から片っ端に入るといいぞ。面白そうだろ」
「えぇっと、・・よくわかりません・・・」
って、メレキは言ってたけど。
「だろうな。」
にっとケイジは、許容範囲を超えたのか頭を抑えているメレキに笑ってみせる。
「俺もよくわからんし」
って。
「適当に教えてんじゃないって」
ミリアがケイジに言っといてた。
「ま、わからないんだから、楽しんでいこうぜ」
「あ、はい!」
ミリアはケイジを呆れた目で見ているけども。
「あ、っていうか、携帯持ってる?」
「あ、その、ないです。」
「ああやっぱり、そっか。」
「携帯ないのか、つらいな。」
「あ、暗記します」
「紙とかボードがあれば・・」
「取ってきます!」
って、メレキが凄い急いであっちのお家に飛び込んでいった。
知り合いのお家に頼むんだろう。
「携帯ねぇのか・・・」
ケイジが呟いてた。
「この辺だと守秘義務があるからね。カメラ・通信とかで情報漏洩する可能性があるのは無理なんでしょうね。」
「そっか。携帯が無いなんて・・・暇でヤバそうだな」
「だな」
ガイもにっと笑ってた。
「友達とかは多そうだけどね」
ミリアはそう、村の景色に目を細めてた。
「じゃあ、車を回してこよう」
ガイがそう言って、立ち上がっていた。
「――――書いたのってケイジのプライベートのアドレスでしょ?」
「ん、そうだぞ」
「ふっふ、じゃ私も渡しとこ。メールしてね」
「あんだよ、それは」
「久しぶりの再会、果たしてどっちが先か、ふふっ。ガイたちも渡す?」
「俺の?いるのか?」
「あ、はい!」
「なに?出し渋るつもり?」
「はは、いや、俺のは欲しがらないんじゃないかと思ってな」
「いります!」
「ははは、今書くよ」
「リースは?」
「僕?」
「そっ」
軽装甲車のドアを開けっぱなしの、メレキが中の日陰で覗きながら笑ってる。
リースがミリアをぼーっと見つめる妙な間の後、それから端末を自分のバッグから取り出した。
「番号覚えてないのね」
ミリアがリースの様子を見守りながら悟ってた。
そんな風に、メレキと一緒にのんびり話してた。
周囲の軍部や警備の彼らの目も、何となく引いていていたようだったけど。
たしかに、ちょっと珍しい光景かもしれなかった。
物々しい事後処理が行われている村の中で、そんな少し楽しそうなお喋りたちは。
「――――ほいよ、記念だ。お前ら抜け駆けすんなよ?」
「ふふん、どうだか」
「おいおい」
「あ、ありがとうございます」
喜ぶメレキに、ガイは歯を見せて微笑んでみせる。
「失くすなよ」
「はい!」
そんなメレキを見てるガイもにこにこで、微笑ましそうだ。
「えーと・・」
そんなガイの横では、未だ端末とにらめっこしているリース。
「リース・・、もしかして自分の番号わからないんじゃ・・」
ミリアが聞いて見てた。
「・・んん、普段使わなくて」
「探してあげようか?」
「いい?よろしく」
「ねぇねぇ、ケイジさん、あれも携帯?」
「あれ?あれも携帯端末、俺の触ってみるか?」
「いいんですか?」
「ああ。」
ヒュィン、ヒュィンと、パネルタッチで画面を動かしているミリアの手馴れた手つきだ。
「リースって、一応、情報技術系も分野だよね」
「まあね。でもこれは違う。」
「あはは、はいこれ」
「ありがとう」
「ケイジ、」
「回線が重かったりで繋がらないとかも・・・」
ケイジの薀蓄をメレキがふんふんと聞いているが、あまり理解して無いだろうなと。
ミリアはその2人の様子を眺めてる、なんだかほんわかした光景だ。
「ケイジが偉そうだ。」
ミリアが悪戯げににやっとしてた。
「うっせ」
気が付いたケイジが照れたようだ。
「書いた」
「ほら、リースの終わったよ」
「はい、これ」
「ありがとうございます!」
リースは一つ頷いて見せて、奥に引っ込む。
「なんか、難しい事多すぎで、私の頭、混乱してます・・」
「こういうもんが溢れてるからな、注意しろよ、ドームでは」
「はいー・・」
ほんわかなメレキに得意げなケイジの様子だ。
「なに教えてたの」
「電車の乗り方」
「あー・・・。別に、ドームは危なくないんだから、構えなくても大丈夫だよ。あ、車にだけは気をつけて」
「くるま・・くるまですね。くるまなら避けれます。大丈夫です、はい」
「そういう意味と、ちょっと違うんだけど・・」
ミリアはちょっと、微笑んでた。
確かに、とケイジは、メレキなら車に轢かれる可能性もありそうだ、と思って頷く。
「ドームの事全く知らないのか?」
「ちょっとは知ってます。でも端末が村に3個しかなくて。」
「みんなでそれ使ってるのか?」
「はい。」
「なるほどな。」
ケイジがいろいろ納得したみたいだった。
「さて、と。これで4人渡したね」
ミリアはそれから・・・。
「・・そろそろ行くか」
ガイがエンジンをかける。
「話し残した事、無いな?」
「・・・それじゃね、ドームに来たら連絡してよ?また会いましょ」
メレキは『はいっ』と元気よく返事する。
リースは無表情で、ぱたぱたと小さく手を振る。
メレキも、手を同じように振る。
「じゃな、元気でいろよ」
ケイジはメレキににっと笑ってみせる。
だがすぐに何かに気付いたように。
「あ、頑張れよ、か」
そう言ってケイジは、目を細める。
メレキは睫毛を震わせて、綺麗な目を細めた。
とても印象的な微笑みだった。
別れの寂しさや、悲しみも、きっといつかまた会える日まで、そんな想いの、とても優しい笑みなんだろう。
「もう行こうぜ、ドア閉めろー」
ガイが運転席から振り向いて言う。
ケイジが気が付き、扉を閉める・・その前に。
「・・コァン・テャルノ(精霊が宿るもの)、」
呟き・・メレキの声、微かに聞こえたケイジが、ミリアが、顔を上げて。
見る彼女の姿は笑顔で、閉まるドアに途切れた。
――――閉じれば、熱い日差し、車体から照り返る太陽の光を受けるメレキからは、車の中は見えなくなる。
窓が透明じゃないから。
「・・あれ、何で」
ぐしゅっと、鼻を鳴らして、瞼の裏が熱くなるのを感じる。
車の中のケイジは、窓を開けたかったが、生憎、開かない仕様の車。
ミリアも、それからガイも黙って、メレキを見ていた。
「・・あれ、なんて言ったんだ?」
ケイジが独り言のように呟く。
「『コァン・テャルノ』・・・、精霊が宿る、って意味、」
ミリアが言い直す、あの村で過ごした間、何度か聞いた言葉だ。
「・・挨拶かな?」」
そう考えれば、あのときの事もちょっと合点が行く・・・かもしれない・・、この村で最初に出会った若者たちのときにも、『コァン・テャルノ』・・・あれは驚いた、って意味か。
ジョッサさんが言ってた。
でも、お別れの挨拶も、『コァン・テャルノ』。
よくわからないな、とミリアはちょっと小首を傾げる、重くなってきた瞼で。
コァン・テャルノ・・・自然と、耳に残る様な言葉だ・・――――。
ケイジにはわかってる、目を細めて微笑むメレキには車内は見えていない。
けれど、4人に向かって微笑んだのを見た時、何とも言えない寂しさを感じた。
メレキを直視するから変な感じなのかと、視線が落ちる。
けれど、再びメレキを見つめる。
メレキの寂しげな、微笑。
軽装甲車の小さめながらも、ごつい車体が砂を踏みしめる音と共に動き始めた時。
メレキの長い睫毛の瞬き、不意に頬を伝う大粒の涙が流れた。
黒色の吸い込まれそうに深い、深い瞳の奥、輝きが綺麗だと、ケイジは感じる。
車はすぐに速度に乗っていき、ブルーレイクの整ってない境界を離れ、焼けて乾ききった砂漠へと走り出していた。
メレキが、みんなが書き込んだボードを胸に抱えて、涙を拭い、慌てて手を振る様子は。
すぐに小さくなって見えなくなった。
――――その少女が、メレキに・・微笑みかける。
「あんな事まで言わなくて良かったのに・・」
メレキはそう、彼女の控えめな声を聞いた。
彼女はそんな風に、恥ずかしがり屋だから。
メレキは涙を、手で拭った。
「恥ずかしかった?」
「・・・わかんない。」
そんなこと言って、恥ずかしがりの彼女は頬をちょっと膨らませたようだ。
意地悪をしたつもりはないんだけれど、メレキは笑ってしまう。
「でも、友達になれたよ」
って、メレキが笑うから。
眩しく笑うから。
「あなたの言葉は私の言葉よ。あなたが望むなら、私はあなたの手でも足でも声でも太陽まで届けるの」
そんなことをメレキが言って。
だから、2人は、ふふふっ、って微笑んで、笑って。
メレキは、そんな彼女の優しい表情が大好きだ。
・・少女が、そんな優しい表情で、小さな口から息を深く胸に吸い込んでいた。
――――――
『精霊が宿りし我らの祖の大地よ、厳しい試練を耐え抜く、血潮の流れのいくままに、』
―――彼女の捧げ歌を、メレキは・・・優しい声を重ねて。
『精霊宿りし土が生命の土を蓄える土は植物を呼び、風を呼び、水を呼び。紅き太陽は精霊を呼ぶ』
―――――子供たちが気が付き、嬉しそうに笑って、言葉を一緒に捧げ始めて、気が付いていく、・・覚えたての子はつまずきながらも、頑張って歌を紡いで。
『我らは祖の大地と精霊と、清純な水とが共に成る。打ち果てることのない我らの祖、我らはその子供であります』
――――いつの間にか歌っている子供たちに、大人たちも次第に、相好を崩して、笑って、大きな声を重ねていって。
『精霊を宿すものに手を添えましょう。我らは子供たち、精霊在りし日は我らの記憶に刻まれている』
―――作業をしていた軍服の彼らも、警備の彼らも、手を止めて顔を上げていた。
「なんだ?全員なにか始めてるぞ、歌ってるのか?」
『ザザッ・・祈りの言葉みたいだな、全員、決して邪魔はするなよ、命令だ』
全チャンネルに向けた無線からの声も聞こえた。
遥かなブルーレイクの彼らが精霊に捧げる言葉を見つめ、耳を傾けて。
その村の伝統的でいて、荘厳な光景を。
「神様に祈ってるんだろうな」
「・・かもな」
警備の彼らも、銃を脇に抱え見守り続ける―――――
―――ダーナトゥが見つめている先をアシャカは気が付き、村を・・太陽の光に、鮮烈な光に包まれるその光景を、・・・わずかに目を細める。
――――彼らの大地へ、精霊へ捧ぐ唄は染み渡る。
『精霊が宿りし日々を忘れなきように 子供たちよ――――』
――――砂漠の上を走る車内は無言。
別に、別れの悲しみで皆口がきけないと言うわけじゃない。
ガイは帰るために進行方向への視線を固定しながら運転しているし、ミリアは前の背もたれによりかかってぼーっとしているだけだし、リースもケイジもいつものように、だらけて頬杖をついて外の景色を見ているだけ。
ただ、一仕事が終ったと、いつもの倦怠感があって・・・、まぁ今回はより一層かもしれないが、疲労感というそれを感じているだけなのだから。
毎回、この帰り道というものは、とても、とても、だるい。
無事、ドームへと帰ったなら、安眠できる自分の部屋が待っているというのに。
「戻ったら休暇もらえるのかね?」
前触れ無く、ガイが口を開いた。
「休暇・・?あぁ、パトロール終ったら本当は2日、休暇だったっけ」
ミリアはガイの言葉に応える。
「そうそう、なのに・・4日か、時間外労働延長もいい所だな」
「もらえるとは思うけど、休暇、でも、結構ブルーレイクでものんびりしていたしなぁ」
「それはそれ、これはこれ、だな」
「今日なんかやべぇだろ・・?」
「ふふ、そうね」
「2日ねぇ・・、もらえたらいいな。ふあぁぁ・・・・・・」
ケイジは大きく口を開けて窓の外へと欠伸をしてみせる。
「・・とりあえず、寝るわ」
そう言ってすぐに、ケイジはシートに深々とよっかかり、目を閉じた。
「ん、おやすみ」
すっかり寝入る格好のケイジを見届けたミリアは反対側の座席に座るリースを見る。
相変わらずぼぉっと外の景色を見ているが、実は眠たくてしょうがないんじゃないかと勘繰りを入れる。
心なし、そんな事を思っていると、リースの目がしょぼしょぼしている様にも見えてきた。
「リース、眠い?」
「・・そう見える?」
「ちょっとね」
「・・少し寝るよ」
「はい、おやすみぃ」
ぼすっとシートに、窓の方を向いたまま、倒れるように左肩を預けて、ジャケットを深く被るように、リースは目を閉じた。
「ミリア、お前も寝ていいぞ」
「ん・・、寝るとき起こしてね、ガイ」
「起きた奴にやらせるよ」
「ん、それが、楽か」
ミリアは背中をシートに預けて、目を閉じた。
閉じた瞬間に、眠気に吸い込まれていくようで、すぐに意識が朦朧としていくのが、わかる・・。
「・・おやすみぃ」
そう言ってすぐにミリアは睡魔に、安寧の深くに連れ去られる。
『あいよ』という、ガイの返事が聞こえたような、聞こえなかったような。
・・頭の中の反芻の・・・記憶が・・今までが・・・確認しようとしても、・・・億劫で、・・・・どうでもい・・、かぁ・・・。
――――欠伸を1つしたガイは、置いてあったソフトキャンディをケースから1つ取り出し、口に入れ甘さを噛み始める。
フロントガラスから見える景色は、今日の太陽がいつに無く、眩しく反射している気がした。
砂漠が広がるこの景色を1台の、灰色の軽装甲車が一直線に走っていく。
一定のリズムに低い音を出すエンジン音はいささか暢気な陽気で、車内の彼らには、揺りかごのように心地良さを与えてるんだろう。
黄色の砂、それに茹で上がる蜃気楼さえ見える砂景色の中では、今日も焼けそうに強烈な日差しが晴天から降り注がれ、雲ひとつ無い快晴の空に燦燦と輝く熱気の塊である白い太陽がある。
高く高く、在るその白熱の太陽はもうそろそろで、お昼時を示す頃だった。
車体が揺れて、ソフトキャンディのケースが床へ落ちて。
床の上からケースが見上げてくるのを、ガイは見下ろし・・少しめんどくさげに、大きなあくびをしてから、手を伸ばしてきた―――――
ミリア達のブルーレイクのお話でした。
いろいろありましたね。
おつかれミリアやケイジ、リース、ガイたちは彼らのドーム、リリー・スピアーズへ戻って、ちょっと長めのお休みをもらったでしょう、たぶん。
彼らの住むドームや土地の背景は描き切れてないので、また違うお話の際に描ければいいなと思います。
それに、ケイジのお話でもあったのですが、アヴェエ・ハァヴィとエルとのお話に出てくるエルとケイジのお話も、どうして繋がりがあるのかは、お話がまとまれば投稿したいです。
さて、アヴェエ・ハァヴィとエルのお話の執筆に戻ろうかな・・・。
それでは、今回の後書きはこの辺で。
読んでくれた方に、とびきりの感謝を。




