第2記~セハザ《no1》=KBOC:KISS BLUELAKE On the CHEEK=
『滞在2日目』―――
『
任務の途中、私たちはある村へやってきた。
そこでは緊急の任務に就くはずだった。
しかし、緊急要請はその証拠も申請の有用性も認められなかった。
私は虚偽報告と判断した。
本部には正確に報告をした。
私の判断は正しいと思う。
本部がどう判断するかは重要だ。
でも、私と同じ判断になると思った。
私は村の要請を拒否した。
でも、村ではそれを気に留めていない。
なにかおかしい気がする。
村の人たちは親切だ。
夕飯も豪勢だったし、ドームで食べる食事よりも珍しくていろんな種類があって美味しかった。
特に牛肉を使った料理が美味しい。
誰かの手作り料理を食べたのは久しぶりだ。
寮の食事は、たまに手作り料理っぽいのあるけど、どっちか微妙なのでカウントしないでおこう。
村の人たちが私たちをお客さんとして呼んだのはわかっている。
だから丁重に扱ってくれるし、良く扱ってくれる。
でも、何を求めているのか、何を狙っているのか。
それがわからない、それが奇妙なんだと思う。
要は、悪い人たちじゃない、と思う、でも何かを望んでいる。
それは、はっきりさせたいけれど。
でも、向こうのその何かが自分から近づいてくる気がする。
なぜなら、村の人たちがそう言っているから。
ならば、私たちは準備をして待とう。
何が起きても動けるように。
どういう判断をするか、それが重要だ。
明日(というか今日)は、散歩でもしたい。
あと、ご飯も今日も美味しいのだといいな。
夕飯に期待だ。
追記:本部の判断はやはり拒否処分だった。
待機は継続。
後で仔細確認を取る。
―――――ファム-ミリア-ノァ,S.S.822.x.x
』
「ふむ。」
小さく鼻を鳴らすようにミリアが、書き上げた日記を軽く読み返して、携帯を閉じた。
いつもなら昨夜書くべきだった日記だけど、なんか疲れたので寝起きの朝に書いた。
ケイジのイビキが聞こえる静かな部屋の中では、リースは静かに寝ているようで、ガイも起きているような気配はあったけれど。
ミリアは私用の携帯を置いて、仕事用の携帯を操作し、村中に停めてある軽装甲車と通信を繋ぐ。
任務に関してはさっき確認したので、今日のニュースをチェックしていると、ガイがベッドから起き上がってた。
時間を見れば頃合いか、ミリアは起き上がって。
立ち上がったガイが、あくびをしていたので、声をかけようと・・・思ったら、ミリアもあくびが出てた。
「よ、おはよう」
ガイに先に言われたので、ミリアは涙を目に溜めて。
「おはよ、」
小さく応えた。
『ブルーレイク』に来て翌日の朝、目が覚めたミリア達一行はのんびり今日の予定をミリアが口頭で伝えると朝ご飯までは自由時間にした。
ミリアとガイは軽装甲車まで行って本部と再度連絡確認をしたりして、リースはぶらつくと言って外へ散歩に出て、ケイジは朝ご飯に呼ばれるまで寝てた。
村のおばさんに案内されて村長宅で軽い朝食を頂いた後、許可をもらって改めて村の様子を見に回っていた。
昨日は夕焼けの景色と夜の景色しか見れなかったが、改めて見ても最初の印象どおり、どこか牧歌的で穏やかな雰囲気の村だ。
キャップのつばの影から見上げれば、自分たちが大きな断崖を背にした村の麓にいて、今は強い日差しに晒されている村だが、太陽の角度を考えると午後を過ぎればその巨大な崖が影を作って、日陰は次第に村全体に広がっていきそうだ。
地図を見た時も思ったが、特殊な地形だ。
でも、これのお陰でここは拠点を作りやすかったんだろう。
村の境界近くでは遠いフェンス越しに砂漠の景色が見えるというのに、村の敷地内には雑草なりの草が短くも生えている。
村の中には牧場らしい施設に柵があり、その柵の空を覆うプリズム色の大きな傘の下では「めぇ~めぇ~」と鳴く家畜たちがいる。
『プリズム・ディバイダ』、プリズム色の傘は熱の多すぎる有害な日差しから地面を守る。
日光は傘を透過し適度に和らぐ日差しへ、有害な光線を除去して変化し、草木が育つのに適した環境へと調整してくれる。
それらは砂漠で生きるためには重要な設備と道具で、和らぐ日差しの下はとても気持ちいい。
傘の下で見上げるプリズム色の空は、とても特別だ。
他にも野菜を作る畑らしきものがあるし、テレビなどで野菜は一面の黒い土で育つものって知ってると奇妙というか、不思議な感覚の光景である。
そんな牧場の傍の様子を眺めながら歩くミリア達4人で、しばらく歩けばまた家屋が集まる一角を通りがかる。
村の中は麗らかで、穏やかな雰囲気が満ちている。
乾いた土地、家の乾いた木の色、強烈な日差しが、ここが砂漠だという事を思い出させてくれるのに。
日差しを避けるように日陰から日陰へ走り回る子供たちが笑い合って。
日陰の中には、お年寄りのおばあさんがいて、手仕事をしながら椅子の上で子供たちを見守っている。
村で過ごす人たちは男性や女性、程ほどいて、こちらを珍しげに見てくる。
彼らは頭からスカーフを目深に巻いた、煩わしい砂風を防ぐ衣装だ。
他の村やリリーの外でもよく見かけるスタイルだ。
4人で歩いてるミリアは、日除けのキャップのつばを深く被り直した。
それから、汗も乾く熱さの息を、ほぅっと吐いてた。
「なんていうか、のどかを絵に描いたら、素敵だねぇ」
「なんだよいきなり」
ミリアが暑さに目を細めて言ったのを、向こうの柵を覗き込んでたケイジが振り返ってた。
「言いたい事はわかる、隊長」
ガイはミリアの気持ちがわかるらしい。
「そういや、この村にいろって話になってるってのは、次の命令が来るまで動くなってことか?」
「そうだね。逗留命令に切り替わったんだけど、いつになるかまでは。ま、警備部の仕事だから適当なとこも多いよね」
「リプクマの調整はどうなるんだよ」
「ん-、それね。一応、そっちとも連絡とったから、向こうで何とかしてくれるでしょう。」
「取れるのか?」
「うん?」
「・・ゲームの予約をしたい」
「帰ってからにしなよ」
「・・あつい」
って、急に、リースが耐えられないようだ。
「あ、おい!?大丈夫かリース?」
ふらふらしているリースに気が付いたケイジが、リースの腕をつかんで立たせようとしてた。
「・・大丈夫」
「ふらついてんぞ!?おまえ!」
「もしかして貧血・・!?」
さすがにミリアも心配になって。
「・・そんな事無い、真っ直ぐ歩いてるじゃないか・・・」
「おまえ、頭もぐらついねぇか?意識ちゃんとしてんのかよ」
「・・大丈夫じゃない?」
「なんで疑問系に」
「日陰で水飲むか。」
ガイがそう言ってくれる。
「そもそも、意識がおかしくなっている人に向かって、意識大丈夫かという質問をしたってまともな返事は返ってこないでしょう」
リースが急に長い言葉をすらすら話す。
「そ、その通りだけど、なんで薀蓄を語る、いや、やっぱやばいんじゃないかお前」
「リース、朝の散歩してきたばかりだもんねぇ」
「なんでリースはそんなに散歩好きなんだ?」
「俺が知るかよ、ほれ、飲めよ」
ケイジが、リースの携帯している水筒を指さす。
リースは黙って、こくこくと喉を動かして飲み込む。
装備は日中の軽装標準装備で、各自の小さめの携帯バッグには水筒、携帯食、救急セットなど、他にも拳銃などの武器も携行している。
村中に危険はないだろうが、日陰のない直射日光の当たる場所を歩く最低限の装備だ。
適当な日陰に入った一行は、適当にその辺のボロい椅子やコンテナに腰掛けて休み始める。
小さいテーブルもあったりと、普段から誰かが過ごしている憩いの場のようだ。
「やっぱり日中はあっついわー」
少し歩いただけなのに、熱さで汗が全身から吹き出ている。
ぱたぱたと、着ている砂漠迷彩ジャケットの中に風を送るケイジだ。
そこに近づく人影があって、いち早く目に留めたのは、リースだった。
「おはようございます」
突然声をかけられて、ケイジ達4人が顔を上げた。
傍に近寄って来て立ったのは、こげ茶色の砂に汚れたローブを纏った小さいその背格好、ミリアよりも小さく見える。
フードの奥のその顔にケイジは見覚えがあった。
「昨日は、どうもです。」
控えめにだけど気丈な声を出した少女だ。
昨日この村に着いて、一番初めにケイジが話したあの少女だ。
「ああ、あの時はありがとな。」
村の入り口を教えてくれたのを覚えている。
少女がフードを脱ぐと、癖毛の黒い髪と黒い瞳が出てくる。
浅黒い褐色の肌に玉の汗が少し光る。
「いいえ、こちらこそ。わざわざドームから来てもらったんですよね?私たちの方が感謝してます。」
健康的で利発そうな彼女の顔立ちは、今初めてちゃんと見たが、可愛い。
後ろで纏めた髪の毛を肩に流して、長い睫毛にくりくりした黒い瞳が強い好奇心を表して4人を見ている。
「あの、私はメレキって言います。お名前教えてもらってもいいですか?」
「俺はケイジ。そっから・・」
「ミリアです」
「ガイだ」
「・・リース・・です」
リースが、気持ち悪そうで真っ青だ。
「リース・・・?」
「リースがどうした?」
リースで視線を止めたメレキの反応が、ケイジは気になる。
「リースさんですか、朝でもちゃんとスカーフとかしないと、太陽から守らないとお肌すぐに焼けちゃいますよ?真っ白いお肌なら尚更です。」
「ん、朝?会ったのか?」
「会ったというより、お姿見たんです。太陽が凄く当たってるのに歩いてたから、なんだろって思ったんですけど」
「お前も無茶するな」
「無茶でもないと思ってたんだけど、帽子被ってたし・・けど、後から来るね」
「お前バカだな」
「はっはっは」
ケイジにガイが笑ってる。
「補外区で過ごすのはほとんど初めてでしょ?気をつけなよ」
ミリアに注意されるリースだ。
「お前、舐めてたんだろ」
「・・そう、かな・・・?」
「そうだろ」
「・・そっか。」
当たり前のようなケイジに、リースは納得したようだ。
そんな風なのを見守っていたミリアは、その少女の方に振り返った。
「メレキさん?ちょっとお話聞いてもいいですか?」
ミリアに呼びかけられたメレキは笑っていた顔を、不思議そうに瞬いて表情を変える。
「昨日着いたばかりで、簡単なお話は聞いたんですけどね。もう少し現状を詳しく調査しようと思いまして。簡単な質問ですけど、よろしい?」
「はい、いいですよ。」
「まず、村を襲うディッグ、強盗集団。たびたび来るんですか?」
「はい。と言っても一ヶ月に来るか来ないかくらいですけど」
「ここの護衛の方々が充分に護れてました?」
「はい、村に入れないで帰っちゃいます。」
「しっかり対応しているんですね。今回の様に、襲撃が前もって分かる事って良くある事なんですか?」
「えっと、分かる時もあるけど、分からない時も、その、あります」
「ふーん?それについて、どうして事前に分かるか、知ってます?」
「いえ・・、よくわかりません」
「そうですか・・では、えぇと、アシャカさんが、言い出すと言った感じで?」
「アシャカさん、ですか?」
「そうです」
「はい・・、アシャカさんが、です。」
「ふーん・・」
「なんか尋問みたいになってっぞ」
「え、そう?」
ケイジに言われてミリアは瞬いたけど、茶化してきたのかもしれない。
「えと、ありがとうございました、もう少し自分たちでも調べますけど、参考にさせて頂きますね」
「はい・・」
不意にケイジが横から口を挟む。
「なんかすっきりしないな」
「何が?」
「その、アー・・サカ?」
「アシャカさんね」
「そう、アシャカ。信用できるのか?」
ケイジは、ミリアにではなく、メレキに向かって言っていた。
・・ふむ、とミリアもメレキを見ている。
ガイも、リースも、4人の視線をメレキが一身に受けていた。
「ア、アシャカさんは立派なリーダーです。まだ、正式には違いますけど。私達がみんな信頼してるリーダーです」
「・・あー」
少し、わかったような声を上げるミリアだ。
「あなた警護団の方?」
「はい、そうです」
「あら・・、ごめんね、無神経な事言ったかな?ケイジもね、ごめんね。」
「何で俺だ?」
「言ったでしょ、信用できるのかとか」
「当前の事聞いただけだろ」
「いいんです、言うとおり当然の質問ですから。」
「そう・・?」
メレキがケイジをフォローしたのは、ミリアもちょっと瞬いたけど。
それよりも、アシャカは警護に当たっている傭兵団のリーダーと言っていたし、ミリアもその認識だ。
だけど、こんな小さな少女がいるのだ。
自分の持っていたイメージと食い違いが生まれている可能性がある。
「根本的に勘違いをしてたみたい、あなた達の事聞かせてもらってもいいかな?」
「はい」
「あなた達のこと、大まかにでもいいから、とりあえず教えてほしいの。」
「はい、・・護衛団、私達の、Cross Handerはこの村の護衛をしてます、大人たちが。それに男の人が戦いに出ます。女の人と子供もたくさんいて、ここの村の人達と一緒に住んでます。・・・他は、えっと・・」
「えーと、質問いい?」
「はい」
「Cross Handerは護衛団と言っても、血縁の、家族で出来ている集団だと?」
「あ、はい。お父さんも戦士です。」
「そして、村の人達と一緒に、親しく付き合ってる?」
「親しく・・っていうと」
「そうね・・、一緒に遊んだり、近所づきあいみたいな?子供たちの友達いっぱいいる?」
「はい、一緒に遊んだりしてますよ・・?」
「だよね。・・・じゃずっと、ここに住んでるんだ」
「はい、生まれた時からこの村に住んでます。もう何十年も移動はしてないって聞いてるし・・」
「そっか、なるほどねー」
なるほど、お金で雇われた傭兵団と雇い主の村、という関係をイメージしていたけれど、それが少し違うようだ。
彼らは長年一緒に住んでいて、村人同然に暮らしている。
そして、村中での分業システムが出来上がっているということだ。
ブルーレイクの村人は村の維持や発展を、Cross Handerはその仲間として警護を全面的に任されていると。
きっとお互いの厚い信頼関係も築かれている。
リリー・スピアーズの関係機関もその辺の事情は把握しているのだろうか。
だとしたら、今回の私たちの逗留命令もそれに関係するんだろうか・・・?
ふむふむと、ミリアは何度か1人頷いて頭の中を整理していた。
「メレキ姉ちゃあぁん!」
って、すごい大きな元気な声を出しながら小さい男の子と女の子たちが走ってきた、4人くらい。
「ディェテメレキ!」
「エサあげたら遊んでくれるって言ったじゃんっ!」
とてもとても、威勢のいい。
「あ、ごめんね、ちょっとお話してたから・・」
メレキは子供たちに慕われているようだ。
それに、子供たちの格好、確かに村の子やCross Handerの子っぽい、メレキが言った通り、みんな仲良しみたいだ。
ふと、ミリアは少し離れた場所でこっちを見てる子たちの1人と目が合った。
ローブを被ったたぶん女の子、顔は陰に隠れ気味だがメレキと同じくらいの子か、こっちを見てたけど少し遠慮気味なのは、警戒してるのかもしれない。
まあ、あの子たちが普通なんだろう、よそ者を警戒するのは当然だから。
と、傍でこっちを見てる小さな子の爛々とした瞳と目が合った。
「だーれ?」
嬉々として話しかけてきた。
「しってる!そとからきたんだろ!?」
「おそと?あぶないよ?」
「でもおそとからきたんだよ!?」
「ふーん」
「おなまえ、なんてぇの?」
「えっと、ケイジさん、ミリアさん、ガイさん、リースさん」
「ふーん」
「いかないの?」
「そうね、えっと・・」
「あ、ありがとう、色々聞けて助かりました。お時間取らせてごめんね」
「いいえ、皆さんよろしくお願いします」
「じゃね、ミリアちゃん、と、みんな、ばいばい~」
「ばいばいーみらあちゃん、と・・、・・・」
「ディェテギュナナ リアコンテ・・・・」
「ンン?ヘプリコルン?」
メレキちゃんは小さい子たちと民族語で話してる。
「っん-、ディェテギュナナ リュコニコ・・・っ・・」
「ばん、ばん、ばん、ばんっ・・!」
男の子が元気な、鉄砲のマネだろうか。
そのまま、メレキちゃんは子供たちに引っ張られていった。
苦笑い気味に微笑みを保っていたミリアが、見送るまま、不思議そうに言う。
「なんで私だけ?」
「子供の親近感が湧いたんじゃねぇ?」
ケイジが言って寄越した。
「・・愛されてるって事ね・・・、」
無理やり納得しといたミリアだけど。
「ガイ、何で笑ってるのよ」
ガイの笑顔は看過できなかった。
「いや、子供は微笑ましいなって思ってな」
「誰?子供って、誰のこと?」
「・・あいつらだよ、被害妄想は良くないぞ」
「・・・」
珍しく口を閉じたミリアだけど、文句は言いそうな顔だけど、それを他所にリースが壁に手をついてて、寄り掛かったままぴくりとも動かないのに気付いた。
「おい、リースお前寝るなや」
ケイジの言葉にぴくっと反応して、細めた目のまま顔を上げる。
「ん・・、ん、・・おはよう」
「え、寝てたの?」
「いつから寝てたんだ、たく」
「・・さぁ」
「聞いてねえっつうの」
「気持ち悪いんじゃないの?」
「こっちのが気持ちいい・・」
「ただの寝不足じゃないのか?」
「・・あぁ・・・」
・・寝不足なのか・・・?
「人が多いと寝れないタイプだぞ、こいつ」
「え、そうなの?」
「昨日寝てないのか?」
「少しは寝た・・。もう、行くの?」
「そうね、もう少し回ってみようか。動ける?」
「うん、」
「ういす、隊長」
「あとで寝れるよう考えようか」
「今日は全力で寝るから、大丈夫」
「どう寝るの」
「次どこ行くんだ?」
「あっちの方かな」
「あれ、ネコがいるぞ」
「へぇ、ネコ?ペットかな?」
そんな風に誰ともなく歩き出す4人は、家の隙間でこっちを見てるネコにふらりと足を向けて、ちょっとコミュニケーションを取りに、村の中をまた散策し始めていた。
ミリア達4人は昼まで村を歩き回り、いろいろな所や景色を見たり村の人たちの生活の様子を眺めたりして、話しかけてみれば大体嫌な顔せず同じような話を聞けた。
あの少女から聞いた話に加え、この場所に住むのが長いこと、村が崖の麓にある理由、昔はあそこの洞窟で生活をしていた時期があるから、とか村にまつわる話をいくつか聞けた。
でも村に抱く不思議な感覚の正体はよくわからなかった。
何かしらのヒントになるとは思ったけれど。
そんな時、途中で無線連絡をもらって村長宅で昼食のパンとチーズにベーコン、野菜のスープを頂いた。
ケイジが村長さん達に言ってサンドイッチを作り始めたのを見て、ミリアもサンドイッチを作ってみて被りついたとき、美味しい音と、ガイが腰に引っかけてた無線機がほぼ同時に鳴った。
アシャカから手渡された無線機だ、ビーと音を上げて、その音に驚いた村長がびくんっと良いリアクションをしたのは目の端に、さておいて、ミリアはガイから無線機を受け取る。
『ザザッ・・今、来れるか?』
「えーと、食事中で」
『マダックの所か?』
「はい、村長の所で」
『ふむ、わかった。今からそちらへ行く』
「え?はい・・」
そう言って無線が切れた。
「あのでっかいボスか?」
聞き耳を立てていたケイジが無遠慮に聞いてくる。
「そう、今こっちに来るって」
ミリアは村長の方を見るが、その視線の意味に気が付いた彼も、わからないと言った風に小首を傾げて返すだけだった。
とりあえず、お腹にサンドイッチを詰め込んでいく4人だ。
「いやぁ、食いっぷりがいいですなぁ、みなさん」
マドック村長も笑顔だ。
「あ、俺のタマゴ焼き・・っ」
「え、別に誰のでもないでしょ」
「こっちに寄せといたんだよっ、あ、俺のベーコン!」
「早いもん勝ちだ」
熾烈な戦場の様相を呈してきてたテーブルの席だったけれど。
リースは、我関せず、目を細めたまま手に持ってる自分のサンドイッチを小さな口で齧って、もくもく食べてた。
暫くして、言ったとおりに昼食中の村長宅に入ってきたアシャカさんとダーナトゥさんが、こちらを見つけた。
「アシャカ、何事だい?」
村長が当然の疑問をアシャカに尋ねたら、彼は事も無げに笑った。
「作戦会議だよ」
マジか?と、ケイジは少し反応したが、昼飯がそろそろお腹を満足させてきてるのにも今気づいたので、背もたれに背中を預けて大きく息を吐いた。
ミリアはアシャカを見ていたが、顔は笑っても彼は冗談を言っているわけでもないらしい。
仲間の3人を見回しても、ガイが肩を軽く竦めたくらいだった。
「ほら、あれあったろ、ボード。あれで簡単に説明するつもりだ」
「全く、食事中だというのに無粋な男たちだよ」
そう、呆れたような物言いをわざとしたような村長は奥に引っ込んでいった。
「食事は続けてくれていい」
よくある軽口なのか、気にした風なこともなくアシャカは、まだもぐもぐと口を動かし続けているケイジも、4人も見回した。
村長が持ってきたボードと専用のペンで、テーブルの一角が作戦会議場になる、・・と言っても。
ダーナトゥさんがペンを取り、説明を始めたのは作戦についてよりも、先ずはブルーレイクの現在状況についてだった。
「普段は、俺たちCross Handerが村の周りを囲むようにして居座っている。ここに大まかな地図を描いたが、こことここ、こことここ、そしてここだ。この崖以外は、普段の生活の中で見張り場を兼ねている。緊急の戦闘に際して迅速に対処できるように戦士も常時いる。他にも、・・・、俺たちは『嫌な予感』って呼んでいるんだがな」
ボードを立てて、ダーナトゥが書き込んだ簡単な村の略図をミリア達4人は覗き込んでいる。
彼は引っかかる単語を言った、・・単語なのかわからないけど。
「予感?嫌な?」
「Cross Handerの『嫌な予感』。今回急遽、君たちに来てもらったのもこれが理由だ。」
「・・・はぁ」
嫌な予感がしたから、私たち警備部のパトロールを呼んだ、そんなわけがない。
・・なにかの暗喩なのかもしれない。
彼が言う『嫌な予感』とは私たちを呼んだ理由、つまり私たちに話せない情報源のことで間違いなさそうだ。
ミリアは訝しみが解けないままだが、ダーナトゥもアシャカも顔色一つ変えない。
「君たちもこの村を一通り見て回ったとは思うが、まずは念のため陣地の把握と基本戦術から始めよう」
説明もないし、尋ねても答えはしないだろう。
それと、私たちの行動はちゃんと向こうにも伝わっているようだ。
「はい」
「これは、この村の地図だ。」
アシャカが指し示したボードは少し小さいが、この場にいる全員が注目する。
「来る時に実際見たはずだ、村の周囲をぐるっとバリケードが囲んでいる。有刺鉄線付きの金網だ。それにフェンスもある。このフェンスと村の領分の間は空き地帯となっていて、フェンスからおよそ100m離れた場所に幾つか塹壕を作ってある。また、このやや後方にフェンスまでは届くライトを等間隔に幾つか設置している。」
それは、夜間でも戦えるということだ。
もちろん日が出ているときよりも視界は良くないだろうが。
そして、アシャカは地図の一箇所を指す。
「フェンスを抜ける入り口はここ1つだけ。これも来る時に見ただろう。勿論、村の非常時にはここも塞いではおく。これでフェンスの安易な突破は不可能になる。俺たちは丁度狙い撃ちができる距離に壁、塹壕だな、さっき言った、これを作り、そこから射撃をすれば良い。威嚇でも何でもしていれば大抵のやつらはその内諦める。もし突っ込んでこようとしてもフェンスに手間取っている間に掃討するだけだ。」
ミリアは手の甲を唇に当てて、考えている。
何回か頷いていて、言葉を口にすること無く、アシャカを見て説明を聞いている。
「これがいつもの戦いの展開だ。が、これまでには何度か車両で突っ込まれる事もあった。その時は、この有刺鉄線と金網のフェンスを突破され、そこから敵がなだれ込もうとするんだが、なんせ、見晴らしの良すぎるこのフェンスと俺たちの壕との距離だ。無闇に突っ込んできても、途中で死ぬのがオチだ。車さえ止めれば俺たちの勝ちだった。それにそんな事をするのは頭の悪い奴ら、だけだろう」
フェンスが錆ついていただけではなく、所々大きな範囲で補修した後があったのも納得する。
敵性勢力は村を占領でもするつもりなのかもしれないが、車が無ければこの砂漠の中での移動が困難になる。なので、フェンス突撃時に無傷では済まされない。車が破壊されれば彼らは投降するか、最後まで抵抗し死ぬしかなくなる。
物資に余裕があったとしても、ほぼどんな状況でも作戦としては悪い一手だ。
ミリアはアシャカに1つ頷いた。
「車を壊すって、ライフル以外で、ですか?」
「おう、対重車両用のランチャーが数発ある。ドームとの交流のお陰だな。」
「ふんふん。」
「そして、まぁ、車なんて高価で貴重なもん持ってるゴロツキ。フェンスに衝突させて車も壊しちまうのも勿体無いし、フェンスはボロっちく見えるがな、無傷じゃ済まされないだろう。それにやつらの移動手段でもあるからな、生命線を・・、とまあ、そこまで言わなくてもわかっているか、あんた達にはそんな事は。あーと・・、さっきライフルと言ったが、これも充分に整えさせてもらっている。ドームのお陰でな。」
アシャカが間を空けたので、ミリアは地図を見ていた視線を移してアシャカを見る。
アシャカの視線とミリアの視線がぶつかった。
「そちらの戦力は?」
「あとで話そう。よくある展開はこんな感じだ。俺たちは遮蔽物に潜んで飛んでくる弾にさえ注意していればいい。ただし、」
アシャカが韻を強く発する。
「今回のは『嫌な予感』だ」
――――さっきから何度か出ていた、その不可思議な言葉。
この村で、特別な意味を持つ類の何かなのだろうか。
アシャカさんたちが危険視するものという意味は推測できたが、曖昧すぎていまいち状況整理には組み込めない。
「嫌な予感って・・・」
ミリアが反芻する。
「この場合、敵の攻撃が事前に察知できているという状況ではある。これは無条件で信じてくれ。なのでこの場合、村の中央に本隊と言える主力を集めておき、小戦力の見張りの人数を増やし、厳戒態勢を取る。増やした見張りは村の境界にも配備しておく。敵が来たらフェンスを挟んで主力に援護射撃するやり方だ。」
「今回もその中央に前線を作る作戦でいくという事ですか?」
「そうだ。だが、今回は主力を二手に分ける準備をしておく。ファーストアタックを主力で応戦するが、その際に主力から数人を残しセカンドアタックに備える。その際、人数が足りなくなるので見張り要員は2人に留めておく。」
「敵の人数が分からない以上、薄く伸びる戦線を自ら張るよりも、複数箇所の突破に備えて要所への人員移動を円滑に行うんですね」
「・・そうだな。あとはなんだったか・・・」
「質問いいですか?」
「おう」
「持久戦を覚悟だと思いますけど、食料などの備蓄はどうですか?」
「事前に分かっていた事もあって充分確保している。」
そもそも、敵には射撃をしのぐ遮蔽物が用意されなていない状況だ。
複数の車両を敵が持つ総力戦でくるなら、意図せずとも戦線は薄く延びていく。
弾の補給を途切れさせなければ、持久戦でこちらの圧倒的に有利なのは変わらない。
けど、そこまで考えなしじゃなかった場合、相手が取るべき方法はなんだろうか・・・?この防衛陣の穴を突破するための方法・・・?
「見晴らしの良いフェンスの外から、俺たちの人数で張る弾幕をやすやすと防衛線を突破できるほど大人数をかけれる奴らなんていない。いたとしたら、軍隊だな、はっはっは・・とまぁ、話はこれくらいだ。」
アシャカが話を終えたのを見計らってミリアが口を開く。
「質問いいですか?」
「もちろんだ、」
「崖は?」
そう、村の外からの攻撃に備えているが、村の背面にある巨大な断崖は、とても特殊な存在だ。
「あれは普通の人間には無理だ。切り立っていてよく見れば反っているんだ。クライミングの技術があればわからないが、あそこから飛び降りるのは自殺行為に等しい。」
「なるほど。」
理由は納得できる。
彼らが想定しているのはディッグであり特殊部隊ではない。
そもそも装備も整っている特殊部隊だったら、そんなところから襲撃をかける必要もない。
もっと簡単に攻略する方法はいくらでも思いつく。
「他の質問を。いま、私たちに詳しい情報を渡したということは、『そのとき』が近づいてきているということですか?」
そう、このタイミングということは。
ダーナトゥはミリアを見つめていたまま・・アシャカが、ミリアを見ていた顔で、にぃっと笑う。
「その通りだ。」
はっきり伝えたアシャカをダーナトゥは振り返っていた。
「そして、相変わらずその情報源は示せないと?」
「その通りだ。」
「わかりました。」
「勘違いしないでくれ。事態を見て、もっと詳しい情報を必ず渡す。」
アシャカがそう真っ直ぐに見つめる目を、ミリアは受け止め、見つめていた。
事態が動いたとき、つまり、もっと切羽詰まってきたときに必ず助けを求めるということだろう。
不満が無いわけじゃないが・・・。
「手遅れになる可能性もありますよ」
「わかっている。だが、頼む。」
情報源は未だに言えないようだ。
それだけ意固地になる理由も、最早追及してでも、って気になるレベルだ。
「わかりました。私のほうからも少し。」
「おう、納得できないだろうからな。いくらでも答えるぞ。」
「いえ、それじゃなくて、本部から受けた命令の指針です」
「お、進展か?」
「えーと・・、単刀直入に言えば、今すぐの増援はありません。」
「ふむ・・」
「しかし、私たちは数日の間ここブルーレイクに逗留し、状況報告せよとの事です」
「ふむ、およそ昨日、貴方が言ったとおりになったな」
「ええ、こればかりはどうしようもありません。」
「増援が見込めそうであるだけ、感謝はしているよ。それに貴方たちはいて下さる。」
にぃっとアシャカは口端を上げて。
その言葉は社交辞令でも、嫌味を含んだもので無いのだとミリアは思える。
だから、アシャカの笑顔を、ミリアも微笑みで返した。
「それで、こちらの戦力を聞いてもよろしいですか」
「あぁ、言ってなかったな。銃を撃てるのは40名以上だ。」
一個小隊規模もいるのか、確かによほどの戦力だ。
少なくとも、このブルーレイクを守るには十分カバーできる戦力だ――――。
「で、つまりどういうことだ?」
「話聞いときなさいよ」
開き直っているケイジ、というか悪びれることが頭にないケイジにミリアはお決まりの注意をする。
それから大きな溜息を吐きつつ。
「ガイお願い」
「俺かい」
ガイに丸投げしておいて、ドアの外、村長宅の軒先から顔を出したミリアは、思い切り空に向かって伸びをしていた。
一足先に戻ったアシャカさんたちからしっかりした説明が聞けたし、気分転換にでも、辺りの日陰が多くなった村の中を見回しながら散歩をすることにした。
それに、アシャカさんたちCross Handerは私たちを疎外するつもりもないようなのも一先ず安心していいだろう。
敵の情報も時が来たら共有すると言っていたし。
なので、思ったより長くなったミーティングが終わった後、再び4人は夕方まで休憩を挟んでお茶を貰って、その水筒をぶら下げながら歩いている。
4人はのんびりとした観光客の雰囲気を漂わせつつも、さっき聞いた村の地図を照らし合わせながら、実際の防備を見回りながら、たまに村の人の話を聞いたりしている。
地形的には北が大きな崖となっており、この急斜面、一部反り返っているので人が降りてくるのはほぼ不可能だ。
これも言われた通りだし、登れない山と言ってもいいかもしれない。
他にも、フェンス、戦闘員の詰め所なども確認した通りだった。
そして、Cross Handerについて何回か尋ねても、村の人からはやはり信頼が厚い事がわかる。
彼らはよくやっている、とか、家族がいるとか。
この村は、間違いなくCross Handerの彼らと共に立っている。
・・・でもなんだか、なんだろう、なにかはわからないんだけれど、得も知れないなにかが、なにかの虚構がこの景色のどこかに紛れ込んでいるような、・・・やっぱりよくわからないな。
――――あのとき、アシャカさんがそう真っ直ぐにこちらへ向けていた目は、信じても良いんだろうか。
私も、彼の目を受け止め、見つめていた。
『必ず情報を渡す』というのは、事態が動いたとき、つまり、もっと切羽詰まってきたときに必ず助けを求めるということだろう。
でも、そうなったときの方が状況はヤバい。
こっちとしては、できればもっと早く情報共有してもらう方が助かるのだが。
みんなの安全が確保できなくなり手遅れになる可能性だって高い。
もちろん、『みんな』というのは私たちも含まれている。
ここには命令で来ているのだ、隊のみんなを無為に危険にさらすわけにはいかない。
せめて情報源さえわかれば、調査で動くことはできるはず。
警備部の協力も得られるかもしれないし、私たちが真偽を確かめれば確実に増援は来る。
それでもそうしないのは、なぜだろう。
Cross Handerが嘘を吐いていないのなら。
・・Cross Hander側にも理由はあるんだろうけれど。
その理由がわからなければ、こちらが動くことはできない。
私たちもほとんど動けない。
そういうことだ・・。
もし・・・。
もしも、手遅れになったら。
・・・場合によっては『放棄』・・・。
――――私たちには、ブルーレイク警護の命令は出ていない。
―――つまり、そういうことだ・・・。
・・さて、どうするか。
これ以上、状況整理しても仕方ないし。
私たちは、どう動けばいいんだろう・・・?
日陰から少しずつ日が傾き始めた村の景色を眺めているミリアは、変わりない村のひなびた光景へ顔を上げて。
ケイジやリースがその辺の子供たちと遊んでいるのを眺めてた。
わーわーやってるケイジはともかく、リースはまとわりつかれているみたいで、中性的な印象だし、金髪が小さな女の子に人気みたいだ。
「っていうか、」
「ん?」
ミリアの声に、傍のガイが気づいて。
「子供に好かれやすいのね」
「ケイジはウケるのな」
ガイが面白そうに笑ってた。
「リースは女の子ばっかで羨ましいな」
ってガイは冗談なのか本心なのか、半々かもしれない。
「ガイは大きくて怖そうなんじゃない」
「はっは、ナイスガイなのにな。」
まあ、ケイジは男の子たちに偉そうにしてたり、なんか張り合ってたりで、子供たちと一緒に楽しそうだった。
気が合うみたい、っていうか。
『ナァオゥイ マルベィキロリアゥナァ』
遠目からまた誰か近づいてきたな・・って思ってたら、そのローブを纏った青年は、村の民族語か、子供たちに声をかけてた。
『ナァ~ ディェテメレキミカ』
子供たちは振り返ってなにか返事をしていたのだが、会話の内容がわからない。
でも、青年に見覚えがある、確か昨日、村に入る前に近づいてきた彼だ。
『メレキ? ルァマラニ・・・』
あの気の強そうな、睨んでくるような目は間違いない。
「ん?どうした?」
子供たちが傍にいるケイジと向かい合うように、彼は距離を取って少し警戒していたので、念のためにミリアは立ち上がっていた。
「あまり近づかないでくれ」
「ん、おお。なんかあったのか?」
ケイジはさっきから立ったままだが。
「・・いや。ただ、そうしてくれ」
「よくわかんねぇな。まあいいが、俺からは近づかない。」
ケイジは両手を上げて敵対する意思は無いと伝える。
「お前、昨日の奴か」
今気が付いたケイジのようだ。
まあ、昨日、思い切り飛び掛かってたから、警戒されるのは自業自得なのだが。
それはさておき、ミリアは彼に声をかける。
「ちょっと良いですか?」
「良い?なにがだ?」
「いえ、なにか話していたから」
彼はじろじろと近寄るミリアを見ていた。
「うちの部下がなにか?」
「いや、そうじゃなく・・・?・・」
って、彼が少し瞬いたような。
「・・え、部下?」
って、聞き返してきたから。
「はい。・・なにか?」
彼の意味を感じて、ミリアはちょっと眉をピクリとして聞き返した。
「あ、いや・・・・・・部下とか言ってたから・・?」
けっこう、彼の声は少し尻すぼみだ。
「・・それがなにか?」
「あ、いや、その、・・小さかったから・・」
って一応、遠慮がちに、言い難そうに答えてくれるけど、彼はとても正直者だ。
ミリアをちらちら、と見てくるその視線に、ミリアの愛想笑いに力みが少々走ってくるのだが。
「な?生意気だろ?」
横のケイジがにやにやと。
「うるさい」
にやにやしてるケイジの横腹にミリアの肘鉄が入ってた。
「ぐほ・・っ」
隣でよろめくケイジを尻目に、ミリアはその青年へ顔を向ける。
なんとなく、・・・相対する彼らの間に沈黙が訪れる。
えーと・・・。
「別に危ないことをするつもりはないですよ?」
ミリアは丁寧に彼に伝えた。
「・・ただ近づかないでほしいってだけ。」
彼は素っ気なくて。
「そっか。」
ふむ、彼は警戒しているだけのようだが。
と、傍の少年たちが彼の横に寄ってきた。
「ドーアン兄貴は明日、戦士になるんだ。」
って。
「だから、今度の戦いも活躍するんだ!」
自慢のドーアンの兄貴はみんなに人気があるようだ。
「バカ、戦士は活躍するもんじゃねぇよ。」
「でも『ミーダリウード』みたいになるんだろ?」
「・・村を守るから『ミーダリウード』と呼ばれるんだ。暴れるだけじゃダメなんだよ。」
「父ちゃんに昨日言われてたね」
「うるせー」
「ナァ~、メマ ミェナァ~」
わーわー、小さい子たちも集まって来てて。
・・こっちに彼は振り向いてた。
「ドーアンって言うんだ」
彼の名前だ。
「ミリアネァ・Cです。ミリアって呼んで」
名乗った彼の真っ直ぐな目へ、ミリアは真っ直ぐに見つめ返した。
柵に腰掛けたミリアと、その傍のドーアンの顔を覗けば、彼は子供たちが遊んでいるのを眺めている。
彼は戦士になる、か・・・。
年の頃からして、成人の儀のようなものか。
「訓練もめっちゃしてたんだからな。ロンター兄貴にも負けないくらいなんだ」
傍の男の子が話してて。
「そういうこと言うな。」
ドーアンは、彼は少し照れたようだ。
戦士になるための訓練ってことなんだろうな・・・。
「・・そっか、強いのね」
ミリアは、彼へ。
「・・・そ、そんなん、普通だし」
って、ドーアンは、ちょっと強がったようだった。
ミリアは少し、目を細めていた。
「・・あんたらも戦士なんだろ?」
「ん・・・?」
「戦う人間だ。」
・・あぁ、なるほど。
「そうね。」
そういうことか・・・。
彼は、子供たちのリーダーとして、幼い子たちを守りたくて。
私たちの前に立って、ただ心配して、守ろうとしてた、それだけだ。
その気持ちを、戦士と呼んでるように見える。
私たちも、戦士か・・・そういう基準なら、そうなんだろう。
ブルーレイクに招かれた戦士・・・。
「ねぇ、さっき言ってた、『ミーダリウード』ってなに?」
「・・・『畏怖される赤い狼』だ。アシャカさんみたいな。」
アシャカさん・・・さっき会ったばっかりだけど、あの人、やっぱりCross Handerの立派なボスみたいだ。
「そっか、かっこいいね。」
「・・・。」
ドーアンは答えなかったけど、ちょっと意地になってるような紅い頬だ。
「・・あんたらも戦士なんだろ?」
って。
「外のことはよくわからねぇけど、でも、戦士なら強いんだよな?」
そう・・・。
「うん。」
ミリアは頷いた。
「信頼して・・・」
信頼してくれていい・・・そう言おうとしたけれど。
なぜだか、私は、言葉が止まった・・・。
「そっか」
でも、彼は納得したみたいだ。
否定・・・するのもおかしいから、私は、その先は続けられなかったけれど。
「なぁ、つぎ、石投げやろう」
「ん、なんだそれ?」
「あれだよ、これをあれに当てんの」
「俺が一番上手いんだぜ、」
「モロトも同じくらい上手いよ」
ケイジが小さい子たちと一緒に連れてかれてた。
「あの缶に入れると20点」
「マジかよ、あんな遠いのかよ」
「アラシンはよく入れられるよ」
「ケージーは上手いの?」
「ケイジだよ。こんなの遊んだことねぇ」
「ケージー、」
「おい、ケイジだよ」
「ぷきゃはは、」
「ケージー、ケージーっ」
ふと、隣のドーアンが立ち上がって、向こうに歩いてみんなに加わってく。
「俺もやる、勝負だ。」
「お、いいぜ、勝負だ。」
ケイジと張り合うような、遊ぶような。
リースは、結わいていた金色の長い髪を解いていて。
頬が赤い女の子たちが流れる金髪を目で追っているのを、触ったりするのも、もう気にしてないようだ。
ケイジらの近くで立ってるガイはなんだか、微笑ましそうにか、面白そうにそんな光景を眺めている。
そんな彼らの遊んでる情景を、夕日が傾く光景を、ミリアもその柵に腰掛けながら眺めていた。
その日、定時連絡も済ませても、待機命令は解除されなかった。
あの無線機も一度もミリアの腰に掛かったまま、鳴りはしなかった。
ミリア達は借り宿に戻って休んでいたら、夕食に呼ばれて今夜も村長の所で頂いた。
さすがに前日のようなご馳走ではないけれど、マッシュポテトやパン、スープや缶詰など、こっちが普段の村で食べられてる料理なんだと思う。
お腹がいっぱい食べられれば問題は特にないミリアたちは、満足して宿に戻っていった。
それから、身体を拭くミリアに3人が外に追い出されて、夜の村の様子を眺めつつ涙を拭いてたのかもしれないが、その後3人も寝支度を整えたら、4人は床に着くのだった。
――――ふと思い出して。
瞼を開いたミリアは、うつ伏せになって携帯を取ると、日記を開いた。
『
今日も平和だった。
いろいろ村の人たちから話を聞いた。
だいたいこの村の事はわかった。
任務に関わることは詳しく書けない。
それは少し残念だ。
大人や老人たち、子供たちとも話をしたし、村はとてもいい雰囲気だ。
よそ者が警戒されるのは当然だけれど、彼らは私たちを信用してくれてると思う。
ケイジやリースが子供たちに好かれていたのは、ちょっと驚きで、面白い。
微笑ましい、っていうのかな。
村の子の遊びで一緒に遊んでた。
少年とも私も少し話した。
この村の戦士、彼らが何を思っているのか、少しはわかった気がする。
村を守ることが大切なんだ。
今思った。
あのとき、私はまだ事態が把握しきれてないから、はっきりとは言えなかったんだと思う。
彼らの味方になるのかどうか、私はまだはっきりと結論を出していない。
だから、信頼してとは言えなかった。
願わくば、そんなことを考えなくてもいいような状況になればいいと思っている。
間違いであったとか。
何にも起きないとか。
でもそれはダメだ。
隊長は全てのあらゆる状況で適切な判断を下せなければいけない。
――――ファム-ミリア-ノァ,S.S.822.x.x
』
――――――――ソコニ、ワタシハイル。
――――――ソこガドコだカワかラナイケレド、タシカ、クラヤミ・・・。
――――・・うるサイ、ひトガ、さわグ、ザワめくコエ。
――ドれモ、シらナイヒトノコえ。
―――――――ヤッと、メガ、みえるヨウニ・・。
わたシは・・・。
・・わたしは・・・さがす・・。
キキなれた、ヒトの声ガ、ひきよせる・・・。
《話を聞け》
眼鏡をかけタ、長身の男の人ノ声は、よく通って聞きヤすい。
《これで、いいだろう、物は明日全て集まる。》
近くで立っている長髪の男の人が声を荒げて。
《いつまで待たせるんだ!俺はこのまま行ってもいい!》
《それじゃ、作戦の意味がないだろ。》
《ちぃっ!!》
長髪の男の人の舌打ちは耳に鋭く刺さるので、嫌いだ。
もう一人、身体の大きめの男の人、この中で一番おじさんがぽい人が間に入った。
《おいおい、落ち着けよ、やる時は一緒だろ、逃げやしねぇって》
《ここで、何日も動かないのが嫌なんだよ!》
《新天地によぉ!》
《新天地ってぇのは良い響きだな》
《落ち着け、そろそろ準備が整うのは本当だ。予定通り行けば、2日後だ。》
《言ったなっ、2日だなっ、それを過ぎるなら、俺はお前らを置いてでも行くぜ》
そう言い残して、流れる長髪の髪を揺らして男の人はこの暗がりから出て行った。
《あいつも、とんだ癇癪持ちだな。あいつらだけで行ってもしょうがねぇだろうにな》
《あれが、奴の良い所だ。》
《若い奴が粋がるのはしゃあねえが、大丈夫なのか?作戦を無視するとかよ。洒落にならんぜ》
《そこまで馬鹿じゃあない。奴だって徒党の頭だ。30人、奴らを纏め上げているよ。家族同然だってな》
《それ自慢なのか?》
―――グ・・・・息が、・・苦しく、ナってきタ・・・。
《俺たちの40と、そっちの60で・・、全部で・・・》
《130》
《130だ、集落1つくらい簡単にぶっ潰せる》
《ただの集落じゃあない、俺が手掛けた中でも最大だ》
《やってやるよ・・・!》
《潰した後の事も忘れるなよ。お尋ね者なんて間抜けのやることだ。》
《あいつに言っとけ。どう見てもあいつのが・・》
《・・・物も充分、これだけ条件が揃うなんてな。まるで何かに導かれてるようじゃないか》
《性悪な誰かなら俺は知ってるぜ、へっへぇ・・》
《・・だが、それを、よりスムーズに運ぶための作戦だ。わかってるな?》
《わかってんよ、頭張ってんのはお前だけじゃねえよ》
―――息ガ・・・クルシイ。
瞼が重く・・なるヨウ・・、意識が暗闇へと持っていかれル。
ザボン、と・・沈ム・・途切レル・・・イシきが、頭に鳴り響く・・ソノあくマ達の低い声・・暗闇にコダマスる。
【どうでもいい、あれを潰すだけだ】
――――・・・オチテイク、いしキのなか
《130人、明日》
―――2つのこトばだけ、コボサナいヨウ、なンドモ、なんども、くらヤミでくリカエシて、ハンキョウ、さセテイタ・・・。
《滞在3日目―――》
――――目が醒めたミリアは。
・・・ベッドの上で、あくびをしていた・・涙目になるくらい、はふぅ・・・って。
それから、部屋の中を見回したらガイやケイジやリースはベッドの上でまだ寝ているようだった。
・・穴が少し空いたカーテンから、朝の光が零れていた。
みんなが寝ている内に着替えを終えたミリアは、携帯で連絡を確認していたミリアは、いつもの時間になったのに気が付いて、起き上がってみんなに声をかける。
「時間だよ、起きなさい~」
立ち上がって、不意にしたくなる伸びをしながら。
なんとなく目が醒めたようなみんなを見ながら、腰に両手を当てて眺めてた。
なんだか調子はいい、夜も早く寝るからかもしれない。
起きててもやることないし。
一応、Cross Handerからの連絡は注意しているけれど。
「・・・今日はどうしようかな・・」
ミリアは眠たいまま1人で呟いてた。
3日目ともなると、特に4人で見て回る場所も無くなったので、連絡が取れるようにと、各自所持する無線機を持って別行動となった、のだが。
朝ご飯をいつものように村長宅で頂いた後、揃って4人は宿まで戻ってきた。
まあ、なんとなく揃って宿まで戻ってきたけれど。
「じゃ、待機。」
ミリアがみんなに指示を出してた。
指示は待機であるが、各自の通信が繋がりさえすれば自由時間とほぼ同じである。
それから、ミリアも今日はどうしようかな、ってベッドの上でちょっと考えてた。
「どうすっかな」
ケイジが独り言を言ったのも、みんなに聞こえてた。
「リース、お前はどうする?」
「・・寝たい」
「お前いつもそればっかだな。ガイは?」
「特にないんだが。・・そうだな、ジョッサさんにお友達を紹介してもらいたいかな。」
「なにすんだよ」
「いや、遊んでもらうんだよ。」
「それだけか?」
「ったりまえだろ、他に何があるんだよ」
「お、ミリアを見てみろよ」
ってケイジに言われて。
ガイがミリアを見れば、ミリアがジト目でじっと見つめて来ていた。
口にはしないが、なんというか、『舐めるなよ、小僧』みたいな目だ。
「問題なんか起こさないって。・・・そいや、そろそろ『モビディック』が砂まみれになってるだろうなぁ・・・」
「じゃ洗車よろしく」
「おいおい隊長」
「俺はどうすっかな・・・」
ケイジはそのままベッドの上に倒れ込んでた。
・・ミリアも・・・もう3日目だからなぁ、って・・・。
・・・村の人たちは本当に信じてるのか、信じてないのか・・・取り消さない所を見ると・・・なにか別の目的が・・・――――。
ふと、扉からノックの音がした。
「はーい?」
一番近かったミリアが、扉を開ける。
朝からのお客さんは、黒髪、黒瞳の少女、こげ茶色のローブを纏った、昨日も話をしたメレキだった。
「おはようございます」
ちょっと緊張した様子で、頬を紅くしてる。
「おはよう、メレキさん。どうしたの?」
食事の用意とかのお呼び以外で、人が訪ねてくるのはこれが初めてだ。
「あの、お願いがあって・・」
「お願い?」
真剣な瞳のメレキに、ミリアは気が付く。
メレキはこの部屋の4人を見回した。
その目には悲壮感にも似た、切羽詰ったもの、怯えさえ感じる。
「ドームから、もっと応援の人を呼んで欲しいです」
ミリアはそれを聞いて、その話か、と内心思った。
でも、それはメレキにもわかっているようだった。
「わかってます、無理な事言ってるのは、でも何とかお願いしてきてもらうわけには・・いきませんか?」
「それは・・、本部の方が判断する事なのでやっぱり、叶えられないと思います。」
「それでも、何とかできませんか?不安で、とても、・・不安なんです。この村が・・・」
ミリアは彼女の様子を見つめていたが・・・口を開く。
「先日お話したように、あなた方が主張する情報では動けません。なにか進捗があればこちらへ報告ください。進捗が無ければ、対応は変えられません。」
「おい、ミリア」
「私たちも定期的に本部に連絡を取ってますが、本部からの指示は変わりありません」
「ミリア」
「なに、ケイジ」
「どうした?」
「・・なにが?」
「いや、なんか・・・」
「私は、組織の一員として見解を述べてるだけ。その辺りは了承してもらわないと」
「にしても・・・、わーあったよ。」
頭を片手でぼりぼり掻き毟ったケイジは立ち上がって。
ガイが口を開いた。
「組織としての見解は、確かにそうだ。それでも、なにかあったらちゃんと対応するよ。」
メレキへ声をかけていて。
ケイジもメレキの側まで歩いていった。
「気にすんな、いつもあんな感じだからな、あいつ。」
って。
「後は俺たちに任せといてくれ。何かあったら俺らがなんとかする。」
メレキは何も言わずにただ、数回頷いただけで、ケイジに促されながら俯いたまま部屋を出て行った。
「ケイジ。」
ミリアの、強い声がケイジの背中にかかる。
ケイジはその間もぼりぼりと頭を掻いている。
「・・メレキさんには、はっきり言った方がいいと思う。組織はきっちりとした規則とかで成り立ってる。組織は簡単には動けないからって・・」
「ちげえよ、俺はただ、俺がダメだと思っただけだ」
「・・・なにが」
「あいつが不安で来たのなら、上の方が動けなくても俺たちはついててやるぐらいの事を言えよ。俺らが来たのはその為だろ・・!なんであいつを突っぱねなきゃならねぇんだ・・!俺たちは仲間を呼ぶことは出来ないが、俺たちが守りに来た事は本当だ。お前はそれぐらいの事も言わねぇで、そんなのが・・!」
「無責任な事言わないで・・!」
って、ミリアが強く怒った声で・・・遮ったが。
「おかしいだろ・・!?んだよ・・!?」
ミリアが俯いている・・・ガイはちらりとそれを横目に見て、ケイジに言ってやる。
「ケイジ、お前も色々思うことあるんだろうよ。でもな、言い過ぎだ。落ち着け。リースも心配してるぞ」
つられてリースを見るが、話を振られたリースはベッドの上に座り、きょとんとした眼を向けるだけだった。
正直、何にも考えてなさそうだ。
「なあ?リース、」
ガイに催促されて。
「ぁぁ、、うん、隊長も、当然の事言っただけだと思う」
リースは取り繕うような、難しい表情をしているミリアを見やる。
「ったく、ミリアかよ、お前ら」
ケイジが頭をガシガシ掻いている。
「なんだ?お前にも構ってやろうか?」
「いらん」
何処からとも無く。
『うー・・・』、と呻く声が聞こえてきた。
その出所をケイジが探すと、それは俯いたミリアの方からだ。
な、なんだ・・?とケイジは胸の内で焦る、なんか嫌な感じがしたからだ。
「・・・隊長?」
リースの呼びかけに、返答は無く。
ミリアの・・・次第に、それは嗚咽の混じった・・・。
「ぅ゛ぅぅ・・ぅ~」
って、みるみるうちに、瞳に涙を溜めるミリア・・・、見ていたリースが困ったようにケイジとガイを見るが・・。
「だから、なんでお前が泣く!!?」
ケイジが焦った声で叫んでた。
「あ~・・ケイジ、」
ガイは頭をがしがし搔いていたが。
「・・・があぁっ!」
ケイジはそんな奇声を発しながら部屋を、出て行った。
ガイはケイジが出て行った扉を、肩をすくめて見ていたが。
「・・・しょうがねえやつだな・・・」
んでも、未だ涙をこぼすミリアを振り返るが・・・。
「リース、」
呼ばれてガイを見るリースは、アイコンタクトを受けた。
ガイは、頼むって意志を込めたのだが・・・それだけで、ガイも部屋から出て行った。
・・・残されたリースは、・・・もう、動かないで泣き続けるミリアを振り返ったり、なんか、・・・今頃静かに、おろおろとし始めるのだった。
――――ケイジは、むしゃくしゃした気持ちでずんずん村の中を歩いていた。
その進行方向上にある、家畜の柵の上に座ったメレキを見つける。
誰か同じくらいの背丈の友達といたようだ。
その子もメレキも、ケイジを見つけていたようでこっちを見ていたが、メレキが柵を降りてぱたぱたと小走りに駆け寄ってきた。
目の前で立ち止まって、ケイジは立ち止まってメレキを・・・。
「あの、さっきはすいませんでした。」
「・・・何を謝ってんだ?」
「・・さっき、変な事言って、邪魔しちゃったみたいだから・・」
「・・お前は悪くないぞ」
「・・はい・・・、でも・・機嫌、悪そう・・」
「あぁ゛?」
「ご、ごめんなさい」
「・・・・・・はぁ、・・ちげえ、ちげえ」
「・・はい・・?」
「別にお前の事じゃないから」
「そう、ですか・・?」
「あぁ、・・・はぁ」
ケイジは頭をがりがりと掻く。
それから、びしっとメレキを指差して。
「別にお前の所為じゃないからな」
「はぁ・・・」
あまり納得のいってない様子のメレキではあったが。
ケイジは大きく溜め息をついた後、顔を上げて辺りを見回す。
柵の傍にいた・・もう1人の女の子か。
「あれ友達か?」
「あ、はい。ダメだよ、って言われて・・・」
「・・そか。」
・・・ケイジはそして、柵で囲まれた中にいる羊で視線を止めた。
「・・・ここは羊なんだな」
「いえ、山羊です。」
ケイジはヒツジと山羊の見分けなどつかないが、はっきりと否定されたからか、何故か清々しい気分だ。
恥ずかしさも少しはあるが、やっぱり知らないもんは知らんから、どうしようもない。
「・・や、山羊な、あれ食べたりすんの?」
「いえ、あ、はい、食べる時もあるけど、普段はお乳をもらうんです」
「ミルクか」
「そうです。飲みます?」
「いま?飲めるの?」
「はいっ、こっちこっち」
メレキが手を振って呼ぶ方へ、ケイジは軽く溜め息をついて、苦笑い交じりに追いかけた。
「――――なんだ俺だけ仲間はずれな気分」
近くの家屋の壁に背中を預けながら、日陰で2人のやり取りを遠目に見ていたガイだ。
彼はそう誰にでもなく苦笑いで愚痴ると、空を見上げ・・・、そのまま快晴の空を見上げている事にした。
「ジョッサさんに会いに行こうかな?」
と、ぼそっと言ったけども。
まあ、その前にミリアの顔が思い浮かんでた。
――――大丈夫?」
静かな部屋の中で、リースがそう・・・。
「・・うん」
ベッドの上に座るミリアと、リースは自分のベッドの上でミリアを見つめていた。
幾分、ミリアの感情は落ち着いてきた様だった。
「えっとね・・その・・・私は、・・別に」
ミリアが、なにか言いかけて・・・。
「・・・ダメだったかな・・・、私の・・・・、・・・」
リースへ、伝える言葉は・・俯く。
自嘲気味に見える笑みを、ミリアは・・・。
「ダメ、かはわからないけど、当然の事を言ったと思う、隊長は。ケイジが怒ったのは、一理あるけど、不可解・・ケイジは難解すぎる。いつも。」
リースの声は柔らかく、ミリアには優しかった。
「・・・そっか」
それが、ミリアには・・・未だ微妙に入っていた肩の力を抜くきっかけを与えてくれる・・・。
生暖かくて乳臭い山羊のミルクは独特の臭いとコクがある。
「どうですか?」
「・・あー・・・」
「気持ち悪いですか?」
「・・・」
コップの白い液体を見つめるケイジは、黙ってうなずく。
たぶん既に顔に出ている、メレキにはバレているだろう。
メレキはいたずらっ子の様に笑ってた。
「全部飲めます?」
「無理だ」
即答してたケイジだ。
「ふふっ」
可笑しそうなメレキが手を差し出したので、ケイジがコップを手渡したら、メレキはそれへ口を、・・・近づけて・・くんくん、乳の臭いを嗅いでみたみたいだった。
一瞬、飲むのかと思ってどきっとしたケイジだが、まあ恥ずかしい勘違いだったみたいで、メレキと目が合ったら顔を逸らしてた。
「キラエロさん、ありがとーございます」
「おうー」
コップをそこに置いてた。
「おや、飲めなかったか?」
「すいません」
「うん、まあ仕方ねぇ。」
って、言ったと思ったらそのおじさんがコップを持って、ぐびーっと一杯飲みほした。
ケイジは・・・いや、いいんだが、そのおっさんは悪くないんだが、なんだか気持ちがそんなの見たくないと言っていたので、逆の向こうを振り返ってた。
自分の飲みかけの破壊力はヤバイ。
と、そこで遠巻きに女の子が2人くらいかフードを目深にした、メレキと同じ年頃か、こっちを見ていた子と一瞬目が合ったかもしれない。
すぐ顔を逸らされたが。
「ちょっと山羊見てくるね?」
「おうよ。イタズラすんなよ」
「子供じゃないから」
笑うおじさんとメレキだ。
「こっちです」
歩き出すメレキに連れられて、ケイジは歩き出していた。
「山羊とか牛ってエサによっても味が変わるらしくて」
「へー」
「ドームから輸入したエサを使ってるのに、それでいろいろやってるけど、美味しかったり美味しくなかったりするんです」
「・・・へー」
まあ、環境の厳しい村だからかもしれない。
安定して美味いってのは難しいんだろうな、たぶん。
「美味しくなかったらチーズが多めに出来上がったりして、」
メレキが村の裏事情を教えてくれる。
まあ、それはそれで心地いい。
「散歩にいい時間だね」
って、そこで農具の作業をしていた女の人に声をかけられた。
「そうですね」
メレキがにこやかに返事をしてた。
村をメレキと歩くケイジは、1人呟く。
「知らない人から用も無いのに声をかけられるってのは変な感じだな」
「え、なんですか?」
「いや、何でも」
今は、メレキが一緒にいるから近くを通る人が声を掛けやすいのかもしれないのだが、時折ケイジ1人でも声を掛けられる。
『よ、散歩かい、』なんて。
その度にケイジはなんて返せばいいのか、わからないのだが。
知り合いじゃないのに街で声かけられるなんて、ドームではまずあり得ない習慣だ。
「そういや、友達か?」
メレキからも離れた後ろで追って歩いてきてる少女2人はこそこそ、フードを目深に被って、顔もよく見えないが。
「あ、はい。」
メレキは、苦笑いをしていた。
まあ、あれは怖がってるのかもしれないが。
「モミェ ルホトァー?」
あっちに声をかけるメレキは。
ぷるぷる首を横に振る彼女たちなので、ケイジに苦笑いを向けてた。
ケイジでも通訳されなくても嫌がったのはわかった。
あんなに怖がることないと思うんだけどなぁ、ってケイジは思ってはいたが。
逆に、メレキが変わってるのかもしれない、と少しメレキの少し楽しそうな横顔を見ていた。
臭いが強くなるにつれ近づく、メレキに連れられた厩舎の中の柵には、山羊が沢山いた。
そして、柵の外のメレキを見つけた途端に、何匹かがメレキに集まってきた。
それを楽しそうに、メレキは鼻をつついたり頭を撫でたりしている。
「山羊ねぇ」
「なんですか?」
結構な地獄耳らしい、小さく呟いただけのつもりだったのだが。
「実物見るのは初めてだな」
「あ、そうなんですか?可愛いでしょ」
「うーん・・まぁ」
動物は臭いと聞いていて、その通り、鼻をつく・・動物の異臭というしかない臭い。
当の山羊を見ても、まあ、可愛いといえば可愛いって言えなくもない。
が、やっぱり変な顔だ。
「変な顔してる」
「あはは」
メレキは何故かケイジの答えに笑った。
・・・まあ、ペットで飼うとかなら見たことあるんだが。
「・・・なぁ、一つ気になるんだけど」
「はい?」
「こいつら動物ってさ、山羊でも、可愛いって言うよな」
「可愛いですよ?」
「でもこいつらを喰うんだよな?」
「・・はい。」
「そういうの、どう思ってんだ?」
ケイジはメレキから、山羊の群れる方を見ていた。
「・・山羊は食べます、山羊は御馳走ですから・・・」
暫く、2人は無言だった。
変な事言ったかと思い、ケイジはメレキの横顔を見るが、メレキは穏やかに微笑んでいて、山羊の背中を撫でている。
「えと・・ですね。可愛いです。そして、そのときは悲しいですよ、多分。昔、ちっちゃかった頃、わんわん泣きましたもん」
「・・はは、そりゃそうか」
「そして、また可愛いんです。美味しかったり、悲しかったり、そしてまた可愛い。そういうの、逆らえないって・・」
「ん」
「逆らわなくていい、って。父に教えてもらいました」
「・・・?」
「逆らえないものがあるんだって。逆らわなくていい、って。心に在れって。」
「・・逆らえない、か」
「そうです、だから、可愛いけど、食べて、忘れないようにして」
「・・ふーん」
「絶対に、元気に生きていくんです。・・そんなこと考えながら食べる時が、ふとあったら、やっぱり変な感じなんですけどね」
困ったような顔で笑うメレキだ。
そしてもう1匹、今度は子山羊が寄ってきた。
「でも、やっぱり、可愛いんです」
メレキは手を伸ばして、その子山羊の鼻をおでこを優しく撫でる。
にこにこ、その笑顔は可愛いものを見ている清新な笑顔だった。
「ふーん。そういうもんか・・」
「それって、私が思った事なんですけど・・、変ですか?」
あはは、と照れたように山羊に向かって笑うメレキ。
「・・いいんじゃないか、と思う」
「そうですか?あなたは・・・」
「ん-・・・」
ケイジは少し考えているようだった。
それから、山羊を見つめているまま、ケイジは口を開いた。
「俺な、山羊を殺したことがないんだよな。」
そう・・・。
「で、どんなもんか、って思ったんだ。」
メレキはちょっとケイジを見上げ、ケイジと数瞬か、それとも数秒間か、見詰め合った。
・・ケイジが、口端を上げて見せていた。
メレキは・・・笑って。
それから、花が咲いたような満面の笑顔になった。
山羊の鼻を右人差し指でつんつんと、つつくメレキ。
「・・ね、」
そう話しかけて、山羊に触れている穏やかな笑みを浮かべるメレキを、・・・見ているケイジも、知らずに穏やかな笑みを湛えていた。
ガイが部屋の中を覗き込めば、ミリアとリースが何かを静かに話していたようだった。
それもガイの登場によって止まったようだが。
そこは狭い部屋で、ドアを開ければすぐ気づかれるのだ。
「落ち着いたようだな、安心した」
ガイはドアを閉めつつ声をかければ、ミリアは少し気まずそうな表情で、頬を持ち上げてはいた。
ガイは目を逸らされたが。
「仕事を押し付け過ぎちまったな。悪かった」
ガイはそうミリアへ言ったのは・・・メレキへの苦言を言ってるんだと思う。
「・・隊長だもん・・・」
ミリアの紅い頬はまだ膨らみ気味のようだが。
「確かにな。でも、あんまり気を張らなくていいよ」
ガイはそう・・・。
「副隊長は俺だからな。」
・・俯いたミリアはまた、頬が膨らんだみたいだったけど。
「リースもなんか話したのか?」
「べつに?」
リースは相変わらずマイペースだ。
下手すれば本当に何も話してない可能性もあるが・・・ミリアが落ち着いたならそれでいいか。
「そうか。気晴らしに外出るか」
「・・うん。」
立ち上がるミリアは。
「いろいろチェックしないといけないし」
まだ仕事の事を考えているようなミリアに、ガイは嘆息交じりに苦笑いしてた。
「ま、そうだな。」
リースもミリアを追ってドアの外へ歩いていく。
ガイはその横顔を見て・・・、少しだけ、ほんの僅かな違和感に捉われた・・・。
なんでか、あのとき、リースに任せた方がいいと、それが自然だと思ったみたいだ。
それはなんでだ・・・?と自分でも不思議に思ったが。
そんなに、女の子の心の機微に聡いヤツだとは思わないが、いつも眠そうだし。
・・まあ、逆にマイペースなヤツだから良かったのかもしれないな。
ミリアは落ち着いたんだ、それでいい。
そう納得して、ガイも2人の後を追って外へ出て行った。
村を歩く3人は、しかし、村中を数歩も歩かない内に異変に気が付いていた。
村の数人が忙しなく動いているような気がしていた。
歩いていても、前日のようにのんびり過ごす人の姿を見かけない。
ミリアは口を開きかけたが、傍の2人にかける言葉がすぐに見つからなかった。
余計な不安を煽るかもしれなくて。
そこの、話を切り上げてどこかへ歩き出す男の人がこちらへ気づき、小さな会釈をし、そのまま行ってしまう。
「何かあったみたいだな・・・?・・」
ガイがそう言っていた。
ガイは・・・さっき外から部屋まで戻ってきたときも、その村の様子が目に入っていた、とミリアは思う。
敢えて伝えなかったのは、私への気遣いだったのかもしれない・・・。
わからないけど、ただそれよりも、今は周囲の状況を調べる必要がある。
リースもガイも周囲を見回していた。
Cross Handerらしき人達が10人ほど、村の中をまとまって歩いているのは初めて見た。
ビィーっ・・!と、急に腰の無線機が鳴っていた・・・アシャカに手渡された旧式のやつだ。
ミリアが応答すると。
『緊急だ。村長宅まで来てくれ』
アシャカが短く伝える声は落ち着いていた。
ミリアはガイとリースに目を合図して、マダック村長宅へ向けて駆ける。
村は緊迫し始めていた。
「どうにか困った事になってるらしい」
ミリアたち3人が村長宅に着き、扉を潜った直後にアシャカにかけられた第一声は要領を得なかった。
「何ですか・・?」
ミリアは訝しむ様子で聞き返す。
「130人、この数、どう思う?」
「130人・・?数、としては、えぇと・・軍部では一個中隊規模に当たりますが、・・・戦闘での話ですか?・・えっ・・・!?」
「察しが良くて助かる。貴方が想像したとおり、130人、今回この村を襲撃する人数がわかった。恐らく間違いないだろう。130だ。」
アシャカは村長宅の食卓テーブルに置かれたボードに地図など情報を描き込んでいた。
既にマダック村長や賢き役の人たちが集まって来ていて、Cross Handerのダーナトゥから状況説明を受けていたようだ。
ただ、130人という数、もし、全員がライフルを所持する戦力ならば・・・この村の制圧など1時間も掛からないだろう・・虐殺・・・いや・・・そんな装備を持ってるわけはない。
ないだろうけど――――
「―――そんな・・、そんな大規模な野盗集団聞いたことありませんよ・・。そんな大きな集団が手配にもリストにも載らないで・・・、あったとしても大きすぎてすぐ駆逐される・・・はず、・・・連合・・・6集団ぐらいが手を組んだ・・?」
「それなら合点がいく」
アシャカが頷いていた。
本当に、彼らの中では130人という人数が確定している、のか・・・?
「けれど、そんな大規模な・・犯罪、ドームだと大きな事件として取り扱われるレベルかも・・」
でも・・・補外区に一夜にして、どこからともなく130人のディッグが現れ村を襲撃するなんて報告、荒唐無稽すぎる。
本部へ報告してもすぐには動かないだろう。
証拠提出なしにもし万が一動いたとしても、130の規模と対抗するにはドームからの応援も相応の戦力になってしまうし、準備だけでも時間がかかる。
しかも来なかった場合、間違えましたでは済まない。
リリー・スピアーズ管轄内でもディッグが補外区や管理施設で暴れる事件はあるにはあるが、せいぜい無法者などが徒党を組んだ十数名ぐらいで、大抵は逮捕もしくは無力化されましたというニュースを終わってから聞くくらいだ。
「事件か、・・俺たちにはこれから起こる悪夢になるともしれんがな」
・・ディッグの問題は、抜本的な解決ができていない問題でもある。
誰でも補外区で何の援助もなく生きるのは無理だ。
だから、ディッグは放棄された遺跡を根城にしたり、何かしらの物資調達ルートを持って生活しているのが普通だ。
リリー・スピアーズの補外区ではあまり聞かないが、他ドーム管轄の補外区では村単位による物資横流しなどの例も聞く。
治安が悪い地域では頻繁に戦闘も起きているようだ。
でも、今回の件をその線で疑うには突拍子が無いとは思う・・・思うけど・・。
「・・・」
「すまん、今のは忘れてくれ。それでだ、その人数に対して、こちらも一応の手を打つつもりだ。Cross Handerの戦闘員は40。少なすぎる。よって、村での若者、戦える者を駆り出すことにした。」
「民間人を・・?」
「・・ああ、ドームでは考え方が違うのだったな。そんなものの区別はつけられない。ここはこういう土地だ。」
緊急事態か・・・戦える者が戦わないわけにはいかない。
「・・はい、」
そもそも、Cross Handerという集団も民間団体とはすれすれの存在か。
戦える者が意志を示す、ここではそれが戦闘員と非戦闘員の区別になる、と理解した方が良いか。
「言い方が悪かった。他意は無い。民間人という言葉、ドームから来る連中が時々口にする言葉だからな、気になったんだ。話を戻そう。」
アシャカは一度深く呼吸をした・・・。
「村の方から銃を撃てる者を駆り出す事で、戦闘員は80人程度にはなる。ただ、そいつらは射撃の練習をした事があるというだけで、そのうち射撃戦を経験した者に限ると・・30程度には落ちるがな。これをどう思う」
「・・練習は、定期的に行っているんですか?」
「半年に3回程度、蓄えが余分になったものを使う」
訓練量は足りなさすぎる、が、ライフルなら狙いをつけて撃てて、標的に当てられるなら問題はない。
身体の一部に弾丸が1発当たりさえすれば、人間は無力化できる。
ただ、緊迫した実戦・状況で当てられるかが問題である。
訓練で克服すべきことがきっと足りていないだろう。
この時点で私たちが敵より優れているのは、防衛拠点を整えているということだけか・・・。
「・・重要地点、適所に人員を配置すれば、撃退もしくは防衛戦は可能だと思います。」
あくまで希望的観測の入った模範解答であると、自分でも思う。
「イメージはもう既にできているようだな・・・」
「だ、大丈夫なのか?」
マダック村長が尋ねてきた・・不安が付きまとうのはいつだって誰だって同じか。
「マダック、わかっている。では、具体的な話をしていこう。人員の配置を詰めていこうか、なぁ、ダーナ」
「・・今回、彼女の意見も聞いていこう」
ダーナトゥがミリアへ送る目線を受けて、反射的に頷きかけるミリアは・・・微かな疑問が浮かぶ。
「はっは、言っておくが拗ねるなよ、お前はCross Handerのナンバーワンに次ぐ、ナンバーツーなんだからな」
ダーナトゥをなぜかフォローしてるらしいアシャカに、めんどくさい、とでも言いたげなダーナトゥは目を瞑ってた。
「一つ、聞いていいですか?」
「なんだ、ミリア殿」
「同じ質問を繰り返しますが、130という情報元の開示をする気はありませんか?」
「・・すまないな。言えないのだ。ミリア殿。貴方方には悪いと思ってはいる。」
「・・わかりました。ですが、我々ができる範囲を先に伝えおきます。1つ、本部にはこの状況を伝えておきます。きっと彼らは信頼のおけない情報に踊らされないでしょう。1つ、現場にいる我々は作戦への助言はできます。ですが、戦闘への参加に義務はありません。戦闘が始まってから、本部からの命令が下れば別ですが。あ、もう一つ、武器の供与などもできません。この3つです。」
「ふ、頼む。貴方らは正直者で助かる。それで、俺も率直に聞こう。村には留まっていてくれるか?」
留まることのメリットは、私たちにはほぼ無い、恩返しをするなどそのつもりならまた別の次元の話になる。
彼らのメリットは私たちを巻き込めること、ドームからの応援も速くなることを踏まえている。
デメリットは、当然、全滅の可能性があることだ。
敵の戦力の詳細は不明、人数は強大、この2つの情報だけなら距離を取って撤退すべきだと、軍の教官なら教えるだろう。
「・・・状況は見ます。状況は見ますが、私がどこかのタイミングで本部への報告を終えた後、戦闘のために留まる義務は無くなると思っていてください。」
「了解した」
「それはちょっと、」
賢き役のだれか、声を漏らしていた。
「いやしかし、わかってはいるんだが、わかっては・・若い子たちを、村に関係のない人たちを巻き込むのは、よくないとは・・・」
彼は、傍の人に窘められていた・・・窘める同じ賢き役の彼女も、彼と同じような表情をしていた。
『俺らは生き残るのに必死なんだ。』
そう、大きな声、堂々とした部屋の中いっぱいに放たれたようなアシャカの声。
ミリアの傍で、アシャカはそう笑っていた・・。
だから、ミリアは息を吸った。
「そうですね。」
アシャカを見つめ返して。
「よぉし、話はまとまった!さて、こちらも準備を整え次第、迎撃する!その手筈を相談するとしようぜ!ブルーレイクは簡単には落とさせやしねぇ!昔からもだ!これからもだ!」
作戦会議は終盤にかかると、そろそろお昼の用意ができるとの声が通って。
台所からおばさんたちの威勢のいい声に、会議中のみんなは顔を上げていた。
「いや作戦会議中だぞ!?」
アシャカさんが一番最初に大声を出してた。
「できたんだから食えばいいさね!」
「いや真面目な話をしてるんだよ!」
「食いながらでもできるだろう、アシャカ!」
「ちくしょう!」
「汚い言葉を使うんじゃないよ!」
なんか、アシャカさんより強そうなおばさんがいる、とミリアは瞬いて見てたけど。
マダック村長を振り返ったら、苦笑いの彼はそれに気づいて肩をすくめて。
隣のガイを見上げれば、目が合ったガイはこちらへ肩をすくめたようだった。
「まあまあ、食べましょうか。腹も減ったでしょうから、」
「そうですね」
「はぁったく、ダーナ、連中に準備連絡を入れておいてくれ」
「メシの時間が遅くなりそうだな。」
「お前もかよ」
「あいつらがゴネそうだ」
ダーナトゥさんの返答に、アシャカさんが肩をすくめてた。
「こいつらが食いしん坊なんだって言っとけ」
村長さんたちはすっかり食卓の準備を受け入れて準備を手伝っている。
リースやガイもその光景を目で追っている。
まあ、ミリアも正直に言うなら、会議途中から良い匂いがしていて気になっていた。
「ミリア殿、作戦は大体決まったな。切り上げるか」
「はい」
当日の作戦の大枠は決まった、あとは部外者の私の口出しは不要だろう。
なので、これから腹ごしらえをしよう。
周りを見れば、会議を解散した彼らは思い思いに立ち上がったり、テーブルに運ばれてくる料理に笑顔をこぼしていた。
食事の用意が全部できるまで、家の軒先に出たミリアも伸びをして、少し固まった身体をほぐす。
ここから見える村の様子はさっきよりも落ち着いているようだ。
これから、色々な準備が始まる。
―――大体の作戦は決まった。
必要な準備、戦力の配置、非戦闘員の避難場所や当日の作戦の流れに戦術パターン、輜重の確認、想定される敵の戦力、侵入ルート、用いられる戦術、全て網羅して頭に叩き込む。
敵性勢力の戦力が想定を外れないなら、実戦へのシミュレートはそれなりにできていた。
・・・あとは。
・・・・私たちが・・――――。
「ミリア殿、」
ミリアがダーナトゥに呼び止められた。
「ん、はい。」
「謝ることがある。」
って・・・。
彼はその黒い瞳で真っ直ぐに見つめてきている。
その重々しい気配を感じてミリアは口を閉じる。
「子供が礼儀を欠いたようだ。気分を悪くさせたろう、謝る。すまん。」
「子供・・?」
「メレキだ。無理を要求したそうだな」
・・あの女の子、メレキのことか・・・。
応援を呼んでくれと言われて、断った件だ・・・。
「いえ、その、あれは私が無神経な言い方をして・・・」
彼女は真剣だった。
だから、私もはっきり言った方が良いと思った、けど・・・彼女を傷つけたかもしれない・・。
「話は聞いた。メレキが悪い。」
そうダーナトゥさんは。
「メレキは戦士ではない。戦士の判断に従わないのなら、それはメレキがまだ子供だということだ。」
彼らの哲学だろうか・・・プライドなのか。
「彼女の言い分も、わかりますから・・、」
村の心配を、親しい人たちへの心配をするのは誰だって当然で、メレキさんだって・・・。
「戦士への礼儀を欠いたのはメレキだ。貴方はメレキに、我らに許しを与えてほしい。」
独特な言い方だけれど。
よくわからない部分もあるけれど。
彼らは独特な考え方をする。
・・・素直に従った方が良い気がする。
私が、彼女を許さない理由はないのだから。
「許します。」
「感謝する。」
ダーナトゥさんが言うのは、それだけだ・・・まるで、儀式のようなやり取りだ。
・・そう、見つめていたダーナトゥさんが、口をまた開いた。
「ここは人間には厳しい場所だ。生きるための物資も無ければ食事も下手すれば食えない時期もある。約束は命を繋ぐ。」
静かな低い声だった・・・。
「君らには感謝する。約束は覆さない。規定の通りでいい。我々が結んだ対等なルールだ。」
―――ちらつく、『彼ら』の屈託のない笑顔。
・・・それは、たぶん・・私が・・・―――
「・・・はい。」
ミリアは、また少しだけ、目頭が熱くなるのを感じていて。
「話は終わったか?」
って、アシャカさんが、後ろからひょっこり顔を出していた。
「・・代わりに謝罪を伝えておいた。」
「おう。かたっくるしいのは性に合わん!っはっはっは」
というか、アシャカさんがリーダーのはずだけれど、まるでリーダーのような風格のダーナトゥさんだから忘れてた。
アシャカさんは、嫌な事は部下に押し付けるタイプだと思う。
「まぁ、子供が心配する気持ちもわかるさ」
って、アシャカさんは言ってたけど。
そういえば、メレキさんが私たちが泊っている部屋に来た時、他には誰もいなかったはずだ。
「そういえば。その話は誰から聞いたんですか・・・?」
「メレキだ。」
ダーナトゥさんが教えてくれたけど。
「彼女が自分から・・?どうして?」
秘密にすればいいのに、怒られるなら・・・。
「・・罪は告白しなければいけない。そして、許されなければならない。穢れた人に精霊は宿らない。」
コァン・・・精霊だっけ、彼らの文化による考え方か。
特殊な考え方はよくわからないけれど。
精霊が宿ることが、大切なことらしい。
そう考えると、あの子、メレキさんも敬虔な信仰者なんだろうか。
ここの村の人たちもそうなのか・・・どうなんだろう。
特殊な話し方をする人と、そうじゃない人もいるみたいだし。
「そろそろ昼ご飯だよ、手ぇ洗ってきな」
「おう」
おばさんに言われるアシャカさんが家に戻ってく、なんか、子供みたいな扱いに見えてきた。
「さーてメシだー」
大きな声のアシャカさんで、私はちょっと、ダーナトゥさんと目が合って。
ちょっと、ダーナトゥさんは少しだけ笑ったような、だった。
「他のもう1人の方もお呼びしてこい」
と、いつの間にかそこにいたマダック村長がお手伝いの女の人に声を掛けている。
そういえばケイジがいなかった。
「あ、大丈夫ですよ。私が呼びます」
ミリアが村長にそう言って女の人を制して、耳元に手を当てて、装備している小型無線機のスイッチを切り替える。
「さっき俺が呼んどいた」
ってガイが言っていたが。
「お、アシャカもダーナも、酒はいるかい?」
「さすがによしとくやい」
「はっはっは、」
周りの人の話も大きくて、ミリアはもう通信を開いていた。
「ケイジ、お昼だよ、村長さんの所に来て」
一応念のため、ケイジに呼びかけておいてもいいだろう。
『おう』
ケイジの返事は数秒で返ってきた。
それを聞いてミリアは思い出したのだが、そういえばさっきなんだかケンカしたような感じで別れたんだっけ。
まぁ・・・ケイジの声も普段どおりだったし。
なんか、大丈夫そうだ。
ちらりとリースを見ると、料理が運ばれてくるテーブルの上を見ていた視線が、ミリアの視線に気付きこちらを向く。
そして不思議そうな視線を向けるだけだった。
みんなお腹空いてるみたいだ。
そして、自分もお腹が空いていて、テーブルのサンドイッチやスープとかに手を伸ばしかけたけど。
村の人たちがお祈りを始めたその言葉を聞いて、ミリアも、リースもガイも少し待つ。
・・その間、よく見てると、村の人たちとアシャカさんたちは違うお祈りをしているみたいだった。
って、ドアを開けて入ってきたケイジが早速、そのテーブルの空いてる椅子に着いて、サンドイッチを掴んで被りついていた。
「ちょっとケイジ、」
「はむぁん??」
きょとんとするケイジがサンドイッチを頬張ってる。
「ああいいんですよ、どうぞどうぞ、」
ちょうどお祈りが終わったのかもしれないけど、村長さんたちは笑顔でマナーが悪いのを許してくれる。
そう言われると、口を閉じるしかないミリアだ。
ケイジが普段どおりに、美味しそうなパンを齧って、芋と野菜のスープを食べていたのを横目にジト目で見てたけど。
「どうぞどうぞ、みなさんも、さあ美味しいよー」
給仕のお姉さんに言われて。
みんなが食べ始めるのを見て、ミリアも手を伸ばしてた。
「よ、楽しかったか?」
「ん、べつに?」
サンドイッチを頬張るガイとケイジが話してる。
・・ほんと、まあいいか、とケイジに対して思いながら。
クリームチーズを塗ったパンを1つ齧り、その芳醇な味わいにミリアは少し驚いてパンを齧った跡を見つめてた。
「うぉ、なんだ。変な虫だ。虫!」
と、砂と黄色が混ざったような色をしたぴょんぴょんと跳ねる虫を農園の中に見つけて、指差し興奮しているケイジを見て、ふと、こんなんでいいのかなという気持ちも湧く。
お昼ご飯を頂いた後、そのまま宿への帰途についているミリア達4人だが。
実際、村の方はCross Handerのアシャカさんたちが責任者なので、やることがほとんど無くなる。
このままぶらついていても、村の人たちからの視線もあるし。
・・・ま、あのケイジの能天気な顔を見てると、どうせ、さっき決まった作戦概要を伝えてもすぐまたキレそうだ。
気に入らないことがあれば絶対従いたくないタイプなんだろう、ケイジって。
まぁ、今は軍部じゃないんだから、そういう人も許容されるんだけど。
・・・またキレる、か。
「違う虫もいるぞ!」
ケイジが興奮していて、ガイたちもつい足を向けて覗きに行ったみたいだ。
まあ、ドームじゃ見かけない昆虫もいるんだろうけど。
「あれ?どこ行った?」
「すばしっこいな」
彼らのはしゃぐ様子を見ていてミリアは・・・さっきのミーティングの事を思い出していた。
アシャカさんたちの様子、マダック村長たちの顔・・・・。
――――彼らは、生き残ることに真剣だ。
意地汚さが少しでも見え隠れするくらい――――
―――――私たちは・・・?
――――・・私たちは・・・――――
―――足元を見つめるミリアは、眉を僅かに寄せていて。
ベッドの上でミリアは、両足を組んで座る。
「ちょっと集まって。」
その声に気が付いた彼らは各々のやっていた事を止めて、振り返る。
ボロの仮住まいの部屋、各自のベッドの上に座るみんなの注目を集めて、ミリアは彼らの顔を見回して問うた。
「先ほど決まった作戦の概要を踏まえて。このままいけば、私たちは戦闘が始まったら安全な場所で防備の役を担うことになります。西側に崖があるでしょ?あの辺にいくつか洞穴があって、そこを非戦闘員の隠れ場所にいつもしているから、そこを守ることになります。もちろん、運が良ければ戦闘はせずにやり過ごせる可能性がある。」
ミリアはそこで、一呼吸置いた。
「村を放っておくって話か?」
ケイジがそう、当然の疑問を返してくる。
「私たちが加勢をしないだけ。ブルーレイクの人たちはCross Handerを中心に応戦する。彼らの手腕はそれなりに高いと思う。今までもこういう経験はしてきてるはず。今回は数が多すぎるのが問題なだけで、上手く事が運ぶかもしれない。」
「だからヤバいってことなんだろ。同じことじゃねぇか。」
イライラし始めているケイジなのは見ていても、声だけでもわかる。
「最後まで聞いて。」
ミリアははっきりとケイジに、それに、他の2人、リースとガイにも伝えた。
「正直、指揮官としての話をするなら、情報の揃っていない戦闘は避けたい。それでも聞いておきます。戦闘に参加したい?それとも、このまま撤退したい?」
ミリアが、3人にそう伝えた・・・。
「はっきり言って、自由なんだよ。報告書にはどんな風にも書ける状況なんだから。戦いに出ても、もしかしたら叱られるかもしれない。むしろ、褒められることはない。それでも、今はあなた達に問います。」
ミリアは、そう、胸に息を吸って・・。
「命を懸ける?戦いを避ける?」
ミリアが、ガイを、リースを、ケイジの顔を見回す。
「・・命令するんじゃないのかよ」
ケイジが少し皮肉っぽく言ってた。
「・・ケンカする気はない。ここは軍部じゃないもの。命令して動くなら、私は迷わず撤退を命ずるかもしれない。」
そう・・・。
「問題は、命を懸けるかどうか。私たちには具体的な命令は出ていない。あるのは平和と秩序を守るという義務だけ。だから私はあなた達に問うの。戦いたい?それとも、逃げる?」
『・・・』
「言っとくけど、戦わないと言ったとしても、私は責めたりバカにしたりはしない。誰だって普通、そうする。それが客観的に見て、合理的だと思ってるから。わたしはね。」
って、ミリアが若干強めに自分を強調していたのは、ケイジへ当てつけたのかもしれないが。
ミリアがその真っ直ぐな目で見まわしても、その場の誰もが口を閉じていたが、ケイジもガイもミリアをそれぞれの面持ちで見つめ返していた。
リースは・・まあ、いつものようにぼーっとしているようだった。
「ガイ?」
ミリアが名指しで呼ぶ。
「・・・俺は後にしてくれ、」
少し考えたようにガイは言った。
「リースは、どう思う?」
「どちらでもいい。」
即答のリースだ。
・・ミリアも、ケイジも、リースを見てる。
「重大な事だと思うんだが・・?」
ガイが口を開いていた。
「うん、・・・重大。逃げようと思うなら僕1人で逃げれる。」
簡潔な安全策だ。
「でも、今の問題は・・合理的な選択をするか、感情的な選択をするかを決めてるみたい。」
そう、リースはミリアを、ケイジを見た、その順番がそうなんだろう、きっと・・・合理的か、感情的かの選択。
「なら、どっちでもいいかな。」
って、リースは。
「『戦う』って言っても、ケイジは、いつもそんな感じだ。」
褒めたのか褒めてないのかわからないが、ミリアが見るケイジは口を尖らせたようにリースを見返していた。
感情を少し小突いたみたいだ。
それにリースは、どちらの選択でも自分は生き残る、と言っているようでもある。
それは、さすがというべきか。
「俺は、」
ケイジは・・・。
「俺は、戦ってやってもいいぜ。」
って。
「・・・それだけ?」
「・・・」
ケイジは口を閉じていた。
「理由は?」
「・・よくわかんねーが、そうするべきだと思う」
ケイジはそう、頭をガシガシ掻いてて・・。
ケイジって・・・。
ミリアはため息を吐いてた。
「なんだよ」
「・・・ケイジって、単純だね」
「うっせぇ」
そこは怒るみたいだ。
「じゃあ、決まりっぽいな。」
ガイがあきらめたような響きに言ってた。
「ミリア隊長もどっちにしろ、腹は決めてんだろ?」
って、ガイは・・・。
ミリアは、口を閉じていたが。
もう一度、みんなを見回していた。
「俺は、お前の指示に従う。」
ガイが軽い声で伝える、その言葉の重みを。
「俺たちの指揮官だもんな。」
彼らの意思に返すため・・・ミリアは口を開いた―――――。
「私たちは戦闘に参加します。」
ミリアは見据えて目の前のアシャカに伝えた。
「・・いいのか?」
アシャカを見つめ返すミリアは、微かに頷いた。
周囲ではCross Handerの人たちが戦いの準備に動いている。
物資を運んだり、バリケードの制作準備をして、大型テントの中では弾薬の準備などもしていた。
中には女性や子供もいる。
ミリア達4人はそんな傍まで歩いてきて、リーダーであるアシャカの前に立っていた。
「ですが、条件があります。」
ミリアはアシャカを真っ直ぐに見据えている。
「聞こう。」
「1つは――――
―――――・・・条件を飲む前に、1つ確認したい。」
「はい。」
「あなた方を巻き込んだら、ドームは動くと思うか?」
彼は率直に聞いてくる、本当に。
「動きます。少なくとも、私の権限内で正確に報告し、救援を要請します。」
「わかった。突発的なあなた方のフォローはできないぞ」
「わかってます。」
「ならば頼む。」
アシャカさんはあっさりと、こちらの条件を飲んだ。
「了解です。」
あっさりと、拍子抜けする気持ちもあったけど、でも条件は飲んでくれた。
これである程度はやり易くなる。
「作戦会議には今後も参加してくれ。」
「はい。」
「戦場で肩を並べるってことは、俺らは協力し合う関係だな。必要なものがあれば言ってくれ。こちらかも必要な事は頼む。」
「できる範囲でなら協力します。それでは。」
「異変があればすぐ連絡する。」
4人は借り受けたアサルトライフルを肩に掛け、踵を返して戻っていく、その後ろ姿をアシャカはしばらく見送っていた。
そんなアシャカの傍に寄ってきたCross Handerのメンバーだ。
「・・彼らはなんて?」
「協力をしてもらう。共闘だ。制約は多そうだがな。あとでダーナに上手くやってもらおう。ダーナは今どこだ?」
「西での確認って言ってました。土嚢増設するとかで」
「ふむ、戻って来てから話すか」
「彼ら、役に立つんですか?」
「わからん。」
「わからんって・・・」
「おいアシャカ、武器まで渡してるよな?」
「だが、このブルーレイクまで来るぐらいの力量は持ち合わせているだろう。」
「そう、ですかね。」
「言ったらなんですけど、子供の集まりにしか見えませんよ・・・」
「はっはっは、俺も同じ意見だ。」
アシャカは豪快に彼らに笑っていた。
「だが、彼らは制服を着ている。ドームでは認められた戦士であるのは間違いない。不服か?」
「・・ま、アシャカさんが信じたのなら、わかってますよ。」
「ああ。これから大きな戦いが来る。決して『精霊に惑わされるな』よ。」
「わかっている。」
彼らは持ち場に戻っていく。
アシャカは高い所を見る・・・目を細め、村が変わっていく感覚を肌で感じ取るように。
そして、ゆったりと踵を返してまた自分のやるべきことを成すために歩いていく。
「なあ。」
村を歩くケイジがミリアを呼んでいた。
「武器、借りる必要があったか?車にもっと良いやつあるだろ?」
振り返ったミリアは肩に提げたアサルトライフルのベルトを調節している。
ミリアの体のサイズに合わせると、だいぶ短くしているが。
「弾薬はこっちので使わせてもらうつもり。どれだけ必要になるかわからないからね。」
「弾切れしたら終わりだな。」
そう言うガイやリース達も操作確認がまだ続いているようだ。
ミリアは言わないけれど、弾薬が原因の動作不良も弾詰まりも考えられるから、なるべく保証がある方を使いたい。
「本来は、警備部のものしか使っちゃいけない規則だけど。」
「リプクマの気遣いに今は感謝したい気持ちでいっぱいだな」
「そういうこと」
ガイの素直な表現にミリアも相槌をうっといた。
もともと、想定外の事態に備えてリプクマから軽装甲車などの装備を支給されている。
それが今なのは間違いない。
受け渡されたアサルトライフルは、EAUでは扱わない旧型の銃機種なので、さっきある程度レクチャーを受けたけれど、手に馴染ませるためには何度も操作を確認して身体に覚えさせた方がいいだろう。
軍務経験があるガイは扱ったことはあるそうだが、リースはたぶん初めてだろう。
いつもだるそうなのに、今はちゃんと真面目にそのライフル銃をいじっている。
私もたぶん大丈夫そうだ、昔レクチャーを受けたときのものと似ている。
ケイジは、まあ置いておこう。
どうせ、ケイジはあれだ、銃は期待できないし。
そもそも、銃にはもう興味ないみたいで、肩でぷらぷらさせたまま村の騒がしめの様子にきょろきょろしている。
ミリアも、顔を前に向けて。
・・・ミリア達4人は夕日の差し掛かる村を歩いている。
「車から持ってくるものはスタン装備とライフルを外したA装備一式でいいんだよな?」
「そう。手投げ類も必要ないか」
「いいのか?」
「手投げは距離が出ないし、煙幕なんかは使い方が難しいと思う。今回は集団戦だから味方が多いし、邪魔するかもしれない。想定される交戦距離は基本300m程度かそれ以上。侵入された場合も距離は近づくけど、アシャカさんたちの指揮を邪魔しないのが最優先だから、連携は乱したくないね。だから手投げ類は使わないようにしたい。無傷で制圧する必要はないから、最低限、ライフルさえあればいい。重量も重くなるし。防御面は充分に考えるけど。催涙弾なんかあれば嫌がらせにいいんだけどね。今車に取りに行こうか。」
「さすがに催涙なんか車に常備していないな。発炎筒は?」
「それはもう軍部の仕事だね。発炎筒なら使うかも。重さに余裕があるなら各自好きに携行していいよ。ただし、少しでも重さを感じるなら諦めて。」
「了解。」
「なぁ、あれ着んのか。」
「なんだケイジ?」
「あの防弾ベストとかさぁ。あれちょっと動きにくいんだよなぁ・・・」
「必要でしょう。このスーツだけじゃ心もとないよ。」
「ちゃんと耐弾プロテクタつけないと骨折ぐらいじゃすまねぇぞ」
「弾に当たんなきゃいいんだろ?」
「ケイジ、」
「わぁかってるよ。・・警備部のジャケットはいらないよな?」
「防弾ベスト着てりゃいいが、風邪ひくなよ」
「夜もか。寒そうだな」
「ベストに弾が当たっても凄く痛ぇんだぞ。ゴム弾の比じゃあない。」
「ゴム弾とかも食らった事ねぇもん。」
「はっ、これだからEAUは甘いんだよなぁ」
「撃たれたことあんのかよ?軍部はおっそろしいとこだなぁあ・・っ??」
「俺も噂だ。」
「なんで偉そうなんだよ」
「はぷしゅっ」
って、リースがなぜかくしゃみをしてた。
「どした?」
「・・鼻がむずむずする・・・」
ケイジが覗き込めば、リースは鼻を指で押さえてた。
ライフルに付いた砂埃が鼻に入ったのかもしれない、わからないけど。
何度目かの確認をしながら、ミリアは村の人たちの作業を流し見ていた。
袋に砂を入れて土嚢などが作られ積まれていっている。
場所によっては穴を掘ったり、バリケードなども作られていて、自分たちがこの村に到着した時の牧歌的な光景とは雰囲気が変わってきている。
村の人たちはCross Handerの人たちと協力し、大きな戦いに備えている。
そのときが近づいてきているのを、彼らは感じている。
それから、村の崖の麓近くに停めた軽装甲車の中で、定期報告を入れつつ装備を整えて自分たちの宿に運び込んだ。
既にリリー警備部のカラーとマークが入った戦闘用の装備を纏い、銃に加えてプロテクタも装着し、防弾ヘルメットも携行バッグに固定していて、村の人たちからは明らかに浮いているので、少し奇異な目で見られてたかもしれない。
言うほど動きは阻害されないけど、ケイジにとってはなんか気になるらしい。
宿で、使う装備の確認をしていれば、時間が来て無線機から夕食に丁寧に呼ばれて、ジョッサさんへ付いていく。
食卓に上がった料理は質素なものになっていた。
「申し訳ない、村の状況が状況なだけに、」
マドック村長は申し訳なさそうに言っていた。
たぶんそれに他意は無いと思う。
それらの料理は村の人たちが普段食べるようなもので、自分達はまだ村の大切な客人のままであろう。
ミリアはそんな事を考えつつ、隣のケイジがマッシュポテトを何杯もがっついて食べているのを見ながら、パンを齧っていた。
ケイジは別に、待遇が変わったとか、そんなことまで考えてなさそうだ。
ガイやリース達も普通に食べているし、うちのチームにはそんな事で機嫌を損ねる人がいないのは良いことだと思う。
ミリアがコップを手に取った時、ふとした時、目に入ったマダック村長たちの表情が少し緊張した面持ちを見せていた。
何回か気づいていたけど、『この村は大丈夫』とか、『この村は絶対守ります』とか、・・そんなことは言えない。
適当な励ましは、彼らに言うべきじゃないと思う。
ただ、ご飯をたくさん頂いた。
うちのチームはたくさんご飯を食べるのがわかってるみたいだし、勧められるから、パックのオレンジジュースも頂いた。
酸っぱさと甘さで、美味しい。
――――夕食を平らげた後、村の中を見て回っていた。
村が暗くなる中、彼らの荷物運びや作業等もそろそろ切り上げていくようだ。
食事はちゃんと食べた。
チームのみんなもしっかり食べたみたいで、繊細なメンタルの人がいなかったのは良いことだ。
緊張などで食欲がなくなったとか、そういうことも有り得るから、良い意味でみんな図太い。
いつもの夜の景色よりランプの灯りが多い中で、作業の声が何度か飛んでいた。
村の中で揉めるような様子は1度も見たことがない、雰囲気が良いんだと思う。
Cross Handerの彼らが信頼されているのだろう。
戦いになっても、彼らが何とかしてくれると信じてるのかもしれない。
子供が手伝ってて、走り回った子が危ないと注意されてた。
そんな光景を遠くに見ながら、私たちはボロの宿に戻った。
就寝前の支度をして。
私が身体を拭いている間は、男性メンバーたちに外で待ってもらったけれど。
それも毎度の事だからか、みんな素直に従ってた。
それから、早めだけれど寝る。
休める時に身体を休ませる、そう、みんなに伝えてベッドに横たわらせた。
一番文句を言いそうなケイジでも、何も言わずに従っていた。
それでも、しばらくしても寝息は聞こえてこない。
――――軒先で、ミリアは外の様子を眺めていた。
ベッドの上で横たわっていたけれど、なんだか寝付けなかったから。
1人でいると、考え事はいくらでも浮かんでくる。
1つ1つ整理することが、良いことなのかは、わからないけれど。
空気が寒くなってきた・・村の夜景はほぼ暗闇だけだ。
おぼろげなランプがいくつかあって、ほとんど何も見えないけれど、作業する人たちの明かりなんだと思う。
傍で音がして、家の扉が開いてガイが外へ出てきていた。
ジャケットの前を閉めるガイが、ミリアを見つけて寄ってくる。
「やっぱ眠れないもんだな。」
って。
「・・ケイジ達も?」
「イビキは聞こえなかったな。寝れてるかはわからないが、ちゃんとやるべき事はわかってるみたいだ。」
それなら、よかった。
・・・それから、作業が落ち着いてきたような村の、遠いランプのおぼろげな灯りが少なくなってきた景色を見ていた。
――――彼らは、何を想って、今夜を過ごしてるのだろう。
戦えない人たちは、戦う人たちを信じて、震えを抑え。
戦う人たちは、自分たちがやれる事を信じて。
「ま、準備はしてあるし、後は待つだけだろ?」
って、ガイが軽い声で言ってた。
「・・・」
・・・、ミリアは顔を上げてガイを見ていたけど。
「なんか気になることでもあるのか?」
「・・いや、べつに・・・」
遠くを見つめるミリアは、少ないランプの灯りがちらりと動く村の様子をずっと・・・。
彼らはまだ寝ないんだろう・・・見張りも警戒も強化されているだろうし、明日も明後日も。
もし敵が来なければ、ずっと続くこの時間を。
彼らが信じられなくなるその時まで過ごす・・・。
家の中でも、彼らの大きなテントの中でも、どう過ごすのか・・・家族もいる中で・・・子供たちも眠りにつく・・。
――――本当に、来るのだろうか・・・?
その一点だけが・・・心の中で、大きく刺さっている杭のような・・。
ここまで準備したのに、・・・信じ切れていない・・・・。
当たり前だ・・・証拠を見せていないのなら、そんなの信じられない。
この村では・・私だけが、『正常』なのか・・・。
ただ、村の人たちが発する感覚が、『異常』が『正常』へ溶かされていく感覚・・・。
「しっかし、変な事に巻き込まれたな、ほんとに。」
ガイが、そう少し笑いながら言ってた。
苦笑いの様に、夜を見上げている。
・・・ガイは、きっと、私と同じような『正常』・・みたいだ・・・。
きっと、ケイジも。
リースも・・・。
それでも、ケイジ達は戦うと言っている・・・。
「ケイジはなんであんなに戦いたがりなんだろう・・?」
――――ケイジは、なんか、変だ。
・・・子供のような。
・・命を懸けるか聞いても、まったく怖じ気づかない・・・。
「さぁな。」
・・・ガイは簡単な返事。
「あいつ単純そうだからな。」
って、屈託なくガイは笑ってた。
「さっきのも聞いたろ?ここで戦うって。すごいシンプルな理由だったよな。」
まあ、頭悪そうな理由だった。
『そうするべきだと思った』、って・・それだけで。
「でも、ただの『かっこつけたがり』、ってわけじゃなさそうだ」
って。
「そうなの?」
ミリアは傍のガイの顔を見上げ、ガイの表情は薄暗くてよく見えなくても、たぶん、笑っているような気がした。
「そんなもんだろ。人間って」
って。
たぶん、また少し、笑ってるような気がした・・・。
「・・・俺も気が紛れてきた。そろそろ寝るよ。ミリアも寝ようぜ?」
「・・うん。もう寝る」
その返事を聞いてガイは踵を返し、部屋に戻っていく。
・・そんなガイの背中を、しばらくミリアは見送っていた。
・・・村の夜はだいぶ静かになっていた。
冷たい砂の風がそよいでる。
ジャケットの上からでも冷えるような・・・。
「―――・・隊長、って・・・こんな・・・・・」
―――小さなつぶやき。
誰にも聞こえない。
今夜は眠りに落ちない村の中で。
ミリアの、声は夜空に消えていく・・・――――。
――――息を深く吸って、・・・吐いたミリアは―――――2度目に、砂埃かなにかを吸って、ちょっと咳き込んだ。
セハザの、KBOC。(セハザシリーズは世界が繋がっています。)
これはミリアやケイジ、ガイやリースのお話です。
長くアヴェエ・ハァヴィたちを描いていたので、ちょっと気分転換です。
今回出てきたケイジは、アヴェエ・ハァヴィのお話にもちょっとだけ出てきましたね。
そのときは説明できなかったけど、ケイジのお仕事はこんな感じです。
いろいろ説明はしたいけど、後書きで余計な事書いてややこしいことになりそうな気がしてます。
ということで、それではまた次回お会いしましょう!




